【キの巡り】 ジーザス2

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:7 G 30 C

参加人数:5人

サポート参加人数:1人

冒険期間:06月02日〜06月07日

リプレイ公開日:2007年06月10日

●オープニング

 京の片隅。ボロ小屋を改修して使われているジーザス会の教会がある。
 初老の神父が中心となり、日夜慈善活動に励み、その規模は毎日少しずつ増えていく。
 神の為に熱心な活動を続ける神父に敬愛し、その周辺には信者たちが集い、今ではちょっとした村のようになっていた。
 表向きは何の問題も無い。
 だが、裏に回ると少々気になる報告がこの教会にはあった。
 現在、京の四方で妙な死体が見つかる事件が起きている。同一犯の仕業と思われていた事件だが、年明けより便乗したか別人の手による犯行と思しき痕跡が見つかったのだ。
 そして、その別人と思しき事件をそれまでとは別事件として捜査してみると、殺人事件の被害者を恨んでた人物の周辺、あるいは当人がこの教会に出入りしているという話が浮かび上がった。
 これを受けて冒険者たちが確認に向かえば、神父にはデティクトアンデッドの反応が。
 そこで黒虎部隊が出張り、監視を続けているが、それでも表向きはどこまでも慈愛に満ちた神の家でしかなかった。


 そして、その教会で騒ぎが起こる。


「ふん、これがジーザス会の教会か」
 のどかな昼下がり。神と神父に感謝しながら、今日の仕事に励んでいた信者たちは一斉にその手を止めた。
 見知らぬ誰かが教会を訪ねるのはよくある事。悩みを聞いて貰う為に、時には正体も隠してやってくる事すらある。
 だが、今いる二人はそういった訪問者ではなかった。
 彼らは僧兵だった。武器を携え、屈強な体躯に窮屈そうな袈裟を纏っている。
 しかし、坊主であっても教会を訪ねてはならない理由も無い。もっとも問題となるのは、明らかに彼らが武道派でその威を隠そうとせず、さらにはあからさまに敵意めいた態度を見せている事だ。
「あ、あの。何の御用で‥‥きゃあ!」
 それでも礼はとらねばならないと、女性信者が応対に出る。僧兵たちは笑顔で迎える彼女を一瞥すると、鼻で笑って手を振るった。
 払いのけただけなのだろうが、鍛え方が違う。軽い一振りで彼女はよろめき転倒する。
 その彼女を起こす事はせず。
 のみならず、僧兵たちは手にした武器を振り上げると、辺り構わず叩き壊し始めた。
 驚き逃げる信者の叫びに、慌てて教会の中から神父が飛んで出てきた。
「何事ですか!? 聖職者の方といえどもこの狼藉は許しませんよ!」
「はん! 許さぬだと! お前たちの所業を棚に上げてよくもそんな口が聞けたものだな!」
 だが、神父の言葉も聞く耳ない様子。逆に意を得たりとばかりに、口端をあげて僧兵たちは笑う。
「いいか! 皆聞け! この神父は人殺しだ!」
 声高々に叫ぶ僧兵の言葉に、さすがの信者たちも息を飲む。
「知らぬとは言わせぬぞ! 方々で妙な事件が起きているが、あれはお前らの仕業なのだろう。被害者に恨みを持つ者に近寄り、彼らの代わりに邪魔者を消す。直接お前と被害者に接点は無いから安全と思ったのだろうが、天は悪事を見過ごさねぇって訳だ!」
「しかもだ。東は鴨川で腹に鉄を刺し、西は街道で胸を焼き、南は巨椋池で心臓を抜き、北の山では腹に土を詰め込み埋める。これは都を呪う腹なのだろう。何が神の使いだ! 貴様のような外法者に京をうろついて欲しくなど無いわ!! 即刻去ねぃ」
 口上終えるや、即座に僧兵二人は教会を壊しにかかる。歓迎の花々は手折られ、茶器や祈りの道具などが片っ端から叩き壊されていく。
 信者たちが泣いてやめろと取り押さえる手を振り払い、蹴散らし、僧兵たちは己の力の誇示していく。
 その様を、黙って見ていた神父だったが、ふと息を吐くと暴れる僧兵たちへと近寄る。
 危ないと周囲が止める間もなく。神父は武器を振るう僧兵の腕を片腕で止めると、開いた片手をその腹へと叩き込む。
「が!!」
 不意を突かれた事もあり、あっさり僧兵がくの字に折れる。緩んだ手からその武器を取り上げると、次の動作でその柄をもう一人の腹に叩き込む。
「偉大なる我らが父は、現状を打破する力を尊ばれました。しかし、暴力はいけません。
 そもそも、その話。そこまで言うからには私が手を出したという証拠はあるのでしょうね。あるのでしたら、さっそく見せていただけませんか?」
 見た目普通の老人である神父に手を出され呆然としていた僧兵たち。続けて厳しく問いただされ、さらに激しく動揺する。
「証拠‥‥証拠ってたってなぁ‥‥」
「ああ。流れの坊主がそうに違いないと‥‥。ああ、確かに証拠は無いが状況から見て間違いなど!」
「黙りなさい! そんな与太話で、信者たちを傷つけるとは! 聞く暇があるなら、もっと世に苦しむ者たちの悩みを聞いてあげなさい!!」
 神父の恫喝に僧兵たちが縮み上がる。加えて、落ち着きを取り戻した信者たちも神父の加勢をせんと剣呑な目つきで僧兵たちを睨みつけている。
 ここで再度暴れれば、僧兵たちの方が排斥されるだろう。
「ふん、貴様ら! 覚えてろ! そんな異教に耳を貸すなど地獄に落ちるだろうよ」
 分が悪いと判断すると、捨て台詞を吐いて、僧兵たちは逃げていく。
「神父様、お怪我は?」
「大丈夫です。まったく布教をしていると、必ずああいう愚か者が出てくる。余計な力など使いたくは無いのですがね」
 心配する信者たちに微笑みかける神父だが、その表情がふと翳る。
「しかし、あの者たちがこれで退いてくれるかどうか。‥‥いざとなったら、後はよろしくお願いします」
「はい。我らは神父様に救われた身。必ずや恩に報いてみせます」
 周囲にいた信者たちが一斉に恭しく頭を下げる。神父はその様を見ると、満足そうに微笑んだ。


