死の流れ 〜死食鬼〜

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:5 G 55 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月19日〜08月24日

リプレイ公開日:2007年08月28日

●オープニング

 京都東方。悠々と流れる鴨側沿いで、死人が蠢くようになったのはいつの頃からか。
 四方で起きていた奇怪な事件。東では右腹に鉄の棒が打たれる死体が幾つも転がり、それに惹かれるように死食鬼や愛し姫などが姿を見せる。
 死体を作った犯人たちは分かっていたが、捕まえるには至らず。ただ、水無月会議からこちら、犯人たちは他の箇所含めて也を潜めている。
 かといって、怪異が鎮まった訳ではなく。それらが起こす事件はなお続いている。

 起き上がった死者たちは簡単に眠りにはつかない。昼も夜も閉じぬ眼を虚ろに開き、生気を求め、休む事無く動き回る。
 本能のままに川原をうろつき、近くに人間の気配がするや、たちまちの内に取り囲み襲い掛かる。
 そうして出来上がった死者がまた何かの拍子に起き上がり、動く死者は増すばかり。
「水は生活に欠かせないが、加えて連日の猛暑。涼を求めて水辺に訪れる人も多くなり、被害が増えている。これ以上放置する訳にもいかないので、至急討伐に赴いて欲しいとの事だ」
 死食鬼の数は多く、恐らく五十近い数がいるとの事。死人憑きはそれより少ないが、それでも二十近くはいるのでは、との話だ。
 ただ。彼らは流れる川沿いに広く散っており、一度に遭遇するのは一体〜数体程度でしかない。むしろ彼らをどうやって探すかの方が大変だろう。
「場所によっては見通し悪いところはあるし、奴らもどこにいるのか分からない。油断すれば、集まって取り囲まれる危険などもあるが‥‥何とかできるな?」
 よろしく頼むと係員は頭を下げた。

●今回の参加者

 ea1966 物部 義護(35歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4295 アラン・ハリファックス(40歳・♂・侍・人間・神聖ローマ帝国)
 ea5414 草薙 北斗(25歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea6415 紅闇 幻朧(38歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea9502 白翼寺 涼哉(39歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 eb0334 太 丹(30歳・♂・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 eb0451 レベッカ・オルガノン(31歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 eb2404 明王院 未楡(35歳・♀・ファイター・人間・華仙教大国)

●リプレイ本文

 鴨川沿いを歩く人の流れ。川は生活の基盤であるが、あるが故にその中に人でない者がいるのは大問題。
 うろつく死食鬼。彷徨う死人憑き。大量に歩き回るこれらをどうにかせんと、冒険者たちが駆り出される。
「本日の占い。太陽に注意しましょう」
「確かに当たりだ」
 レベッカ・オルガノン(eb0451)の明るい声に、アラン・ハリファックス(ea4295)は天を見上げる。
 夏の終わりというのに、気温は高く。遮る物が少ない河原では、否応無く日差しが肌を焼いてくる。気をつけないと、戦う前に暑さで倒れかねない。
「腐敗も速く進みそうだな。‥‥それで居場所が分かりやすくなるならいいんだが」
 死人たちも壮絶な外見になってそうだと、ややげんなりして物部義護(ea1966)が表情を暗くする。
「でも、その太陽からの返事は今一つなのよね。質問が難しいわ」
 レベッカが軽く弾いた金貨が宙できらりと光る。
 サンワードで死食鬼や死人憑きの場所を尋ねるが、率直な質問に分からないとの返事。多分、対象の数が多いからだろう。死体たちは鴨川の全域に散っている。残数がある程度分かればいいか程度にしか考えてないので、特に困らない。
 広く散っているが故に、どこでどのように出てくるか分からない。なので、索敵はかなり重要になる。視覚聴覚に頼る他、今回四匹の犬たちがその役目を助ける。
「太郎〜、分かりましたか? 変な臭いがしたら教えて下さいね?」
 明王院未楡(eb2404)が柴犬の頭を撫でると、相手は嬉しそうに尻尾を振っている。他の犬たちもやる気を見せて、あちこちの臭いを嗅ぎまわっている。
「ま、この辺りの目撃情報は無いからね。見かけたという話はもう少し上に昇ってからみたい。油断大敵だけど」
 酒場で聞いた目撃情報をもう一度確認するレベッカ。
「見てまわった感じだけど、都に近いほど多くなるみたい。やっぱり人の気配に惹かれるのかな」
 印象を告げる草薙北斗(ea5414)に未楡も頷く。
 先んじて地形を把握する為に、北斗はフライングブルームで上空から、未楡は韋駄天の草履を使って川沿いを地上から見て回っている。
 ちなみに、調べた地形で危険箇所などの情報は、地図に他の者の情報を合わせてすでに書き写され提供済み。
 軽く見て回るだけでも、うろつく死人の姿をちらほらと確認できた。地上を歩いていた未楡は接触しそうになった事も何度か。それでも全てではないのだろうから、一体どのくらいが起き上がっているのか。
 幸いと言うべきか、彼らが固まって動いている事は少なく、個々に当たれば対処できそうだった。
「だが、どれだけいようとここは生者の在るべき処。場違いな連中には早々に消えてもらわねば」
 冷酷とも言える冷ややかな眼差しを川面に向けながら、紅闇幻朧(ea6415)が情け容赦なく告げる。
「そうだな。これまで治安維持に勤めていた奴らも気にしていたし」
 だから頼むぞと柴犬の子龍を励ます白翼寺涼哉(ea9502)
 そもは東で起きていた事件から派生した死人騒動。事態に当たっていたのは京都見廻組だが、今回は管轄違いな上、先の酒呑童子討伐の療養で出てきてない。涼哉が診察に赴けば概ね傷は癒えていて、今は動くんじゃないと事務処理を押し付けられていた。
「山には行かなかったりしたからな〜。その分は働いておかんとな」
「どのみち放っておけないし。殲滅あるのみね」
 同じ京都見廻組として義護は小さく方を竦め、レベッカはやる気も十分に行く手を指し示した。

