【キの巡り】 京都見廻組 南の三

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 56 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月26日〜04月02日

リプレイ公開日:2007年04月03日

●オープニング

 京都南方、巨椋池。広大なその池は、周辺住民の水上での交通要素となる他、流れる川を使って他地域との交流も行われている。
 その池で、死体が見付かったのはすでに幾月前か。池で見付かる死体は心臓を抉り取られ、明らかに他殺と分かる特徴を持っていた。
 ただちに京都見廻組が調査を行った所、犯行を行っていた河童と遭遇。一度目はつれていた水馬に邪魔をされ、二度目も後一歩の所で逃げられてしまう。
 犯人は分かっている。分かっているからこそ、向こうも用心してなかなか尻尾を掴ませなくなった。
 どの道水辺で河童と争うのは地の利において不利。たいていの種族はたゆたう水に阻まれ、動きが取りづらい。
 そうこうする内に、同じく心臓を抉られてはいるが、これまでとは少々様子の異なる遺体も見付かるようになる。

「河童が南方面に逃げた際、複数の多分男に連れ去られたっぽい形跡があるんだよね。その男達が何者でどういう関係か分からないけど、もし仲間だったら河童の代わりとか追加で動き出したのかもしれないし。もしかすると、てんで別の奴らが便乗してるのかもしんない。‥‥結局良く分かんない」
 うーむ、と低く唸るのは京都見廻組の坂田金時。パラ故の愛嬌さからか、真剣に悩んでるようでもどこか軽いものがある。もっとも本当にどこまで本気なのか良く分からないのが彼なのだが。
「ともあれ、何だか他の事件とも関係してるっぽい。その上、最近目立ちだしたジーザス会が絡んでるっぽかったりと面倒だけは増えてるよね。その上」
 言葉を重ねた上で、金時は深々とため息をつく。
「最近、池では死霊たちが現れるんだってー。
 水面から手を伸ばして、舟を沈めたり乗ってる人を池に落して引きずり込むってさ。自力で逃げて岸まで泳ぎつく人も多いんだけど、中にはそのまま溺れたり‥‥さらには心臓を抉られた姿で浮かんだりするんだって」
 死霊の行いで共通しているのは水に引き釣り込むまで。目撃した姿も霞に近く、手から逃れられる者もいる辺り、さほど力をもった霊ではないようだ。
 とはいえ、このまま放置しておけばどうなるか分からないし、ましてやその陰に隠れて件の事件が行われるとなれば見過ごす訳にもいかない。
 いかないが‥‥管轄違いでもある。実際どうするかは、調査方針で決めればいいだろう。
「とまぁ、こんな状況の中でがんばってお仕事していきましょーって訳なんだけどっ! なんか、本当に厄介事多すぎっ! もう一体全体どこから手をつけたらいいか分かんなーーーいっ!!」
 癇癪起こし、金時はばたばたと手足を振り回して暴れてだす。
 とうに成人している大人がこれでいいのか。いや、むしろこいつに治安任せていいのか。そんな不安を胸に抱きながら今回の仕事開始となった。

●今回の参加者

 ea7864 シャフルナーズ・ザグルール(30歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 eb0216 物部 楓(33歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb1932 バーバラ・ミュー(62歳・♀・レンジャー・パラ・ノルマン王国)
 eb4605 皆本 清音(27歳・♀・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

「どこから手をつけたらいいか分かんなーーーいっ!!」
「あーこれこれ。駄々を捏ねるのはその辺にして。そろそろ行くぞえ」
 ごろごろと床に転がる京都見廻組の坂田金時を、同じく見廻組のバーバラ・ミュー(eb1932)が窘める。
「ふぇーい。ああ、何で仕事なくならないんだろう。そしたら給金だけもらえるのにー。犯罪者のばかー」
「最近の京は物騒だもんね。もっと過ごしやすくなるよう、私もお手伝いするよ」
「うん。おいら、がんばるよ!」
「こら、どさくさに紛れて『せくはら』するでない!」
 ぼやく金時を後ろからシャフルナーズ・ザグルール(ea7864)が抱きしめる。喜んで抱きつき返した金時に、バーバラがさらに厳しい叱責が飛ぶ。
「河童が犯人なんですよね。いえ、河童だから犯河童?」
「エルフやシフールと同じく亜人種なんだから、犯人でいいんじゃない? ――そんな事より、今度こそ河童を捕まえてやるわよ」
 首を傾げる物部楓(eb0216)に、京都見廻組の皆本清音(eb4605)は息も荒く強く拳を握り締める。が、それも束の間、表情が曇る。
「その河童を連れ去ったという男も気になるけど、調べるにはちょっと日がたちすぎてるのよね‥‥」
「確かに気にはなるのぉ。それ以外にもいろいろと情報はたんとあるし。在りすぎて何が何やら、全て怪しく見えてくる。‥‥ああ、早く解決したいものじゃ」
 バーバラが頭を押さえる。こうも悩みが多いと、美味い茶ものんびり飲めなくなる。

