【鬼の腕】 安倍晴明宅警護

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:7 G 6 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月04日〜09月18日

リプレイ公開日:2007年09月12日

●オープニング

●経緯
 発端は水無月。反目する長州と今後を決める会談が京都御所にて行われている最中、突如として多数の人喰鬼たちが京都へと来襲した。
 その先頭に立つは、鬼の王と言われる酒呑童子。これまで動きらしい動きを見せなかった彼が何故この時期に動き出したのかは分からない。ただ、迫る軍勢に京都の守護たちは刃を交え、どうにかこれらを退ける事に成功した。

 文月。襲撃で受けた傷が癒えるのを待って、酒呑童子討伐の勅令が新撰組に下された。一番、三番、四番、九番、十一番隊に加え、京都見廻組や近江侍に多数の冒険者が加わり、酒呑童子の本拠地である比叡山・鉄の御所を攻めた。
 結論をいえば、この討伐は失敗になる。酒呑童子は存命で、ただその恐るべき力と結集する鬼たちの脅威を思い知らされただけだった。
 けれども、多数の討伐隊が怪我を負いながらも生還を果たし、酒呑童子の腕を切り落とすという成果を見せた事だけでも賞賛に値する結果ではあった。

 落とされた酒呑童子の腕は陰陽寮が管理を任され、御所にて厳重に保管されていると云う。一部の貴族が報復を恐れて戦々恐々とするも、比叡山はただ沈黙。されど、それは負うた傷が癒えるのを待っていただけ。
 鬼の腕を巡り、ある儀式が行われようとするのを察したかのように、奴らもまた動き出そうとしていた。

●鬼の腕 〜晴明の屋敷〜
「高野山の僧・文観という者が腕を使って酒呑童子を降伏させる儀式を執り行おうとしています。成功すれば、酒呑童子は仏教に帰依して都を守る守護神になるという話です」
 冒険者ギルドにて。現れた陰陽寮陰陽頭・安倍晴明が、現在の経緯を説明する。
 悪鬼が仏法に帰依して護法神となる昔噺は良く聞くが、実際の鬼族を知る者は眉唾と笑う。ましてあの酒呑童子をである。
 しかし、文観が言うには、七日七夜の間鬼の腕を用いて特別な祈祷を行えば、酒呑童子を従わせられるらしい。儀式には強力な呪物や生贄も必要と聞き難色を示す者もいた。が、鬼に怯える貴族たちは脅威を取り払い、かつ都の守りを強化できるならと、文観に儀式の許可が出そうだという。
「しかし、ここに来て比叡山――鉄の御所が動く気配を見せています。先の報復に加え、酒呑童子の腕を取り返さんとあちこちで画策しているようです」
 目的が報復にせよ、奪還にせよ、鬼に入り込まれるわけには行かない。各組織にも連絡が行き、都の警備は強化されている。冒険者ギルドも忙しくなるだろう。
「で、先日。我が家に泥棒が入り込みまして。幸い居合わせたので、吹き飛ばしてみたら鬼でした」
「‥‥度胸のある鬼もいたものだな」
「まったくです」
 物騒な事を平然と告げる晴明に、ギルドの係員の方が冷や汗を流す。そんな心中を察する事無く、晴明は簡単に頷き話を進める。
「息があったので、何の用か訪ねてみれば、酒呑童子の腕を奪還に来たとかで‥‥」
「? 腕は御所で保管されているのでは」
 晴明宅と御所は近いが、中にある訳ではない。まぁ、鬼を欺く為に御所にあるとして実際は別の場所に置くなどもあるだろうが。
「何でも『鬼の腕は安倍晴明が持っていて、夜な夜な腕枕にして寝ている』という噂があるそうで。それを耳にしたその鬼は、ならば私の家に置かれてるのだろうと入り込んだ次第。――頭が悪そうだと思いましたが、何故そんな荒唐無稽な話を信じられるのか」
「‥‥俺も信じるかも知れん」
 うんざりとため息をついている晴明だが。係員はむしろ鬼の方に同情的。
 そもそもこの御仁自体、狐の子だとか名前を間違えるだけで呪われるとか妙な噂がついてまわる。常人ならば笑い飛ばす話も、この男ならもしかしたらと信じてしまいかねない雰囲気があるのだ。
「それで、その鬼は退治できましたが‥‥。酒呑童子の腕を狙ってとなると、また別の鬼が入り込む可能性があります。御所や儀式から鬼の目が逸れるのは結構ですが、頻繁に入り込むようなら御近所にも迷惑がかかります。
 それに、先の儀式の件やら都警備などに絡んで私も身辺忙しく、おそらく当分は屋敷には戻れません。まさか都を守る兵に我が家だけ守れとも言えませんし、なので留守の間屋敷の周辺を警備してくれる方をお願いします」
「周辺でいいのか? 万一屋敷に入られた際はどうする」
「留守番を残しておきますので、それらが対処してくれます。けれども、道理が違うので暴れられると大騒動になってしまいます。なので入られる前に見つけて、余計な騒動が起こる前に始末して下さい」
「どんな留守番だ」
 係員はジト目を向けるが、晴明は涼しい顔でお願いしますと微笑んだ。