「畜生、何だあの神父。爺ぃの分際で腕が立ちやがる」
「証拠証拠と異教徒が。巧妙に隠した上で知らぬ存ぜぬを決め込み、逃げる腹か」
 教会より遠ざかって。彼らの耳に入りっこない距離で、僧兵たちは散々喚き散らす。
「このまま虚仮にされて溜まるか。ジーザスをおもしろくねぇって奴は他にもいるんだ。あいつらにも話せば、きっと協力してくれる」
「ああ、あんな胡乱な奴らを野放しになどしておれるか。神仏をないがしろにすると罰が下るという事をとくと知らしめねばな」
 鼻息も荒く、僧兵二人は早々と思う先へと走っていった。


 そして。
 再度述べれば、この教会は黒虎部隊が監視を続けている。
 つまり、この状況もしっかり目撃されていた。
「この僧兵たち。ジーザス会の活動を快く思わぬ他の僧兵たちを集め、もう一度この教会に乗り込むつもりらしい」
 この教会が事件と関係を見せるのは確か。だが、あくまで事件周辺に信者がいるというだけであって、その信者と直接事件を結びつける証拠は無い。
 が、血気にはやる僧兵たちにしてみれば、そんな些細な事でもジーザス排斥の口実にしたいのだ。
「これを機に教会が襤褸を出す可能性がある。逆に何でも無いなら、ただ被害があるばかりだ。いずれにせよ、何らかの対処をとっても手が足らないので手伝って欲しいと黒虎から依頼が来た」
 黒虎隊士たちは四名。相変わらず意見の不一致で纏まらず、その為方針は任せるとの事だ。

●今回の参加者

 ea1545 アンジェリーヌ・ピアーズ(21歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 ea4295 アラン・ハリファックス(40歳・♂・侍・人間・神聖ローマ帝国)
 ea6354 小坂部 太吾(41歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea9455 カンタータ・ドレッドノート(19歳・♀・バード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb1422 ベアータ・レジーネス(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)

