村を行く死

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 9 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月30日〜09月04日

リプレイ公開日:2007年09月08日

●オープニング

「とある村に餓鬼と死人憑きが入り込み、村人を襲っているという話が入った」
 冒険者ギルドにて。集まった冒険者たちを前に、ギルドの係員がもたらされた依頼の説明を行う。
「餓鬼も死人憑きも共にアンデッド。知性は低く、生きている者を見つければすぐに襲い掛かる。一〜二体程度なら村人たちでもどうにか対処出来たろうが、村を襲ったのは合わせて二十は超えていたという話だ。とても太刀打ちできず、どうにか生き延びた人々は家屋に立てこもり、攻撃を防いでいる」
 しかし。それは閉じ込められた、と言ってもいいかもしれない。村人たちが隠れても、生物の気配を察して死人たちは出ていかず。抑える者がいない村の中を、昼も夜も関係なく獲物探して我が物顔で歩き続けている。
 村人たちは閉じこもったまま表に出るに出られず。逃げるどころか隣近所との行き来すらもままならない。
「勿論襲撃など予期していないから、室内に置かれた食料や水など限界がある。畑や井戸に取りに行こうにも、死人に見付かれば逆に自分たちが刈られかねない。
 それに連日の暑さ。戸口など開けられないから熱気は室内に溜まる一方。年寄りや子供などの体調が心配だし、不衛生な死体がうろついてるとなるとその懸念はなおさらだ。
 なので、すべての元凶である死者たちを排除し、この村を救ってきて欲しいという話だ」
 誰か行ってくれる者はあるだろうか。
 問いかける係員の声に、冒険者たちは顔を見合わせた。

●今回の参加者

 eb2018 一条院 壬紗姫(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb3917 榊原 康貴(43歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb5862 朝霧 霞(36歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb6553 頴娃 文乃(26歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 とある村に、死の群れが入り込んだ。
 村の中を我が物顔でうろつく死人憑き。それを上回る数の餓鬼が暴れ、村人たちは一歩も外へは出れない生活が続いている。
「村は酷い様子です。あちこちに死人憑きや餓鬼が動いていました」
 偵察に向かった一条院壬紗姫(eb2018)が見てきた光景に柳眉を潜める。
「単体ではともかく。これだけ数が集まると厄介だな。囲まれる状況は避けたいところだが‥‥」
 遠目から見ると、普通の静かな村に見える。しかし、通りを行く人型をそれと悟って注視すれば、確かに動きは人間とは違っている。走り回る子供のような影もどこか歪な形。
 現場の状況を確認し、軽く唸りながらも榊原康貴(eb3917)は落ち着いた声音で告げる。
 今回村の救出に向かった冒険者は四名。対し、推定される亡者の数はざっと二十体以上。幾ら亡者一体一体は強くないと言え、がむしゃらに突っ込んでいけば最終的には袋叩きになりかねない。
「数が多いのは確かに難だけど。ま、何とかなるわよ」
「しかし、いくら頭も腐った連中とはいえ攻撃に対して何の動きもせぬ筈なかろう」
 歯切れのいい口調で、頴娃文乃(eb6553)が明るく告げる。康貴が渋面を作り考え出したのを、違う違うと軽やかに手を振って否定する。
「幾らなんでも無策に突っ込んでよしとかは言わないって。その為に事前に話合ったんだし、旛も用意してもらってるんだしね。後はやる事さっさと済ませて、細工は流々仕上げを御覧じろって奴よ」
 ね? と同意を求めて、朝霧霞(eb5862)に目を向けると、彼女は頷き引魂旛を取り出す。
「これは今の内に渡しておくわね。‥‥本当、できればすぐにでも退治に行きたい窮状だけど、だからこそきちんと準備を整えて確実に倒さないといけないわ」
 僅かな焦りを軽く一息ついて吹き飛ばすと、朝霧霞(eb5862)は村を見つめる。
「急いては事を仕損じると言う。早急な救出が必要だが、慎重に事を進めねばな」
 康貴が強く頷く。
 夏の盛りは過ぎたが、それでも残暑厳しく日中はまだまだ暑い。その中を、村人たちは恐怖と共にずっと息を潜めて過ごさねばならない。
 急がねばならぬからこそ、焦ってはいけない。
 村人たちに、今しばしの辛抱を、と心で告げると、一同は作業へと取り掛かった。

