そこに猫がいる限り

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:2〜6lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月07日〜12月12日

リプレイ公開日:2004年12月17日

●オープニング

「困った事になりましたんです、はい」 
 冒険者ギルドを訪れた途端、係員相手に亭主は大弱りに汗を拭く。
 亭主は酒問屋を営んでいる。この度、自慢の倉に仕入れた酒は『化け猫冥利』。珍しい事にマタタビ酒だ。
 越後屋が販売しているのを聞きつけ、試しに仕入れてみたのだが、販売前から押すな押すなの大盛況。
 ‥‥ただし、その相手は人ではない。
 化け猫が好むとはよく言ったもの。化け猫ほどには強くないが、同じく猫妖怪である『すねこすり』が集まりに集まったり三十匹!
 どうやら樽の一つが破損しているのに気付かず、放置していた所を嗅ぎつけられてしまったらしい。運が無い事だ。
「その酒のせいでしょうね。酒倉からすねこすり達が出てくれないんですよぉ。何とか倉に入ろうとすると、すねこすりがじゃれ付いてきて転ばされてしまいます。おまけに最近では化け猫まで住み着いてしまい‥‥」
「化け猫?」
 問いかける係員に亭主は頷く。
「ええ、金茶色の毛をした大きな山猫です。というか、山猫の姿をした人間みたいな感じです。会話できるんで、せめてそちらだけでもお引取り願うよう頼んだら、入ったはいいけどすねこすりに囲まれて出れない状態だそうです」
「何だ、それは?」
「私に聞かないで下さい‥‥」
 怪訝顔の係員に問われて、しくしく、と泣き始める亭主。
「倉の中でもう猫らは好き放題に酒呑んでるんですよぉ。そりゃ、元凶の酒が無くなれば奴らも消えるでしょうけど、一応アレだって売り物なんです。欲しいと云う人もすでにいますし、むしろ急いで在庫確認して仕入れ直さなきゃいけないのに。それに、あの倉には商売用の他の酒だって置いてあるんです。それが取り出せないだけでもえらい損害なんで‥‥」
 いい年した亭主だが本当に弱っているのだろう。係員にしがみつくと泣いて訴えだす。
「困って無理矢理追い払おうとしたら、化け猫は怒って物投げつけてくるし、すねこすりもぎゃあぎゃあうるさいしで。とにかく、すねこすりも化け猫もすーっかり出来上がってしまって手が付けられません。何か、素面ン時より凶暴になった感じもしますしー。というか絡み酒?」
 ぜはー、と深いため息をついて亭主は告げる。憔悴の色がその顔には濃く出ている。
「なんで、お願いします。あの倉にいる猫たちをどうにかしてもらえないでしょうか??」
 そう言って亭主は頭を下げた。

●今回の参加者

 ea0213 ティーレリア・ユビキダス(29歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea0416 漸 皇燕(37歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1057 氷雨 鳳(37歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea1956 ニキ・ラージャンヌ(28歳・♂・僧侶・人間・インドゥーラ国)
 ea5414 草薙 北斗(25歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea7055 小都 葵(26歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea7514 天羽 朽葉(30歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea7786 行木 康永(40歳・♂・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 酒問屋の酒倉に集まった猫たち。ただの猫でも数が集まると厄介だが、よりにもよってここに集ったのは妖怪・すねこすり。に、加えて化け猫(?)一匹。
 ただのマタタビでも、置いていたからとて必ず猫が来る訳でない。ましてや妖魅が現われるなどさらに確立は低い。まったく運のない話だ。
「で、捕獲の為の綱などを用意してもらいたいのだが‥‥」
「ええ、ええ。承知しております。こちらで用意できるのなら何なりとお申し付け下さい」
 頼む天羽朽葉(ea7514)に、依頼主たる酒問屋の亭主は平身低頭に冒険者らに告げる。
「おやま。だったら、ついでに頼んでもよかったか」
 言って、事前に購入した乾物などを見る行木康永(ea7786)。同じように思う者も少なくなかった。
 依頼人が追加料金を出してくれるかは交渉次第で当てには出来ない。が、何せ今のままでは商売にならない。年末のこの時期、酒を売れないとなると大損害確実でそれこそ一秒でも早く解決してもらいたいと、向こうも必死らしい。
 が、
「じゃ、すねこすりたちをおびき寄せる為、化け猫冥利一樽頼む」
 あっさりと告げた漸皇燕(ea0416)に、さすがの亭主も硬直した。
「い、いえ。しかしですね。手前が購入したマタタビ酒は全てあの酒倉に納めてまして‥‥」
「だったら。また新たにどこかから買ってきて欲しい。これ以降の損失が樽一つで済むなら安いものだろう?」
 にっこりとした笑みは反論許さず。あくまで姿勢を崩さない皇燕に、亭主が折れてがっくりと肩を落とす。化け猫冥利は、決して安くは無い貴重な酒。樽となるとまた結構な値段となる。
「その化け猫冥利だけど、格安で譲ってくれねぇかな? いや、猫が口つけて売り物にならなくなったのでいいんだけどさ」
「ふむ。酒はある方がいいし、だったら美味い方がいいし。特別大好きであるとか酒なんか飲めるかこの野郎とか一滴も駄目で無く‥‥」
 康永の頼みに、皇燕がつらつらと繋げてみたりして。
「‥‥がんばってみましょう」
 亭主、観念したように告げる。‥‥心なしか、頬に光る跡を見た気が。

