【キの巡り】 南の五
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■ショートシナリオ
担当:からた狐
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:5 G 32 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月01日〜06月10日
リプレイ公開日:2007年06月09日
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●オープニング
京都南方、巨椋池。蓮が群れ、広大に広がるその池は、周辺住民の水上での交通要素となる他、流れる川を使って他地域との交流も行われている。
その池で、奇妙な死体が見付かったのは昨年の秋頃。心臓を抉り取られた上で池に放り込まれ、明らかに他殺と分かる特徴を持っていた。
ただちに京都見廻組が調査を行った所、犯行を行っていた河童と遭遇。それからもあわやの所で逃げられるという苦い思いを繰り返し、先日ようやく捕らえるに至った。
「捕らえたといっても、寸前で舌を切った状態で氷漬け。直接事情聴取はできないんだけどねぇ」
うーむと眉間に皺を寄せて悩むのは京都見廻組の坂田金時。
リシーブメモリーに反応があった以上、生きているのは確かだが、瀕死状態なのは違いない。解凍すれば程なく死ぬだろう。
とりあえず、今で分かったのは河童の名は渡島。あちこちで悪さを繰り返していた根っからの悪党で、その地域へ照会を入れてみれば、確かにそれらしき痕跡は見付かった。
風来坊を気取って定住せず、気ままに世を渡り歩く。
その彼に、今回の事件を提案して誘いいれた者がおり、彼は単に面白そうだとそれに乗った。
誘ったその人物は、茨木童子と言った。美しい女性の姿はしているが、正体は鬼。酒呑童子の片腕とも言われる程の実力を持ち、主に大坂を中心に暴れているらしい。
「まぁ、そんな訳で今回の事件の発端は茨木童子みたい。それからも陰陽寮にお願いして記憶を探ってもらったけど。他の事件もやっぱりあいつが手を引いてるみたい。だけど、詳しい事は河童は知らされてないみたい」
渡島の役割はただ南の池で事件を起こす事、ただそれだけ。それ以外の情報は肝心の茨木自身のそれも含めてほとんど持っていないようだ。
「ただし、茨木の子供たちについては酷く気にかけてた」
子供と言っても、彼女自身の子ではない。行き場を失い彷徨ったり、時には押し入った先から手に入れた人間の子供らを長い間に少しずつ集め、手駒の為に飼い慣らしているのだという。
彼らは鬼たちと共に過ごし、同じ価値観を植えつけられる。欲しい物は奪い、侮る者は殺し、弱い者は喰らう。そうして育った彼らは、恐怖か思慕かはそれぞれながら、育ててくれた茨木の為の手足になる。
後になって出てきた少年もその一人らしい。
それでも。所詮は非力な人間。捨て駒なのは分かっていた。子供を捨て駒扱いするのはさすがに渡島も気が引けたらしく、彼を何とか事件に関わらせまいと躍起になった結果が事件で見られた不可解な行動。
「記憶に残ってた拠点らしき場所も行ってみたけど、お引越しの後だった」
おそらく捕まると同時に撤退したのだろう。大坂の山の中にあった廃村を利用したらしいそこはもぬけの殻だった。ただ鬼たちが生活していただろう痕跡は見ることが出来た。
「こうして河童は捕まった訳だけど。事件はまだ続いているんだよね〜」
先に池で死霊が出た事があったが、あれがまた起こり出していた。今度の死霊たちは水面から手を伸ばして舟を沈めたり乗っている者を引き込む。そうして、水底へと連れ込み溺れさせた上で、生命を抜き取り死亡させるまで付きまとう。
その息絶えた死体を、どこからか現れるのか巨大な蛙が連れ去っていく。しばらくすると、心臓がくりぬかれた状態で池に浮かぶ。
「明らかに死霊を利用して、少年が後を継いだんだろうね。そして、もう一つ。実はこういう手紙が来てる」
弱った顔をして金時がくちゃくちゃの紙を取り出す。
『先日、巨椋池で氷付けにした河童の首を刎ね、その体を池に捨てよ。その際、心臓は抜かれたし。聞き遂げぬ場合、犠牲はさらに増えるだろう』
「持って来たのは通りすがりの女の子。顔を隠したお姉さんから頼まれたってさ」
河童は、瀕死だがまだ生きてはいる。が、死んだも同然ではある。このままにしておくべきか、それともそれなりの処罰を下すべきか‥‥。
「そしてもう一つ。年明けから起きてる便乗事件の方は相変わらず続いている。‥‥それとも、便乗と見せかけた複数犯なのかなぁ‥‥」
首を貸しげる金時。
ともあれ、状況はゆっくりと動いていた。