 村の郊外。死人たちを迎えるに当たっての歓迎の準備を始める。
「こっちは準備万端。いつでもどうぞ」
「そうね。じゃあ、呼んでくるわ」
 グッドラックをかけて回った後、引魂旛を手にして文乃が見構える。
 霞はその様子を確認し、短く告げると慎重な足取りで村へと向かう。
 近付くにつれ、死人たちの姿がハッキリしてくる。と、同時に何時までも静けさが耳に痛い。墓場よりも激しい腐臭が鼻につき、胸が悪くなる。
 生と死が逆転した村。死者が起き上がって動きまわり、生者は死んだようにどこにいるのか。
 注意深く様子を伺いながら霞は村に入ったが、さすがというべきか、獲物の臭いを嗅ぎつけて亡者達がすぐに集まってきた。
 即座に反転。追いつかれないように走る。勿論、向かう先は仲間の所だ。
 全力で走ると、死人憑きは遅れがちになる。が、餓鬼たちはかまわずぴったりとくっついてくる。
「来たね。さあ、こっちだよ!」
 霞を追いかける死者の群れ。餓鬼・死人憑き合わせて十は越える。少々多いが、振り払う暇もない。
 文乃は意識を集中すると、全力で旗を振る。死者たちを導くと言われる豪華な白旗は、その謂れ通りに亡者たちを惹き付ける。
 自分たちが追いかけていた霞、が足を止め身構えても、その脇をあっさり抜けて旗へと近付いていく。
「うふふ。これもあたしの魅力のせいなのね‥‥って幾ら仮に美形でも生きててくれないとねー。ともあれ、よろしくお願いするわよ!」
「ああ、この数ならまだ易い!! これなら!」
 旗の魔力に抗い、生者へ――すなわち冒険者たちへと襲いかかる餓鬼に死人憑き。余談ながら、その謂れを発揮した引魂旛をその場に置いて振る人がいなくなっても、旗の導きはそのままでアンデッドは集まってくる。
 旗から逃れた数は、ざっと見て現れた数の半数以下。特に死人憑きは大半が旗へと吸い寄せられるように動いている。導かれる亡者たちはすぐ傍に生者がいても関心無く、旗に近付く事のみを目指している。ひとまず置いておいても問題無さそうだ。
「ガギギッ!!」
 まずは襲い掛かってきた餓鬼に向けて、康貴は霞刀を振り込む。前衛にはオーラパワーをあらかじめ付与してある。アンデッド相手に威力を増した刃はあっさりとやせ細った体を捕らえ、返す刀をもう一度振り入れれば枯れ木のようにこれを断つ。
 周辺には罠として障害物を置いたり、穴を掘ったりしている。簡単な仕掛けではあるが、死人憑きも餓鬼も知能は低く、たやすくはまる。はまって動けなくなった所を叩けば反撃の危険も少なかったし、喰らっても軽傷程度。
「小さな傷も重なれば大事になるわよ。酷くなる前に遠慮なく言ってね」
「大丈夫よ。それよりそっちも気をつけてね」
 魔法主体の文乃は、攻撃手段としてホーリーは持つものの、旗の使用や負傷時のリカバーなどを思えば極力魔力は残しておきたい。その為、旗を振った後はもっぱら応援に回っている。
 といって、そんな文乃を亡者が見過ごしてくれるはず無く。霞がその援護に向かう。
 右に小太刀・微塵。左に大脇差・一文字。共に振るえば寄っていた死人憑きに深々とした傷を入れる。だが、哀れな死者の身。斬り飛ばされた肉がぶら下がり、動きづらそうにはしているがまだ倒れない。
「くっ!」
 倒れこむように振るってきた汚い爪をどうにか避け、霞はもう一度刀を入れる。襤褸のように裂かれてようやく死人憑きは動かなくなった。
「後は、旗に魅せられた亡者たちですね」
 周囲の騒動も知らぬように亡者たちは旗の周辺に集っている。さすがに攻撃を加えれば反撃に出るが、それでも攻撃されていない亡者は相変わらず。
 なので、一体のみを相手にするよう慎重に壬紗姫は霞刀を振るう。無残に開く傷口。さらしたまま餓鬼が繰りだした爪をあっさりと躱し、とどめと突き刺す。
 多少の面倒だが、その場の亡者全て倒すのは時間の問題だった。

 呼び寄せた亡者を殲滅すると、もう一度霞が村へと走る。残る亡者を呼び込み、再度同じ手順で亡者を惹き付け、倒す。
「これで大部分が片付いた筈。後は前進して掃討戦に移ろう。村の中は死角も増える。不意打ちや囲まれたりせぬよう、皆で注意を払っていかねば」
 康貴が倒した亡者を数える。死人憑きは頭を取られたぐらいではまだ動く。その動きを止めようとすればどうしても徹底した破壊が必要になる。
 そんな凄惨な現場の中に何体死体が転がっているか。肉と骨が混ざり合い、分かりづらくはあった。
 それでも。もう村に残っているのは数える程度でしかない筈。
 物陰に隠れていないか。注意しながら、村の中を歩き回る事数度。遭遇した亡者は単体ずつで、彼らの脅威となるべきものではなかった。
「とにかく綺麗な布と水を用意して! 元気と思っても無理はしないで!!」
 安全を確認し、家々に解放を告げて回る。
 ほっとする間もなく、むしろここからが本番だと言わんばかりに文乃が指示を出して回る。
 熱気に倒れた老人や、恐怖から気分を悪くしている女性など症状様々。健康でいる人の方が少ないぐらい。
 家畜は案の定死人たちにやられたと見え、無残な姿か逃亡してここにはいない。本来の獣医としての仕事はないと見て、文乃は人医に専念し、他の者も手伝いや埋葬などに奔走する。
 予定されていた依頼期間ほとんどを村の復興に費やされて、そして帰路に着く。
 解放された村は、以前より住人の数が大幅に減ったと云う。生活も狂わされ、当分は厳しい日々が続くだろう。
 それでも、村人たちは笑顔で冒険者たちに感謝を述べ、その後姿を何時までも見送っていた。