【キの巡り】 南の四
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■ショートシナリオ担当：からた狐 対応レベル：6〜10ｌｖ 難易度：やや難 成功報酬：5 G 32 C 参加人数：5人 サポート参加人数：1人 冒険期間：04月26日〜05月05日 リプレイ公開日：2007年05月05日 |
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●オープニング
京都南方、巨椋池。蓮の花が群れる巨大なその池は、周辺住民の水上での交通要素となる他、流れる川を使って他地域との交流も行われている。その池で、死体が見付かったのはすでに幾月前か。池で見付かる死体は心臓を抉り取られ、明らかに他殺と分かる特徴を持っていた。
ただちに京都見廻組が調査を行った所、犯行を行っていた河童と遭遇。一度目はつれていた水馬に邪魔をされ、二度目も後一歩の所で逃げられてしまう。そして、三度。今度こそまたもや後一歩の所で巨大な蛙に阻まれて、取り逃がしてしまう。
「い・い・か・げ・ん・に‥‥しやがれってんだこんにゃろめ！ 蛙なんてそこら辺で引っくり返って、トンビに食われてたらええじゃねぇかー！！」
癇癪起こし、引っくり返って手足をばたつかせているのは、京都見廻組の坂田金時。パラで童顔なので外見子供にしか見えないが、それでもとうに成人過ぎている。
「ま、『すとれす』発散はここら辺にしといて。あの蛙って凄く妙だと思う」
ひょいと身を起こすと、いきなり真面目くさった顔で金時は話し始める。
人の大きさ程の巨大な蛙なら野生にもいる。しかし、春始めのまだ水が冷たいこの時期に、果たして泳ぐものだろうか。加えて、意図的にこちらの乗った船を襲ってきたり、さらにはいきなり消えたとなると‥‥もはや普通ではない。
「ぱっと思いつくのは、忍術の大蝦蟇の術だね。ただし、河童が詠唱した気配は無いし、出来るならとっくの昔に使ってたはずだよね。ここら辺からして、また別の奴が絡んでいる可能性が高いとおいらの明晰な頭脳が語ってくれている」
腕を組み、神妙に頷く。本人極めて大真面目なのだが、傍から見てるとこっけいにしか見えないのは何故だろう。
「とすると、使ってきた河童の仲間がいるって訳だ。
二度目に河童と当たった時、奴は南方面に逃げてる。その際に、複数の者に連れ去られたっぽい形跡があった。足跡だけだけど、大きさとかからして多分男のものだと思う。関係は良く分からないけど、河童が元気に生きてた辺りで敵対して拉致って訳じゃなさそだし、やっぱり仲間だったと見るのがいいかもね」
首を傾げ傾げ、確認するように金時は言葉を綴る。
「ただ、何というか。妙な感じはする。実はあの後しばらく巨大蛙が舟をひっくり返すという事件が何件かあったんだけど、それに絡んで殺人事件は起きてない。その中で例の河童が引っくり返った舟から人を助けたっていう話まで在る」
首を傾げ傾げ‥‥しすぎて振り子のように頭を揺らす。そのうち体勢崩して引っくり返ったが、何事も無く起き上がって話を続ける金時。
「で、しばらくすると蛙は出なくなった。そして例の事件がまた起きだす。でも、でも今度は一転、その河童はかなり見境無く人を襲うようになっている」
正体がばれているとあって、河童はかなり用心深く行動していた。が、ここに来て暴挙とも言えるほどに派手な動きを見せているらしい。
池を舟で行く者を襲ったり、縁で一人歩きをしたりする者を襲ったり。
相変わらず逃げ足は早いが、目撃者もいる事からどうも形振り構わない感じがしてくる。
「何か、訳が分からない。彼らには彼らの事情があるんかもだけど、だからそれが何だって感じでもあるし‥‥。
あ、そうそう。ついでに、というのも変だけど、便乗したと思しき死体も増えてないけど減ってもない」
昨年の秋頃から始まったこの奇妙な事件は、新年明けてより、別の犯人と思しき犯行が見受けられるようになった。
同じく心臓を抉られてはいるが、これまでとは少々様子の異なる遺体も見付かるようになる。それには最近目立ちだしたジーザス会が絡んでるようではある。
それに絡んでたかどうかは知らないが、西で遺体に火をつけようとした件のジーザス会の信者が捕らえられた。事情を聞いた上で、今は要監視として釈放はしているようだが。
「状況としてはこんな感じ。何と言うか、むかつくよねー。さっさと終わらせておいらは遊びたいぞーっ！！」
何度も言うが、成人過ぎ。
子供の遊びと勘違いしてないかと言いたくなる気持ちを堪えて、とりあえずはお仕事開始である。
●今回の参加者
