温泉村を救え

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月17日〜07月22日

リプレイ公開日:2007年07月25日

●オープニング

 長州との行く末を決める水無月会議。その最中に突如として鬼の軍勢が都を襲った。
 率いるは、比叡山に鉄の御所を構える悪名高き酒呑童子。暴れる鬼たちによって被った被害は大きかったが、何とか撃退に成功した。
 鬼たちはまた山へと戻っていき、都は平和を取り戻した。

 そして、冒険者ギルドに依頼が舞い込む。
「都近くの村一つ、鬼たちに占拠されているらしい」
 集まった冒険者たちを前に、ギルドの係員は険しい顔つきでその情報を伝える。
「こちらの被った被害も大きかったが、鬼たちの方も当然痛手を被っている。その村には小さいが温泉があり、怪我などに効くそうだ」
 そして、どこでそれを知ったか。京攻めの攻防で傷を負ったある鬼がその傷を癒す為に、手勢を連れて村を襲い占拠してしまっていた。
「村人の多くが殺され、生き残った人も世話係や――もっと端的に食料として捕まっている。何とか逃げ延びた村人が事態を伝えてくれたが、その者も酷い怪我で動けない状態だ」
 現れた鬼は山鬼。そして小鬼を引き連れていた。小鬼はともかくとして、山鬼は武装していた上に鍛錬を積んでいるらしく、村人達が到底適う相手ではなかった。
「京では新撰組が中心となり、近く酒呑童子討伐に赴かんが為準備を進めている。鬼たちもその気配を察し、村から引き上げる気配を見せている。ただ引き上げるだけなら万々歳だが、生きて捕まっている村人たちも恐らく連れて行かれてしまうだろう」
 鬼の棲家に連れて行かれては何をされるか分からない。殺されるだけならまだ優しい。
「なので、そうなる前に村人たちを救いだして欲しい」
 連れて行かれてからでは救い出すのは難しい。安全に助け出せるのは今しかなかった。

●今回の参加者

 eb5431 梔子 陽炎(37歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ec2524 ジョンガラブシ・ピエールサンカイ(43歳・♂・志士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec2526 ツバメ・クレメント(26歳・♀・ファイター・シフール・ノルマン王国)
 ec2942 香月 三葉(36歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ec3375 宮島 紅葉(24歳・♀・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 村は、何てことはない普通の村だった。大きな村ではないが、小さい村ともいえない。これといった特長はなく、街道から近くも遠くも無いので人の流通もさほどではないが、皆無でもないといった所。
 ただ。小さいながらも温泉を有していた事で、目をつけた鬼たちが襲来し、今は沈黙の村と成り果てていた。
 時折、子供のような姿がうろついているが、それは人ではなく。頭上に生えた角がその正体を語る。
 その彼らは村の一角に拠点を置き、そして頻繁に出入りしていた。
(「どうやらそろそろ動きがありそうね」)
 見付からないよう身を潜めながら、梔子陽炎(eb5431)は彼らの様子を見張っていた。傍らには柴犬の柴影と梅夜叉が控え、陽炎が鬼たちに注視している間も、それ以外の場所に異変が無いか気を配っていた。
 そうこうする内に、家の中から小鬼たちが飛び出てくる。その数は全部で二十。彼らが騒いでいると、その只中に人間の女子供が引き摺りだされてくる。大人子供合わせて十名ほど。一様に紐で括られ縛られ、一定以上身動きできないようにされている。
 そして、最後出てきたのは山鬼。堂々たる体躯は、並以上に鍛えられている。厚い鎧を苦も無く着込み、手にした槍を持つ腕は太い。ぱっと見でも、そこらの野山に適当に居を構えてるだけの山鬼とは訳が違う。
「グオオオオ!!」
「ゴブ! ゴブゴブ!!」
「ゴブゴブゴ!!」
 山鬼が吼えると、小鬼たちも各々の得物振り上げ騒ぎ立てる。俄かに騒然となる村の中で、囚われた人たちはただ青い顔をしたまま俯いている。憔悴の色が濃く、抵抗する気力も残っていないのか。
(「柴影。向こうの彼の所に行って援護をお願い」)
 小声で促すと、犬も分かっているのか。ピンと耳を立てただけで吼えもせずに動き出す。
 それを見送った後、陽炎も残る梅夜叉を従え動き出す。