 南に広がる巨椋池。自在に泳ぐ相手を捕まえるべく、一同は舟を借りて準備に取り掛かる。
「御代は見廻組が持つとして、この間に調べた事を言っとくわね」
 念のための浮き袋を用意しながら、清音はジーザス会について話し出す。
 ジーザス会とは、イスパニアに本拠を持つジーザス教の修道会だそうだ。遠いかの地から尊きジーザスの教えを広めるべく来日。長たるフランシスコ・ザビエルを中心に、熱心な布教に取り組んでいる。ジーザスといえば黒か白かとよく問われるが、彼らは基本的に黒を信奉している。だが、慈愛の白を崇める者も共にいるので、結局は混合という事らしい。
 おりしも日本は戦乱の世。今は大きな戦は見えないが、乱の火種はあちこちで燻り、何時燃え出してもおかしくは無い。そんな世を儚み救われたいと願うのは人として当然。救われたい者と救いたい者の想いは時同じくして重なり、結果、各地で急速にその勢力を拡大させていた。
 京の内外でも、ジーザス会は神の教えを広めんとあちこちで様々な活動を行っている。件の会はその一つという訳だ。
 そこと被害者の関わりはと言えば、被害者を恨む者、あるいはその周りに件の教会に出入りしている者がいるという事だろう。勿論、被害者の全てがそういう訳でもないが。
「ジーザス会としては他の国でも手広く活動してるみたいね。京でも他に活動している箇所があるようだけど。目立ってかかってくるのはやっぱりあの教会かしら?」
 清音が少し首を傾げる。関わりのあるジーザス会はほぼあの教会に集まっているようだが、それ以外でも居ないわけでもない。たまさか事件に関わってしまったのか、それとも実は関係あるのかはよく分からない。
「事件発生時に関係者を見たかどうかはよく分からないわ。そもそも事件自体人目につかないよう行われてるし‥‥。ただ複数の物音を聞いたとか云う話は聞けたわね」
 それがどういう人物たちなのかは分からなかったが。
「ほんに厄介ばかりじゃの。ところで、金時の。おぬし、コアギュレイトは使えたかの?」
「ごめんなさい。リカバー一辺倒です」
 ひょいと聞いたバーバラに金時は即行頭を下げる。
「まあ、ええわい。力技で捕縛するだけじゃ。さて、縄は足りるじゃろか」
 からからと笑うバーバラ。陽気に見えても、そうやって気を引き締めているのは誰も同じだった。

