【キの巡り】 ジーザス

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:8 G 76 C

参加人数:4人

サポート参加人数:2人

冒険期間:03月27日〜04月03日

リプレイ公開日:2007年04月04日

●オープニング

 京の都は闇が深い。
 悪人悪党の横行、魑魅魍魎悪鬼妖怪の跋扈と今日もどこかで何かが起こる。
 その為、治安維持を目的とした公的組織が多数存在する。もっとも、五条の宮率いる長州が乱を起こして以来は、新撰組がほぼ一手に収めているといっても過言でない。
 だからといって他の組織が活動してない訳でもない。
 京都守護職・平織虎長の死。そして、後任の五条の宮が反乱を起こしと波乱に富み、彼らを慕った者たちが多勢抜けた結果、弱体化している京都見廻組だが、それでも京の治安を守る為に日夜活動している。

 さて、長州勢がまだ京を普通にうろついていた頃。
 京の四方で妙な細工がされた死体が多数見付かるようになった。
 東は鴨川で右腹に鉄の棒、西は街道で胸を焼かれ、南は巨椋池に心臓をくりぬかれて浮かび、北は腸の代わりに土を詰められ埋められていた。
 京都見廻組がそれぞれの事件を担当し捜査を開始するも、今なお全容を解明するには至らず。
 そうこうする内に長州の乱が起きて、さすがの悪党も一時身を潜めたが最近また活動を始めたようだ。
 一応、それぞれには犯人らしきものがいて、そいつらの犯行である‥‥とされていたのだが、此処に来て手段、死体への細工は同じだが違う人間による犯行と思しき事件が混じり出した。
 その被害者たちの周辺を調べれば、とあるジーザス会の存在がちらほらと入ってくる。
 ボロ小屋を信者たちの手で直した質素な教会。方々から苦難に悶える人々救いを求めて集い、初老の神父はその一人一人に優しく声をかける。その風景だけを見れば、怪しい所は何も無い。
 前回の調査でとある冒険者がデティクトアンデッドを用いた所、神父にその反応があった以外は。

「埴輪とは思えんから、残るはデビルかアンデットか‥‥。いずれにせよ、このまま放っておく訳にもいくまい」
 冒険者ギルドに姿を現したのは京都見廻組・渡辺綱。やはりこの事件に関わっている一人である。
「しかし、承知の通り京都見廻組は人手が足りない。それに物の怪が関わっているなら管轄違いでもあるし‥‥黒虎部隊に頼んでみたが、向こうもなかなか難儀しているらしい」
 元々は平織虎長直属の組織であり、私兵に近い。故に公亡き後は京都見廻組と似たり寄ったりの境遇になっている。
「なので、冒険者たちの手を借りたい。目的は件のジーザス会の調査。中心にいるのが妖怪となれば斬り捨てても構わんが、その際に問題となるのは、信者たちだ」
 自分たちを苦境から救ってくれた神父に、彼らは心底心酔している。迂闊に神父に手を出せば、彼らも黙ってはいない。下手すれば、命すら投げ出して抵抗してきそうな気配がある。怪しげな所がある会だからと言って、そこに集う人々全てが黒でもない。
「それに、四方の殺人とどう関係があるのか‥‥」
「彼らがその殺人の黒幕って事はないのですかい?」
 ギルドの係員が問いかける。綱は忌々しげに首を横に振った。
「考えにくいな。その会が出来たのは、長州反乱以降。それ以前には影も形もなかった。もちろん、新手の殺害の方に関わっている可能性は大きいが‥‥そう見せかけたさらに別の輩の仕業という疑いもある事はある」
 可能性なら幾らでも考えられる。であるが故に必要なのは確かな証拠。
「正体も目的も何も分からない。黒虎にしても監視と調査で機を伺おうとする者と、即座に踏み込んでまず処罰をしそれから調査しようとする意見に分かれている。なので、何をどうするかは冒険者たちの意見を聞きたいのだそうだ」
「分かった。人を集めてみよう。それで、旦那はどうされるんだ?」
 貼紙を手元に手繰り寄せながら、係員は問う。
「俺は事件の調査が残っているからそちらに向かわねばならない。だが、黒虎部隊隊士が四名事に当たる。人任せにして申し訳ないが、後は頼む」
 元は見廻組から発した話。これまでの事件とも関係を見せるものの、平行して調査するには少々手に余ってしまう。
 苦い表情を浮かべながら、よろしく頼むと綱は頭を下げる。