 鬼に捕まった人を助け出して欲しい。そう頼まれ、村への訪れた冒険者は四名。敵の数を聞けばけして気の抜ける人数ではないだろう。
 だのに、その鬼たちに挑もうというのはただの一人。しかも真正面から。
 比叡山へと帰るにあたり、獲物引き連れ村から出ようと歩いていた鬼たちは、燃える炎に気付き、そして彼の存在を目にして足を止めた。
「さて気付いたべな。逃げられる前に捕まえるのは甲虫も同じべさ」
 ジョンガラブシ・ピエールサンカイ(ec2524)は長弓・梓弓に三本の矢を番えると全て同時に放つ。事前にオーラエリベイションで士気を高め、精度を上げた矢は狙い違わず三本とも小鬼たちを射抜いた。
「ゴブ! ゴブゴブ!」
「グゴオオ!!」
 矢を射掛けられ、鬼たちも平静ではいられない。すぐにそれぞれが武器を振り上げ鼻息も荒く、ジョンガラブシへと襲い掛かってくる。
 その集団の只中、飛び込むのは陽炎に言われて援護についた柴影。ジョンガラブシも素早く次の矢を、やはり複数番えると一気に解き放つ。
 小鬼たちの動きは素人そのもの。ジョンガラブシに狙われれば避ける事も出来ずに深く射抜かれている。
 が、やはり多勢無勢。倒れた仲間の仇を討たんと矢を番える間にも、鬼たちは勢いを増して迫ってくる。
 さらに、
「グオオオオ!!」
「ぐはっ!!」
 迫った山鬼に向けて、二本の矢を撃つ。だが、着ている鎧に阻まれ軽い傷しかつかない。
 そして山鬼は間合いまで一気に駆け込むと手にした槍を突き出す。怒りの形相で力の限りに繰り出されれば、ジョンガラブシの身が鋭く射抜かれた。
 開いた穴は軽くは無い。次の一撃を刺される前にジョンガラブシは距離を開けると、傷を癒すべく薬を呷る。
「ブラック!」
 待機させておいた馬の手綱を引き寄せまたぎ、駆け出す。まだ若いが戦闘馬としての訓練は受けている。鬼に囲まれて多少不安そうにしながらも、ジョンガラブシの動かすままに走り出し、その後を柴犬が従う。
「ガウ! ガウウウ!!」
 山鬼は吼えると、槍を振り上げ追いかけてくる。小鬼たちも首領の後を遅れないよう一生懸命付いてきている。しかしその数は先の半数。おまけに捕まった女性たちの姿も無い。
「プロフェッショナルな筈だったが本調子でなかったか。まぁ、目的は出来てるようなんでええべな」
 ジョンガラブシを捕まえようとしているが、さすがの鬼たちも獣の速度にはついていけない。それをつかず離れず気をつけながら、ジョンガラブシは油を染み込ませた藁に火をつける。
 燃える炎が浴びせられ、小鬼たちが慌てて騒ぎ出すのをジョンガラブシは溜飲が下がったように笑ってみていた。

