月を愛でるか 兎を見るか

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:09月14日〜09月19日

リプレイ公開日:2007年09月22日

●オープニング

 京は今日も今日とて大変だ。
 長州との反目に一応の目処をつけたと思いきや、新たな問題比叡山襲撃。
 多数の鬼と斬って斬られて、鬼王の腕を落とし。高野山の僧侶が持ち帰られた腕を用いて酒呑童子を調伏せんと動き出す。
 儀式の準備に、各方面動き出し。一方、鬼たちも討伐の痛手を癒してまたぞろ動き出している。


 そしてこの時期になると、やたら活発に動きだす物の怪がいる。
 すなわち。


「お月見だーーーーーーーっ!!!」

 日に日に丸くなる月を見上げ、ひたすら元気に跳ね回るのは小さな子供。‥‥に見えるが、その正体は化け兎。物の怪だが、人に化ける以外はこれと言った妖力はない。
 うさ、と呼ばれているこの妖怪は、元は江戸にいたのだが、京の都に敬愛するお月様を普及させる為にはるばるやって来た。現在は陰陽師・小町の家に居候中。
 兎は月見て跳ねると言うが、うさは本当に毎晩跳ねる。そして、今月は中秋の名月。興奮も一入といった所。
「臼用意〜♪ 杵用意〜♪ 餅米用意、水用意〜♪ 酒も一杯用意したし〜♪ 早く来い来いお月様〜♪♪ 楽しみだねぇ。お婆の分もたくさんあるからね〜」
 適当に節つけて歌いながら警戒に足を運ぶ。ちなみに、婆とはまだ十代の小町の事。うさにとって、人間はすべからく爺と婆になる。
「ん〜、でもあたしは今年お月見は出来そうにないしー」
 はしゃぐ兎を呆れて見ていた小町。楽しそうに話しかけられるも、軽く肩を竦めて否定を入れる。
 瞬間。うさの動きが止まった。
「何でーーーーーーーっ!!!???」
「だって、儀式の準備やら警備やらで寮が忙しいし。今のところの儀式の予定を考えたら、どうも御月見どころじゃなさげなのよね‥‥」
「儀式? お月様来い来い祭?」
「そんな風流なもんじゃないわよ」
 首を傾げるうさに、小町はがっくり肩を落とす。
 鬼の腕を用いて酒呑童子は仏道に帰依させる儀式は、僧侶・文観が行う。とはいえ、鬼の腕の管理は陰陽寮なのだし、儀式の用意や周辺警備などで忙しくなるのは目に見えている。
 都の敵を除き、守護が増えるのは喜ばしくはあるが、それには生贄が必要というし、そも鬼側とて黙っていそうにない。なんて事を視野に含めていけば、なんとも風流とは縁遠い儀式だ。
「むー、そんな訳わかんない儀式やるよりも、お月様を崇める方がとても大事なのにー。うさは怒った。抗議に行くぞ!!」
「行かなくていい!!」
 ひょいと杵かついで飛び出しかけたうさを、慌てて捕まえる。
「むー、お月様は偉いんだぞー。大きくて綺麗で、丸いんだぞー。大事にしなきゃ駄目なんだーー!!! そんなみょうちくりんな事してないで、お月様を崇めなきゃ駄目なんだーーっ!!」
「分かった分かった。あたしが伝えとくって!!」
「じゃあ、皆でお月見しよう♪」
「だからそれはね‥‥」
 ころりと態度を変えて誘いだすうさに、小町、頭を抱える。
「えーとねー。あたしはね、今年は他の人とお月見やるから、うさはここでおとなしく月見してちょうだい。ほら、二手に分かれた方が、よりたくさんの人にお月様の魅力を語れるでしょう?」
 ともかく宥めないと何しでかすか。別に暴れても怖くは無いが、今はいろいろ厄介である。
 なんで、適当に嘘ついてみる。
「ふーん。分かった」
 苦しい言い訳だったが、とりあえずうさは納得。やれやれと思いきや、
「じゃあ、うさはここでお月見するから、お婆はよそでがんばってね。ちゃんとやってるか見に行くからサボっちゃ駄目だよ」
「えー、ちゅっと駄目よ、それもまずい!!」
「駄目ぇ!! お月様に関してはうさの方が偉いんだもん。婆がお月様に不義理な事しないか教えるのもうさの役目だもん!!」
 やめてくれるよう頼む小町だが、うさはがんとして首を縦に振らない。こうなると、もうどうしようもない。


