傘化け退治

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:05月26日〜05月31日

リプレイ公開日:2007年06月03日

●オープニング

 桜も散り、青葉が眩しく日に輝いたかと思えば、時期に梅雨。
 毎日のように降り続く雨に備え、家を直したり、雨具を新しく買い換えたり。
 そうした準備がある一方で、当然、使えなくなった古い雨具は捨てられたりする。
 あるいは雨に歩くのは面倒と、片隅に放っぽりだしてそのまま忘れ去られてしまったりと。
 それは別に季節に問わずよくある事で。そして、そういった古き物、忘れ去られた物が化けて動きだすのもまたよくある事。

 冒険者ギルドにて。集った冒険者相手に、ギルドの係員が今日も今日とて依頼の説明。
「物が化けるのはよくある話で、傘が化けたのは傘化けと呼ぶ。その傘化けがとある古寺に溜まってきているらしい」
 傘化けは分類すればアンデッドに入る。陰気な物の怪らしく、陰気な場所が好きなのか。荒れ放題の古寺を自由気ままに飛び跳ねているとの事だ。
「古寺は寄り付く者無く、朽ちていくばかり。なので、被害は出てはいない。しかし、いつまでもこの寺に留まっているとは思えない」
 傘化けはアンデッド。生ある者へと近寄り、集団で襲い掛かって殴り殺してしまう危険な妖怪。今も、犠牲が無いのは人気の無い所に集っているからで、これが村の中なら例え一本でも暴れまわって多数の怪我人を出していただろう。
「なので、この寺に留まっている内に、傘化けを始末して欲しい」
 係員はそう告げて、冒険者たちの顔を見渡す。行くかどうかは冒険者の気持ち次第である。

●今回の参加者

 ea1309 仔神 傀竜(35歳・♂・僧侶・人間・華仙教大国)
 eb5452 セイノ(27歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)
 ec2130 ミズホ・ハクオウ(26歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ec2195 本多 文那(24歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ec2494 マアヤ・エンリケ(26歳・♀・ウィザード・人間・イスパニア王国)
 ec2502 結城 弾正(40歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ec2526 ツバメ・クレメント(26歳・♀・ファイター・シフール・ノルマン王国)
 ec2738 メリア・イシュタル(20歳・♀・ファイター・人間・エジプト)

●サポート参加者

クロウ・ブラックフェザー(ea2562)/ ルナマイア・アンジェリケ(eb7106

●リプレイ本文

 古寺に巣食った傘化けたち。それを退治してほしいと依頼が出され、現地を訪れた冒険者は総勢七名。
「傘化けってどんな奴かしらね〜♪」
 不穏な空気も何のその。足取りも軽く、仔神傀竜(ea1309)は噂の寺へ続く道を歩いていく。
「確かジャパン独特のモンスターよね。弓が効くか不安もあるけど、当てればどうにかなるでしょ」
「そうですね。‥‥上手く当てられるか、腕を試す機会ですね」
 似たりよったりの笑みを浮かべて、ミズホ・ハクオウ(ec2130)も足取りに不安は無し。メリア・イシュタル(ec2738)は上品な笑みを見せて、ミズホに大きく頷く。
「アンデッドの傘なんですよね? 父がジャパン好きでこの国の話はいろいろ聞きましたけど、これは初めて聞きます」
 ツバメ・クレメント(ec2526)は皆の歩調に合わせてふらふらと飛びながら、小首を傾げる。
「古い物に怪異が憑くという話がありますが、本当だと言うことなのですね。まだまだ使える物なのに、古いだけで捨てられて無念だったのでしょう。それはそれで可哀想ですが、人様に危害を加えさせる訳には行きませんよ」
「そうですね。この国には、義を見てせざるは勇無きなり、って言葉がありますものね」
 化けた傘を憐れみつつも、近隣への被害を危ぶむセイノ(eb5452)に、ツバメも表情を引き締め奮起する。
「ま、相手が何であれ、あたしはウォーターボムでひたすら攻撃するって感じだしぃ」
「僕は前衛として頑張るね」
 きゃらきゃらと軽く告げるマアヤ・エンリケ(ec2494)に、本多文那(ec2195)も軽く頷いている。
 そうして話している内にも道はどんどん荒れ果て、無くなり。
 そして、うっそうと茂る木々の合い間から、問題の古寺が姿を現した。

