新撰組四番隊 〜偽志士狩り〜

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:5 G 55 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:08月18日〜08月23日

リプレイ公開日:2007年08月26日

●オープニング

 水無月。長州との会談の最中、現れた鬼の大群。
 率いるは、比叡山は鉄の御所にて其の名知られる酒呑童子。多数の人喰鬼を従えた彼らをかろうじて追い返しはしたものの、負った手傷は大きかった。
 明けて文月。手筈整え、酒呑童子討伐の勅令が下る。新撰組が中心となり比叡山へ登ったが、難攻不落と言われた鉄の御所を落すには至らず。蔓延る鬼を屠り多数が生還したものの、死傷者も多数出した。
 都の警備はほぼ新撰組が負っている。鬼の報復を恐れた一部貴族にせっつかれて警備を続行しているが、受けた手傷は大きく、万全の状態とはいえない。
 加えて、長州やら鬼やらと大きな動きが続き、警戒もついはそちらに向く。
 だが、その間にも小物は動きまわっているのである。


「大店を巡って、自分たちは志士であり治安維持に必要だと金をせしめている連中がいる」
 冒険者ギルドに現れたのは新撰組四番隊組長・平山五郎。比叡山に向かった一人でもあり、浅葱の隊服で隠そうともその時負ったらしい傷が目立つ。
「払わないとあの家は長州勢に加担する反朝廷の輩だと吹聴したり店先で暴れたりするので、店としても迷惑にする。幸いというべきか、要求してくるのは払えない額では無く、何より最近の世情不安などから志士さまの手伝いになるならと、大抵の商家は支払っているようだ。
 もっとも、払えるのは商家が金を持っているからで、普通だと結構な値段になるがな」
 平山が鼻で笑う。金を持ちすぎていると金銭感覚も狂ってくる。商家にとっては小銭程度でも、一般には十分遊んでいられる額らしい。
「問題なのは、調査した結果彼らは志士でもなんでもなく、単なる騙りだと分かった事だ。
 このまま放置しておいては、志士の――ひいては朝廷、神皇さまの威信にも関わる。そもそも新撰組が組織された理由の第一がそうであるならば、見過ごす訳にはいかない。
 それに彼らに金を取られた幾つかの店では、前々から資金を提供してくれていたのだ。善意に対して悪行を行う者たちを捨て置いては、恩を仇で返す事になる」
 四番隊が商家を回って度々金をせしめていたのはよく聞く話。資金提供というがもっぱら何に使われていたのかは不明だが。
 もっとも、今となっては源徳家康も三河に落ちて再起を図る身。後ろ盾がこうなっては、組の資金調達としてこれまで以上に商家からの援助もまた重要となるだろう。援助してもらう以上、助けないとあっては組の名に関わる。本音はそんな所か。
「偽志士は五人組。奴らがどこの商家に現れるかは不明だ。一度だけ顔を出す店もあれば、何回か顔を出してきた店もあるらしい。とはいえ、内三名ほどの面は割れている。それを頼りに捜査すれば、何とか見つける事は出来るだろう。が、それには人手が必要だ。
 あいにく四番隊は先の比叡山参りの負傷で動けない。他の隊も同じく負傷で動けない者や、動けても他の仕事についている者が多くて拉致があかない。なので、こちらに手を借りに来た」
 比叡山に行ったのは平山も同じだが、どうやら怪我を押して動いてるようだ。その胆力に感心するやら呆れるやら。
「具体的な方法は任せる。が、奴らを見つけても殺してはならない。単なるごろつきだろうが念の為に背後関係を問い正す必要はあるし、奪った金品も全て使い果たしたとは思えない。ありかを白状させて没収しなければ」
 生真面目に平山は告げる。
 没収した金をどう使うつもりなのか‥‥。まぁ、この際考えないでおこう。

●今回の参加者

 ea2246 幽桜 哀音(31歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea4591 ミネア・ウェルロッド(21歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea6526 御神楽 澄華(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea8802 パウル・ウォグリウス(32歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb1422 ベアータ・レジーネス(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 eb1645 将門 雅(34歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb2257 パラーリア・ゲラー(29歳・♀・レンジャー・パラ・フランク王国)
 eb5818 乱 雪華(29歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)