eb1932 バーバラ・ミュー（62歳・♀・レンジャー・パラ・ノルマン王国）eb2041 須美 幸穂（28歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン）
eb2690 紫電 光（25歳・♀・志士・人間・ジャパン）
eb4605 皆本 清音（27歳・♀・浪人・人間・ジャパン）
eb5347 黄桜 喜八（29歳・♂・忍者・河童・ジャパン）
●サポート参加者
木下 茜（eb5817）●リプレイ本文
「犯人は――おまえだっ！」「だから違うと言ってるだろがーーっ！！」
京都見廻組・坂田金時から指をさされ、黄桜喜八（eb5347）は口を尖らせて怒鳴りつける。いや、元々河童の嘴で尖っているが。
南で起きている怪事件。犯人は河童と分かっている。そいつは初見で水馬を連れまわし、今は何やら大ガマの術と思しき蛙と関わる。
河童で忍者で大ガマの術使いで海馬を連れている喜八としては、何となく似てるなーと思っちゃう時点でいい迷惑なのだ。
「そこを何とか負からない？ 百両払っちゃおう♪」
「負かるかっ！」
ねだる金時に、喜八は即答。
「そうじゃ！ 逃げに逃げられ積り積ったこの怨念を中途半端に終わらせる訳には行かんぞ！ 今こそ晴らして見せる時じゃ！！」
喜八に絡む金時を見かねて、同じく見廻組のバーバラ・ミュー（eb1932）が喝を入れる。
勿論金時とて本気で喜八を犯人にして事件を終わらせようとは考えてはいないはず。バーバラの叱咤に不服そうな顔をしているが、それも冗談に違いない‥‥多分。
「そうですね。逃げられてばかりでは拉致があきません。陰陽寮でもあまりいい話は聞けませんでしたし、詳しい話を聞きたい所です」
他三件の事件関係者と情報交換した以外に、陰陽寮にも須美幸穂（eb2041）は赴いていた。気脈に変化は無いのかを訪ねてみたのだが、返った答えは『心配せずとも順当に不穏になっている』との事。
「それと、例の河童以外が絡んでると思しき遺体へ北に向かった知り合いにデッドコマンドをかけてもらいましたが、こちらもそれと言って情報が‥‥。殺された死体が死ぬ時強く心に刻む単語って、死にたくないみたいな恐怖心ぐらいですか」
思わず息を吐く幸穂。身元などは周囲の聞き込みで素性は分かり、誰かに恨まれたり羨まれていたといった話が聞けた。
「寺社にちょいと寄付させてもらったついでに事件周辺を改めて聞き込んでみたが、やはり南側に逃げている気配があるのう」
荒れた都に神仏の慈悲を。京都見廻組で慈善活動は以前断られたが、きちんと活動している寺社に匿名で寄付をしたバーバラ。功徳を積んだからでもなかろうが、聞き込みは割と簡単にいった。
河童はどの方面に逃げるのか。その手がかりが無いか、現場周辺を探っていた。慎重に動いていた河童だが、どういう訳か今はかなり大きな動きを見せる。
「河童連中に頼んで怪しい奴をいないか聞き込んでみたが、やはりそんな感じだ。やはり南に向かっての情報が多かったようだな。ただそれ以上の細かい事は分かんなかったけどな」
腕を組んで唸る喜八。
「となると、やはり捕らえて事情を聞くのが一番よね？ 慎重に捕まえないと」
「うん。北に向かった局長に良い報告が出来るよう、頑張らせてもらうよ」
捕縛用縄を用意しながら京都見廻組・皆本清音（eb4605）が告げると、紫電光（eb2690）もまた大きく頷く。
京都南に広がる巨椋池は一応変わらぬ景色を見せている。
が、不穏な話は耳にしており空気がどこかぴりぴりと警戒している。池を行く舟も周囲を歩く人もどこか早足で過ぎて行く。
「さて、準備はいいかの？」
舵を持ってバーバラが訪ねる。その他舟に乗り込んだのは金時、喜八、そして幸穂。光と清音は陸に残り、示した場所で待機となる。
準備はいつでもと返答があると、バーバラはいい加減慣れてきた手つきで舟を操り始める。舟の先端には喜八の燐光・アオイが浮かび、舟の後ろからは水馬のエンゾウが嬉しそうに付いてきている。
河童が現れそうな場所も分かっている。それらに舟を滑らせ、待つ事どのくらいか。
「釣り道具でも持って来ればよかったかも〜〜」
ぼけーっと舟の縁に張り付いてぼやく金時。
その服を、不意に緑の水かきが引っつかむと、水下へと引き摺り落とされる。
「坂田様！」
「現れなすったって訳か！！」
派手な水飛沫が上がって船が揺れ、金時の姿は消える。叫びより早く喜八は続けて水の中へと飛び込んだ。
水中でじたばたもがく金時。その襟を掴み、空いた手に小刀を振り上げているのは――話に聞いていた例の河童。
（「させるかよ！！」）
喜八は一掻きで間合いを縮めると、相手の河童に河伯の槍を繰り出す。河童は掴んでいた手を離して槍を躱し、距離を取る。その間に金時は慌てて水上へと泳ぎ出す。
睨み合うことしばし。口惜しそうに河童は嘴をゆがめると、喜八へと向かってきた。怒りの形相で握る小刀に力を込め、戦う意思を見せる。
