【キの巡り】 京都見廻組 東の四

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:7 G 30 C

参加人数:4人

サポート参加人数:1人

冒険期間:04月29日〜05月04日

リプレイ公開日:2007年05月11日

●オープニング

 京都東方。北の地より悠々と流れる鴨川は、四季折々の季節を見せて人々を和ませる。
 水場は生活の場。様々な人々が暮らしの糧を得る一方、死者の極楽往生を願って水葬を行う地でもあった。
 そうした場所なので、死体が転がる事は特異な事でもない。が、明らかな殺害の痕跡が見られるとなれば話はまるで違ってくる。
 右の腹に鉄の棒を打ち込まれた死体。元々川原に放って置かれた者を加工されたり、あるいは殺害の上で打ち込まれたなどの違いはあるが、何者かが意図的に施したのは明白だった。
 特に北方で起きている事件とは、向こうが呪詛を行おうとした加害者であるのに対し、その恨みを買っていた人物がこちらで被害者になっているなどの関係性を見せていた。
 そうこうする内に、最近では同じく右の腹に鉄の棒を刺されてはいるものの、明らかに先の事件とは違う者の犯行も目立ち始めていた。

  ※  ※

「とりあえず、切り口からして秋から犯行を行っていたのは、クリエイトアンデッドを操る坊主と、ジャイアントらしき黒尽くめの大男と見て、間違いないだろう」
 京都見廻組の渡辺綱はそう告げる。京都見廻組が中心になって調査を開始した所、斬り捨てられた遺体は街中から自分で歩いてきた。魔法が働いているのは明らかだった。
 そして前回。狙いをはって調査したところ、犯行現場に出くわす。行っていたのは先の述べた二人だった。
「要するに殺人と死体遺棄をそれぞれ担当していた訳だな。そこまでしてこんな事をする意味が分からんが、放っておけないのは変わらん。‥‥が、問題はさらにあってだな」
 ふう、と一息。険しい表情で吐き捨てるように告げる。
「最近、鴨川沿いに死食鬼がうろつくようになった。数は多くない。纏まってもいないので対処もたやすいだろう。問題は、その腹に鉄の棒が刺さっている事だ」
 どう考えても例の事件をまねている。まねているが、死食鬼自体がそれをやったとは考えられない。
「その死食鬼がうろつく付近で別の死体が発見されている。それは奴らの作った屍だが、同時に死食鬼の攻撃の後も見つかった。多分、クリエイトアンデッドで動かした死体を使って死食鬼に鉄の棒を埋め込んだのだろう」
 死食鬼に埋め込んでも、死体に鉄の棒を差したのと大差は無い。あるとすれば、死食鬼は獲物求めて彷徨う事だ。
「例の奴らは相変わらず上手く闇に隠れて犯行を繰り返している。殺されているのは相変わらず誰かに恨みをかっていた様な奴がほとんどだが、そうでない者もいる。便乗した死体も依然続いている。その上で死食鬼は放っておけないが、管轄が違うといえる。勿論、退治してもいいが無理はしなくていい。何なら改めて退治に赴けばいい」
 綱はそれだけ告げると、身を翻し、早々と調査へと赴いた。

●今回の参加者

 ea1966 物部 義護(35歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2630 月代 憐慈(36歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb1630 神木 祥風(32歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 eb3824 備前 響耶(38歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

