【キの巡り】 東の五
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■ショートシナリオ
担当:からた狐
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:8 G 3 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月04日〜06月10日
リプレイ公開日:2007年06月13日
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●オープニング
京都東方。北の地より悠々と流れる鴨川は、四季折々の季節を見せて人々を和ませる。
水場は生活の場。様々な人々が暮らしの糧を得る一方、死者の極楽往生を願って水葬を行う地でもあった。
だが、安らかな死を願うそれとは別に、明らかに不可解な痕跡を残した遺体が転がるようになったのは昨年の秋から。
右の腹に鉄の棒を打ち込まれた死体。元々川原に放って置かれた者を加工されたり、あるいは殺害の上で打ち込まれたなどの違いはあるが、何者かが意図的に施したのは明白だった。
特に北方で起きている事件とは、向こうが呪詛を行おうとした加害者であるのに対し、その恨みを買っていた人物がこちらで被害者になっているなどの関係性を見せていた。
追う内に、奇妙な坊主と大男に接触。彼らがこの事件の殺害とクリエイトアンデッドによる死体移動を行っていたのは明白だった。
さらに、年明けより彼らとは似て異なる痕跡を残す事件が続発。
目にした犯人は顔を隠した男だったが、個々の事件で手が違う事を思えば、彼だけの犯行でもないはず。
そして、これらを別事件と見ると、被害者を恨む者あるいはその周辺にとあるジーザス教会の陰が見え隠れする。
「南で犯人が捕まったようだが、それによると茨木童子が裏で絡んでいるらしい。鬼が何を企んでいるのか知らないが、見過ごす訳にも行くまい」
嘆息一つ、京都見廻組の渡辺綱は苦虫を噛み潰すように目を細める。目の前に姿を現し、遊ばれた身としては苦い物が胸中にはあるようだ。
「ともあれ、茨木自身の情報は無いに等しく、こちらの事件についても全容が分かっている訳ではない。展望が見えたと喜ぶにはまだまだ早いな」
実際、東の事件は続いている。犯人は分かっているが、こちらの動きを警戒してか滅多姿をさらそうとしない。便乗犯も相変わらずで、川辺の治安は安全とは程遠い。もっとも、京の治安自体が安全とは言いがたいが。
「加えてだ。以前死食鬼が川辺に現れていたが、これがまだ出ているらしい。加えて愛し姫が精吸いを従えてうろついているらしい」
死食鬼は人を食らうアンデッドだが、愛し姫や精吸いも同じくだ。ただ、死食鬼が死人憑きに似るのに対し、彼女たちは美しい女性の姿で現れる。
どちらも妖しの業を持って、人間をたぶらかし、その命を奪う。そして、喰われたその遺体には右の腹に鉄の棒が刺してあるらしい。
被害者の周辺を調べれば、例のジーザス教会の信者が居る事がしばしある。これは果たして関係あるのか、無いのか。
「黒虎部隊も動くようだが、他の件で忙しいらしくて手が足りないらしい。なので、この件に関してはこちらでも動いて構わないとの事だ。
遺体に妙な痕跡を残す辺り、つまりどういう事情かは知らぬが、このアンデッドらも奴らの側で動いてる可能性があるので無関係とも言えまい。案外、ただの猿真似かもしれんがな。
それに、件の二人は二人で街中で活動している節がある」
殺害後にクリエイトアンデッドで遺体を動かすので、川辺で殺害する必要は彼らには無い。獲物を見つけ、夜の暗がりを利用しての辻斬り。アンデッドがうろついてるとなると、なおさら安全を持つだろう。
「事態は動いてるようだが、手が足りぬ。何が起きてるのかはっきりしないが、放ってはおけまい」
また一つ、綱は息を吐くと冒険者たちによろしく頼むと頭を下げた。
●リプレイ本文
「模倣犯にアンデッドまで出るとはな。東‥‥金剋木‥‥川辺に死人の連続事件。青龍を汚して何を成そうとするのか」