「猫さん! 猫さんですの!! すねこすりさんも可愛いですのー!!」
 扉を開けた途端、倉の至る所にすねこすり。ついでに化け猫までいて、ティーレリア・ユビキダス(ea0213)の顔が喜色満面に輝いている。
「猫さんに‥‥小さい猫さんもいっぱいですね。‥‥あ、ティーさん。楽しそうなのはいいのですが、危ない‥‥」
 立ち込める酒気を吸わぬよう、濡れた手ぬぐいで口や鼻を防御する小都葵(ea7055)。倉の中の光景にいささか目を丸くしていたのだが、隣のティーレリアが勢い余って前に出かけたのを、おっとりと宥めかけ‥‥。
 それより早く。すねこすりたちの目がきらりと光ったかと思うと、一斉にティーレリアに走り寄ってきた。
「うきゃあああああ♪?!」
 足元をすりすりと擦り寄られ、驚く間も無くティーレリアが前のめりに倒れる。わらわらと群がってくるすねこすりから慌てて周囲がティーレリアを助けると、興味を失ったすねこすりたちは即行でまた酒樽へと擦り寄っていった。
「美味い酒が好きなのは、人も猫も妖怪も同じか。とはいえ、酒倉に押し入りタダ酒を飲んで潰れるとは‥‥世話の焼ける奴らだな」
「はっはっは〜。羨ましかったらこっち来て飲むか〜?」
 酒樽の周りですねこすりらは各々寝転んだり、酒を舐めたりと好き放題。それを見て呆れていた皇燕に、何とも気の抜けた調子で声がかけられる。
「久しぶり〜。相変わらず名無し? なんか思い出せないの? 何だったら勝手に呼んじゃうよ」
「おう、気にすんな」
 軽く手を振る草薙北斗(ea5414)に、倉庫の奥で手を振り返す大きな――明らかに人の大きさの猫一匹。毛で顔色も分からないが、転がった酒樽からして結構飲んでいるようだ。
「気にしなきゃいけないのはキミの方だよ。‥‥何か前の時、運が悪かったらって言ってたらしいけど、本当にそうなったみたいだし」
「まーな。けど、不便は無いし、美味い酒にもありつけてそれ程悪かねぇぞ〜」
 くつくつと笑う猫。とはいえ、転がってる酒は売り物で、でも気にして無い様子に一同頭を抱える。
「化け猫冥利を見つけた時から何かありそうとは思ってたけど。予想を裏切らない人だねぇ」
「いやぁ、そんな褒められても〜♪」
「褒めてない。褒めてない」
 同じく苦笑する康永に、上機嫌で猫はにまりと笑う。
「話は出来るようだな。だったら、すねこすりの捕獲を手伝ってもらえないか」
「‥‥といっても、見ての調子で動けないんだよねー」
 頼む朽葉に猫は軽く肩を竦める。
 地べたに座り込んでいる猫の周囲は、すねこすりがごろごろと寝転がっている。猫が動く度にぴくぴくと反応しているので、やはり動きを見せればこすりつくつもりらしい。
 その程度で怪我する猫では無いが、転んでばかりではまともに動けないだろう。何より、こうも飲んだくれていてはすねこすりがいなくてもきちんと歩けるか分からない。
「嘆かわしい。酒というのは味わうもの。飲んでも飲まれるな、というだろう」
「へぇへぇ」
 酒気に顔を顰めつつ氷雨鳳(ea1057)が窘めるも、おざなりに猫は返事するのみ。
「動けなくてもさ。すねこすりたちを説得するって事は‥‥やっぱ無理だよね?」
 軽い気持ちで聞いてみた北斗だが、意外にも猫の方は真面目な顔してすねこすりと向き合う。
「にゃー? にゃーにゃー?」
「ミャー」
「ニー」
「え!? 話せるの」
「いんや、さっぱり分からん」
 驚いて声を上げた北斗だが、やっぱり至極まぢめに返されて肩を落とす。落ちた肩を康永が嘆息交じりで慰める。
「邪魔にならないならそれでいいじゃねぇか。と云う訳で、後で魚の乾物にマタタビも付けるから、そこで俺たちの活躍を見ておいてくれよ」
「おう。それじゃ、それまで大人しくこっちで飲んでるよ〜」
「「「「「「「「飲むなーーーーーっ!!!」」」」」」」」
 康永に対してへろっと答えた猫に、冒険者一同の声が見事に合致した。
「奥の化け猫さんはよいとして。すねこすりはどうにかせなあきまへんなぁ。とにかく、一匹ずつ捕まえてみましょか」
 嘆息すると、ニキ・ラージャンヌ(ea1956)はミミクリーの詠唱に入る。黒く淡い光に包まれると、文字通り手を伸ばして手近なすねこすりを捕まえた。酔っているせいか、捕まるのは簡単だったが。
「うわわ! 堪忍しとくれやす」
 伸びた手に興味を示してか、周囲のすねこすりがじゃれ付いてくる。わらわらと手に集まる他のすねこすりを適当に相手しながら、どうにか一匹を手元まで運び込んだ。
「ほい。一匹捕獲っと」
 北斗がすかさずすねこすりの手足を縛り首輪を繋ぐ。可哀想な気もするがそうしないと倉の中にまた戻ろうとする。
 そのままニキは二匹三匹と摘み上げるが、敵もさるもの。危ないと感じてか倉の奥や樽の陰へと逃げ込んでしまった。
「あかんわ。このままやったら届かへん。かといって踏み込むんもまだ危なそうやし‥‥」