アド・フィックス(eb1085

●リプレイ本文

 陽光眩しき川原に遊ぶモノ。蝶に花に鳥に虫。
 新緑が出始めた萌える季節。その風情を意に介さず、死体は減らず、どころか死食鬼が湧き出し彷徨い出す。
 ――グルルルル‥‥
 濁った声を上げて、死食鬼は生き物目掛けて突き進む。淀んだ目に腐った肉は死体そのもの。しかし、剥き出した歯は鋭さを見せ、またその動きもただの死人憑きに比べて俊敏。力もこちらの方が上だ。
「事件のお陰で人が寄り付きにくくなっているのはありがたいが‥‥あまり喜びたくも無いな」
 牙を立てて襲ってくる死食鬼に向かい、京都見廻組・物部義護(ea1966)は日本刀・姫切を構えて繰り出す。死者を斬る為に鍛えられた刃は、アンデッドにさらに深い切れ味を見せる。
 とはいえ、アンデッドは元々が死体で在るが故に早々動きを止めない。さらに死食鬼は体が襤褸になろうと、その身が動きを止めるまで変わらず活発に動く。今も腐肉がぱくりと割れようと気にせず、義護を捕まえようと手を伸ばしてくる。
「ちっ!」
 勢い込んで向かってくる死食鬼をとっさに躱す義護。直前で獲物に逃げられた死食鬼はそのまま勢いに乗って踏鞴を踏み、そして、地面を踏み込んだ刹那に雷がその身を撃った。
 効果は一瞬。駆け抜けた雷が死食鬼の身を更に激しく砕くが、それでも何も無かったかのように死食鬼はまた活動を始める。
「やっぱり元気だな。面倒な」
 その様を見て、京都見廻組・月代憐慈(ea2630)は眉根を顰める。死食鬼を放っては置けないが、手にした短刀・月露ではさほどの傷は与えられない。刃物が無理でも魔法を使えばいい訳だが、それでもほとんどが初級ではやはりさしたる傷を与えられはしないようだ。
 それでも、目の前の相手は一体だけ。手間はかかったが、その内に危なげなく対処が終わる。
 あまり見たくも無い肉塊となった相手。五体満足どころか、人としての痕跡を探す事も難しいそれの中に細長い無骨な金属棒を見つける。それは死食鬼の右腹に刺さっていた物だ。
「まったく、何を考えてこんな事をしているのだか」
 手を合わせた後にその棒を拾い上げ、しげしげと見つめる義護。
 犯人達はようやく姿を見せはしたが、その目的などは已然分からず。殺人を犯して妙な痕跡を残していたが、それだけでは飽きたらぬか、うろつく死体にこんな物を差し込んでいたりする。
「近所を少し聞き込んだが、特に情報は無いな。大男は目立ちそうなものだが、他にジャイアントがいない訳でなし‥‥。そもそもあいつら自体が直接動いている保証も無いからな」
 肩を竦めて天を見上げる憐慈。
「そちらも気にはなるが、死食鬼自体も困る。ただでさえ世は物騒なのに、こうもおおっぴらに徘徊されては心象良くない。これからの季節、死体が傷んで妙な流行り病を媒介される恐れもある」
 義護が腐肉をつつけば、小さな虫が蠢いている。自然の巡りとはいえ、こればかりは嬉しいものではない。
「昼の内に早めに見つけるとするか。邪魔な駒を放置しておいてはどんな弊害が出るか分からないからな」
 まだ陽は高く。穏やかな日差しは、死の影など不吉を払うよう。
 そのまま憐慈は視線を周囲にめぐらす。
 今、争ったのは一匹限り。だが、広い河川に死食鬼は散らばり、点在している。一時に大量に接してこないだけで、一体何体の死食鬼が沸いて出ているのか。
「行くか」
 どちらともなくそう言い出すと、歩を進める。
 見通しのいい川原だが、何の拍子で葦や立ち木の陰に隠れているか分からないので油断はならない。そうやって歩く事しばし、次の死食鬼が彷徨っているのを見つける。
 数は一体。そしてその傍に、ふらふらと動く人影が一つ。
「おい!」
 危ないと声をかけ、すぐに様子が変だと分かった。その人影は恐れる事無く死食鬼に向かい、なのに死食鬼はそいつを襲おうとする気配がない。むしろ、声で気付いたかすぐに義護たちの方へと向かってきた。
 人型は死食鬼にぶつかると、後は倒れて動かなくなった。そちらには関心も向けず、死食鬼は牙を鳴らしてこちらに向かってくる。その腹にははっきりと鉄の棒が見て取れる。さきまで確か無かったはずのもの。
「まずはあれが先だな」
「分かっている」
 苦々しく舌打ちしながらも、向かってくる相手を放置する訳にはいかない。急いで義護は姫切を構え、憐慈も詠唱を唱える。
 先の戦闘と同様に無駄なく退治を済ませると、即座に場の検分にかかる。
 死食鬼の腹には鉄の棒。そして、倒れた人型の腹にも同じ物が刺さっていた。
「この刀傷。例の大男の仕業か」
 一刀で斬り捨てた荒々しい傷跡に憐慈は顔を顰める。傷跡は新しい。衣服でそれをうまく隠し、動かしていたのだろう。
 急いで周囲を探ってみるが、やはり奴らの痕跡は見当たらなかった。大きな男を見たという話はいくつか聞けたが、それも人ごみに紛れてしまうと後を追えなかった。

