【水無月会議】 キの巡り・鬼火

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:5 G 55 C

参加人数:4人

サポート参加人数:2人

冒険期間:06月28日〜07月03日

リプレイ公開日:2007年07月06日

●オープニング

 京都西方。山陽道・山陰道と西の諸国に出向く重要な街道が走る。
 そこを行きかう人々を狙った殺人事件。捜査は京都見廻組が行い、事件を起こしていたと思われる紫頭巾の女も先日捉えられた。
 しかし、問題はなお残る。殺害された上で、遺体の胸は焼かれるという不可解な細工がされていた。
 不浄の死体をさらに穢すような炎の使い方に、鬼火が集まり、日を追い、事件を重ねるごとにその怒りはやがて狂気にすら近くなっていた。

 そして、

 対長州の対策を決める御前会議。御所にて執り行われるこの会議に合わせるかのように、鬼たちが京へと襲撃をかけてきた。
 先頭に立つは比叡山の鬼・酒呑童子。鬼の王とも呼ばれるその存在が動いた事は、都の人々を恐怖に陥れた。
 その対処に京都見廻組でも準備に追われ、その最中に話が飛び込んでくる。
「大変です! 西の方角で炎が!! 街道で暴れていた鬼火たちを筆頭に仲間を増やし、都内に入り込んで人を襲っております!!」
「何ですと! 黒虎部隊は!!」
「鬼への対処で向こうも若干の混乱が。そのなかでさらにどれだけの隊士を向こうに裂くか、対応に追われています」
 情報収集に走っていた隊士の口早な報告を、京都見廻組・碓井貞光は神妙な面持ちで聞く。
 黙考しばし、やがて顔を上げると声を大にして言い放つ。
「鬼火の件は元々こちらから出たもの、故にこちらで対処しましょう。黒虎にはそう連絡した上で、冒険者ギルドへ行って手を貸してくれる者を呼んで来て下さい」
 承知、と短い言葉を言い終えるのももどかしく、その隊士は再び駆け出して行った。
「というわけです。鬼火たちが都に攻撃を仕掛ける以上、放置しておく訳にはいかないでしょう。彼らへの対処に共に赴こうという方は、ついて来て下さい」
 腰の日本刀をしっかりと確認すると、貞光は強い口調でそう告げた。


 都西方。赤々とした火が燃える。逃げ惑う人々、消火を行おうと水桶を担ぐ人、負傷者を救おうとする人が右往左往と走り回り、現場は騒乱に包まれていた。
 そして、
「ぎゃあああ!」
 何も無い地面から突然炎が吹き上がった。傍にいた者に炎は燃え移り、火達磨となった人が転げまわるとさらに可燃物へと引火していく。
 水を持ってその火を消そうとした人の前に、突然火の壁が立ちふさがる。驚いて立ち止まったその手に、炎の塊が手にぶつかり、水桶は火に届く事無くただ地面だけを濡らした。
 ぶつかってきた炎はただの炎でもなかった。そのままゆらりと蠢くと、宙に舞い上がり、自由に飛翔している。
 鬼火と呼ばれる存在。それが辺り一面に飛び回っていた。
『我らの炎をつまらん事に使い続ける。払っても払っても人は現れ、またいつ繰り返すか分からない』
 言葉によらない思念。苛立ちを露わに鬼火たちは揺れる。
『死の臭いがまた立ち込める。あの馬鹿げた騒ぎをまた繰り広げるか。ああうんざりだ。あの鬼どもの言う通り、綺麗に全てを灰に返してくれよう!』
 その身が一際大きく揺れると、小さな火の玉が家屋に向けて飛んだ。壁にぶつかると派手に爆発。炎に包まれもろくなっていた家はそのまま崩れ落ち、下を走っていた人が悲鳴ごと飲み込まれる。
 そんな景色があちこちで繰り広げられていた。

●今回の参加者

 ea4295 アラン・ハリファックス(40歳・♂・侍・人間・神聖ローマ帝国)
 ea4331 李 飛(36歳・♂・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 ea9502 白翼寺 涼哉(39歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 eb1645 将門 雅(34歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●サポート参加者