●サポート参加者

将門 夕凪(eb3581

●リプレイ本文

「久々の京都はこ〜はいしてそ〜でしたっ」
 依頼内容を確認しながら、新撰組五番隊のますこっと隊士・パラーリア・ゲラー(eb2257)は軽い口調でそう告げる。
 幾度もの戦火に先だっては無数の高位鬼の襲撃。こうも大事が重なれば、『してそう』どころかいっそ『壊滅しました』となってもおかしくはない。それらをどうにか乗り越え日常を過ごせるのは、京にて治安維持に勤しむ者たちの賜物と言っていい。
「京都が大変なのに、せこい事をする方も多いんですね」
 怒るべきか、呆れるべきか。乱雪華(eb5818)はそんな微妙な表情を見せている。
「前々から偽志士騒動はありましたが‥‥ますますの混迷下でなお私欲に走ろうとは捨て置けません」
 御神楽澄華(ea6526)は憤り露に、不快の色を見せる。
 そんな澄華を黙って見ているのが今回の依頼人である四番隊組長の平山五郎。彼女が京都見廻組というのが、少々気になっているようだが、特には何も言わず。名実共に京一番となった新撰組として、他組織はどうでもいいと言った感じだ。
 そして、そんな平山を心配そうに見ているのが幽桜哀音(ea2246)と将門雅(eb1645)。
「無茶したらあかんとは言うといたけど。聞く耳無いお人やしなぁ」
 苦虫を潰した表情で、雅が考え込む。負傷者の手当てに訪れていた将門夕凪も治療を行おうとしたが、隊士を治すのが先と拒否。心配した彼女からの忠告を伝えはしたが、さてこの態度をどう報告したものか。
「無理せず休んだ方が‥‥良いのに‥‥。‥‥とも言ってられない、のかな‥‥」
 京の情勢を思い馳せる哀音。
 長州とのいざこざはひとまず会議でケリがついたが、他にも京周辺不穏な話は山のようにある。比叡山にしても大将の腕を取られたのだ。いつ意趣返しに来てもおかしくは無い。
 そんな時期に、安穏と大勢がへたばってはいられない。そういう事だろうか?
「偽志士狩りは新撰組の本業だけど、ミネアは入隊してからやるの初めてだなぁ〜♪ 初心に返って頑張らなきゃ♪」
 新撰組三番隊仮隊士であるミネア・ウェルロッド(ea4591)は張り切っている。新撰組のそもそもの結成動機は増えてきた偽志士たちを抑えんが為。今や起こる事件もそれを超えたモノも増え、組の対応もそものしがらみを気にする必要などなくなっていた。