●サポート参加者

白翼寺 涼哉(ea9502

●リプレイ本文

「近頃はジーザス会の悪い噂が絶えませんね。信仰を同じくする身としては困ったものです。異なる信仰でも僧兵方の動きを見過ごす事もできませんが」
 日本を救う為に来日したジーザス会。馴染みの無い者たちが大量にやってきて聞きなれぬ話をあちこちでするのだ。騒動が起きるのはむしろ当然。人の心や生活習慣などにも絡んでくると、さらに面倒に拍車がかかる。
 当然ではあっても、騒動はやはり避けたい。今回の事態を憂えてアンジェリーヌ・ピアーズ(ea1545)は聖印をきって静かに祈る。
「神にすがって信仰する前に、自分を信仰しなければ意味がないと気付かんか‥‥。まぁ、それにつけこむのが宗教の常だが」
 軽く肩を竦めるアラン・ハリファックス(ea4295)。
 それでも僧兵の行動は、既存宗教との摩擦として厄介だが納得も出来る。が、それだけでは済まされそうにない事態も今回の件には含まれている。
「ジーザス会の方も妙な動きがあるそうだな。僧兵たちの話もあながち嘘とは言い切れない。実際、西の方で殺人事件にからんでいる信者が居るって話だしな」
 前々から西方での事件に関わっている白翼寺涼哉に詳しい話を聞いてある。いろいろ話を纏めると確かにあの教会は怪しすぎた。が、推測だと言われるとそれまでだ。
 ついでにその西の事件は彼に頼んで僧兵にも話をしてもらっている。向こうはそんな推測云々など関係なく動くだろう。
「僧兵たちの行動は行き過ぎてますが、胡散臭い連中を排除する為と考えれば合点がいかなくもありません。納得はしませんけどね。問題はそれにつけこみ動いてる気配がある事ですね」
 アンジェリーヌに無言で問われ、カンタータ・ドレッドノート(ea9455)も察して頷く。
「アンジェリーヌさんと一緒に、黒虎の方にもお一人付いてきてもらって、彼らにジーザス会の話をしたという流れの僧を探してみたのです。が、足取りがさっぱり。あの僧兵たちがジーザス会を快く思ってないのは前々から公言しており、その彼らに偶然を装って僧侶の方から接触した節が見受けられます」
 フードを目深に被り直しながら、背筋正しくカンタータは調査結果を述べる。
「とりあえず目撃した人の話では、年はまだ若かったそうです。人辺りはよかったそうですが、妙にへらへらしていて愛想ぶった変な奴だという印象を持ったという話です。とりあえず人相書きは描いてもらいましたけど」
 言って、墨で書かれた似顔絵を広げる。ありきたりの僧服に短い髪。よくいるといえば、よくいる顔だ。
 その絵をじっくりと穴が開くようにベアータ・レジーネス(eb1422)は見つめる。何事かを思案して、やがてゆっくりと顔を上げた。
「この騒動が仕組まれたものなら‥‥、あの神父が意図したものと思うのは考えすぎでしょうか」
 ぴたりと周囲の動きが止まる。笑って否定するには、不定要素が多すぎた。
「改めて訪ねるが。僧兵に対しては相手の出方次第。武力行使も構わず、捕縛優先だが周囲の人命第一に考えていいんだな?」
 アランの問いかけに、黒虎隊士が頷く。
「ああ。僧兵との諍いははっきり言えばこちらの管轄外。なので度が過ぎるなら捕縛して然るべき所できちんと対処してもらうようにするのが筋だろう。これは僧兵限らず、人相手ならなるべくそうして欲しい」
 言葉の言い回しが微妙に含みを帯びる。人相手という事は人外ならば考慮すべきでないし、対処できないようなら破ってもかまわないという事だ。
「僧兵たちに関してはまずは小坂部さんに任せてますが‥‥教会側はどう出るのでしょうね」
 カンタータが目を向けると、そこからは例の教会が見えた。
 遠目から見守る分には長閑な普通の教会でしかない。これから起こる事態でどう転ぶか。思惑通りに行く事を今は祈るのみだった。