フレア・カーマイン(eb1503)/ 鳴滝 風流斎(eb7152

●リプレイ本文

 長州との行く末を決める水無月会議。その最中に起きた酒呑童子の襲撃は都中に恐怖と混乱をもたらす。
 その動きに呼応するかのように一部の妖怪たちも都へと入り込み、さらに被害を大きくしていた。
「えい厄介な。鬼火が白昼堂々人を襲うとはどういう事だ!? このままで京の町が灰燼に帰しかねん」
 各方面より引っ切り無しにもたらされる報告。混乱が混乱を呼び、大小様々な騒動を起こす。統率の無い中で起こる火の害は厄介なものだが、それが何者かの意思による事だとしたらますます被害は増す。
 李飛(ea4331)の憤りは至極正しいものだった。
 とはいえ、その鬼火も少々ただの鬼火ではない。中心となっているのが、これまでの京都見廻組の事件でも関わった鬼火とあり、事態を知る者には胸中複雑な思いが渦巻く。
「まったく、凝りねぇ奴らだな」
 鳴滝風流斎やフレア・カーマインが調べてきた情報を白翼寺涼哉(ea9502)はざっと目を通し、そのままアラン・ハリファックス(ea4295)へと渡す。
「なるほど、調べりゃ調べる程、京都ってのは何が起こるか分からん地ってことが分かる」
 これまでの事件報告も整理をつけて、アランは難しい顔つきでその状況を把握する。
 西の街道で暴れていた鬼火たちは、鬼の進撃と相前後して洛内へとその被害を広げた。目的はただただ燃やすこと。目に付く全ての者を灰にする勢いで、炎と共に彼らは街中へと突き進んでいた。
「洛内で例の変死体は確認できへんみたいやね。‥‥言うても、死体も何も全部燃やしよるけど」
 将門雅(eb1645)が苦しげに表情を歪める。誘導するような者がいないなら、つまりは今の事態、彼らの意思なのだろう。
「どちらにせよ、あまりのんびりもしていられません。用意が整い次第、出るとしましょう」
 京都見廻組・碓井貞光が日本刀を手にする。
 火は放っておけばどこまでも広がる。小さな被害ではすまなかった。