●リプレイ本文
「さあて、ずいぶんと面倒になってるじゃないか」
顔をあわせて御挨拶。気軽な振る舞いのその裏で、深刻な現状を憂えた険しい眼を六条桜華(eb5751)は向ける。
収まる気配の無い奇妙な殺人事件。その裏には、よりにもよって鬼の姿が垣間見える。
「茨木童子とはまた懐かしい名を聞いたのぅ‥‥。銀次郎が京に居れんようになったのは奴が妙な手を回したせいに違いない! 今度こそ、しっかり尻尾を捕まえてやるのじゃ!」
「茨木のせいで居られなくなった‥‥という事は、茨木を捕まえたら、銀とまた京で暮らせる!? ようし、がんばるぞ!!」
「何かそれだけ聞いてっと、私事だけに聞こえるべな。そういうもんだべか?」
気合充分、決意を表すのは京都見廻組のバーバラ・ミュー(eb1932)と同じく坂田金時。鼻息荒く、拳を固める二人に郷地馬子(ea6357)が少し首を傾げる。
「勿論、仕事としてもきちんと動くわよ。それにしても背後関係が見えては来たけど、先は長そうね。便乗犯の方はさっぱりだし」
手にした人相書きを見つめながら、京都見廻組の皆本清音(eb4605)が一息つく。
陰陽寮に何とか協力してもらって、リシーブメモリーで捕まえた渡島の記憶を元に、子供らの人相書きを作ってもらったが。そも限られた字数から特徴を掴むのは難しく、出来栄えはあまりよろしくない。手がかりになりえるかは疑問が残る。
「手がかりとしてはその捕まえた渡島って河童ぐらいか‥‥。そういや、何か手紙が来てたんだって? 文面も物騒だし、それを実行するのは面白かないね。‥‥てか、するつもりもないんだろう?」
「まぁね。気のいい話じゃないしぃー。何か利があるならまぁって感じだけどねぇ〜〜」
桜華が問うと、金時が珍しく顔を顰める。
「言う通りにしても、ハッキリ止めるとは書いておらんでの。むしろ、いろいろ失いかねん。渡島の言葉も気になるし。まったく、直接聞ければいいのじゃが」
思考を巡らし、バーバラが唸る。
アイスコフィンで固められた渡島にテレパシーは通じない。氷を溶かせば即死が予想できる状態なので、迂闊に解凍も出来ない。交渉が可能ならいろいろうつべき手も増えようものだが、難しいのが現状である。
「便乗犯とか色々ややこしいけど。とにかく今はその少年を捕まえる事を考えなければならないようね。黒吉、頑張って頂戴ね」
清音の傍らのんびり伏せていたダッケルが、名前を呼ばれてすっくと立ち上がる。日本犬と比べると珍妙な姿をしているが、狩猟の腕はなかなか。緊迫した雰囲気を察してか、自身も任せろとばかりに胸を張って尻尾を振っている。
そうして装備を整えると、一同はいつもの現場へと足を運んだ。
巨椋池は今日も普段通り。不穏な話に恐々としながらも、それでも生活せねばならない人たちが行きかう。
「子供らに対する話は聞けないわね。この人相書きは当てにしないにしても、あの少年についても無い辺り、やっぱり周囲を警戒して行動はしているのね」
池の周辺。聞き込んだ成果は相変わらず良好といえない。
大蝦蟇の動きは、さすがにあの巨体。ある程度は分かる。が、そちらに目が行く為に、影に隠れて操る少年の姿は目に止まらない。便乗犯の方は、前後に不信な姿が目撃される例もある。その都度ごとに目撃例が違うので単独犯ではないのが分かるが、これは死体の切り口から見ても推測はついていた。
「ただ、大蝦蟇が出てる時に付近に怪しい舟があったという話は聞かなんだし、少年は岸におるんで間違いないじゃろ。後の事、頼んだぞ」
「分かった、そっちも気をつけて」
陸と池。二手に分かれての操作。慣れた手つきで舟を漕ぎ出すバーバラの側には馬子と金時。それを見送るのは清音と桜華。
舟は順調に滑り出し、程なく池の中ほどへ。緊張して待つまでも無く、バーバラの漕いでいた竿にするりと手が巻きつく。
「来たようじゃぞい。必要ならそのレイピアを使えい!」
「そいじゃま、ありがたくね」
舟に転がったホーリーレイピアを金時は拾い上げると、舟に群がる霊たちを薙ぎ払う。朧に浮かぶその数は十。表情どころか輪郭すら危うい姿で、それでも無心に手を伸ばし池へと引き摺りこもうとする。
「維新組地の志士・郷地馬子、参るべ! おめさんら、さっさと成仏してぐれ!」
ストーンアーマーを纏い、馬子はグラビティーキャノンを向けて放つ。黒い帯のように伸びる重力波。直線にいた敵が次々と打ち抜かれ、霊たちの姿が揺らぐ。だが、消滅までには程遠く、代わらぬ執着で舟へと纏わりついてくる。
そこに風を切り裂き、矢が届いた。見た目普通の矢だが、それは間違いなく霊を射抜いて大きくその姿を削る。
撃ったのは岸から桜華。引き絞るソウルクラッシュボウは、番えた矢にしばし魔法効果を与えるだけでなく、アンデッドに対してはさらに強い効果を与える。彼女の矢は確実に、霊たちに効いていた。