 逃げた癖に、一歩でも倉に入ろうものならこすりつく気満々らしく、興味深げな目で冒険者らを凝視している。敵意は感じないが、なんというか楽しまれているようだ。
「何かでもうちょっと手元に寄せられへんやろか」
「うーむ。酒で釣ろうと思ったけどこれは効果薄いようだし」
 皇燕が店主に用意させた化け猫冥利を入り口にて振舞うも、猫たちはさほどの興味を示さず。変化といえば、鳳と葵がさらに距離を退いたぐらい。
「そもそもの酒が傍にあるし、匂いが充満してるからな。せめて空気を入れ替えられたら、また反応は違うだろうけど‥‥」
 朽葉は嘆息する。換気しようにも窓の類は大概中から開閉する。せめてと入り口を開け放つが、どれだけ効果があるか。
 それに倉を開けっ放しにしていると、中の温度も変わり酒の味も変わってしまう。遠くの方で亭主が涙目でそっと見守っているし、損害も考えるといささか心苦しくなる。
「酒は難しいようだけど、餌ならどうだろう? 魚か何か‥‥」
「とりあえず、保存食で様子をみるか?」
 辺りを見渡す朽葉に、笛を吹いてすねこすりを宥めていた鳳が、その手を休め荷を開ける。
 朽葉が頷くと、倉の前に保存食を置いてみる。すねこすりたちが興味深げに見ているが、警戒してるのか、まだ近寄ろうとしない。そこで朽葉は思い立ち、手ぬぐいを取り出してひらひらと振ってみた。
 ぴくん、とすねこすりの耳がたつや、四方から一斉に朽葉に襲い掛かってくる。よじ登られ、飛びつかれ、足元を擦り付けられて転倒する。
 かろうじて手をつき体を支えたが、体勢を整える前にさらにすねこすりたちに擦りよられて。
「うわわわーーー??♪」
 あっという間にすねこすりまみれになる。こすこすとすねこすりが朽葉に擦り寄っている内に、ひょいひょいとニキはさらにすねこすりを確保していく。
 伸びる手を逃れてまたもやすねこすりは倉の中へと退散。‥‥しっかり餌は持ち去っていた。
「大丈夫か?」
「何とか」
 手を貸すと、朽葉がよろめいて立ち上がる。全身足跡だらけにされたのに、ちょびっと嬉しそうなのは何故でせう。
「ようするに。立っているから危ないのです! 最初から転んでいけばいいんです!」
「‥‥あの、本当に行くのですか??」
 硬く拳を握り締めて奮起するティーレリアの胴に、葵が綱を巻きつけながらも心配そうに告げる。
「はーい。猫さん、行きますね〜♪」
「‥‥マジ?」
「らしいな」
 準備万端なティーレリアに、康永と取り留めの無い会話をしていた猫が唖然と告げ、皇燕は苦笑してお手並み拝見とばかりに手近な場所を陣取って酒を飲む。
 にじにじと匍匐前進で倉を進むティーレリア。やはり、すねこすりはわらわらと群がってくる。確かに転ぶ心配は無いが、すねこすりにたかられ、あっという間に山に埋もれる。
「「「そーれ、引っ張れー」」」
 苦笑しながらも康永と皇燕に北斗が綱を引くと、ずりずりとすねこすりの山からティーレリアが引き戻される。逃げたすねこすりも当然多いが、数匹を綱に絡めて自身の腕にもまた数匹捕まえている。
「さあ、この調子でどんどん行きましょうね♪」
 毛まみれの足跡だらけ、歯形も幾つか。それでもすねこすりに頬擦りしながら、ティーレリアは元気に笑う。
「やっぱり猫好きにはたまらない状況なのかな? ティーレリアさん、楽しそうだね♪」
 のんびりとティーレリアを見届けながらも、北斗は連れ出したすねこすりを捕まえる手は休めない。その横では、マタタビで興味を引きつけていた葵はただ苦笑するのみ。
 何度かずりずりと出たり入ったりを繰り返している内に、すねこすりの数は確実に減っていく。
「猫さーん♪ お久しぶりです、元気してましたかー?」
 胡散臭そうに見つめる猫に負けず、体を起こして挨拶するティーレリア。そのまま猫の方へ近付こうとしたが、その気を逃さず、やっぱりすねこすりは擦り寄ってきて‥‥。
「きゃあ!」
「危ない!」
 足をもつれさせて転倒するティーレリアを、すかさず猫が庇う。
「おい、大丈夫か?」
 目を丸くしているティーレリアに下敷きにされたまま、猫が問いかけるが。
「さ‥‥」
「さ?」
 呆然としたまま、何事かを呟くティーレリアに、猫は訝る。
「三度目の正直〜〜〜♪♪」
「ぎゃああああーーー!!!」
 倉の中、満面の笑顔で抱きついてくるティーレリアに猫の叫びが木霊する。だが、すぐに抱きついていた感覚が微妙に変化し、ティーレリアは顔を上げた。
「あー畜生、酔いも醒めちまったじゃないか」
 見れば、抱きついているのは人型の猫ではなく、ただの茶髪の青年に変わっていた。
「あぅ。猫さんが猫さんじゃなくなりました〜。猫さんがいいです〜」
「ヤナこったい。何の義理があって‥‥」
「だって、お友達じゃないですか♪」
 にこりと告げるティーレリアに、何故か嘆くように猫は天を見上げた。