面倒な話に、黒虎部隊隊士・壬生天矢(ea0841)は顔を顰め、低く唸る。
「今だ事件は止まらず。それにこの事件だけでなく、他の三つの事件も時と共に勢いを増してるように見受けられます。早く原因を突き止めませんと」
そもは単に奇妙な死体が転がるだけの事件。それが、既存の犯人以外の犯行が増え、何時の間にやら死人が起き上がるまでになっている。
他でも南は死霊がうろつき、西では鬼火が荒れ、北からは土蜘蛛が溢れている。どの程度関係するのか分からないが、現場周辺はとかく穏やかではない。
憂える神木祥風(eb1630)に静かに頷き、されどきっぱりと室川太一郎(eb2304)が口を開く。
「この事態に協力はいたしますが、それまでです。俺では実力不足ですから、入隊はしませんよ」
「心配せずとも、気の無い者を組織に入れはせんよ。今はいろいろ難しい時期だしな」
京都見廻組の渡辺綱が静かに笑いはしたものの、すぐにその笑みは消えて難しい顔つきに変わる。
京都守護職であった平織虎長は何者かに暗殺され、続く五条の宮は現政権に叛乱を起こし今も西に布陣している。相次ぐ不祥事に下の士気は下がり、なおかつ強烈な存在感を放つこの二者を慕った者がその不在を嘆き、あるいはその後を追って多数抜け出てしまった。
その人員を補おうにも、京都守護職がその後不在のままな事も加わり、組織の形を保つ事自体が一苦労。迂闊に人を増やせば却って纏まりを欠きかねない。
「人手不足だからでもないが。この案件、黒虎部隊との合同案件として取り掛かるべきではないか? 川辺に出る死者たちは死人憑きとは訳が違う。奇襲に適した魔法を使える者を援軍として呼べないか」
京都見廻組の備前響耶(eb3824)の問いかけに、綱の反応はといえば考え込んでいる。
「死人退治はどちらかといえば黒虎の領分で、こっちの管轄外だからな。今回は愛し姫らが妙な事をしでかしてるので譲歩してもらった感じだが、もし関係無いのならあえて手を出す必要も無く向こうに任せるのが筋になるだろう」
「と言う事は、やはり姫さんらから事情をしっかり聞いておく必要があるという訳だな」
険しい顔つきで、天矢が刀を握り締める。
川辺で愛し姫が動いてるからといってそればかりにも構っていられない。エステラ・ナルセス(ea2387)は川沿いに、見かけた犯人たちの姿を追って探しだす。太一郎もまた付近の聞き込みを行い、何か情報が無いかと奔走する。
結果はといえば‥‥。
「難しいですわね」
ほぉ、とエステラが頬に手を当て息を吐く。
「小舟となればそこいらにつける場所がありますし、川沿いの町や村など幾つもありますものね。茨木童子と繋がりがあって大坂まで行ってるなら、わたくしだけではとても探しきれませんわ」
川の流れはどこまでも続き、その中の一点を探すのも生半ではない。
「例の二人組の話も聞きませんでしたわね。ついでに、こちらでは何か妬まれていた方が犠牲になっているという話でしたので、そちらの噂を聞いてみましたけど。以前は北の山で呪えという話があったようですが、今は悩みがあるならジーザス会に、という事らしいですわ」
京を中心に、ジーザス会は布教活動を続けている。当然、お膝元である都内でもその話はよく聞かれる。悩みがある者に神の救いを説くのは宗教としては当たり前のことではあるが。
「死食鬼や愛し姫の方が今はよく聞けますね。これは壬生さんに伝えておきましょうか。例の犯人達に関しては、こちらも同じく。頭が使える分、死人よりも身を隠すのも狡猾ですね」
エステラの話に、太一郎も頷く。
「追いかけてもなかなか尻尾は掴ませないな。とすると、上手くこちらに来たのを捕まえるしかないか」
話しながらも、響耶はエステラを見ては無い。その視線は、一人の男に注がれている。
いたって普通の男だ。近所の話では、最近一人の女に入れ込んでいる。が、女の方は彼の求愛を迷惑がっており、どうすれば彼女を振り向かせられるかとあちこちに相談している。
問題なのは彼女の方が例のジーザス会に出入りしている事だ。しつこい彼に嫌気がさして、幾度も相談に赴き、時には彼から逃れる為に教会に駆け込む事もあった。
「男と女の仲は難しいものだ。何事も無いのが一番だが、それもまた困るのがまた困るというか‥‥」