 朽ち果てた古寺は、塀も壊れて役目を果たしていない。門も雨風にさらされたせいか崩れ落ちており、痛ましい限り。
 寺はおろか周辺にも住む人は無く、動く物といえば野山の動物ぐらい。‥‥のはずなのに、あきらかにそんなものとは違う調子の音が中から聞こえてくる。
 さすがに息を殺して隙間からそっと中を覗き込めば、草がぼうぼうに生えた境内を古びた傘がとんとんと調子良く跳ね回っている。勿論、誰かが動かしている訳ではない。
 一本足で器用に立ち、ばさりばさりと傘を開いたり閉じたりする。面妖な風景はどこか滑稽にも思えるが、けして笑える相手でもない。
「なるほど。やはり昼夜問わずに動いてるようですね」
「昼の内に来て正解だったわね。逆に出てくれないかと心配だったけど、それは杞憂で済んでよかったわ」
 傘化けを確認した後、天を見上げたセイノに、ミズホもどこかほっとしたように告げる。
 日はまだ高い。生い茂る木々や、寺の雰囲気で陰気な気配が辺りに立ち込めているが、それでも灯りをわざわざ用意する必要はなさそうだ。
 一般的にアンデッド系の妖怪は夜動く印象が強いが、実際の所そうでもなかったりする。昼にすすり泣く幽霊や、朝日を浴びながらうろつく死人憑きなども世の中にはいる。
 傘化けたちも、薄暗いながらも陽光を気にする事無く、寺の中を気ままに跳ね回っていた。
「寺の見取り図は一応聞いてたけど、思った以上に朽ちてるのね。地面も石がごろごろしてるし、夜来たら少し大変だったかも」
 その荒れた境内を見回し、傀竜は少し嘆息付く。理由あって廃寺になったらしいが、僧侶としては少し胸が痛む光景だ。
 手入れの無い寺は荒れ放題で、壁が崩れて建物の中すら見渡せる。その落ちた壁がちょっとした山になってたり、元の庭木も手入れされずに折れた枝が落ちてたりで、暗がりで動くには足元に少々不安がある。
 朔月間近の空に月明かりは望めず、用意してきた灯りだけが頼りになる。相手はどこでどうやって見ているのかも分からないような奴なので、不利になるのは多分こちらばかりだろう。
「周囲は本当に人がいないのね。気を使う必要も無いみたいだし、さっさと供養させてもらいましょうか」
 言って、ミズホは鳴弦の弓に手をかける。