「坊主、巨人族、模倣犯、そして死食鬼。どれも治安を乱す存在だが、二兎追う者はの例もある。見過ごす訳にはいかないが、優先事項は決めておくべきか」
 昼の内は死食鬼退治に精を出してたりもしているが、京都見廻組・備前響耶(eb3824)はやはり先にあった犯人たちの方に標的定めて動いていた。
「これまでの例からして、恨みをかっている人が犠牲になる傾向が強いのですね。それで、犠牲者に恨みを持っていた人物が寺社に駆け込んだりしていないかを調べてみましたが‥‥これが何とも」
 調査報告を纏めながら、神木祥風(eb1630)は難しい顔つきで頭を書く。
「逆恨みだろうが何だろうが、恨んだり妬んだりしている人はいました。そして、その多くが北の山で死体で見付かってます。現在行方知れずの方もいますが、それもおそらくは‥‥。
 その方々が生前に寺社に相談にいったかと言えばこれは微妙で、それらしい気配があったともいえますが多くはありませんし、特定の寺社に集中している訳でもありません。
 ただし、例の二人組以外の仕業と思しき‥‥いわば模倣犯の仕業と思われる周辺を調べると、そういった人たちは例のジーザス会の教会やあるいは関わっている誰かに相談した気配があります。もっとも、こちらも全員と言う訳ではありません。後、そういう人を恨んでた人たちは元気に生きてますね」
 ここで一つ息を吐く。
「犯人もどこかで情報収集をしていると思いますが、その痕跡はつかめませんでした。一体、如何なる目的かは定かでありませんが、縁無き人を殺めた挙句に不死者すら陰謀の小道具に仕立てるとは許されません。何としてもこの陰謀を暴き、犠牲者を慰めたいものです」
「そうだな。いい加減、何を企んでいるのかはっきりさせたい所だ」
 気鬱そうに顔を伏せる祥風に、京都見廻組の渡辺綱も頷く。
「しかし、こうも恨めしい相手が死んでくれるとなると、そろそろどうすれば相手が死んでくれるか噂になりだすんじゃないか?」
「ああ、その噂は聞きました。前は北の山で呪えば〜というのがあったようですね。例の恨んでいた人たちも、それを信じてた、あるいは信じるような所があったようです。もっともこの流言も、北の山に化け物がでると言う事実もあって下火になってきてますが」
 首を傾げる響耶に、祥風は調べてきた事柄を告げる。
「今は困った事があるならジーザス会に御相談を、ですか。実際、そういう悩みを親身になって聞いてくれるので話だけでもと言う人はいます。ただ宗教勧誘の一環としてはよくある事ですので、それだけで怪しいと言えるか疑問です」
 今度は祥風が首を傾げる。
「いずれにせよ。今のままでは拉致があかぬという事か」
 ふと軽く息をつくと、話し合いはここまでと言わんばかりに綱は動き出す。
 昼の内は情報収集やら死食鬼退治などで時間を費やし、夜は夜で情報収集で手にした狙われそうな相手に当たりつけて張り込む。
 昼に動いて、夜も動いてとなると体もかなりきつい。評判が悪い奴らというのは探せばごろごろと出てくる。その上でその誰かに絞り込み張り付いても、必ずかかるという保証も無く、徒労に終わる可能性も高い。だからといって、何もせぬ訳にはいくまい。
 目をつけた人物は、昼は真面目に働いているが、日が暮れると酒場や花街にふらふらとうろつきだす。その後をこっそりと見廻組の面々がつけていた。
「黒の神聖魔法を使うなら、生命力を探知する魔法を使う可能性もある。おいそれとは近づけないな」
 とはいえ、あまり離れすぎると夜の闇に紛れてしまう。
 相手は川原近くを歩いていた。さすがに噂を聞いているのか川の傍まで行こうとしないが、見ている方は気が気でない。場所柄何時襲われるか分からず、はらはらしながら見守っていると、突然悲鳴を聞いた。
 はっと顔を上げる。声は見張っていた相手ではない。だが、あまり遠くは無さそうだ。
「こっちは引き受ける。見てきてくれないか」
 瞬時に、綱が告げる。一つ頷くと、祥風と響耶は声のした方へと走り出す。
 反響や風の向きを考えて彷徨う事しばし、
「あそこだ」
 響耶が川原に倒れている人影を見つける。その上に覆いかぶさるように人影一つ。手にした短刀を倒れた相手に、何度も何度も突き刺している。
「やめろ!」
 その声で、はっと被さっていた人影が顔を上げる。男のようだが、手ぬぐいを頭から被って顔が見づらい。
 駆け寄ろうとすると、相手が慌てたように動く。
「その場を動くな!」
 闇に紛れるような黒い霞が男の身を包む。強く言葉を言い放たれた途端に、走っていた響耶の足が止まる。
「なっ!」
「備前さん!」
 異変を知って、祥風がすぐにホーリーフィールドを展開。だが、男は彼らに構わずやはり慌てたまま隠してあった小舟に乗り込む。
「待ちなさい!」
 流れに乗って遠ざかる相手に、祥風は手にしていた桃の枝を投げる。どうにか届いた枝は男を打った。が、それだけ。
 思わぬ邪魔が入って、不快そうに男は枝を皮へ投げ捨てると、そのまま川を下り逃げ去っていた。
「大丈夫ですか?」
「ああ、問題ない」
 ようやく動くようになった足をさすりながら、響耶は死体に目を向ける。
 短刀で滅多刺しにされた遺体には鉄の棒が脇腹に刺さっている。だが、これが別口の仕業であるのは誰しも分かった。

 目をつけていた男の方には結局異変無く。殺された男は評判のいい男で心から嘆く声がたくさん聞かれた。
「ただ、職場の同僚に例のジーザス会に出入りしている奴がいた。‥‥陰湿で僻みっぽいらしくて、人気がある彼を常から羨んでいたらしく、彼が死んで内心喜んでいるじゃないかと言われているような奴だ。だからと言って殺すまでするかどうかは分からんし、そもそもその時間は同僚と飲んでいたという証言も取れているがな」
 身元の調査を行った綱が報告すると、一つ息を吐く。
「相変わらず、厄介になっているな。さてどうしたものか」
 眉根を顰めて綱が呟く。あいにくただ悩むしかなかった。