 調べはある程度進んでおり、偽志士の被害にあった店やその日時なども簡単には分かった。
 偽志士たちは五人組。その内三名が店主と向き合って交渉しているので、面が割れている。
「残り二名は外で見張りをしているというので、踏み込まれた日時が分かっている店舗を調べてパーストをかけてみた。こちらに特徴を抜書きしてある」
 店舗を調べてきたベアータ・レジーネス(eb1422)が手がかりを渡す。が、その顔はどこか浮かない。
「彼らがその店に来た後どこにいったかも調べて見たが‥‥。これはなかなか難しいね」
 専門とはいえ、パーストで過去を見れる時間は長くない。おまけに経巻では魔力の消費が大きい為、数回で限界になる。また、店の後もどこか別の場所をふらつく事を思えば、かなり分が悪い。
「そんで被害額も聞いたけど、少なくて十数両。多いと数十両ってとこやね。確かに結構な店構えだけあって、そんぐらいはほいと出せる店ばかりやったわ」
 雅が軽く肩を竦める。加えて、奴らが訪れた回数は一回こっきりではなく、数回支払った店もある。一体どれだけの学が、偽志士の元に渡ったのか。
 京の地図に被害状況を照らし合わせ、その中に雪華はダウジングペンデュラムを垂らす。
「ひとまず、振り子はこの辺りを示してますけど」
 地図の一区域をぐるりと雪華は指し示す。
「被害があった地域から考えても、そんな所だろうな。警戒して無いなら、近辺に出没しそうだ」
 同じく地図を眺めていた新撰組一番隊・番外番のパウル・ウォグリウス(ea8802)も一つ頷き、立ち上がる。
 十手を軽く回して装備すると、向かう先は酒場。貰った金を貧しい者に配るような義侠心ある者は、そういない。騙り者が金を手にしていく先など大体相場は決まっている。
「いよー。景気悪そうな面して。ぱーっといこうじゃないか」
 遊び人パウル参上。その手の情報が集まりそうな酒場に入ると、盛り上がっている卓にお邪魔する。貴族の心得である程度社交術も心得ている。相手に酒が入っていた事もあってすぐに打ち解けて一緒に騒ぎ出していた。
「そんで、最近金払いが良かったり、酒とか飯を纏めて買うような武士とか志士さんとかの話しらないか?」
 そして、頃合を見計らい偽志士について切り出す。
「最近羽振りのいい殿方を御存知ないですか?」
「そうだな。俺なんてどうだ?」
 柄の悪そうな酒場では、澄華も客相手に情報を集めていた。髪は結い上げ、着物は着崩し気味。ついでに傷が癒えておらぬ身の彼女を格好の餌と見たか。声をかけた男は、澄華を隣に座らせると遠慮無しに肩に手を回す。
「家が落ちぶれ、かなりの金子が必要なのですよ。そういう方を教えて下さるだけでも嬉しいのですが‥‥」
 撫で回してくる手をそれとなく外しながら、胸元をはだけて挑発。
「んー。そうだな。そういえば金回りが良くなった奴が‥‥」
 上機嫌の男がべらべらと喋る中に、有益な情報が無いかしっかりと聞き取りながら、小柄を確認。身の危険の前にどう退くかを頭の中で計算しておく。
 酒場以外でそういう輩が遊んでいそうな場所としては遊郭がある。そちらには。哀音やパラーリアが出張っている。
「つまり‥‥この辺りで‥‥最近見るようになった‥‥と?」
「だな。遊び方も知らん田舎者がどこで金掴んだんだか」
 男物の衣服で遊郭を歩いていた哀音。店の人間に直接訪ねても、顧客の話はなかなか漏らしてはくれない。ならばと、店先の客を捕まえて偽志士の人相を告げれば、知っているという声がちらほら。
「そんじゃさー。その人たちがたむろってる場所とかー、塒にしている宿とかしらない?」
 明るい声で告げるパラーリアに、相手は首を傾げる。
「さあ。野郎には興味ないし。じゃ、そろそろ」
「ありがとうございます。‥‥これ些少ながら‥‥出来れば探している事も内密に‥‥」
「お、悪いね」
 お礼に口止めを兼ねて、哀音が金を渡す。機嫌を良くした男はすぐに近くの店に入る。渡した金はどうやらそこに消えるようだ。
 狙いは外れておらず。当たりをつけて聞いて回り、情報を仕入れていけば、偽志士たちの足取りを聞くことが出来た。
「じゃ、こっからは尾行班よろしくって事で」
「はいさー。こっちが本題で行ってきま〜す♪」
 豪遊している場所が分かれば、後は時期を見て偽志士が来るのを待つ。彼らがどこを塒にしているのか。帰りを待って、ミネアがその後をつけて行った。


