【キの巡り】 西の五
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■ショートシナリオ
担当:からた狐
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:8 G 76 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月03日〜06月10日
リプレイ公開日:2007年06月12日
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●オープニング
京都西方。山陽道・山陰道と西の諸国に出向く重要な街道が走る。
人が多ければ物取り目的の賊や妙な取引などが悪事の出入りも多くなるのだが、昨年秋より街道を荒らしているのはそれとはまた少し違う。
行きかう旅人を狙う殺人事件。不可解な事に、殺害した上で遺体の胸を焼いていた。
最初は賊の仕業とされ、犯人たちは京都見廻組が捕縛した。が、捕らえた賊たちもまた誰かに頼まれた上での犯行。
その話を持ち込んだという紫頭巾の女は、賊が捕まった後は自ら犯行を繰り返し、死体を増やしている。一度接触を果たしたがからくも逃げられている。
そうこうする内に、年明けよりその女以外の手による犯行も目につき始める。それと関係在るのか、三角関係のもつれから女が殺人を企て、その友人が犯行を隠すべく遺体を偽装しようとした。犯人である女も自首しておとなしく裁きを受け、友人も反省の色を見せて落着してはいる。
便乗したと思しき事件は、被害者周辺を調べると、彼らを恨んでいた者や周辺ぐらいでとあるジーザス会に入信している者がいるのが少なくない。その事件でも、友人は熱心な信者であった。そして刑を受けた女自身も、その罪を贖うべく足繁く教会に通い祈りを捧げるようになっている。
「南の方で犯人が捕まったようですが。その話によれば、どうやら四方の事件、やはり関係があるようですね。もっとも分かった情報は限られていますが」
生真面目に告げるのは、京都見廻組・碓井貞光。
「紫頭巾の女が大坂方面と行き来しているのが見られたのもそういう事のようですし、確証は無いものの彼女も茨木の手の者と見て構わないでしょう。まぁ、そうでなくてもかような者を野放しにしておくわけにはいきません。捕らえるのに尽力するのは当然ではあるのですが‥‥。
面倒な事態になっていましてね」
渋面を作り、貞光は説明する。
街道での殺人事件だけでも厄介だというのに、その死体に火をかけるという行為に怒った鬼火たちが、街道に現れるようになっていた。
最初の内は犯人探してうろつく程度。こちらの話も聞く素振りがあった彼らだが、日に日に過激さを増し、最近では誰彼構わず人を見かけるや攻撃を仕掛けるまでになっていた。
「女も鬼火の行動を把握しているようでして、彼らの行動範囲から逸れた場所が現場になります。すると、鬼火も勘付いて行動範囲を広げる。するとすると、また別の場所から死体が‥‥。で、そっちにも鬼火が出るようになると言う訳です。自然、鬼火の活動範囲が増し、街道の広範囲で鬼火が人に危害を加える事件が多発しています」
鬼火たちもその数を増やし、今では殺人事件よりも鬼火たちからの被害が多い。道行く人も見えぬ殺人犯より、うろつく鬼火たちを恐れて足が遠のく。
「このままですと都の流通にも支障が出るとして、鬼火の対処に黒虎部隊が出ます。こちらとしても、彼らにうろつかれ付きまとわれながらの捜査は無理と判断して、協力した上で事件を調査する事になります」
厳しい口調で告げた後に、ふとその目を伏せる。
「とはいえ、鬼火たちについては冒険者たちからも思う所ありましょうし、私としてもそもは事件を解決できないことが発端とあっては気持ちのいい話ではありません。なので、即退治という事はまだ待ってもらってます。皆様の方で何か意見があるなら、それを通してもらっても構いません。
ただ、鬼火たちは以前に比べかなり過激になっています。今では人に攻撃するのも当然で、酷い傷を負った者もいます。こちらの話もきちんと受け止めてくれるかも疑問です」
人で言う所の頭に血が昇った状態のようで、話を聞いたとしてもそれを自分たちのいいように解釈する可能性も高い。そも、初めて会った時でも何かあれば攻撃に出ていたが、それが今では更に酷くなっている。見つけるのは容易いが、暢気に構えていると即座に火傷を負わされかねない。
