【キの巡り】 北の四

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:5 G 32 C

参加人数:5人

サポート参加人数:3人

冒険期間:04月26日〜05月05日

リプレイ公開日:2007年05月05日

●オープニング

 京都北方。鬼門封じとして点在する寺社仏閣の数々と、北の守りを為す山々が連なる。
 その山で奇怪な死体が見付かり、すでに半年にはなるだろうか。
 それはただの遺体ではなく、腸の代わりに土を詰められ、その上で土中に埋められているという変わり様。
 殺害の痕跡は明白。京都見廻組が調査に乗り出すと、北の霊山に呪詛参りに向かった者が殺されていると分かり、犯人と思しき忍者とも遭遇した。
 南や西でも奇妙な事件が起きており、それとも関係があるのではとされているが、明確たる確証は無い。

 そうこうする内に、新年明けるか否かの辺りから、奇妙な死体の装飾は同じながら別人物の犯行と思しき死体も見つかる始末。そちらの方は調べると、とあるジーザス会の絡みが見受けられ、西では関係あるのかよく分からぬものの信者の女性が捕まっている。
 そして、北では北なりの厄介事があった。


「埋もれた遺体は見つけにくい。なもんで、餓鬼やら以津真天やら土蜘蛛やらが湧いていたが‥‥そのせいで被害が少なくなっていたってのは皮肉な話だよなぁ」
 京都見廻組・占部季武はひょいと肩をすくめる。ジャイアントの大柄な体格では、いささか窮屈そうに見えた。
 少なくなったといっても皆無では無い。実際、前回の調査中でもしっかり痕跡を残した新たな死体が見つかっている。
 ただ、それまでこの依頼に便乗していたと思われる犯行が見つからない。さすがに化け物うろつく山に割って入れるほどの技量では無いと云う事か。
「その土蜘蛛たちは前回協力してもらった冒険者が粗方退治した‥‥はずだったんだが。実は、被害がまだ収まらないんだ」
 こりこりと額を掻く。困惑した顔はどう告げたものか悩んでいるようだ。
 やがて、小さく唸ると重そうに口を開く。
「幸い、餓鬼どもはなりを潜めたが、土蜘蛛たちはまたのさばってきてやがる。‥‥問題はそいつらが結託した動きを見せている事だ」
 土蜘蛛はでかいが、所詮蜘蛛。虫程度の反応しか見せない。
 しかし、今山でのさばっている奴らは集団で行動し、ともすれば獲物を挟み撃ちにしたり囮を使っておびき寄せたりと普通の土蜘蛛らしからぬ動きを見せる。
「多分、化け蜘蛛だろう。問題は、そいつらが人間に敵意を見せている事と、件の凶行はやんだ気配がない事だな」
 土蜘蛛たちの目を躱して捜索すれば、確かに土に埋もれかけの腹の無い死体。残る痕跡から例の事件と推測。
「よく分からんのが、土蜘蛛たちの目を逃れて犯行が繰り返されているだな。いい加減、物騒な山にわざわざ呪詛しに行く奴などおらんだろうから、別の場所で探して凶行を行うとかしているのだろうが‥‥。どちらにせよ、何故土蜘蛛は奴を狙わないかだな」
 首を傾げはするものの、答えは相変わらず見つからない。
「ま、何か事情があるのかもしれない。最悪、化け物と結託してる可能性もあるな。どうなるかは分からんが、とりあえず、調査は進めなきゃなるめぇ」
 告げる季武の口調は、どこか暢気なものだった。

●今回の参加者

 ea5278 セドリック・ナルセス(42歳・♂・ウィザード・パラ・ビザンチン帝国)
 ea6354 小坂部 太吾(41歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea9455 カンタータ・ドレッドノート(19歳・♀・バード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb1798 拍手 阿邪流(28歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2482 ラシェル・ラファエラ(31歳・♀・クレリック・人間・フランク王国)

