【キの巡り】 京都見廻組 西の四

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:8 G 3 C

参加人数:4人

サポート参加人数:1人

冒険期間:04月29日〜05月05日

リプレイ公開日:2007年05月11日

●オープニング

 京都西方。山陽道・山陰道と西の諸国に出向く重要な街道が走る。
 人が多ければ物取り目的の賊や妙な取引などが悪事の出入りも多くなるのだが、最近街道を荒らしているのはそれとはまた少し違う。
 行きかう旅人を狙う殺人事件。不可解な事に、殺害した上で遺体の胸を焼いていた。
 最初は賊の仕業とされ、犯人たちは京都見廻組が捕縛した。が、捕らえた賊たちが吐いたのは、彼らもまた人に頼まれて犯行を行っていたという事実。
 話を持ち込んだという紫頭巾の女は、賊が捕まった後は自ら犯行を繰り返し、死体を増やしている。一度接触を果たしたがからくも逃げられてしまった。

   ※   ※

「前回、手を貸してくれた冒険者がその女を見つけてつけた所、大坂に入って見失ったとの報告がありました。やはり、そちら方面から手を伸ばしてきていると見て間違いは無いのでしょう」
 京都見廻組・碓井貞光は生真面目に告げる。
 南。大坂、大和はじめ諸藩が連なる。人がいる所、悪があるのは必須。悪人に国境は関係無いから、何の拍子でこちらに流れて来るか分からない。
 どちらにせよ、京都見廻組にとしては管轄外になるので手が出しにくい。
「おまけに事はそれだけではないんですよねぇ‥‥」
 複雑な表情で貞光は首を傾げる。
 前回の調査中、焼かれた死体を発見した。殺されたのは女で、殺害したのは彼女に夫を取られた妻だという。裏を取ると間違いは無いようで、妻はそのまま逃走。
 ただし、その妻がやったのは殺害まで。死体を焼いたのはその直前に相談を受けた妻の友人。たまさか現場を見た友人は、驚きつつも妻の犯行を隠そうと、それまでに起きていた例の事件に見せかけるべく火を放った。
 結果、火をかけた友人は最近そこらをたむろしだした鬼火に見付かって攻撃を受けた。幸い、治療系の魔法に通じた冒険者が同行していた為、怪我はすぐに治せたが、精神的な動揺は酷かった。今は要監視した上で家に帰している。
「で、その友人と仰る女性は、例のジーザス会の信徒だというのですよ」
 深々としたため息は物事の混乱を語るよう。
 焼かれた死体が見付かったのは去年の秋頃から。しかし、新年に入るかぐらいで、それに便乗したと見られる模倣犯の犯行が見受けられるようになった。
 そちらの調査を進めていると、被害者の知人やその更に周辺ぐらいで、とあるジーザス会の存在が見受けられた。
 どこまで関係するのか分からない。調査の末、神父に妙な結果が見られたので黒虎隊士に任せたが、いろいろ不可解な情報は尽きない。そんな教会にその友人は通っており、今は自分の行いを反省して粛々と祈りを捧げる日々だという。
 そして、犯人である妻もまた自首してきた。憔悴仕切った様子で頭に血が昇って殺してしまったが、恐ろしくなって逃げたという。その際、人に説得されてようやく落ち着いて自首しようと云う気になったという。
 その説得した人物と、実は教会関係者だったりするが。
「そもそもの事件自体は依然続行中。遺体に火はかけられ、故に鬼火たちもまた彷徨っているのですよね‥‥」
 はぁ、とため息をつく。紫の女も厄介だが、鬼火もまた厄介。火をよからぬ事に使われた恨みから、火を持った通行人を見つけると近寄り攻撃を加える事も。
 前回、これも説得を試みひとまず了解したのだが、例の事件を経てまた過敏になっているらしい。いや、獰猛になったというべきか。
「面倒な事も多いが‥‥よろしく協力お頼みします」
 言いつつも貞光は嘆息する。本当に厄介事が多すぎた。

●今回の参加者

 ea9150 神木 秋緒(28歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea9502 白翼寺 涼哉(39歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 eb1528 山本 佳澄(31歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb1645 将門 雅(34歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●サポート参加者