 どこから集まったのか、気ままに笠化けたちは境内を跳ね回っていた。てんでばらばらに動いていた彼らだが、一番手にツバメが飛び込むとその動きがぴたりと揃う。
「傘さん、こちらですよ〜」
 敵の数十体。数の上では冒険者を上回る。いきなり突っ込んで争えば、少々面倒になるかもと、まずはツバメが傘たちを巧みに誘導する。
 シフールの飛翔は、人の足よりも早いが、傘化けはそれにもぴたり追いついてくる。離れすぎず、かと言って追いつかれても勿論いけない。もっとも、追いつかれても傘化け程度に、身軽なツバメを捕らえられる危険は少なかったが。
 ともあれ、ツバメの先導に傘化けたちは一も二も無く飛びついてきた。が、それがいきなりばたばたと倒れる。
「やった、かかりました♪」
 足元に縄を張る簡易な罠だが、頭の無い相手が警戒するはずも無く。跳ねた拍子に飛び越えたのもいたが、倒れた傘化けに躓いてまたこけたりと、彼らは体勢を崩している。
 起き上がろうと足掻く彼らに、そうなる前にと風を裂いて矢が貫いた。
「細くて矢が狙いづらい相手ね。体裁きは鈍そうだから助かったけど」
「そうですか? じゃあ、私はまだ腕を磨かねばなりませんね」
 狙い定めてミズホとメリアが矢を射掛ける。なるべく弱そうな部分を狙い撃とうとミズホはするが、そうすると相手は見切って逃げる。
 メリアは普通に射るが、それでも躱される事がある。手持ちの矢は三本。一本も無駄には出来ぬと、慎重にメリアは矢を番える。
 傘化けたちも甘んじて矢衾になるつもりも無いようで、軌道を読んでとってんぱったんと跳ねながらこちらに向かってきた。
「躱された所でやる事一つだしぃ。あいつら、そんな強いでもないみたいだしねぇ」
 印を組んで詠唱すると、マアヤがウォーターボムで撃ちぬく。高速で打ち出される水の球に打たれて、ばきりと傘の柄が折れる。それでも動きを留めるには至らない。
「はあああ!!」
 そこにすかさず、文那が駆け寄ると霞刀で両断。切れ味鋭く傘は裂かれ、傘化けが倒れて動かなくなった。
「もう引っかかりそうにもないし。後は各個撃破にがんばりますか」
 ツバメも両の手にしっかりと霞小太刀を構えて飛び回る。
「アンデッドの相手は初めてじゃなし、落ち着いていけば何とかなりそうね」
 傀竜が中に飛び込み、錫杖・破戒を振るう。先端に槍先がついた戦闘向けの錫杖は、空を唸ると傘を斬り裂く。ボーダーコリーの慶翁も、珍妙な相手に果敢に吠え立て牙を剥く。
 だが、相手もむざとはやられない。というより、やられても気にする事は無く、生ある者に危害を加えようと取り囲み、襲い掛かる。体当たりするかのように殴られて、傀竜がよろめく。続けざまに殴りかかろうとした傘たちに慶翁が割って入り、その間に傀竜は身を立て直す。
「おっとと。‥‥移動の足は速いですが、所詮傘。身のこなしは固いみたいですねぇ」
 数を頼みに回り込み、傘たちも冒険者らを叩き殺そうとするが、セイノはそれを軽く躱す。お返しとばかりに、コ・ガターナを繰り出すと、骨に刺さりばさりと傘が斬り開かれる。威力と命中が上がる魔法の刀ではあるが、しかし、それでも相手は身軽に避ける事も。
 だが、それもミズホが頃合を見て魔を祓う鳴弦の弓を掻き鳴らせば、途端に相手は動き鈍らせる。それを逃す事も無く、次々と冒険者たちは確実に傘化けたちに得物を振るう。
 結局、さほどの時間をかけず。境内の傘たちはまた元の無機物へと戻っていった。

「あいたたた。思い切りやってくれたなぁ」
 文那が涙目で、体についた青痣を見つめる。殴られた傷はしばらくは取れないだろうが、命に関わる程でもない。一番重傷なのは彼女で、他も軽い傷やあるいは傷無しで済んでいる。
 対し、傘化けらは二つに折られ、傘は破られ。元から古びた傘だったが、もはや実用性は無い。
 その傘を、セノイたちは丁寧に拾い集め一箇所に纏める。
「他に化けそうなのは無さそうね。寺の中には荷物は無いみたいだし」
 他にも変化が出ては大変なのでこの際に、と傀竜も辺りを見回る。それで念の為に拾った物を含めて庭の隅に積み上げると、ミズホが火をつける。
 小さな火はやがて、大きな炎となり、朽ち果てた器物たちを包み込む。
「蝦夷流儀になりますが。弔いの舞を一つ」
 燃え上がる炎を前に、セイノが一差舞う。
 古き物を灰に還しながら、その煙は天に向かうかのようにただ高く、真っ直ぐに伸び上がっていた。