だがその間が縮まる前に、月光の矢が河童を貫く。河童が水面を振り仰ぐと、覗く幸穂の顔が揺らめいて見えた。
しばし出来たその間に、喜八も印を組むと大ガマを召喚する。
現れた大蛙が、喜八へと突進する。からくも逃れたがそれで喜八との距離はさらに開いた。
視線で殺せるなら出来そうな程、忌々しげに睨みつける河童。だが、状況が悪いのは分かるのか、さっさと転進する。
「逃げたぞ、後を追うぞ！ エンゾウ！ は‥‥無理そうだな、うん、ごめん。行こう、ガマの助」
水面に顔を出して喜八が告げる。戦闘が苦手な水馬はすでに微妙な位置に逃げている。何を言われても、殺気持って刃物振り回す相手と遊びたくはないだろう。
召喚した大ガマのガマの助に乗って喜八はそのまま追いかける。
「こちら、使わせていただきますね」
幸穂は空飛ぶ絨毯を広げた。持ち主は喜八だ。事前に試した結果、かなり不安定になるが魔法は使えた。なので舟に同乗し、そして今、それを使って河童の後を追う。
「それ、わしらも遅れるわけには行かんぞ！」
「あいあいさー」
ずぶ濡れで舟に転がる金時を叱咤しながらバーバラもまた舵を取る。もう疲れた表情で銛を振り上げながら、金時は呼子笛を吹く。
河童は逃げる。一同は追いかける。水辺の行動はやはり河童の方が上だが、それは喜八とガマの助が追いたて逃がしはしない。エンゾウも距離を置きながらも付いてきている――単に置いていかれるのが嫌なだけなのかもしれないが。
幸穂は絨毯に乗って空から。魔法を時折唱え、その度にふらふらと行き先が歪むのが怖いが、池の上では障害物もほとんど無い。
バーバラも操舵に専念し、金時が借りた銛を投げる。投げた銛には縄がつけてあるので、手繰り寄せられる。
そうやって追い立てて、ゆっくりと示し合わせた地点に追い立てていく。
後一息。そんな辺りで、いきなりエンゾウが鳴いた。
「バーバラ様、後方に影が！」
「何と！！」
振り向いた幸穂が声をかけると同時、巨大な蛙が下から舟を突き上げる。躱せず、引っくり返る舟と投げ出される二人。
「ええい、こちらはわしらがどうにかするわい。おぬしらはそっちを頼んだぞ！」
「ええ。これやるのーーっ！？」
水中に引きずり込もうとする蛙に抗いながら、バーバラが叫ぶ。
「ちぃっ！」
大蛙の参上で距離を開けたものの、周囲を喜八たちに囲まれて河童は水辺での逃げ場がなくなる。仕方なく岸辺に昇り、そのまま走って逃げ出そうとしたが。
「ぐぎゃ！！」
さほどいかぬ間に、雷光が河童の身に走った。体を萎縮させると、ふらりと河童が傾ぐ。
「かかった！ ライトニングトラップ成功だね！」
物陰から光が飛び出てくる。その傍らから飛び出た清音は、そのまま距離を詰めて鉄扇を振るうと河童の小刀を叩き落す。
「くっ！」
叩かれた手を引っ込めて、苦しげに現れた清音たちと向き合う河童。
水上で分が無いなら、陸上で。池で追いまわし、陸上で待ち構えていたのだ。
「そして、もう一人。そこにいるのは分かっているよ！ 気配を殺しても呼吸までは止められないんだから！」
生み出したライトニングソードの切っ先で光が示す先、小さな影が揺れた。
「俺はいい！ とっとと逃げろ！！」
その影に向かい、河童が叫ぶ。その声に押されたように、その影が飛び出してきた。
「おっちゃんから離れろよ！ 馬鹿野郎！」
叫んだ声は甲高かった。年でいえば十に足りるかどうか。まだ手足も伸びきらぬ少年。小脇に抱えた弓に矢を番えると清音に向かって射抜いてきた。
「この期に及んで！」
飛来した矢を清音は避けると、光も少年を見遣る。
その一瞬に河童は落とした小刀を拾い上げようとし――その足が凍り付いていた。
「もう逃げられません。観念しなさい」
告げる幸穂が広げた経巻はアイスコフィン。氷の棺は形作られ河童を固める。
「おっちゃん！」
「構うな！ 逃げろ！」
声を上げる少年に、河童は告げ‥‥同時に、その口元から血が溢れる。
「舌を！！」
清音が慌てて荷から薬を取り出すも、飲ませる前に叩き落とされる。
「俺は死なねばならん。でなければ、あいつらが死ぬ事に――」
苦悶の言葉を吐きながら、河童は氷に閉ざされる。
「少年は‥‥」
「逃げたようだね。ブレスセンサーから反応が消えたよ」
光が首を横に振る。
喜八やバーバラたちも合流した後、河童の氷像を幸穂がリシーブメモリーをかけてみた。
河童の名は渡島。根っからの悪党でいろんな悪事をしでかしながら、方々を渡り歩いていた。そして、この事件を始めるしばらく前に、大坂で女に声をかけられ今回の事件に誘われる。
「今は細かく分かりませんが、そういう事らしいです」
魔力を費やし、息を切らしながらも幸穂は語る。
河童を誘った相手。記憶に残る女の名は、茨木童子と言った。