便乗したと思しき事件数は減ってはいるが無くなってはいない。女の仕業と思しき事件はそのまま。彼らの努力も虚しく、であるが故にシャカリキになって、鬼火たちはさらに暴れまわる。
「そも、鬼火たちは死体の出る街道を中心に探し回り、そこをうろつく人に攻撃を仕掛けています。対して、女は街道沿いの山の中を通って移動しているのが目撃されてます。なので、鬼火たちが幾ら街道で暴れても、女はその横を通ってやり過ごしていくのでしょう。
その事を知らせたら、街道から退いてはくれそうですが、今度は山をうろつくようになるでしょうね‥‥」
街道は平和になるが、山が危険になる。その上、山に火をかけられようなら大惨事になってしまう。女としてもそうなったら、危険な山より街道に出る可能性もある。
「何をどうすればいいのやら。まぁ、鬼火ばかりに気をかけてもいけませんけどね。私たちの目的はあくまで、殺人事件の調査なのですから」
とはいえ、その調査に鬼火は避けられぬ関門ではあった。
●リプレイ本文
「忍者の百目鬼女華姫よ〜。元気してたかしら〜」
知った顔を見つけて、明るい笑顔と共にとびきりの抱擁。その愛の強さは‥‥ひとまず目を逸らしておこう。
そんな百目鬼女華姫(ea8616)始め、顔合わせの挨拶もそこそこ。京都見廻組の碓井貞光が現状を語り出すと、途端に場の空気が引き締まる。
「鬼火は悪くない――いえ、悪くなかったと言うべきですか。しかし、こうなってしまうとさすがに捨て置きませんね。かといって斬って捨てる真似もなかなか‥‥」
「鬼火も問題やろけど、紫頭巾を抑えん限りはどうしようもないで。退治はその場しのぎやろし、下手すれば火に油注ぐ結果になるかもしらん。そやさかい、ギリギリまで退治は堪えてもらえるようお願いできんやろか」
火を使われた犯行に、憤る鬼火たち。その気持ちは分かるものの、今の行動は見過ごす事も出来ない。京都見廻組として治安も思いながらも鬼火らに憂える御神楽澄華(ea6526)。
将門雅(eb1645)も不安を隠さず黒虎隊士に頼み込む。
「事情が事情だし熟慮はするが、こちらも仕事だ。長々と危険な物の怪を放置しておく訳にはいかない」
鬼火退治の先頭に立つ黒虎隊士は二名。向こうはそれが本職である以上、止めろと言うのは難しい。
「こちらの調査は殺人事件が主たるものですし‥‥。鬼火は誘導していくしかないですね」
現場をうろつけば、鬼火は邪魔に入る。下手をすれば無用な戦闘にもなる。いささか面倒な相手になったなと山本佳澄(eb1528)は思案を巡らす。
「収まらぬ事件に鬼火がキレたか。煙草を据える場所が減るな。火事の季節は過ぎたんじゃねぇのか?」
むしろこれからは梅雨で湿り気が増えるというのに、また火の用心。のんびりとしたいだけでも一苦労だと白翼寺涼哉(ea9502)は軽く肩を落とした。
街道はどこか閑散としている。歩く人も早足でびくびくしている。以前から見る光景だが、それが段々顕著に現れるようになっていた。
街道を行く人に注意を呼びかける一方で、情報収集。
「は〜い、お兄さん。今街道が危険らしいから、気をつけて頂戴ね」
「ああ。キミもこの道を行くなら気をつけて。何せ、鬼火が見境無く襲ってくるって話だからね」
「そうなの。それ、もっと詳しい話知らないかしら?」
人遁の術で美女に化け。やに下がる男から女華姫は話を聞きこむ。噂を含め暴れる鬼火の話はやはり道を行く者の耳には大抵入っている。今だ続いてるはずの殺人事件については、もはやそれどころではないと言った感じだ。
「鬼火が山以外にも向かう可能性があります。街道以外でも周辺は注意してください」
澄華は数日を注意に費やし、注意を促し続ける。その一方で周辺の話に耳を傾ける。
危険な道だと分かれば、迂回する者も増える。話が広まり、道は一層閑散とした。
「これで、後はあの女を見つけられればいいのですけど」
「その前に。彼らにあたしたちが見付けられちゃったわね」
人気の少なくなった街道を見回る一同の前に、ふらりふらりと宙を泳いで現れる火の玉たち。その数は八。前よりも増えている。
『貴様ら、そこで何をしている。即行にこの場より失せろ!』
宙の高みに漂いながら、居丈高に鬼火が言葉を投げかけてくる。
構えるように揺らぐ鬼火たちに、雅が現状を語る。
「――という訳なんや。このままやったらあんさんらを退治しようとする者も出るかも知れんし、あんじょう気ぃつけて行動してな。うちらも犯人捕まえるように頑張るさかい」
『必要無い!!』
言うが早いか、鬼火たちが激しく震える。うちの一体から火の玉が撃ち出され、派手に爆発。吹き飛んだ土砂が一同に降りかかる。