●今回の参加者

 ea8445 小坂部 小源太(34歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea8755 クリスティーナ・ロドリゲス(27歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 eb2690 紫電 光(25歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb3736 城山 瑚月(35歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb5862 朝霧 霞(36歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb6553 頴娃 文乃(26歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 eb7311 剣 真(34歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb8646 サスケ・ヒノモリ(24歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

 泥棒に入られた安倍家。つまらぬ噂が元になったつまらぬ出来事で、何事も無く済んだのだが。入り込んだのは鬼で、先に斬り取られた酒呑童子の腕を取り返しに来たとなるとあまりつまらぬとも言ってられない。
 噂はともかくとしても、腕を狙ってまた鬼が入り込む危険はあるというのに、その腕に絡んで主は当分不在。その為、冒険者が留守中の警備を任される事になった。
「御近所さんへの挨拶は済まして来たわ。用意してあった菓子折りもちゃんと渡しておいたから」
 警備を始めるに当たり、周辺に事情を説明しに出かけた朝霧霞(eb5862)たち。手ぶらの挨拶もどうだろうが、わざわざ冒険者が調達する物でもなし。そこらは晴明の采配に任せようと思っていたら、ちゃんと留守居の小僧を通じて手渡された。
 配った旨を伝えると、小僧はただ黙って礼を取る。
「警備する旨を説明して回ってみたが、鬼が入った事自体は噂になってたから来てくれてむしろほっとした感じだったな」
「それ以外で鬼に関する話は聞かないし、見た話も今の所無いわ。ただ、期間中は晴明さんの家にお世話になると告げたら、驚かれたり感心されたり‥‥」
 共に回った剣真(eb7311)が印象を述べる。ついでに不審な目撃情報などが無いかも聞いて回ったが、鬼云々より晴明宅に関わる方に驚かれ、その事に頴娃文乃(eb6553)は驚く。
「普通に妙な事が起こる家だと、御近所だと評判みたいねぇ。興味があるのは隠さないけど、実際にはどうなのかしら?」
「不調法なものですから御迷惑もおかけするでしょう。至らぬ振る舞いは申し訳なく思っております」
 文乃が尋ねると、座っていた小僧が抑揚の無い声で告げる。家の留守を任されたとの話だが、どういう繋がりかは語ろうとしない。表情一つ変えずに謝罪して頭を下げるのは、どこまで本心か分からずどうもとっつきにくい。
 文乃もそれ以上は何も言わず、ただ呆れたように肩を軽く竦めた。
「庭周りには罠を仕掛けてある。まぁ、いろいろ仕掛けてあるから迂闊に近付かないでほしい」
 侵入者がすぐに分かるよう、方々で罠が仕掛けられていた。クリスティーナ・ロドリゲス(ea8755)は鬼門にして比叡山がある方角の北東中心に罠を張ったが、城山瑚月(eb3736)はそこ以外を重視したので、結局全方位どこも等しく罠だらけ。さらには他の者も各々罠を仕掛けていき、その罠も鳴子罠や跳ね上げ、木屑で撒菱など実に多彩だった。
「班編成は事前に打ち合わせた通り。二人一組の四班、三刻ごとに一班が交代で休息に入り、残りが見張りにつく、でよろしいですね?」
 確認を込めて小坂部小源太(ea8445)が聞いて回る。長丁場になる上、相手はいつどこから来るのか分からない。根を詰めすぎても気を緩ませても駄目だった。
「持久戦、という訳ですね。上手く鬼の目が分散すればよいのですけど‥‥」
 さすがに街中。あやふやな噂を当てに鬼たちが大挙してくるとも思えず、またその兆しも今の所無い。とはいえ、小物もそれなりに纏まってこられたら、近所迷惑ぐらいにはなるし、家に入り込まれたらなにやら駄目らしい。
 これからの期間。さて一体何が起こるのか。瑚月は幾ばくかの不安を覚えながらも警戒に当たる。