 川の流れとは逆に、下流から上流に向けて一同は動き出す。相手が何体でくるかも分からないので、分かれる事無く全員で警戒しながら四方に目を配っている。
 残る犬は北斗の黒星といおり。先の二匹と合わせて盛んに鼻を動かしている。
「どこからどうやって出てくるのか‥‥。緊張で神経が磨り減りそうっすね」
 どきどきと周囲を見渡しながら太丹(eb0334)。手には魔よけのお札を握り締めている。そのお陰か怖くは無いが、さすがに緊張ばかりは解けない。
「ハズレ。ただの死骸だよ」
 吼える犬たちにせかされ北斗が調べに向かえば、出てきたのは鳥の死骸。そんな感じで間違える事もたまにはあったが、
「いたぞ、一体!」
 斥候として先を進んでいた幻朧が戻ってくる。その背後には、軽妙な足取りで追っかけてくる人影一つ。
 近付くに連れて、人影の形状も露になる。腐りかけた肌に突き出た骨。喰いかからんと口を開けて一心不乱に幻朧を追っていたが、ある程度近付くと他の冒険者たちにも気付き近付いてくる。
「先制できるか? 喰らえ!!」
 義護がウィンドスラッシュを詠唱する。専門では失敗確立の方が多いので初級で。手から放たれた真空の刃は腐った体に軽い傷を入れる。
「パンチ! パンチ! キックっす〜!!」
 軽快な足取りで間合いを詰めると、丹が素早く拳を顔面に繰り出す。オーラパワーを使ったその攻撃に、あっというまに死人憑きは歯どころか顔を陥没させ、腐肉を散らせて襤褸と化す。高く上げられた足が孤を描いて叩き込まれると、大きく後方へと吹き飛ぶ。
 手足は奇妙に曲がって体からぶら下がっている。削げた肉があちこちにちらばり空虚が見えるが血も流さず。それでも、ぎくしゃくぎこちない動きで冒険者らに向かってこようとしている。
「見敵必殺じゃ緩いな。見敵完殺だ」
 センチュリオンソードが唸ると、死人の首を斬り飛ばす。それでもなお動きかけた死人にアランはさらに一撃。そして、倒れて動かなくなった後でも念の為にと一撃を加える。
「オーバーキルぐらいやらないと安心できんな」
 絶対に動かなくなったと確認して、ようやくアランは一息つく。腐臭が辺りに漂い、犬たちは盛大なくしゃみをしている。
「うー。せっかく甘いもの手に入れてきたけど、食欲無くしそう」
 鼻を撮んでレベッカも眉間に深い皺を刻む。
「しかし、これは多分死人憑き‥‥。死食鬼ならばもっと手強くなります」
「こんな奴らに集団で正面突撃されたら、止められんだろう」
 遺体を確認してから未楡はそっと手を合わせるが、アランは顔を強く顰めて見下ろす。
「‥‥この遺体を弔いたいがどこまで可能だろう?」
 物言わぬ遺体を憐れむように見つめる義護。死を悼めども、荼毘にせよ埋葬するにせよ時間がかかる。その間にも被害が出かねない事を思えば、今は自然に返すのが一番かもしれない。
 それからも、順当に索敵と討伐を続けながら上流を目指す。
 未楡の言った通り、死食鬼は手強くはあったが一〜二体程度ならすぐに仕留められた。
 犬たちも奮闘してくれたし、一同で周囲に気をつけていたので、不意をつかれる事も少なく。潜む場所が多そうな地点や見通しが悪い処などは、アランの引魂旛で誘いだす。
 引魂旛で誘い出された死人は、まず旗に向かう事を優先する。攻撃すれば抵抗に入るし、そも旗の魔力に抵抗して人を襲う事を優先したりもしたが、基本的に少数を相手にしているのと変わらなかった。
 それでも、危ない場面が無かった訳でなく。死食鬼三体を見つけて対処している最中、その騒動を嗅ぎつけたか、別の死食鬼たちが集まってきたのだ。
「囲まれると厄介だ! まずは抜けるぞ!」
 死食鬼にはウィンドスラッシュも専門を唱えなければ傷らしい傷が与えられない。死人憑きよりもはるかに頑強で、獰猛な相手。
 完全に囲まれる前に、義護が姫切を抜き放つと立ち塞がっていた一体に斬りつけると、刃ごと押し込むように死食鬼にぶつかる。死食鬼が体勢を崩した隙に、一同は崩れたそこから円を突破。大勢を相手にできるような開けた場所まで移動する。
 死食鬼たちは軽快な足取りで冒険者たちについてくる。それは義護に斬られ、体に大きな穴を開けた死食鬼であっても同じ。その他のまだ無傷な奴と全く変わらぬ動きを見せていた。
「1号機! いいか――この男を守れ!」
「子龍、護衛を頼む」
 アランが埴輪に涼哉の守りを命じると、涼哉も自身の犬に守護を命じる。そうした上で涼哉はコアギュレイトを唱える。手数優先で魔力を抑える為に初級なので、距離も対象の数も少ない。それでも、近くにまで迫っていた一体を止めるには十分だった。
「オーラパワーお願い。前にかかってたのは時間切れみたい」
「おいっす。気をつけていくっす」
 レベッカの大脇差・一文字に丹がオーラパワーをかける。かかったと見るが早いか、レベッカは死食鬼に踏み込む。鋭く掠める動きで刃を切りつけると、相手は躱す素振りだけを見せてぱくりと傷を開けた。返す刀でもう一度斬りつければ、人であれば容易に動けぬほどの傷を負わせる。
 が、死食鬼の動きは鈍らない。完全に動きを止めるまで変わらず動き続けるのが死食鬼の特徴。丹も殴りつけるが、入る傷も死人憑きなどより小さく手間がかかる。
「こっちの腕前はあんまりなんだけどなぁ」
 困った表情を浮かべつつも、マグナソードを両手に構える北斗。そもそも回避する意識は薄いのか、迫る刃を避ける動きは鈍く、あっさりと傷が入った。
 が、食いつく動きは素早い。疾走の術がかかっており、攻撃される前に逃げようとした北斗に鋭い牙が迫る。
 食いつかれる寸前で、死食鬼の動きは果たせず止まる。その体には鎖分銅が絡み、動きを阻まれていた。
「本当に場違いだな。さっさと消えろ」
 告げる幻朧の隣には、全く同じ格好をした幻朧が。北斗と、幻朧とその分身。見た目で数が多いとでも思ったか単に攻撃されたからか。死食鬼が目標を変えて幻朧へ向かう。緩んだ鎖が垂れ落ちるのを引き寄せながら、幻朧は忍者刀で斬りつける。
「何処までも彷徨い、悲しみを振り撒く事は無いのですよ。私たちの手で、送り届けましょう。来世への道に‥‥」
 小太刀・微塵を未楡が振るう。素早い動きに与える傷は少ないが、逸れた隙に涼哉がピュアリファイを詠唱。すでに十分傷付いていた死食鬼は完全に浄化される。
 