金時がホーリーレイピアを振るい傷はリカバーですぐに癒す。馬子は遠くは魔法で一気に纏めて撃ち抜き、近付かれたらシルバーナイフを振りかざし、霊たちを牽制している。桜華の矢に当たり次々消滅していく霊だが、すでに死んだ身には脅威とも感じる感覚も無いらしい。
「おぬしら! この世に留まらず成仏なり昇天なりせんかっ!」
数を減らしながらも、代わらず纏わり続ける霊たちから優位に立てるようバーバラは巧みに舟を操る。狭い船上、戦闘でも派手に動けぬ分、彼女の舵取りも重要だった。
水辺の奮戦を少年は黙って見ていた。漁師の使う小屋だろうか、その隠れて食い入るように、されど何の表情も底には無い。
その足元で、盛大に犬が吠え立てた。びくりと震えると同時に、ようやく少年の顔に驚きと言う表情が浮かび上がる。
「見つけたわよ。おとなしくして頂戴ね」
「ちゃんと隠れたつもりでも無駄だよ。体温は消せない」
清音と一時戦闘離脱した桜華が少年に向けて構えてみせる。それを見て、拗ねたように少年は口を尖らせる。
「おっちゃん、捨てに来たんじゃないのかよ」
「あの河童ならまだ生きている。怪しい手紙の通りにするつもりは無いよ」
逃げられないよう緊張しながら向き合い、慎重に言葉を紡ぐ。
「河童――渡島はいずれ裁かれて死罪になるだろう。けれど、その行動が君らを人質として茨木童子という鬼に強要されたものだと証明出来れば、温情が下りる可能性もある。
だから、私たちに協力してもらえないか? あの鬼は君らの命を使い捨てにするのも厭わんらしいし」
「はぁ? おっちゃんは負けたんだから死んで当たり前だろ? 何言ってんの?」
桜華が説得するが、少年は至極訳が分からないと言いたげに目を丸くして呆れている。視線は蔑み、憐れむような馬鹿にしているような。
その態度に、逆に二人の方が戸惑いを隠せない。
「寄ってたかっておっちゃん追い回して捕まえて。なのに、おっちゃん殺さずに生かしてるの? おっちゃん、自分で死のうとすらしてたのに? 訳わかんねぇ、あんたら気持ち悪い」
嫌悪も露に、少年は顔が歪む。
「弱い奴は死ぬし、負けた奴は喰われる。んな事当然だろ。おっちゃんはいろんな話してくれてすんげえおもしろかったし楽しかったけど、しょうがねぇじゃん。負けたんだから」
あっけらかんとした言葉。渡島に対して何らかの思い入れは確かにあるようだが、同時にその命を敢えて救おうという気は微塵も感じられない。
「それにおっちゃんよりも、母ちゃんの方が怖いし。いい子じゃないと喰われて死ぬだけだし!」
不意に少年が目を険しくすると、その手から小刀が飛んだ。
「くっ!」
顔目掛けて飛んできたそれを清音は躱す。その隙に、少年はその場から走り出していた。
「炎蹄!」
桜華が戦闘馬を呼び、その背に騎乗する。力強い走りであっという間に少年の前方に回りこんだが、
「蝦蟇!」
回りこまれて立ち止まった少年が印を組み、詠唱する。
どろんと煙と共に現れたのは巨大な蝦蟇。池にも出なかったそれが、陸上でいきなり飛び跳ねた。
「回避してっ!」
手綱を捌いて、飛んできた大蝦蟇を躱す桜華。その成果を確かめる事無く、地面に着くやまた大蝦蟇は飛び跳ねる。
動きは実に適当で大雑把。であるが故に、巨体が予想もつかぬ方に動き危険極まりない。
しばしの間、大蝦蟇は跳ねに跳ねまくって周囲で暴れまわり、唐突にその姿が消える。その頃には、少年の姿もそこから消え去っていた。
「死体が出んかったんで回収に動かしもしなかったんじゃろうなぁ。こっちで見なかったんで、気にはなってたんじゃが‥‥」
舟を岸につけ、話を聞く一同。バーバラが口惜しそうに用意していた呼子笛を握り締め、舌を鳴らす。
「まぁ、霊たちの方は粗方討伐できたべ。これで当分は動きも減るんじゃなかっぺか?」
「とはいえ、こないだあってやっつけて今回あってやっつけて‥‥。二度ある事はの可能性もあるから、気は抜けにゃいよね」
静かになった池に目を向け目を細める馬子に、不安そうに金時は天を見つめている。
「犯行の方も収まりそうにないし、気軽に使える手足を奪ってしまえば茨木もそう簡単に動けないんだろうけど。あの子を説得するのは大変かもね」
「確かに。何というか‥‥根本的な所で考え方にズレがある感じがする」
清音が告げると、桜華もまた頷く。
会話が出来ない訳ではない。が、考えが異なるので話が通じない。傍らで寛ぐ黒吉や炎蹄の方が、まだこちらの意を組んでくれそうだ。
「茨木の子供かぁ‥‥。お子ちゃまなんて嫌いだぁああああー!」
なにやら悩んで唸っていた金時。急に駄々こねて転がり出す。別にお子ちゃまじゃなくても難儀なものは難儀。ふとそんな想いが一同の脳裏を掠めた。