『人がこの地を穢すというなら、人がいなければいい。お前たちがいなければこの地が穢れる事は無い。誰もこの地に入る事は許さぬ。汚らわしい者はさっさと出て行け』
鬼火たちがそれぞれに攻撃魔法を打ち出す。あるいは自身が真正面から体当たりしてくる。
「ちょ、ちょう待ちぃ」
「駄目ですね。退治するつもりで無いなら、ここは一度退散した方がいいでしょう」
日本刀を振りかざして牽制を入れつつ、佳澄が撤退を唱える。
執拗に鬼火たちは追い攻撃してきたものの、どうにか街道から遠く離れていった。
「また余計な仕事を増やしやがって」
被害状況を聞きながら、鬼火に襲撃された人の治療をしていた涼哉。新たな患者を出した鬼火たちへ恨み言を告げつつも、手馴れた様子で負った火傷を魔法や治癒の技で手当てをする。
「それにしても、面倒な話だな。女を早く捕まえないと、本当に奴ら山で暴れかねん」
今は静かな街道で。間近に迫る山々も緑豊かなもの。鬼火のせいで人が減ったので余計に静かだ。
その静寂を壊す紅蓮の炎。今の鬼火たちなら平気でそれを行いかねない危うさがあった。
山へ行くにも注意を喚起しただけあって、山もまた静かなものだ。
そこを紫の頭巾を被った女が一人歩く。重い荷物を引き摺るようにしながらも、その足は休む事が無い。むしろ何かに追い立てられてるかのように足取りは速い。
息を切らしながらも、せかされるように前だけを向いて女は山を進む。道らしい道もなく、木々の間を縫って歩くのは大変だろうに、そちらの方は慣れた様子で苦でもなさそう。
静かだった山に、犬の鳴き声が響いた。びくりと震えるその間にも、吠え立てる声は女の方へと近付いて来た。
初めて女は足を止めた。動揺して周囲を見回し、荷物をどうしようかと一瞬迷う。
その一瞬の隙に、近くで激しい爆音。と、同時、唐突に人影が女の傍に出現した。
「見つけたで! 観念しいや!!」
小柄を手にして、雅は間合いを詰める。
「きゃあ!!」
悲鳴を上げながらも、女は懐から小刀を抜き放つ。身を退きつつ、振るわれた小柄を受け止め払う。
「逃げ場はありません。観念なさい!」
追いついた澄華が大身槍・備前助真で牽制。その鋭い刃先が女に向けられるも、女は躊躇い無く小刀を握り締め踏み込む。
「下がって!」
澄華を退かせ、佳澄が前に立って日本刀を振るう。女の小刀に向けて一閃、その刃が音を立てて途中から折れる。
「くっ!!」
それでもなお身構える女に対して、女華姫が後ろから近付き、掴み上げる。
「あたしの愛から簡単に逃れられると思わないでね〜♪」
「まぁ、逃れる前に寝てもらうけどな」
そのまま締め上げる女華姫に、逃げようともがく女。その間に雅は小柄の柄を、女に叩き込み気絶させた。
「コアギュレイト完了。効果は続くが、今の内にさっさと縄で縛る方がいいな。――子龍、ご苦労だったな」
詠唱を済ませた涼哉が、傍らで尻尾を振る柴犬に手を伸ばす。頭を撫でられ、誇らしげに子龍は一つ鳴いて尻尾を振った。
女の捕縛。役所にそのまま連行し、気がつき次第事の真相を語ってもらう‥‥というのが筋ではあるのだが。
「話になりませんね。いえ、あなた方の事ではありません」
盛大なため息と共に、疲労困憊の表情で貞光が告げる。
頭巾を剥いで見ると、女は見た目よりも若かった。老けて見えたのはそれだけ苦労した結果のようだ。
目覚めた彼女は、役所中に響き渡る絶叫をすると途端に暴れ出した。その目的は、ここから逃げ出そうとする為。あるいは――自らの命を絶つ為。
勿論武器は取り上げたが、それでも蹴る掻くは当たり前。下手をすれば肉を喰い千切らんばかりに噛み付かれる。何とか取り押さえても、逃げられないと悟るや途端に命を絶とうと舌を噛む。猿轡をしても、頭を打ちつけようとしたり、縛った縄で傷を作り自らを痛めつける。縄が千切れないなら、身を千切ろうとする激しさに、押さえる側の方が手をこまねく。
結局、身動き一つ出来ぬように雁字搦めにした上で、誰も近付かぬようにせねば落ち着いてくれない。しかし、それでは話を聞くどころではない。
「彼女が捕まり、これで解決したならばいいですが‥‥。それでも、何故こんな事をするのかは、はっきり聴かねばなりません」
もう一度、盛大に嘆息しながら貞光の目線は一つ方向に向かう。何を見ているか気付いた時、一同は一様に表情を歪ませた。
捕縛時に彼女が一生懸命運んでいた荷物。それは人の胴体。それ以外の部分は無い。
現地で調達できないなら別のどこかで。持ち運ぶのに邪魔で重い部分は切り取ったという訳か。
「本当に、何でこんな‥‥」
苦々しく貞光が呟く。その言葉は、同じ思いで一同の胸に落ちた。