 静かな水面へと清音が漕ぎ出す。
 死霊の話は池に住む者には広まっているようで、行きかう船は少ない。だが、交易や漁をせねば生きられぬ者もいるので、皆無ではない。
 そちらが狙われておらぬか気をつけながら、もっとも出ると聞いた領域まで舟を進める。
 吹きさらしの風は水気を孕んで冷たく、じっとしていると身が冷えてくる。小さく身震いすると、舟も揺れて細かな波紋が広がった。
 その波紋に新たな波紋が追って広がる。違和感を感じて、楓は水面を覗き込んだ。じっとして身動きもやめる。が、なのに舟はゆらゆら揺れ、それは徐々に大きくなっている。
「来ました、手です」
 水面から舟を確かめるように白い透明な手が登ってくる。楓が告げる間もなく、その手は一つ増え二つ増え。見る間に舟を囲み、這い上がろうとカリカリ爪を立てる。
 水より浮かび上がる死霊の群れ。水底に引き摺りこまんと舟を取り囲む。
「あなたたちに用は無いの! 成仏して頂戴!」
 シャフルナーズが伸び上がってくる死霊たちをシルバーナイフで切り払う。さして威力の無いナイフだが、向こうも強い霊では無いのだろう。すぐにぼろぼろに擦れ薄れ、そして霧散し消える。だが、その後からも続々と次の手が湧いて来て舟の縁に手をかけ、ひっくり返そうとしがみついている。
「大丈夫ですか!? 引き摺りこまれないよう気をつけて!」
 名刀・抜丸を抜き払いながら、楓が皆の様子を聞く。通常武器しか持たないバーバラと金時にもバーニングソードをかけているので、問題ない。
 清音は操舵に終始している。が、動かす櫂にも死霊が纏わりつき引きずり込もうと引っ張る。
「きゃあ!」
 櫂を引かれ清音が体勢を崩す。本人持ち直したが、そのせいで舟は大きく揺れた。
 落ちないように気をつけながらも、これぞ好機と、シャフルナーズは悲鳴と共に乗せていた案山子を池に投げ落とす。
 案山子というか人形か。石を仕込んでいる為、重い音と水飛沫をあげて本物の人さながら水底へと落ちていく。
 落ちていく人形を死霊たちはまるきり相手にしない。あれは暖かくはないと分かっているようだ。
 だが死霊以外に、大きな影が深く沈み近付いていた。
「来たようですよ」
「承知してる! 行くよ!!」
 楓が言うが早いか、シャフルナーズはおいていた銛を掴むとその影めがけて突き立てる。刃先に感触を感じると同時、池に赤い物が流れた。
 影はすぐに離れた。長居は無用ということか。
「逃がしはしません!」
 楓も網を投げかける。広がり沈んだ網に阻まれ、影の動きが止まった。前に使用した時はすぐに切られて逃げられたというが、果たして、今回も同じだった。
 引き上げようとした感触が不意に軽くなる。その手ごたえに楓は顔を顰めたが、元より承知の事。気を取り直すのも早い。それより、たとえ一瞬でも動きを止める事の方が大事だ。
「犯人を捕まえるのじゃ! おぬしらに用は無い。さっさと道を開けい!!」
 バーバラの恫喝が効いたかのように、舟を掻いていた死霊の手たちが一瞬止まる。その間にバーバラは銛を投げかけ、シャフルナーズも二投目を投じる。
 確かな手ごたえがあった。大量の赤が池に広がり、水を染める。歓喜したか嘆いたか、死霊がばたばたと激しく悶える。
「ぐはっ!」
 血だらけで水面に浮かび上がったのは例の河童だった。苦しげに息を吐き、苦々しい表情で一同を見ている。
「逃がすな! 追えー」
「言われなくても‥‥うきゃあ!?」
 叫ぶ金時に舵を取る清音だが、途端舟が揺れた。
 何かと思う間もなくもう一度。
「舟の下に何かいます! あれは‥‥蝦蟇!?」
 人の身の丈倍はあろう大ガマが舟を下から突き上げている。
 楓が声を張り上げてる間にもまた舟が揺れる。漕ぎ出しても蝦蟇は追ってきて船を揺らす。その間に、河童は血の跡を退きながら必死に逃げ出している。
 待てと言っても待たぬもの。そうこうする内に、大ガマはいきなり消えた。
 邪魔が消えてほっとしたが、その頃には河童の姿も無い。
「ぐわあああ、憎らしい! 何あの蛙ーーっ!!」
 揺れが残る舟にかじりつきながら、金時が叫ぶ。
「多分、忍者の大ガマの術‥‥。でも、あの河童、詠唱とかしてました?」
「ううん。水の中じゃ詠唱できないし、顔を出してからも呪文を使った様子はなかったわ」
 首を傾げる楓に、シャフルナーズも手を振って否定する。
「とすると、先に連れ去ったという男絡みの助っ人と行った所ね」
 厄介なと、清音は呟く。果たして相手は一体何人いるのか。
「がああああああ! 蛙の大馬鹿ー。ええーい、八つ当たりだ、お前ら成仏しろーっ!!」
「騒ぐでない! ここは読経の一つで成仏させておれ」
 ばしゃばしゃと水面を叩く金時の頭をバーバラが叩く。死霊の数は何だかんだで結構減じている。掃討するまではさほど時間もかかるまい。
 問題は逃げた河童の方だが‥‥。こちらは数が少ないのに、どれほど時間がかかるのかさっぱり見当もつかなかった。