「仏門にいる者が、武に訴えるのは穏やかじゃないの。法と徳を説くのが仏法僧ではないかの? 少なくとも一般信者に手をあげるべきではないと思うが?」
「世を混乱に貶める天魔を折伏するのが我らの勤め。かような悪党に加担する者もまた罪深く、罰を下すが必定ではないか」
「いや、しかしじゃの‥‥」
 ジーザス会に乗り込もうとした僧兵七名。彼らとの接触に成功し、交渉する小坂部太吾(ea6354)だが、相手の頭も相当固い。
 それでも何とか説得を続け、まず太吾が神父と問答する事は了承してくれた。教会に乗り込む事を止められた訳でなく、志士と無用な揉め事を起こすのもまた面倒との打算だろうが。
 八名足を揃えて教会へと向かう。了承はしても、鼻息は荒く。そんな僧兵たちに不安はあれど、それ以上に教会側の対応もまた不安があった。
『念の為、いざとなれば防戦するよう言うてあるが、さて聞く耳あるか』
 神父が強いのは分かったが、今回は数で充分勝る。負ける事はないと考えているのが傍で見てて簡単に知れた。
 そちらの対処はさておいて、インフラビジョンを唱えて教会を見つめる。教会に従事する信者に、周囲で活動する信者、出入りする人々など合わせてざっと数十名はいる。
 外で活動していた信者に声をかけると、信者に呼ばれて奥から神父が出てきた。インフラビジョンにはきちんと反応がある。
「今日はどのような御用件でしょう」
 穏やかな笑みを浮かべて、神父は太吾を持て成す。人当たりのいい微笑は、まさしく慈愛に満ちている。
「実は以前に、村人たちに無理強いして、信者の獲得をしようとした事件があったのでのぅ。こちらの信者の勧誘はどのように行っているかをお伺いした‥‥」
「無理強いなんてとんでもない!!」
 言葉の半ばで口を挟んだのは傍で様子を見ていた信者たち。問いかけた太吾に詰め寄り、口々に言い合う。
「姑のいびりに毎日泣いていた私を、神父さまは励まして下さってたんですよ」
「路頭で迷い、死ぬか押し入るかって思いつめた時に、生きる道を辛抱強く諭して下さった上、こちらに招いて下さって‥‥」
「心貧しい者が道を外さぬように、熱心に道を説いていらっしゃる」
「ああ、雨だろうと風が吹こうと病気になった人には見舞いに来てくれる」
「ここも生活は苦しいのに、自分よりも私たちを優先して食料は配ってくださるし」
 疑うなどとんでもないとばかりに、信者たちは一斉に説明している。正直、こうも一度に言われては何が何やらだ。押されて弱っている太吾に、困ったように笑って神父は信者たちを宥める。
「私は出来る事をやるのみですが‥‥。そんな困った方がいるとは驚きです。神に仕えるのは身も心も捧げる者でなくてはいけません。そんな心の篭らない信者を何人集めようと、意味など無いというのに‥‥」
 落胆する神父の気持ちを慮り、周囲も熱情を納めて憂えている。静まり返った教会内で、いささか居心地悪そうに太吾は一つ咳払い。
「時に話は変わるがの。やはり以前に、ジーザスの司祭に化けた魔物の討伐に来た騎士殿がいらっしゃっての。曰く、まだ魔物がいると申されるので、申し訳ないが騎士殿に会ってもらえるかのぅ」
 言って、外に合図を送る。
 唐突な話にきょとんとしていた教会側だが、乗り込んできた僧兵たちに顔色を変え、さらにその中に先日見た顔を見つけて身を強張らせた。
「とても騎士様には見えませんね」
「悪党を成敗するのは誰でもいいだろう! あれからまたとんでもない話を聞いたぞ。西で妙な焼死体を作ってるそうだが、そのせいで鬼火が暴れるようになっているとか。被害も甚大ならず、人々は苦しんでいる!」
「ですから。人を非難なさるならそれ相応の証拠を」
「じゃかあしい! 万人に迷惑をかけている今に悠長なことなどできるか! 即刻この神聖なる都より出て行けいぃ」
 言うが早いか、一人の僧兵がディストロイを繰り出す。黒い光は置かれていた小道具を粉砕し、信者が悲鳴を上げる。
 壁を打ち壊し、置かれていた調度品を叩き壊す。神父は数人で取り囲み、手にした得物で袋叩き。信者たちも黙っておらず、涙ながらに訴え行動を制しようと組み付くが、こちらは数人がかりで押さえつけようとしても振り払われる。
「止めてください! 私たちが何をしたというのです!!」
「うるさい! 邪魔だ!!」
 手当たり次第に壊していた僧兵の腕に男がしがみつくが、あっという間に振り払われる。転倒した男に向けて、僧兵は魔法を詠唱しようとしたが、その半ばでぎょっとしたように喉元を押さえる。
「おい、どうした」
 仲間の異変に気付いて別の僧兵が駆け寄ろうとしたが、その動きが半ばで固まり、止まる。
「か弱い者相手に魔法を使うのはいけませんよ。詠唱は一時取りやめてもらいます」
「コアギュレイトが効いてよかったですわ。命のやり取りはしたくありませんから」
 サイレンスの効果を確かめた後、僧兵たちに怒るベアータに、ほっと胸を撫で下ろすアンジェリーヌ。
「ああ、畜生。どうなってんだよぉおお」
 別の場所では、がくりと僧兵が唐突に目線はあらぬほうを向きこの世を見ていない。
「ま、ダメージは避けるべきですから、こんなものでしょう。メロディーだと味方にも被りかねませんしねぇ」
 カンタータのイリュージョン。送り込んだ相手が暴れるのを辞めたので、ひょいと肩を竦める。
「何だ! てめぇらは?」
「黒虎部隊だ。世を守る身としてはかような狼藉は見過ごせぬ。おとなしくしてもらおうか」
 違う顔が教会にあるのに気付き、僧兵たちが声を上げる。それに静かに名乗ると黒虎隊士たちも捕縛にかかる。
「さて、ジャパンの坊主の腕前も見ておくとしようか。来い!」
「っざけんなぁ!!」
 アランに手招かれ、僧兵の一人が六尺棒を掲げる。
 棒は、唸りを上げて振り下ろされ。しかし、アランは手にした修羅の槍でそれを受け止める。派手な音が辺りに響き、それを聞く前に素早く棒を捌く。
「残念だったな。もう少し修行して来い」
 くるりと槍が回ると、柄の部分で撃ちかかる。避ける間もなく、僧兵の身にその一撃は重く入った。