 空高く立ち昇る黒々とした煙と、上がる業火が現場を教えてくれる。
 近付くにつれ、人の喧騒が辺りに響き、熱風がそこかしこから吹き込んでくる。
「余計な仕事を増やしやがって。何とかシメんとな」
 逃げ惑う人々に、避難場所を指示しながら涼哉は火災現場を見つめる。黒く炎に沈んだ建物が轟音と共に倒れれば派手に火の粉が舞い上がる。
 散った火の粉と熱風が吹き付けられれば、また別の箇所でも火の手が上がる。それ以上、炎が広がらぬようにと建物を壊しに男たちが走り回っているが、その足元から突如火柱が上がった。
「ぐはっ!」
 倒れた人々の上に、巨大な火の玉が降り注ぐ。否、それは空中で不自然に停止し、落ちる事無く漂っている。
 人の頭ほどのそれは次々と数を増やし、あっという間に数十体が辺りにひしめく。その一体が炎を揺らめかせると、赤い光を纏う。
 打ち出された火の玉は、容赦なく倒れた人々を狙って放たれた。爆発した衝撃で何人もが苦痛の呻きを上げる。彼らに何の情けもかけず、別の鬼火がまた彼らを撃とうと迫ったが、
「やめい! なんちゅう事するんや!」
 その間に、いきなり雅が現れる。微塵隠れの術で移動してきたのだ。
 不意の登場に驚き、動きを止めた鬼火に向けて、彼女の眼差しが鋭くなる。
「忠告したはずや。あんたらの怒る理由も分かってるし、手は出したなかった。‥‥でもこれはやり過ぎや!」
 倒れた人々は極普通の人間。何か悪い事をしていたようにも見えない。今も、単に消火活動を行っていたに過ぎないし、持っている物もその為の道具ばかり。
 涼哉が傍に寄り、急いで手当てをする。
「傷は癒した。自力で動けるな?」
「あ、ああ」
 自身の知識に、足りなければリカバーを唱え。動けるようになった人々にすぐこの場から去るように促す。腰の抜けた者をかつぐように去っていく彼らを見る事無く、その視線はすぐに鬼火たちへと向けられた。
「何故にこの様な真似をするのか! この地に居る者全てが火を汚した訳では有るまい! それとも、この付近に火を汚した犯人が居るとでも言うのか!?」
 飛の身が濡れているのは、水を被ったから。その濡れた姿のままで、鬼火たちに問いかける。付近の熱気より激しく怒鳴りつければ、鬼火たちもまた身の炎を揺らめかせる。
『掃っても掃っても、炎を軽んじる輩が尽きない。何をしても無駄というなら、助言に従い、元より全てを消し去ればいい』
 苛立ちも露に、思念で鬼火が告げてくる。呼応するように他の鬼火たちもその炎を際立たせている。
「それがやり過ぎ言うんや! うちらは片を付ける為にあんたらを退かせる! 痛い思いをしたくなかったらおとなしく退きや! それがうちの言葉に対する責任や!」
 唇を噛み締めると、小柄を抜き放ち両の手でしっかりと握り締める。刃の切っ先は鬼火に向け、瞳はただただ彼らを睨みつける。
『言葉を重ねた所で何となろう。災いが去らぬなら、生み出す者を始末すればいい。不浄の気配を祓う為にすべてを燃やすのみ!』
「喋る炎とは驚きだが。喋れる分、そこいらの火よりも随分役立たずになってるようだ」
 そんな鬼火たちへと、アランが冷ややかに言葉を紡ぐ。
「火球如きが小五月蠅い。灰に過ぎないお前らは、灰に還れ」
 構える修羅の槍が炎に照らされ赤く染まる。その照り返しをさらに染め上げるように、鬼火たちは一斉に動き出した。退く為ではない。攻撃する為に。
 宙を舞う鬼火たちに対して、アランは素早く槍を振り払う。一撃で塊を大きく崩し、炎を散らす。向かってくる鬼火たちは多かったが、どうにか攻撃は回避できる。ならばと、形振り構わずに槍を構えて鬼火たちへと刃を走らせていく。
 貞光始め、他の冒険者もまた負けじと動き出す。
「こっちは止まらんな。回復中心に見守る方がいいか」
 コアギュレイトを仕掛けていた涼哉だが。さすが精霊というべきか魔法への抵抗が高く、動きを止める鬼火は少なかった。
 雅は飛び掛ってきた軽く躱す。元より疾走の術でさらに身は軽い。突っ込んできた鬼火に対して刃を振るうも、炎の勢いが弱まるようには見えない。
 周囲を走り回る柴犬の莫耶と干将も回避中心に牽制しあっている。自身たちに手傷はあまり負わず、鬼火たちにもさして害は与えていない。
 だからといって、鬼火たちが攻撃の手をやめる訳でもない。
 体当たりをかけてきた鬼火をミドルシールドで止めると、飛は長槍を繰り出す。中心を射抜かれ鬼火の姿が激しく歪む。小さくなった炎がふらりと宙へ逃げ、それを追う様に飛は足を踏み出したが。
「うぉっと!!」
 踏み込もうとしたその先、燃え上がった炎の壁が行く手を阻む。傍にあった生垣が煽りで燃え上がり、次々に火は燃え広がる。
 そうして出来た距離と隙をついて、飛んできた炎の玉が派手に爆発する。上がった土煙に咳き込む間もなく、また別の手合いが攻撃を仕掛けようとしていた。
「大丈夫か?」
「ああ。が、手間がかかる」
 傷の程度を見がてら涼哉が問うと、アランが額を拭う。汗を拭いたつもりが、手は煤だらけで顔が黒く染まる。
 スモークフィールドが視界を奪い、斬り捨てたと思えばアッシュエージェンシーによる分身。ファイヤーウォールが行く手を阻み、避けた先でファイヤートラップが発動する。
 こうも数がいると術の種類も事欠かない。近付くのは危険と判断した為か、ますます魔法で間合いの外から攻撃してきていた。
「ええ加減にしいや! こないしたかて事態は変わらへんやろ」
 魔法の炎を身に纏い、拘束で犬たちを追い回していた鬼火を散らすと、雅は何度も語りかける。が、鬼火たちの動きは止まらない。
「先ほど『助言に従い』と言っていたな。一体誰が何を言ったのだ。もしや、その相手に騙されてる可能性は無いか!?」
『告げたのは毛むくじゃらの大柄な猿のような鬼だった。我らの悩みを即座に見抜くと、ならば人がいなくなれば全て終わると告げてくれた』
 飛が問いかけると、鬼火の一つが何の迷いもなくそう告げる。
「鬼か。ではやはり怪しい。実は南の地で、水上で殺生を行い水を汚す者があり、それは鬼に命令されてだった。ならば西で火を汚した者も、同じ様に鬼の命令に従っているのかもしれん。そうは思わんか?」
『それは‥‥だが‥‥』
 口早に飛が告げると、鬼火たちの動きが変わった。警戒するように揺らめきはするが、攻撃の手がしばし止まる。
『騙されるな。人間というのは嘘つきだ』
『いやしかし』
『鬼がいても、やったのは人間だ。ならば、やはり人間を始末すべきだ』
『けどなぁー』
 戸惑う鬼火。思念もまとまりがなく、激しく揺らめく固体とやる気なくしたか収まりを見せる個体が混在する。
『一度ついた炎は自ら消えぬ。全て燃やしつくすのみ!』
 煮えきらぬ同胞にも痺れをきかせたか。鬼火の一体が再び攻撃に出た。呼応するかのように他の鬼火たちもまた炎を操り出す。
 が、全てではない。半数ほどがけしかけるでもなく、逆に止めるでもなく、ただ宙に留まり微動だにしない。
 攻めて来る鬼火たちの方は容赦無い。黙して語らぬ鬼火たちの動向を気にしながらも、それらの迎撃に一同奮闘する。