●今回の参加者

 ea4591 ミネア・ウェルロッド(21歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 eb2099 ステラ・デュナミス(29歳・♀・志士・エルフ・イギリス王国)
 eb5249 磯城弥 魁厳(32歳・♂・忍者・河童・ジャパン)
 eb9534 マルティナ・フリートラント(26歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

ゴールド・ストーム(ea3785)/ カノン・リュフトヒェン(ea9689

●リプレイ本文

 四方で起きている殺人事件。前々から起きているその不可解な事件に、さらに不可解な事に最近になってジーザス教の影が見受けられるようになった。
『世は戦禍にさらされ事態は落ち着かず。ジーザス教に限らず、宗教が広まるには充分よね。自然に広まるのはいいけど、妙な恣意が入り込みやすいのは困ったものだわ』
 一足先にジーザス会について調べてもらったゴールド・ストームとカノン・リュフトヒェンの話を思い出しながら、ステラ・デュナミス(eb2099)は頭を痛める。
 調べによれば、ジーザス会はイスパニアに本拠を持つジーザス教の修道会だそうだ。
 遠いかの地から尊きジーザスの教えを広めるべく来日し、長たるフランシスコ・ザビエルを中心に、熱心な布教に取り組んでいる。ジーザスといえば黒か白かとよく問われるが、彼らは基本的に黒を信奉。だが、慈愛の白を崇める者も共にいるので、結局は混合という事らしい。
 おりしも日本は戦乱の世。西では五条の宮が新帝の名乗りを上げ、東も上州が奥州がときな臭い。
 戦の火種はあちこちで燻り、何時燃え出してもおかしくは無い。そんな世を嘆き救われたいと願うのは何時だって無力な一般大衆で。想いは時同じくして重なり、結果、各地で急速にその勢力を拡大させていた。
 もっとも。古来よりの神仏を崇め奉る寺社仏閣が、ジーザス教の台頭を危惧し警戒を強めるという新たな火種を作ったのも事実。中には力付くでも廃せんと武器を手に声高に叫ぶ者もいる。
 それでも今は大きな混乱無く、京の内外でもジーザス会は神の教えを広めんとあちこちで様々な活動を行っている。件の会はその一つという訳だ。
 評判はなかなか良く、神父は人徳者として慕われている。救われた人々が神父を頼って集まり、粗末な小屋を直した教会の周りはさながら一つの村のような賑わいにまでなっている。
 ここに駆け込んだ人の知り合いが殺された、というような話はたまさか噂にのぼるようだが、関係者と見るほど繋げて考える者はそういなかった。
『デティクトアンデッドに反応があったということは含むところが、無いはずはないと思うのですが‥‥』
 マルティナ・フリートラント(eb9534)も不安げな表情を見せる。
 以前に探索した結果、どうやら神父に対してデティクトアンデッドの反応があったと言う。さすがにゴーレムとは思えないので、残るはデビルかアンデッドか。どちらも良い化け物とは言えない。神聖騎士であるマルティナとしては胸が痛むばかりだ。
『限りなく黒に近い灰‥‥。とはいえ、確信は留めた方が良さそうね』
 軽く肩を竦めるとステラは目の前の教会を見つめる。
 裏から探るのは他の者に任せ、自分たちは真正面から当たろうというのだ。
 教会はすんなりと来訪者を歓迎した。
『信仰を同じくする身としてお話を伺えればと思いまして‥‥』
『それはようこそおいで下さいました。私は黒を修めていますが、白にも思う気持ちがございます。御覧の通りの手狭さゆえ、きちんとしたもてなしが出来ない事をお許し下さい』
 来訪の理由を告げると、神父は心苦しげに頭を下げる。
 ジャパン語の出来ないマルティナの為にステラが付き添ってきたのだが、そうと知った神父はイギリス語で話をしてくれた。
『長く生きてるといろいろ覚えるもので。ですが、言葉が通じるのは布教の助けになりますのでとても便利ですよ』
 初老の神父はそう言って笑う。
『それで‥‥こちらでは普段どういう活動をしているのでしょう?』
『基本的には神の素晴らしさを説いています。私は黒を修めたせいか、この国の人の辛抱強さには胸が痛むものがあります。嫌な事を耐えるあまり、真実に目を閉ざし、事実を口にするのも憚る。そうではなく、もっと事態を打破する力を持っているのだと思いませんか?』
『はあ‥‥』
 強く主張する神父に、マルティナは曖昧な相槌を打つ。
『ここにはいろんな人が逃げてきます。それも仕方がありません。ですが、逃げてばかりではいけません。今の境遇を変えるべく元凶に立ち向かわねば、真の幸せなど訪れないのです! その為の力を人は誰しも持っており、そして神はそう在る者に惜しみない助力を授けてくださいます』
 きっぱりと言い切る神父は、信念に満ち溢れている。
 黒の大いなる父は、変化と再生を望む。上昇志向の強い者や、優れた者に惜しみない力を貸してくれるという。その為か、世の常を破壊して犯罪行為に走る宗教者も、白の宗派より黒の宗派にいる者の方が多かったりするが。
 それからもニ、三質問を繰り出す。神父以外からも話を聞いてみるが、皆、神父は真剣に自分たちの悩みを聞き、励ましてくれると感動を口にした。
 いろいろ聞きまわり、そろそろと教会を後にする。
『どうでした?』
 神父自身に妙な動きは無く、ほっと胸を撫で下ろす。念の為、ステラがフレイムエリベイションをかけていたが必要なかったようだ。
 そのステラは難しい顔をしている。
 神父がマルティナと直接話していた為、その間ステラはその分自由に動く事は出来た。ミラーオブトルースで神父の正体を暴こうというのだが、これがなかなかに難しかった。足元に水鏡を作るのだが、これは移動できないのだ。足元に出来るのだから、上手く作らねば空ばかり映る。さりとて、魔法を使ったとばれないようにするにはさらに上手く立ち振る舞わなければならない。あまり不審な事をして警戒されないよう、場所などを選んでどうにか使うのに成功した。
『神父には反応があったわ。確か前はリヴィールマジックを使って、反応無しだったって聞いてるけどね。ただ、反応があるだけでそれ以上は分からなかったけど‥‥』
 ステラの顔が曇る。あの神父の疑惑は深まるばかりだった。
 