●サポート参加者

太 丹(eb0334)/ 拍手 阿義流(eb1795)/ 小 丹(eb2235

●リプレイ本文

「胃‥‥じゃなく、頭も痛くなってきた」
「いや、だったらゆっくり養生してくれ」
「心配で寝てもいられませんよ、この状況」
 心配そうに諭す京都見廻組・占部季武に、セドリック・ナルセス(ea5278)は思わず睨みを入れる。
 北の山々。死体は増えるばかりな上に、土蜘蛛が大量発生。しかもその土蜘蛛はただの土蜘蛛ではなく、何やら群れで動く動きも見せているという。
「南に向かった知人が言うには、頭のいい蜘蛛なら女郎蜘蛛がいるという話だったが、それではないのか?」
「ちょっと違うらしい。俺もよくは知らんが」
 尋ねる小坂部太吾(ea6354)に、季武も首を傾げる。
 端的にいえば、女郎蜘蛛は糸を吐いて獲物を捕まえる。土蜘蛛は地面に穴を掘り獲物を待ち構える。要するに種類が少し違う。が、蜘蛛の化け物という点では一くくり一緒。何より、人を襲う時点で全て等しく化け物といってもいいかもしれない。
「ってことは、ボンキュッボンの姉ちゃんとは限らないって事か? それはそれでつまんねぇな」
 拍手阿邪流(eb1798)は、ちっと小さく舌を鳴らす。
「しかし、そんな奴がどっから現れたのか。一応他藩の情勢も尋ねてみたが、これに関係するような動きは見当たらないのはいい事か」
 妖怪が蔓延るのは何も京だけではない。近隣の藩でも大なり小なり様々な妖怪譚は聞ける。伝を頼って、太吾は丹後や丹波へ妖怪の情報を問い合わせてみたが、問題なさそうな返答が返ってくるだけだった。
「一応周りで聞き込んでみたが、土蜘蛛自体は前から見るがこんだけ一時に大量発生するのは珍しいってよ。ましてや集団で動くなんて聞かねぇってな。ま、そんな程度かな。詳しい話はやっぱ土の下にいる奴じゃないか?」
「残念ながら、あまり有益な情報は聞けなかったわ。でも、絶対何かある‥‥いいえ、何かいるのよね」
 軽く肩を竦める阿邪流。
 難しい顔つきでラシェル・ラファエラ(eb2482)が告げる。
 見付かった遺体へデッドコマンドを駆け回ってみたが、殺された死体が死ぬ時に強く心へ刻むのは死にたくない恐怖がほとんどなのか。特にこれといった情報は聞かれなかった。
「そうとも限らないかも。黒装束の手によって、土蜘蛛さんたちとて用意されたより適応出来る環境に誘導されているだけなのかも」
 と、目深に被ったフードを直しながらカンタータ・ドレッドノート(ea9455)も意見を述べる。
「聞いて回ると、被害者の出身がまちまちになってますね。京内に住んでいる人もいれば、たまたま上京していた人もいらっしゃいました。多分、もう相手を選ばず狙いやすい相手を狙っているのでは?」
 セドリックが首を傾げる。以前は、誰かを恨む呪詛参りの者が狙われたが、この物騒な山にわざわざ呪いに来る者もそういないだろう。
「その呪詛巡りも、今は下火ですね。北の山が物騒になっているのは知れ渡ってますし‥‥、悩みがあるなら神に祈れというのが今の主流というか流言と言うか」
 言いながら、セドリックは胃の辺りを押さえる。
 この言っている神とはジーザス。聞き込めば何の含みも無く、単に宗教活動で神父たちが熱心に動いている結果なのだと分かる。
 布教にあたり、大名や既存の宗教との軋轢を緩和すべく安祥神皇に謁見を求めたジーザス会。それは果たせなかったが、彼らはそのまま京を中心にジーザス会の布教に努めだしたらしい。その為か、ジーザス会に関する話も、京の民の軽口に上りやすいようだ。
 が、とあるジーザス会が四方の事件に便乗している疑いがあると知る身では、少々違う風にも聞こえる。
「ジーザスね‥‥。何事もなければいいのだけど」
 ラシェルの脳裏に一人の女性が浮かぶ。
 やはりこの北の事件で、呪詛参りに出かけて見付かった女性だ。後に、そのジーザス会に出入りするようになっている。西の事件でジーザス会の女性が捕まったという話を聞き、心当たりがないか聞きに行った所、知り合いだといい、紹介もしてくれた。
「大変な事になってしまいましたが‥‥。でも大丈夫。神さまはちゃんと見てくださってます」
 その女性と共に静かに祈る姿は、忠告を受け入れぬ姿にも見え。 
 ちなみに知人に頼んでリシーブメモリーをかけていいかと尋ねると、心を覗かれるようで不愉快だと断固拒否された。
「詳しい事は、後は現場ですかね。パーストで何か分かればいいのですが‥‥」
 カンタータが複雑な表情で山に目を向ける。
 まだ距離の在る山は、普段どおりの姿を見せるだけ。その中に何が潜むか、窺がう事は出来なかった。