隠れて見つめる先で男は普通に生活している。それがそのまま続く事を素直に祈れず、綱たちはともかくも彼から目を離さぬよう注意して監視を続ける。
夜を待って、川原に赴く。愛し姫と接触を試みたのは三名。そこに、天矢が同僚の黒虎隊士を引っ張ってきて計四名がそこにいる。
といっても、太一郎が聞いた話によれば愛し姫の被害は昼にも出ているとの事。さらに、愛し姫が魅了を使うと聞いて響耶が対策の為に調べている。目線を合わせたり声で誘ったりする妖怪もいるが、愛し姫の魅了はそんな制限は持たない。気付けば彼女に魅入られている。ただその効果が発する距離はそれほど遠くまで及ぶものでもないらしい。
「かといって、何も手を打たないのも馬鹿らしい話だ」
よろしく頼むと、天矢がもう一人の黒虎隊士にフレイムエリベイションを頼む。
精神に影響する魔法を無効出来るが、愛し姫のそれは魔法ではない。もっとも一緒に出るという精吸いは月魔法を使うという話だし、魔法でなくても抵抗力は上がるの対処しやすくなる。
同僚とはいえ、そうそう協力ばかりしてくれるものでない。非番で寝てたのにーと文句を言いながらも魔法を唱える相手に、悪いと苦笑しながら天矢も道返の石の発動にかかる。
長い祈りを捧げても、効果時間内に相手が出てくれるかは分からない。
「まぁ、ここでの事件情報が多い以上、そんなに待たせたりはしないでしょうけど」
太一郎の言葉どおり、幾度目かに叩いた惑いのしゃれこうべがカタカタと歯を鳴らす。物も言わぬ髑髏は騒ぐように歯を鳴らしている。相手の数は少なくないと言う事だ。
「はてさて。そこな四名、このようなところで何をしておるのかの」
「しかも、一人はそのような面までつけて」
衣擦れの音も艶かしく。三人の女を従えた二人の美女が玲瓏とした声を放つ。
見る限り、その誰もがただの美女たちにしか見えない。道でばったり出くわしてもなかなか気付きにくいだろう。むしろ、その美貌に惹かれて犠牲者自ら近寄りかねない。
「あいにく顔に傷があり、人目にさらしたくはない。御容赦願いたい」
「構わぬ、顔が見たい」
鬼の面を被ったまま、天矢は応える。が、愛し姫はそっけなく告げると、傍の精吸い一人が近付いてくる。取らぬなら、取ろうという訳か。
「御無礼は平に。その上で、私たちはあなた方に問いたいのです。あなた方は何故此処に来る様になったのですか。自身の意思か、あるいは何者かに言われ――命令されたのか」
口早に祥風が告げる。途端に彼女らが身を強張らせた。
冷え冷えとした面を冒険者らに向けて押し黙った彼女らに、天矢がさらに問いただす。
「喰った遺体の腹に鉄の棒を刺すのはあんたらの仕業なのか? 何故そのような事をする。ここいらでは前々からそんな事をしでかしていた奴がうろついているが、そいつらとの関係は?」
「なるほど、そんな事を聞きに参ったか」
緊張と共に身構える一同に対し、愛し姫らは艶然と笑って見せた。
「喰ったのはこの子らか死食鬼どもがほとんどじゃが‥‥、まぁ腹に刺すようにしたのは妾たちじゃ。大男を連れた僧に言われての」
「連れて行こうと思うたに、後一歩で逃げられたのはほんに惜しい者たちじゃった。それから頼みもせんのに、無骨な鉄の棒を寄越すようになりおった」
口惜しそうに告げる彼女らだが、やがてまたふと笑い出す。
「つまらぬ話じゃが‥‥それでこの地に陰が注すなら拒む理由でも無い。元よりさしたる労も無い話なので、のってみたまでよ」
ころころと鈴が転がるような愛し姫の声を聞きながら、一同はそっと視線を交わす。
「そうですか‥‥。では、この場から去る事は出来ませんか? 人を襲い続ければ、何れ討伐の手が伸びますよ」
祥風が告げると、相手は考えるような格好を取る。
「そうじゃのう。考えてもよいかも知れん。が‥‥」
「その前に、そなた達が妾と参ろうぞ」
愛し姫の声と共に、夜の闇の向こうから死食鬼が飛び出してくる。腐った死人のようなそれは鋭い歯を鳴らし、愛し姫たちには見向きもせずに一同に襲い掛かる。
「くっ!」
詠唱一瞬。祥風がホーリーフィールドを張るも、それをたやすく壊し、死食鬼が迫る。