「で、悪いけど。お月見ついでに、当分うさの相手してくれない? 今、出歩かれるのは本当に面倒なのよ」
 そして、冒険者ギルドに足を運ぶ小町。
「別に構わんが‥‥子守役ならお前の家にも人いるだろう。人の手に余るなら、猫だって」
 猫とは小町宅にやはりいる物の怪。普段は異国の青年の姿をしているが、正体は山猫獣人のワーリンクス。
 が、ギルドの係員の指摘に小町は苦い表情で首を横に振る。
「月に浮かれるうさ相手に振り回されるのがオチよ。ある意味最強だもん」
 とにかく元気で活発で行動的で‥‥人の話を聞かなくなる。知恵は多少あるものの、目先の考えで即実行するので何しでかすか分からない。いや、多少でも知恵がある分、いきなり突飛な行動に出たりする。普段からその調子なのが、月の魅力でさらに輪をかけてる。なんというか、油断ならない。
「まぁ、いいが。なんで数日間もなんだ? 兎の相手なら十五夜だけで十分だろ?」
 係員の疑問に、小町は難しい顔で唸る。
「ま、そうなんだけど。鬼の腕の儀式に絡んで寮もバタバタしてるし、あたしも当分帰れそうに無いし。十五夜だけだと次の日に首尾を聞きに寮まで突貫してきそうだもん」
 なので、数日間を置けばいい加減お月見熱も冷めて少しはおとなしくなってるだろうし、小町もその頃には家に戻れるだろうって事らしい。
「それに、儀式には生贄が必要らしいのね。それに関しての意見はさておいて。問題なのはその生贄集めで多数の高位の物の怪も集められてるのよ。化け兎は強くも珍しくもないけど、もののついでで攫われたり、目的の妖怪狩りのついでで討伐されたりとかありうるもの。それに鬼たちもうろつきだしたから、都の守護もぴりぴりしてるしね」
 とても暢気にしてはいられない状況。が、化け兎はそんな事構わず都を歩いてくれるだろう。
「冒険者にも強い物の怪連れてる人とかいるけど、そういう事情だから気をつけてもらってよ。中には十分生贄の対象になるのもいるんだし、都の為に尽くすのは当然ってあちこちから強引に集めてる人たちもいるって話で、ちょっと問題になってたりもするのよ」
 何せ相手はあの酒呑童子だ。儀式自体も都にとっては初めての試みで成功するかは未知数。
 どのくらいの犠牲を払えばかの者を降せるのか。分からない以上、必要とされる生贄は多く用意しておくに越した事は無い。都の為、是が非でも成功させようという心意気は分からなくも無いが‥‥。
「まぁ、そういうわけで当面ふらふら出歩いて欲しくないんだけど、月に浮かれて言ったって聞かないしねぇ‥‥。なんで、護衛というか御目付け役としても来てもらうとありがたいの。月見は楽しんでくれて構わないわ。ただ、目立ちすぎると危険を招くかもしれないので、その点周囲やうさに注意を払っておいて欲しいの。そんでもって、寮に来たりしないようにね。邪魔になるから」
 面倒だけどお願い、と、小町は軽く手を合わせた。

●今回の参加者

 ea1956 ニキ・ラージャンヌ(28歳・♂・僧侶・人間・インドゥーラ国)
 ea6526 御神楽 澄華(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea8904 藍 月花(26歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ea9399 ミヒャエル・ヤクゾーン(51歳・♂・ジプシー・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb0711 長寿院 文淳(32歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 eb2295 慧神 やゆよ(22歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb3328 水館 わらび(29歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb5885 ルンルン・フレール(24歳・♀・忍者・ハーフエルフ・イスパニア王国)