「今日はここまでか」
 義護が空を見上げる。
 日が暮れ、空には月が昇るが昼の熱気はそのまま。今夜も蒸し暑そうで、その前に涼を取ろうと川辺に来ていた人たちには注意を促す。
 が、灯りも貴重な贅沢品。すっかり暗くなると、ぱたりと人の気配は絶える。
 レベッカの燐光・ダウが放つ光や、もって来た提灯もあるが、夜間にうろついても危険が増すばかりだし、休まねば身が持たない。特に魔力を回復するにはしっかりとした睡眠が必要。
「あんまり進まなかったなぁ。探しながらしょうがないか」
 地図に、踏破した範囲を記していた北斗が口を尖らせる。索敵しながら移動はゆっくりしたものになるし、戦闘となれば足止めされる。それでも、一日で倒した数を思い出せばそう悪くは無い。
「ここは送り火の見所なんだがなぁ‥‥」
 涼哉が堅い表情で川辺を見つめる。。
「本当に‥‥ジャパンの闇は何処まで深いんだろうな‥‥」
 川の向こうはもう闇に閉ざされている。その中には今日だけで倒せなかった死人たちが蠢いているのだろうし、もしかすると違うものが動いているのかもしれない。
 それらを思い浮かべ、アランは皮肉げに笑みを歪める。

 それから数日。同じように順番に確実に死食鬼たちを探し、退治していく。一度捜索した場所でも、すれ違ったか新たな死食鬼がうろついていたりといろいろあったが、レベッカが太陽に改めて尋ねると、うろつく死食鬼はいないとの返事。勿論、サンワードにも欠点はあるが、それでもいるとされた程度の数は十分に屠れ、川辺は平和を取り戻していた。