白翼寺 花綾(eb4021

●リプレイ本文

「京を取り巻く事件は止まる所を知らず‥‥か‥‥。‥‥‥‥ああ、頭が痛いわ」
 状況整理し、京都見廻組・神木秋緒(ea9150)はそっと頭を押さえる。
 西で起きている事件だけ見ても、死体に火付けして放置。便乗犯が動き出したかと思えば、最近では鬼火も出始めて街道を騒がしだしている。
「帝都の治安を乱して神皇様のせいにでもするつもりなのか? ――あの女。今度こそ捕まえてやる」
 不満げに目を細めながら、白翼寺涼哉(ea9502)は空の煙管を手でもて遊ぶ。
 解決の糸口は紫頭巾の女。かの者が何かを握っているのは確かなはずだが、なかなか情報が集まらない。
「山道つことるんやったら、街道沿い調べても情報出んわな。猟師の人らに目撃したか聞いて見たんやけど、山も広いさかい、あんまりいい話は聞けんかったわ」
 将門雅(eb1645)が同意を求めるように、連れの鬼火・篝を見遣る。篝としては何とも言えずに、困ったようにふらつくだけだったけれども。
 山中での目撃譚は街道沿いに比べると多少は聞けた。何れも遠目でちらりと見かけたかなという程度。相手が用心深いのか、それ以上がなかなかつかめない。それでも目撃場所を地図に書き込んでみると、街道と南方面の間ぐらいで見付かっている。
「花綾に頼んで子龍からも話を聞いてもらったがな。子龍にとっては油と火の匂いがするし、何より生臭い血の匂いがするらしい。音は特に特徴だてるのは無かったみたいだ」
 遭遇したのは何も涼哉だけではない。連れていた柴犬の子龍の方が先に気付いた事も。なので、白翼寺花綾を介して話を聞けば、やはり犬には犬なりの手がかりを持っているらしい。
「花綾はんとはうちも話させてもろたわ。篝と一緒に例の鬼火たちが何怒っとんのか考えとったんやけど、やっぱりあの事件で火を使われているのが腹だたしいんやろなぁ」
 もう一度雅は篝を見るが、篝にしても更に困ったように揺らめくだけ。
 街道沿いに出る鬼火たちは一度説得し、了承したのだが。結局、過激な行為は収まらなかった。死体に火をかけるのを止めさせる為に、自らが火を使って死体を作らん勢いである。それが自ら分かっているのか怪しいものだ。
「困ったこっちゃやで」
 肩を竦める雅に、他の面子も似た表情を作る。
「いろいろな事態が起きていますが、紫頭巾の女の調査に専念したい所ですね。ただでさえ人数が少ないのに、あれもこれもでは拾いきれませんわ」
 軽く目を伏せ、山本佳澄(eb1528)が小首を傾げる。
「とはいえ、その他をすっぱり放っておく訳にもいかないわよね。という訳で、前の殺人事件の犯人の友人さんにお会いしてきたわ」
 京都見廻組・碓井貞光に軽く頭を下げる秋緒。
 犯人の女性は自首してきて牢で反省している。その友人はといえば、死体を隠そうとした罪には問われているが、やはり反省して今は教会で神に祈る日々。
 そこにお邪魔する形で、その犯人たる女性の普段の様子を聞きに行った。
 その友人曰く、
「普段の彼女からは、人を刺すだなんてとんでもありません。いたって普通の好人物です。けれど‥‥今回の件については当人とても悩んでおりました。真面目で優しい方なので、むしろ思いつめてしまったのではないかしら‥‥。
 相談は‥‥一応いろいろな人にしていたようです。けれど、悩みが悩みですし、普通、内内の恥を大っぴらに話もしませんでしょう? 多分、私にも彼女の苦悩は全てあかしてはいなかったのではないのでしょうか。
 勿論、神父様にもご相談するようお話しましたし、神父さまも親身になって聞いておりましたわ。もっとも、その様子は私には分かりません。だって、私がいては話しづらくなるでしょう?
 こんな結果になったのは残念ですが‥‥でもきっと神さまが良いようになさってくれると信じてますわ。ええ今でも」
 言って静かに祈る彼女は、本当にそれを信じているようだった。傍にいる信者たちも、その彼女や牢に入ってる妻の為に親身に祈りを捧げ、まさしく慈愛に満ちた場所に見えた。
 そこが本当にどう関わっているのか。あるいは関係ない事を、それこそ神に祈るばかりである。