「何事もなければよかったのですが、やはりそうは参りませんね」
野太刀を両手でしっかりと握り、神楽聖歌(ea5062)が迫った死食鬼へ間合いを詰める。オーラで防御と士気を高め、そして刃にもその威力を込める。
「はあ!!」
目の前の死食鬼に容赦なく一撃を加える。込められたオーラパワーはアンデッドにさらなる威力を発揮する。その一撃で死食鬼の身が深く抉られる。
「行け! 神威!!」
「小癪な!!」
天矢に言われ、控えていた鬼火が飛んだ。愛し姫に体当たりをしようとしたが、その寸前、愛し姫から飛んだ黒い光が鬼火を砕く。幸い、鬼火はすぐに体勢を立て直したが、勢いは先とは違っていた。
「どちらにせよ、死食鬼まで来たとなるとまずいな。一端退くぞ!」
押し寄せる死食鬼に天矢が一撃。日本刀・姫切はアンデッドにさらに威力を増す。人ならば動くのも苦しいはずの傷をつけても、しかし、相手は平然とかかってくる。
「逃すか!」
一体の精吸いが魔法を唱える。銀の光を纏うや、一同の足元の影が爆発した。威力の程はたいしたこと無いが、わずか体勢を崩した内に次の死食鬼が飛び掛ってくる。
「止まれ!」
「笑止!」
祥風がコアギュレイトを仕掛ける。魔法で縛られ、死食鬼の動きが止まったのも束の間、愛し姫がニュートラルマジックで解いてしまう。
逃げる機がなかなかつかめず、傷が増える。焦らぬように自制しながら、己が能力を繰り出す。
その時。唐突に彼方で悲鳴が上がった。
「なんじゃ!?」
訝る愛し姫。冒険者らも目を向けると、死食鬼に人が襲われていた。男でしかも一般人だ。しかし、その人を助けようと思う前に、逃げる機会と取ったのはその傍に響耶と太一郎の姿があったからだ。
愛し姫たちが気を取られた隙に、死食鬼たちを振り払い一同はその場から駆け出す。
「大丈夫ですか!?」
「こちらはな」
野太刀・大包平でやり合っていた響耶に駆け寄ると、聖歌は素早く相手の死食鬼を斬り払う。襲われていた人に目を向けるとその傷は深い。が、ここでのんびりするわけには行かない。
「待てぇい」
居って来た精吸いが手を伸ばす。それをかいくぐり、天矢が姫切を叩き込む。
「天壬示現流――覇凰!!」
攻撃直後の隙をついた一撃。その重さも加味した刃を受けて、精吸いの身が二つに割れた。
そこへ、太一郎が清めの塩を振りかける。すでに致命的な傷を受けていた精吸い。魔法の塩によりその存在が浄化される。
「急いで! 追って来てます」
それでも、まだ残りはいる。彼らを振り切るように、一同は全力で走り出した。
撤退は簡単なものでなく、特に傷付いた男を庇いながらとあっては、しばし追いつかれて戦闘を繰り返した。
それでもどうにか逃げ切り、傷の手当てをする。幸い、太一郎の薬で男の傷も癒す事が出来た。
「その方は、備前さんたちが見張っていた相手です。夜中にこっそりと家を出て人気の無い所で女性に会ってたのですが、もめ出したと思うといきなり走り出して‥‥。備前さんと室川さんが彼を追い、私と渡辺さんが女の方についたんです」
皆を労いながら、エステラは自身の報告をする。
「何がどうなったか、詳しく話してくれないか?」
死食鬼に襲われた恐怖で真っ青の彼を宥め、状況を聞き入る。
「好きな彼女の事で話があると呼び出されたんだ。外聞のいい話じゃないんで、夜中にこっそり会おうと言われたんでそうした。知らない相手だったが、彼女の事はよく知ってるみたいだった。迷惑してるから近付くなと言われて、かっとなって怒鳴ったんだ。そしたら川まで走って頭冷やせと言われて。何故だろう、走ってたよ。そしたら、川原で‥‥ば、化け物が!!」
思い出してまた震える彼をもう一度宥め、エステラが告げる。
「女性は例の教会の人でした。多分、彼女の為に仲裁に入ったんでしょうけど‥‥」
「男は気付いてないようだが、走り出す前、女から一瞬だけ黒い霞のようなものが立ち上るのが見えた。多分、何らかの魔法を使われんだと思うが、見慣れないものだ」
続けて、綱が告げる。男に聞かれぬよう声を潜めた為、その雰囲気は重苦しいモノになる。
だが、犯人の行方は分からず、愛し姫も川原に残したまま。そう感じるのもあながち間違いでもなかった。