 偽志士たちは酒場や遊郭を転々として手に入れた金で遊びまわっているようで、居場所は特に定まらず。その上で金が無くなったら、商家にせびりに向かっているようだった。
 どうやら金が無くなったらしい偽志士たちが商店が並ぶ通りへと向かい出す。踏み込む時期が無いか、尾行を続けていたミネアが行く先に当たりをつけると、皆に知らせに走る。
「店主はいるか? 我らは、神皇様に仕えし志士である」
「はいはい、ただいま」
 通りで一番大きいと思しき商家。三名が店舗に入り、二名が道に睨みを効かせている。
 胸を張って威張る偽志士たちは、確かに態度だけなら志士と見違えても仕方が無い。名乗りを信じて、店主は畏まっている。
「昨今の京の治安はまことに定まらず、不安が多い。都を守る為に我ら奮迅するも、恥ずかしながら手元が寒くては思うように動けぬ。都を心あるならば、幾許か用立てて貰えれば幸いである」
「治安維持の為の集金ねぇ? うちの店には来んかったようやけど後にでも来るん?」
 声を張る偽志士に、見張り二人の横を通って店舗に入った雅が、何気に声をかける。
「何だ貴様は!」
「うちは万屋・将門屋の店主で将門雅や。鑑定眼は確かなんやけど、どないする!?」
 愛想良く笑いながら自己紹介。‥‥したと思うや、小柄を引き抜き偽志士に斬りかかる。
「何をするか!!」
 急所はついたが、気絶させるには至らず。激怒した偽志士たちが腰の刀を抜き放つ。煌びやかな輝きからして、それまで偽物ではなかったようだ。
「騙り者を捕まえに来たに決まってるだろう」
「って、踏み込む前にお薬飲どいてってばさ〜」
 どかどかと店の奥から足音がすると、平山とパラーリアが顔を出す。どうやら裏から入り込んだようだ。
 着ているのは新撰組の浅葱装束。たちまち偽志士たちの顔色が変わった。
「ずらかれ!」
 頭と思しき偽志士が声を出す間もなく、皆が表へと駆け出そうとしている。
「そうはいかないよ!」
 しかし、表からはミネアの声。外に立っていた見張り二人が一早く逃げる前に太刀・薄緑を振るい、遠方から衝撃波を放つ。
「くっ!」
「逃がしは‥‥しない‥‥」
 痛みに顔を顰めたその偽志士に素早く哀音が回り込むと、素早く足元向かって斬りつける。
「殺しはしない‥‥けど‥‥痛い目は見てもらう‥‥」
 ぱっと上がった血しぶきにさらに偽志士が悲鳴を上げている。哀音は冷たく言い放つと、すっと場を譲る。
 そこに間合いを詰めたミネアが、今度は近接で気絶させようと急所へと打ち込んでいった。
 その間にも、もう一人の見張りは仲間も何も無く、逃げようとしていたが。
「ぎゃああああ!!」 
 走った先で、電気が走る。
「出入り口に仕掛けようとしたけど、ちょっと間に合わなかったようなんで。ま、中のが逃げられないよう今から仕掛けるけどね」
 驚き立ち直る前に、ベアータはアイスコフィンを高速詠唱。たちまち、目の前の偽志士は分厚い氷に覆われる。
 表の騒ぎは当然中にも響く。事態を悟った偽志士たちはそこから飛び出すのは止めて、他の場所から逃れようと店の中に散る。
「往生際の悪い!」
「どけ!!」
 パウルが偽志士の前に飛び出す。抜いた刃を無造作に偽志士は振り払う。
 迫った刃を十手まず受けると、もう一つの手の十手でやはり相手を気絶させようと殴りつける。
「納涼アイスコフィ〜ン。‥‥で、もう一人は?」
 逃亡阻止せんとする平山が偽志士と刃を交わす。その横からパラーリアが経巻を広げると、偽志士を凍らせた。
 残る一人を探せば、腰を抜かした店主が口を開閉しながら一点を指す。
 そいつは店の階段を駆け上がっていた。どうやら二階から外に出るつもりらしい。
 一同が追いかけ追いつくまでに、そいつは開いた窓から屋根へと飛び出る。
「やっぱり。待ってるもんよね」
 ババ・ヤガーの空飛ぶ木臼で上空を旋回していた雪華が、偽志士を見つけて飛び降りる。まさか空から人が来ると思ってなかった偽志士。虚をつかれて立ち止まり、その間に雪華は踏み込むと容赦なく急所を殴りつける。
「ぐふっ」
「あら?」
 ぐるりと白目をむいた偽志士。そのまま屋根から転げ落ちると、地面に激突する。
「あらあら。お大事に」
 地面でぴくりとも動かない偽志士に澄華が近寄る。呼吸はあるのを確かめると、そのまま寝ててねと小さく手を合わせた。

 偽志士たちを気絶させて縄をかけ、あるいは魔法で凍らせて動きを封じる。
「運が良かったわね‥‥。平山さんたちが本調子なら‥‥殺されてても‥‥おかしくはなかった‥‥」
 哀音が告げる。
 偽志士たちに裏が無いか、また盗った金品の行方を知る為に生け捕りにする必要はあったが、確かに一人二人死んでても別にかまいはしない。
 所持品を調べるが、出てきた金品は少ない。それなりの額はあったが、彼らが盗ったとされる金額には到底足りない。
「とりあえず。使ったお金の分は、まっとうな手段でお返し下さいね」
 笑顔で拳を鳴らす雪華。
「しょうもない奴らだ。どこかに隠しているようなら、死ぬ前に吐いてもらおうか。まっとうな手段で生きられるかはその次だ」
 そんな雪華を制すと、平山が毒づく。
「なぁ平山はん。商家から支援金が必要なら力押しやと駄目やで。商人ってのは損得勘定で動くもんや。新撰組、いやあんさんと付き合うと得やと思わせんとあかんよ。とりあえず、その金は返して恩を売るんもええんちゃうん?」
 こっそりと平山に雅が告げる。
「なんか、勘違いしてないか? 刀で脅し取る事はせんよ。商売人が損得で動くのは当然。奴らとて、新撰組が治安維持に、ひいては自分たちの商売に有益だからこそ資金を出してくるんだろうて。それに二束三文の金を返されても向こうには何の得もない。それなら組で貰い受ける方が京の平和にもなるだろう」
 対してあっさりと平山は返す。
「とりあえず、友好的にチャームで聞いてみようか?」
 パラーリアが経巻を取り出す。
 結局、それ以上の裏は無く、金品も無く。偽志士たちは屯所へと護送され、罪を問われる事になった。