 街道は事件があろうとなかろうと行きかう人でにぎわっている。ただ、その賑わいもどこか恐々としているように思うのは気のせいではあるまい。
 そんな人だかりから念のためにやや離れた場所で、涼哉は腰を下ろすと一服を始める。秋緒もバーニングソードを唱えて、霞刀に仕掛ける。
 誰に向けるとなく、そのまま翳して待てば、やがて山中、木の陰より火の塊がふらりと彷徨い出す。
「弔いの送り火だ。良からぬ事に使われた火と、焼かれた者に向けてな」
 とんと煙管をひっくり返すと火を消す涼哉。改めて現れた火を見つめる。
 宙に浮かんだ巨大な固まりは全部で五つ。それらがこの界隈で火の取締りを行っている精霊たちだった。
『前に会ったな』
 ふらりと一つが前に進み出る。
「覚えててくれたんか。嬉しいわ。‥‥けど、すまんな。あん時に約束した元凶がまだ見付からんのや」
 揺らめく火から表情は分からない。ただ気配が尖っているのは何となく分かる。雅は愛想良く笑うと、すまなそうに頭を下げた。
「せやさかい、ほんまはあんたらを止める資格なんてうちらにあらへんのやろな‥‥。けど、あまり無茶せんで欲しいんや。討伐隊とか組まれたら面倒やし、やるんならほんま火を畏れん相手にしといた方がええで」
 心底心配して雅が告げるも、相手の反応はあまり変わらない。いや、炎が小刻みに揺れている。嘲笑しているようだと秋緒は思った。
「今の貴方たちが火を汚され怒っているのは分かる。其処で聞きたいのだけど、この街道で起きている、遺体に火を点ける事件は、貴方達にとってどの様な意味を持つのかしら? この件の何が火を汚す事になっているのか‥‥。何かこの周辺の火気に影響が出ているのか、教えてもらえないかしら?」
 それでも荒れる気配はない。なので秋緒は続けてそう訪ねたのだが、途端に、鬼火が態度を変えた。
『意味‥‥意味だと!? そんな事すら分からないのか馬鹿どもが!』
 怒りのあまりか、炎の大きさが倍ほどにも膨れる。爆ぜる火の粉に一同は少し身を引いたが、それでも逃げず向き合う。
『不浄なる者を生み出し放置した挙句に、それをもてあそぶ為に炎を使うなど許せると思うてか! 一度や二度ならともかくこうも意図的に繰り返されるなど、我らへの挑発としか思えぬ!』
『侮辱! ああ、侮辱だ! 火をあのようにつまらぬ使い方をするなど!』
『死者どもの腐臭が臭うようだ。おぞましい、汚らわしい!』
 五体がそれぞれにざわめき、叫び出す。その狂乱ぶりは傍から見ていても恐ろしいばかりだ。
「この件については私たちも対処する。だから、せめて遺体に火を掛ける目的で動いている者以外を襲うのはやめて貰えないか――きゃあ!!」
 騒ぎ立てる鬼火たちに、秋緒が宥めながら願い出る。その返答と代わりに、鬼火の一体が火の玉を打ち出してきた。直撃はしなかったが、間近で爆ぜた炎は熱を伴って辺りに散った。
『はん! お前たちの事情など知った事か! 止めたければ勝手に止めるがいい!』
『我らは我らで動くのみ。もはや暢気に構えてなどおれんわ!』
 ざわめき、蠢きながら五体の鬼火たちは立ち去っていく。
「待ってんか!?」
 雅が止めに入るも、聞く耳すらないように動きを止めず、鬼火たちは奥へと消え去っていた。

 鬼火についてはひとまず置いて。紫頭巾の女に関して追いかける。
 雅の取った情報を元に山道を進んでみる涼哉。しかし、女の影は見当たらない。子龍も鼻を利かしてあちこち嗅ぎまわってたが、やはり手がかりらしいものは掴めていない。
「山といっても広いからな。一体どこを通っているのやら」
 猟師たちが使う道も数多い。涼哉が頭を抱えて辺りを見渡すも、そこは普通に山の風景だけがある。
 一息ついて、もう一度行こうとした矢先、爆音が辺りに響いた。
「あちらに火の手が!」
 視線を巡らせ、不自然な灯りを見つけた佳澄。騒ぎ出した子龍を伴ってそちらへと走り出す。
 現場は、派手に焼け焦げていた。豪快な火の痕跡が見付かるが、肝心の炎自体は消失している。燃えているのは五つの炎。鬼火たちだった。
 黒焦げた木々に、灰と化した草。赤く焼けた土。その上に横たわる死体が一つ。
「死んでるな」
 誰が見てもすぐに分かる。どうしようもなく焼け焦げ、かろうじて人の形を作っている。まさかと思い、鬼火を見つめると、鬼火たちは鼻で笑ったような仕草をした。
『それはすでに死んでいた。火をかけようとした痕跡があったので焼き払ったまで』
『誰がやったかはわからぬ。我らを恐れてか火を使わずに油だけ撒いて逃げ追った。ああ、腹立たしい』
『ほんに苛つく。この不愉快をどうしてくれようか』
 殺気すら放って鬼火たちは揺れ惑う。
「‥‥とにかく。この遺体は引き取らせてもらう。いいな?」
 涼哉が問いかけるとさらに殺気が膨れ上がった。
『引き取ってどうするつもりだ!』
「犯人を捜すのに調べるだけよ。けっしてこの地を穢すような事ではないわ!」
 声を荒げる鬼火に、秋緒が必死に訴える。
 向き合うことしばし。じっと目を逸らさずに、鬼火たちに無言で訴えかける。
 やがて、鬼火たちは何も言わずに宙をすべり、山の方へと消え去る。姿が見えなくなってほっと一息つく。それで自分たちがどれだけ緊張していたのかを改めて知った。
「かなり酷く焼かれているな。あまり細かい事は分からないが‥‥この傷跡からしてどうやら紫頭巾の仕業と見ていいな」
 死体を検分して、涼哉が告げる。言う通り、遺体の焼け跡は酷く、身元の判明にも苦労するだろう。
「何だか鬼火たち、荒れてきてませんか?」
「元々わりと攻撃的な精霊ではあるんだけど‥‥確かに前会った時よりも過激になった感じはするわね」
 首を傾げる佳澄に、秋緒もまた頷く。
「これも何か関係あるんやろかな? ともかく、あんまひどい事にならんかったらええんやけど‥‥」
 不安そうに雅が鬼火たちの消えた方角を見る。今は静かな風景が広がるだけだった。