「確かに、穏やかで平和な場所ではあるな。真実、その通りであったらよかったのじゃろうが」
 ステラとマルティナの後ろ姿を物陰に隠れて見送るのは磯城弥魁厳(eb5249)。その胸中では複雑な心境を覚える。
 周囲に集まった信者達は、皆穏やかな表情をしている。悩みも取れた晴れ晴れした光景に、今の疑惑は正直あって欲しくなかった。
 調査に来た黒虎部隊隊士に頼んで、バイブレーションセンサー・ミラーオブトルース・インフラビジョン・ブレスセンサーを使ってもらった。詠唱は全て初級。
 結果、インフラビジョンとブレスセンサーは教会に出入りする者に対して問題なく体温と呼吸が感知できたという。
 ミラーオブトルースはステラが試すと分かり、力量的にもそちらに任せる事にした。
 そして、バイブレーションセンサーは奇妙な振動を捕まえた。どうやらこの小屋には地下が作られているようだと。
(「今の所、魔法的に怪しいと言えるのは神父だけのようじゃが‥‥地下へ複数人出入りしているとなると油断してはならんかの」)
 気を引き締めると、魁厳は教会の壁に耳を当てる。
 使っているのは蝙蝠の術。感度を増した聴覚が中の声を捕らえる。
「何やら最近周囲が慌しくなりましたね」
「ええ、少し派手に動きすぎたかもしれません。無用な注意を向けられているようです」
 どうやら信者と話しているらしい。先の二人の動きを警戒しているのか?
「少しおとなしくする必要はあるでしょうか。世にはまだまだ救わねばならぬ人々が多いというのに‥‥」
 神父の声が暗く沈む。
「その通りです、神父様。神父様には人々を救う使命がございます。それをくじいてはなりません。微力ながらもわたくしたちは精一杯神父様のために働かせていただきます。それが、我らを救ってくださった御恩返しというものです」
 信者の声が必死に告げる。その後も信仰について話し続けている。
 話自体はさほど目立つ点も無かった。
 気になるといえば、少々信者が入れこみすぎているような気がするのだが、宗教というのはそういうものか。
(「はてさて、なかなか面倒な教会じゃの」)
 人々を救わんとする心は、はたしてそれがどこまで本心か。少なくとも今聞いた限りに嘘が無さそうで、ではそれを次にどう解釈したものか。魁厳は頭を悩ませるばかり。