 北の山に登り、遺体が見付かった現場を中心に、カンタータがパーストをかける。結果は‥‥思わしくなかった。
「せめて何時頃運び込まれたか分かれば、どうにか絞りこめるかもですけど。とにかく調べる範囲が広すぎますね」
 魔力費やし、カンタータが音をあげる。パーストで過去を見れる時間は極めて短い。専門なら数日前まで覗けるが、それまでの時間の間で何時なのかを探す段階で魔力の方が先に尽きてしまう。
「とすると、残るは死体を埋める現場を押さえるか。あるいは土蜘蛛を退治しつつ事情を探るか」
 魔法の成功率が上がるよう、貸していた神楽鈴を太吾が小さく鳴らす。
「ってたら、当然土蜘蛛退治だろ。死体埋めは何時来るか分かんねぇけど、土蜘蛛たちは‥‥」
 鼻で笑って阿邪流は彼方を顎で示す。
「やれやれですねぇ」
 セドリックが灰を用意すると、アッシュエージェンシーを唱える。出来上がった分身は、阿邪流が示した方向に歩き出し、そして。
 湧き出した大量の蜘蛛に絡まれ消失する。
「出やがったな!」
 大量の土蜘蛛に向けて阿邪流とカンタータがシャドゥボムを、セドリックがマグナブローを仕掛ける。纏めて吹き飛ぶ土蜘蛛たちに、さらに阿邪流は陰陽小太刀・照陽、影陰をそれぞれ握ると追撃にかかる。
「気をつけて。怪我は治せるけど、毒は無理だからね!」
「けっ、こんな倒れぞこないにやられるかよ! おらおら、潰れちまいな!」
 ホーリーで援護しながら叫ぶラシェルに、阿邪流は危なげなく土蜘蛛を捌いてみせる。
「周囲を囲まれておるぞ! そして‥‥そこにいるのは誰じゃい!」
 自身にフレイムエリベイションをかけ、バーニングソードを浄明の卒塔婆に付与してやはり土蜘蛛を散らしていた太吾。その目はインフラビジョンで少し異なる景色を見ている。
 その中に、物陰に隠れて様子を窺がう人型を見つける。囲む土蜘蛛をしばし皆に預けると、太吾はファイヤーバードを唱える。
「ぬぐぉ!」
 高速でかける火の鳥が、隠れていた人型を弾き飛ばす。転がり出てきたのは姿勢の悪い小柄な男。そして、立っていた場所には腹に土を詰めた死体が一つ。
「例の黒装束?」
「では無いようですが? その仲間か!?」
「ふん、あんな人間など仲間であるものか。まぁ、おもしろい話もしてくれたし、貴様らなんぞより話の分かるよく出来た奴ではあるがな」
 首を傾げるラシェルに、セドリックも首を傾げる。だが、通りすがりでないのは確か。敵意に満ちた目で一同を睨みつけてくる。同時に周囲の蜘蛛たちも一斉に引くと、その男の周囲へと集まる。
「何だてめぇは!」
「人間風情が図に乗りおって」
 誰何する季武に、恨みの篭った声を投げつける。
「我ら、恨み忘れじ。幾年幾月経とうと、この地は我らの場。下等な貴様らなんぞが蔓延るべきでない。直に食い殺してくれる」
 言う間に男の姿が歪む。手足が増えて、姿も大きくなる。瞬く間にその姿は周囲の土蜘蛛と等しくなり、紛れる。
「変化かよ」
 季武が呟くと同時、蜘蛛たちも動いた。
 詠唱を唱えたセドリックがマグナブローで大きく吹き飛ばすと、その後を他の一同が仕留めにかかる。
 決着は早くについた。不利を悟った土蜘蛛たちは攻撃する組と同時、大半が撤退していた。後に残る屍は土蜘蛛のもの。その中に先ほどの変化が混じっているかは、こうなると定かではない。
「また厄介な事になったようじゃの」
 顔を顰める太吾に、季武も大きく息を吐く。
「ああ。何が厄介かといえば、結局黒装束もわやくやのまま、管轄外が飛び込んできたって事だよ」
「‥‥いがいたひ‥‥‥‥」
 気分悪そうにしゃがみこむセドリック。その気持ちは皆似たようなものだった。