 残る鬼半数は、戦闘に参加する事無く囚われた女性たちを引き連れさっさと山へと動き出していた。
 不意の襲撃であったが、相手の数と山鬼の信頼でか、小鬼たちの態度は平穏そのもの。一応周囲を警戒しているが、殺気だった切迫感は無い。
「大丈夫です。ちゃんと皆さん無事ですし、小鬼たちも油断してくれてますね」
「では、行くわよ」
 空から小鬼たちの様子を窺がっていたツバメ・クレメント(ec2526)が状況を説明すると、潜んでいた陽炎は得たりと笑って指示を出す。
 主人の命を受け、柴犬が走る。いきなり現れて暴れ出した犬に対処しようと小鬼たちの注意がそちらを向いた。
 それを見計らい、屋根上に隠れていた陽炎が手裏剣を投げつけた。
「グギャ!!」
「ギャア!!」
 刺された小鬼が悲鳴を上げる。その様を見、さらに顔を青くして震えている人たちの元へツバメは文字通りに飛び込み、小太刀・霞小太刀で縄を斬り捨てる。
「大丈夫ですか!? 助けに来ましたからね!!」
 ツバメが声をかけるが、相手は震えて何も出来ない。状況の変化に耐え切れず、その場に座り込む者も。
「グギャア!!」
 そして、せっかくの獲物が解放されたのを知り、小鬼たちが取り返そうと斧を手にして邪魔者を排除にかかる。
「そうはいきませんからね!!」
 無造作に振るわれる斧を軽く躱すとツバメは素早く霞小太刀で斬りつける。シフールならではの身軽で宙を滑る動きに、小鬼たちは振り回されていた。
「早く! 皆さん、こちらです!!」
 解放されたものの身動きできずに居た人たちに、香月三葉(ec2942)が急いで声をかける。逃げる方向を促すと、それでようやく人々は状況を飲み込み、悲鳴を上げて走り出す。
「安全な場所は見つけてあります。そこまでは頑張って下さい!」
「カザハナを待機させてるから! 良かったら子供さんを乗せてあげて!」
 怪我の有無を素早く確認すると三葉が人々を先導する。走りづらそうな子供はツバメの駿馬に乗せて一斉に走り出した。
 獲物に逃げられ小鬼たちが面白いはずは無い。山鬼からの叱責もきっとあるのだろう。彼らもまた人々を逃すまいと追ってきた。
「意外にしつこいわね」
「深追いはして欲しくないのですが」
 ツバメに陽炎、そして梅夜叉も小鬼の追撃阻止に腕を奮うが、相手はなかなか諦めてくれない。相手の力量はたいした事無いが、数は向こうの方がまだ上。取りこぼした小鬼が脇をすり抜け、最後尾に手をかけようとするのを、飛来したツバメが素早く切り払う。
「一応細工はしてあります! ここを早く!」
 山の入った坂の途中。人々を先に逃がしながら、三葉はホーリーフィールドを唱える。
 必死に逃げる人々。それを追って小鬼たちもそこを通ろうとしたが、敵対する彼らは不可視の壁にぶつかり進めない。
「ゴブ!?」
 目の前にいる三葉にも手が伸ばせず、戸惑う小鬼たち。
 だが、三葉の魔法ではさほど大きな結界は作れないし、耐久も弱い。顔を見合わせていた彼らだが、獲物に逃げられるかと短慮を起こし斧を振り上げる。その一撃で砕け散るだろう。
 そうなる前に、三葉は用意してあった細工の縄を解いた。途端、支えを失った木が道へと倒れ込み、小鬼たちを妨げた。
 道を塞がれ、小鬼たちが戸惑う。木を乗り越えて後を追いかけようとする小鬼もいたが、
「ギャア!」
 進みかけた所で足を滑らせすっ転ぶ。敷かれた葉が妙な濡れ方をしており、怪しんで手に取れば油が掌についた。
 立ち止まった事で頭も冷えたらしく、小鬼たちが顔を見合わせる。
 その間にも一同は脇目も降らずただただ逃げ続けていた。

 敵の数が多く、山鬼が手強いとはいえ案外何とか倒せたかもしれない。
 が、今回は人々の安全優先。山鬼たちを撒いたジョンガラブシとも合流すると、後は様子見で息を潜める。
「やっと諦めて山に帰ってくれましたよ。もう戻って大丈夫です」
 鬼の動向を見ていたツバメと陽炎が戻ると、ようやく人々は緊張を解いて、安堵の涙を流す。
 だが、村に戻っても多くの者が命を失っている。逃げた人々が戻ってくるのにも時間がかかろう。
「鬼に囚われた人は何とか無事でしたが‥‥それで全てよしとは言えませんよね」
 陽炎の申し出で、亡くなった人たちを丁重に弔う。並ぶ墓の多さに、三葉も複雑な思いに囚われる。
「民も守れぬ国では難しいな‥‥。王が弱く乱が起こるのか、乱が起こるから弱いのか‥‥」
 ジョンガラブシの呟きに答えられる者も今は無く。
 それでも、生きて再会を果たせた者は無上の喜ぶと感謝を述べている。
 その笑顔に癒されながら、依頼料を受け取ると一同は京へと戻った。