「灰色を黒にするのがミネアの勤め♪ それが真実じゃなくてもね」
 無邪気に笑うミネア・ウェルロッド(ea4591)だが、実際には早々上手く行かなかった。
 まず偽造の密書を作って社会的抹殺を目論んだが、これは黒虎部隊隊士の方から妙案と言語道断の真っ二つの意見が出た。
 神父が怪しいのがもはや承知。とすればまずは捕らえて迅速に処遇を決めねばならない。その為の利で在るならこれは当然というのが妙案派。
 神皇のお膝元、その治安をつつがなく収めるよう任されたのが我らの勤め。そこに謀りありと知られれば世間に顔向けできず、虎長公の御名も穢す事になるというのが言語道断派。
 話し合いは纏まらなかったものの、否定派が、もし決行すれば偽造文書作成として処罰すると鼻息荒くする以上は諦めざるを得ない。
 なので、もう一つの案だけ決行。
 小面で顔を隠すと教会に侵入し、神父の部屋に隠れる。そこで、神父を拉致しようというのだ。もっとも拉致した後は他人に任せて考えてないのだが。
 教会の奥にある粗末な部屋には何も無かった。本当に置物一つも無かった。
 その部屋で待つ事しばし、神父が部屋に帰ってくる。
 そこを狙い、ミネアはエスキスエルウィンの牙を振るう。デビルが絡んでる可能性があるなら、手加減もできない。しょっぱなから喉元目掛けて素早く掠めるように繰り出せば、済んでのところで避けられる。
「ただの武器じゃないですね。何者ですか!?」
 答えず、二撃目を繰り出す。今度は入った。神父の肩の布が裂け、血が噴き出す。三撃目と思った所に、拳が叩き込まれた。
「ぐっ!」
 力強い一撃に、ミネアの息が詰まる。
「神父様どうしました?!」
「‥‥来てはなりません!」
 物音を聞きつけたらしい。信者の慌しい声が響く。一瞬の迷いの後で、神父は制止の声を上げ、その隙にミネアは部屋を飛び出す。 
 外で待たせていた通常馬のシフォンに乗って一目散にその場から逃げ出す。
「まったくもう。何なのあの神父」
 一般に神父といえば、知性派の印象がある。が、心身の鍛錬や修行として体を鍛える者はいるし、単に傭兵や騎士から神父に転向する者もいるので、武道派神父が珍しい訳でもない。
 少なくとも格闘には自信がある自分がてこずったのだから、何らかの心得があるのだろう。
 殴られた箇所が痛んだが、怪我の程度は軽い。変な痣でも残らなければいいがと心配しながら、ミネアは馬を走らせた。