 異変は警備を始めてすぐに起きた。というより、単なる騒動だったが。
 話合った通りに六名が周囲の巡回に当たり、二人がさっそくの休息に入る。すぐに動きは無いだろうと誰もがどこかで考えていた矢先に、鳴子がけたたましく鳴り響く。
「ロックを配置した辺りだ!!」
 人目につかない場所に、サスケ・ヒノモリ(eb8646)が連れてきたスモールストーンゴーレムが配置されている。傍には真のグリフォンと戦闘馬も待機させていた。普通ならば、近付きたくは無いだろうが鬼のする事は分からない。
 しかし、急ぎ駆けつけると、現場はゴーレムの位置が前に進み鳴子が揺れている以外はこれといった変化無し。
「何かが潜んでいるような息は感知されないね」
「妙な熱源も無いですね」
 紫電光(eb2690)がブレスセンサーで確認。小源太もインフラビジョンを使うが、異変は見当たらない。
「バイブレーションセンサーも引っかかりませんし。驚いて逃げたのでしょうか?」
 経巻広げてサスケが首を傾げる。
 念を入れて周囲を警戒するも何も無し‥‥のはずだが、その最中にもやはりゴーレムが鳴子を鳴らした。
 慌てて現場に行けども、結果は同じく。それでよくよく見てみれば、飛んできた雀に反応してゴーレムは一歩進み出ていた。音に驚いて雀は逃げる。逃げなくても、雀など普通気にしない。
「『何かが近付けば一歩前進』とは命じたが、さすが融通の利かない石頭。安倍殿がおられたらそこらの命令に関してのアドバイスをいただきたかったが‥‥」
 苦笑いでサスケはゴーレムの頭を叩く。
 晴明がゴーレム魔法に通じているかは不明だが、日本に埴輪がいる以上、陰陽寮とて多少の資料や研究はなされているだろう。何れにせよ、肝心の晴明はおそらくと言った通り寮へ出かけたまま帰らず、いつ戻るかも分からない。当てには出来ず、とりあえず見張りとしてきちんと動くようどうすれば適切な命令を下せるか。サスケはしばし頭を悩ませる。


 そんなちょっとした騒ぎはあったが、それからは何事も無く数日が過ぎる。
 まぁ、明け方や夕方には合わせて勝手に戸が開いたり閉じたり、小僧が庭で掃き掃除している間に廊下が水拭きされて食事が出来てたり、何も言わない内から思う品が用意されてたりとか、家の中ではそう云った事はしょっちゅう起きたがそれも日常の範囲だ。
「で、玄関に向かっていったキミがてんで逆方向の家の奥から現れるのも珍しくなくなってきたよね。方向音痴とは言ってたけど、どんだけー、なのよ」
「広いとはいえ、幾らなんでも家の中で迷うほど酷くは無い! ‥‥筈だ」
 見張りの交代。休みに戻った文乃と霞に対して、真とクリスティーナが出かけていくが、何故か真だけすんなり玄関につかない。呆れる文乃に、真は自信無さそうに肩を落とす。
「主以外の人は珍しいですから。ついは遊びたいようです」
「って事は、キミの他にも誰かいる?」
 文乃の問いには何とも言えぬ目礼だけを返し、小僧は済んだ食事の膳を運び出す。両手は塞がっていたが、障子の前に立つと小僧一人が通れる分だけすっと開く。向こう側には誰もいない。
 何がどうなっているのか。小源太が見回りついでにインフラビジョンで家を見たが、それから遠い目で彼方を見るようになったので誰も聞かない。
「いいけどね。ゆっくり休ませてもらえるんだし」
「そうね。騒いでも仕方ないわよね」
 貴重な体験をしているのだと思えばめっけもの。言外にそう告げる文乃に、霞も落ち着いた態度で休息についた。