 それからも、ティーレリアの綱引き(?)とニキのミミクリーですねこすりの数を減らすと、後は康永がフレイムエリベイションで直接追いかけ捕まえる。
 どうにか、すねこすりを外へ全て連れ出し、猫も酒倉から追い出した所で皇燕が酒倉の扉をきっちりと閉めた。
 その後、場所を酒問屋宅に移し、ひとまずは休息をとる冒険者たち。
「マタタビはそんなに長い時間はきかんはずやし。酒気の方もどかしてしもたら、後はそんなに動かれる心配は無い思いますけど‥‥」
 まだ酔いの中にいるすねこすりたちに水を用意しながら、ニキは考えつつ告げる。
「‥‥でも、倉の中の掃除はしておかないとダメでしょうね。せめて匂いは残らないようにしておきませんと。‥‥猫さんも手伝ってくださいね」
「うえ。なんか、頭がぐらぐらするんだけどな〜」
 にこりと笑う葵に、やはり彼女が用意した酔いさましのお茶をちびちびと飲んでいた猫は嫌な顔をする。
「飲んでばかりじゃ当然だろ。ま、水でも被るんだな。何だったら気合を入れてやろうかい?」
 拳にオーラを集めたのを見て、猫がじろりと皇燕を睨む。やるならやり返すぞ、と無言の通達だ。
「飲んでばかりじゃダメですよ。ちゃんと食事もしなきゃ、と云う訳で保存食ですがどうぞ。‥‥そういえば、お仕事しないんですか?」
「きちんと清掃されるようでしたら、ここで働かせてもらえないか口訊いてみますけど‥‥」
 ティーレリアの問いかけに葵も告げると、うざったそうに猫は手を振る。
「いらん、いらん。当分、酒の匂いは嗅ぎたくない」
 自業自得。ジト目で睨んでた冒険者たちだが、そこに倉を調べると言っていた亭主が戻ってきた。
「此度は誠にありがとうございました。おかげでどうにか営業できます」
 頭を下げる亭主。だが、その顔は晴れやかとは素直に言いがたい。
「報酬金はこれに。で、確かにこれだけと云うのもいささか失礼とは思いますが、今回の件、損失も大きいようで、また年末は酒の需要も多く何かと忙しい時期ですので‥‥」
「あー、つまり。お土産は期待するなと言う事だろ?」
 苦笑して康永が告げると、深く亭主は頭を下げる。すねこすりたちが飲み散らかした化け猫冥利も、毛やら泥やらで飲めたものではなく、無事なものはすでに売り手が決まっているらしい。他の酒にしても経営状態を考えるとちょっと気安くは出来ない状態と云う。
「ま。しょうがないだろ。無くなったもんは」
「‥‥お前が言うなよ」
 けろりと告げる猫に、冒険者一同ジト目で睨みつけた。