 飛来してきた鬼火に刃を立てれば、すでに痛手を被っていたそれはぱっと一際大きく膨らみそして散る。後には灰すら残らない。
「残るはあなた方だけです。いかがしますか?」
 率先して襲ってきた鬼火たちは始末したが、攻撃を止めた鬼火たちは残っている。仲間を殺された報復に出るかもと隙無く身構え、動きを見るが。
『やめよう』
 さらに長い時間をかけた後で、鬼火の一体がそう返答してくる。その言葉を皮切りに、残る鬼火たちがその場から退却を始める。
『だが許した訳ではない。制裁の効率の悪さを思っただけだ。鬼も人も我らには同じ存在。ただ炎を侮る者を許しはしない』
 一体、また一体とその姿が西の方角に流れていく。
 鬼火は消えたが、燃える炎はまだ残っている。残っていた人たちと力を合わせて、全てを鎮火させるまでさらにまた時間を重ねる。
 煤けた黒い骨組みを残した建物があちこちに並び、それすらも残さぬ空き地もまた広がる。まだ燻る煙は空へと立ち昇り、所では消しきれなかった小さな火種がまた燻り出したりもしている。
「漂う死臭と死体、焼ける街。まるで煉獄。しばらく酒場の焼き鳥の需要が減るな」
 見晴らしのいい一帯を見渡しながらアランが呟く。被害の程度はそれなりで、死者も少なからず出ている。
 涼哉は、消火と手当てが一通り済めばその足でさっそく救護所へと向かった。彼の仕事はむしろこれからが本番と言えよう。
「うちらがもっと早く解決出来てたら、こんな事にならんかった。すまん‥‥」
 黙祷を捧げ意気消沈する雅。捧げた相手は鬼火たちに。後の事を貞光に任せると、見られぬように顔を背けて印を組み、派手に爆発を起こしてその姿を消す。
「退いてくれたが‥‥全てを分かってくれたようではないな。また面倒を起こさぬとよいが」
「全くですね」
 鬼火たちが消えた方角を見て、飛が低く唸る。そこからまた鬼火がやってくる日が来るのか。
 そうならぬ事を願うのみである。