 そして、さらに数日が過ぎる。その辺りから妙な影が屋敷の周辺でちらりほらりと見えだしてきた。警戒を強めていた矢先、鳴子が音を立てる。
「いたよ! 小鬼だ!!」
 鳴子に驚き慌てている小鬼に、クリスティーナが素早く長弓に矢を番えて放つ。過たず矢は刺さり、驚いた小鬼が転がり出た所で、真が日本刀・法城寺正弘を振り下ろす。
「ギュアアア!!」
「逃がすか!!」
「待った! 陽動の危険もある。屋敷に入り込む目的を阻止は出来たのだから、ここは動くな!」
 血塗れで逃げる小鬼。無造作に追いかけようとしたクリスティーナを、真が留める。
 幸いというべきか、現れたのはその小鬼一匹。そして、その日の内にまた現れる事は無かった。
「とにかく屋敷に侵入されたりしないよう注意しなくては。アイスコフィンで塀を固められればいいのだが」
 例に塀にかけてみた真だが、対象が大きすぎて全部にはかからず、そこを避けて越えられる可能性は十分ある。縄や棒などを使って広げた布地にかけても見るが、効果があるのは対象とした布地だけでありこれも動かそうと思えば出来てしまう。
 ともあれ、そんな事があってさらに警戒を強めて警備に当たる。
 動きがあったのは更に日が経った夜半。勿論、そんな時分でも警備体制は変わらない。
「そこで何をしている?」
 あえて見張りがいる事を誇示する為に、瑚月は火の入った提灯を掲げる。暗闇からは頭から着物を被った子供らしき者が苦しげに蹲っている。瑚月の足元、柴犬の琉はその子供に向かって先ほどから低く唸りっぱなし。
 経巻を取り出すサスケと目だけで会話し、瑚月はゆっくりと呻いているそれに近付く。
「ゴブゴブ!!」
 着物を取り払い、奇声を上げて姿を見せたのはやはり小鬼。手にはしっかりと斧が握られている。
 と同時、周囲の闇が動き、同じく小鬼が姿を現す。
「反応は見えている三体だけ。しかし、遠くで四体が接近した。内一体は小鬼じゃないな。それより大きい奴だ」
「ならば。ここは俺達だけで止めねば」
 牙を剥いた犬に、小鬼たちが動きを止める。バイブレーションで数を読んだサスケに、瑚月は素早く合図の笛を一度だけ吹く。
 手助けは不要の意味だ。
「深追いは無用! だが、敷地には入れるな。いろいろ怖そうだ」
「分かった。まずは頭を冷やしてもらおう」
 サスケが経巻を広げると、扇状にアイスブリザードが広がる。吹雪に目が眩んだ隙に、瑚月は間合いを詰めると、素早く一体に短刀・月霞を斬りつけた。

 瑚月からの笛が聞こえるよりも早く。それらは姿を現し、晴明宅へと襲い掛かってきた。
「小鬼に山鬼ね。この間、こっそりが無理だったから大きいのを連れて力技って訳?」
「頴娃さん、下がって! 治療はお願い」
 貧相な子供のような小鬼三体を従え、突進してくるのは山鬼。青銅色の筋骨逞しい体を揺らし、大地を踏み砕く勢いで駆けて来る。
「グオオオ!!」
 軋んだ声を上げて、山鬼が金棒を振り下ろす。文乃がかけたグッドラックの効果があったか、霞は躱して唸りを上げた武器は地面にめり込む。
「数が多い! 捌ききれない!!」
 山鬼を右の小太刀・微塵で斬り払い、小鬼を左の十手で打ち据え。それでも、残る二体には手が届かない。
 戦うニ体を置いて、残りは屋敷に向かう。その邪魔となるのは文乃。斧を振り上げる小鬼に、舌打ちして文乃は印を組んでみるが、
「「奥義、雷火扇陣!」」
 光が手にしたライトニングソードを振り、小源太もバーニングソードを付与した日本刀を振るう。刃から生み出された衝撃波が扇状に敵を捕らえる。文乃の目の前、小鬼たちが朱を滲ませ悲鳴を上げた。
「ガグ!!」
 二体を相手にしていた霞には、何故かすぐ傍で光と共にいる小源太がもう一人現れ間に入る。
 いや。割って入った彼に苛立ち、山鬼が金棒を振り下ろすと、刹那でその小源太は灰となり消えた。アッシュエージェンシーだ。
「ウギ!?」
「貰った!!」
 山鬼はそんな事知らない。突然の事態に激しく動揺し、見せた隙を逃さず霞は斬り刻む。
「敵数は調べてあるよ。向こうで三体が相手、こちらに四体。これで襲撃してきた個体は全てだよ!!」
「了解! じゃあ、さっさと追っ払っちまおう!!」
 明るい声音で溌剌と告げる光。聞き遂げたクリスティーナは家の中から矢を射掛ける。笛の音も喧騒も家の中だろうが聞こえてくる。そうなると、休憩時分でもゆっくり寝ていられない。
「お手伝いしましょうか?」
「大丈夫。これが自分たちの仕事だ」
 感情無く問う留守居の小僧に真は端的に答えると、念を入れて他の場所への警戒に当たる。

 勝ち目無しと悟ると、鬼たちは現れた時以上の速さでまた闇の中へと消えていった。それからも何度か動く気配はあったが、襲ってくる気配は無し。
 そうこうする内に、鬼たちの気配はふつりと消えた。懲りたのか、はたまた鬼の腕はここに無いと悟ったか。それを知る術は無いが、残る期間も無事に果たし一同は長い警備を終えた。