 僧兵たちをひとまず縄で括りつけ、ついでに教会をなじり続けるその口に猿轡をする。彼らを連行するのは後にして、やるべき事をまずやってしまう。
「神父様の姿が見えませんね。それに信者さんたちもずいぶん減っています。どこからどこに行ったのでしょう?」
 教会側の面子が、若い男性ぐらいしか残っていない事には誰もが気付いていた。女性や子供、年寄りがあの乱闘騒ぎに逃げるのは当然だが、では彼らはどこにいったのか。
 負傷者の手当てをしながら問いかけるアンジェリーヌに、信者たちは渋るばかり。それでも、黒虎隊士から隠し扉と地下の存在を指摘されて、観念して奥の部屋へと案内をする。
「隠し通路です。前々から、逃げて来た人を追ってきて暴れた挙句に無理やり連れ帰ろうとする人が少なくなくて。小さな教会ですから、中で隠れているよりもこっそり外に逃げる方が安全だろうと作ったんです。けっしてやましい事情で作ったものではありません!」
 床板をはがして出てきた穴は人が屈んで通れるくらいだが、その先はずいぶん遠くまで伸びていそうだ。
「そうですか‥‥。では、この先に神父さまは今いらっしゃるのですね?」
 穴を覗き込みながらベアータが問いかける。すると、さらに困ったように信者たちがうろたえた。
「実は‥‥。自分の行動がいらぬ騒動を招いているのだから、ほとぼりが冷めるまで神父さまは少し身を隠すおつもりだそうです。後の事は私たちに任せ、自分はその間によりよい手段を考えてみると‥‥」
 目立つ頭が消えれば、興味も薄れるかもしれない。会としての活動はそこいらで行われているものの、目先の標的がなくなれば少なくともここいら周辺の者たちの気持ちも少し落ち着き、新たな打開策が見付かるだろう。そう考えての行動らしい。
 信者たちの苦労をねぎらい、僧兵たちを京都見廻組に渡し、一息つく名も無く一同はまた集まる。
「黒虎隊士のミラーオブトルースでは神父に反応を見たそうです。私のリヴィールマジックでは特に変わった物は見付かりませんでした‥‥」
 ベアータが告げるがその歯切れは悪い。ちらりと目を向けると、アンジェリーヌが言葉を続ける。
「乗り込む際にデティクトアンデッドを使わせてもらいましたが、話に聞いた通り反応がありました。それでベアータさんにも確かめてもらったのですが」
「惑いのしゃれこうべの効果範囲はアンジェリーヌさんの魔法の倍です。にもかかわらず、反応は全くありませんでした」
 取り出したるは古びた髑髏。不気味な持ち物だが、それも立派な魔法の道具。
「デティクトアンデッドでかかるのはデビル、アンデット、ゴーレム。でも、見る限りゴーレムではなさそうです。そして、惑いのしゃれこうべで分かるのはアンデッドのみ」
 だが、その反応は無かった。ならば後は一つだけ。
「インフラビジョンにかかってますが、デビルの変身能力は人間そっくりに化けられるらしいです。それに、単純に憑依しているという可能性も」
 困惑しきりにアンジェリーヌが告げる。
「いずれにせよ、肝心の神父が消えたままではどうにもならんか。このままどこかに逃げておとなしくしてくれたらいいんだがな」
 険しい目線でアランは教会の方を見つめる。粗末な神の家は、騒動を終えて今は静かに祈る者が暮らすのみ。