●サポート参加者

王 零幻(ea6154)/ 火乃瀬 紅葉(ea8917)/ シグマリル(eb5073

●リプレイ本文

「餅米用意ー♪」
「用意〜♪」
「お酒用意ー♪」
「用意〜♪」
「では、準備に取り掛かる! 頑張ろうね、お婆☆」
「ひっど〜い。うら若き乙女を捕まえて婆なんて! そういう事言ってると、ワニに生皮剥がされて‥‥って、聞いてよー!!」
 仲秋の名月を崇めようと、陰陽師・小町宅では化け兎のうさが元気に跳ねる。揃えた材料の点呼にルンルン・フレール(eb5885)が復唱するも、呼び名はさすがに聞き過ごせない。
 が、肝心のうさはもうそっちのけでニキ・ラージャンヌ(ea1956)と再会の抱擁を楽しんでいる。かと思えば、月見の支度にかかったりと本当に忙しい。
「ああいう子なんで大目に見て下さいな。‥‥むしろ、この時勢に変わりなくほっとしました」
「‥‥確かに。難しくて他の単語を覚えられないんですね」
 宥められてほろりと涙を流すルンルン。笑顔で御神楽澄華(ea6526)はうさを見つめる。
「こういう平和な行事を守るために皆頑張ってる訳で。時勢だからお月見しないのも本末転倒‥‥。ですが、それに感けすぎてうさが攫われない様にしませんとね」
 和んだ目でうさを見ていた藍月花(ea8904)が、今度は一転して厳しい目を屋敷の周辺に向ける。酒呑童子を調伏する儀式に生贄が必要だとかで、妖怪や精霊があちこちから集められている。屋敷内に居る内は大丈夫だろうが、何のついででうさにも危害が及ぶか分からないのだ。
「それですが。どうも、鬼の腕は奪い返されてしまったらしいんです」
「え? じゃあ、もう護衛は不要ですか?」
 驚いて聞き返す月花に、表情を曇らせる澄華。
「いいえ、儀式は一時中止でしょうが‥‥むしろ延期ですね。腕を再び取り返そうという動きが出てますし、また腕無しで儀式が行えないかとする動きもあるようです。いざという時の為の生贄集めは終わらないでしょう」
 京都見廻組としてそこいらの事情はそれなりに聞こえてくる。澄華としてはこれ以上面倒にならないよう祈るばかり。
「例え儀式が止めになっても、まだ鬼はうろついてるんだよね? うささんを危険に晒す訳にはいかないよね」
「そうそう。そういう難しい事は小町っちゃんに任せて。僕たちは、ほのぼのと京の平和を守ればいいんだよ。
 もういーくつ突くと〜お月見だ〜♪ うささん、すすき取ってきてもらってるから一緒に飾ろう♪」
「むー♪」
 うさと月見の準備にかかる水館わらび(eb3328)に、慧神やゆよ(eb2295)も並ぶ。うさはそんな事情は気にも留めずに、シグマリルがとってきたすすきをやゆよから渡され、上機嫌で飛び回っている。
「都の状況はひとまず置いて。此処は此処で楽しく出来ればいいですね。とりあえず、騒がしくなりそうですから御近所への挨拶周りに行ってきますよ」
「むー? うさも行くー♪」
「駄目ですよ、うささんはお月見の準備。知り合いに頼んでたっくさん追加してもらいましたから、外に出る暇もありませんよ」
 長寿院文淳(eb0711)が出かけるのに続こうとしたうさをルンルンが止める。お月見の支度は小町が用意していたものに加え、念を入れて火乃瀬紅葉にも追加を運び込んでもらっている。これらを捌くのも大事業で休んでなんていられない。
「そしたら、あてが一緒に行かせて貰います。月見団子を仰山作らせて貰いましたさかい、御近所さんにもお配りしておきやす」
「わーい、当然僕らも食べられるよね。甘いのがいいな」
「ちょっと待て!!」
 文人について出ようとしたニキ。手にした月見団子にやゆよが両手を上げるが、それを止めるのは異国の青年。ワーリンクスの猫だ。
「おお! 小町っちゃんが、家で猫可愛がりしている男性を囲っているってのは本当だったんだね♪ うわぁーオトナの世界〜」
「何かいろいろすっげぇ突っ込みたいがとりあえず無視して!! そいつの料理ってのはつまりはあれだぞ!?」
 頬赤らめるやゆよに、顔を引き攣らせた猫だが、気を取り直すと塀を指差す。その地面にはワサビたっぷりの胡瓜を握り締め、頭の皿に大きく『かめ』と書かれた河童一人と、やたら緑色した団子を口一杯に頬張り『ばか』『あほ』『ぼけ』『まぬけ』と顔一面に書かれた狸四匹が気絶していた。
 書かれた元気一杯の文字はうさの仕業だろうが‥‥。
「小町さん宅は立派だけど、やっぱり普通の家だから出入りは結構どこでも自由なんだよね」
「大丈夫、ぴったり張り付いて目を光らせますから。どうしても出て行くようならルンルン忍法・影縛りで実力行使です」
「いや、そこに注目して欲しいんじゃねぇって」
 呼ばれぬ訪問者の姿にわらびがしみじみと頬に手を当てて考え込み。忍者修行中のルンルンは、忍術の代わりにシャドウバインディングの経巻を取り出し、えへんと胸を張る。
「確かに食べてはるんはあての作ったもんどすけど、あれは彼ら用に特別作ったもんやさかい。こっちはきちんと作らせてもろてますから、心配せんでも大丈夫どすえ」
「結果は大差ないと思うぞ、俺は」
 にっこり笑うニキに、猫は真面目に答えている。
「あまりぐずぐずして夜になっても仕方ありません。行くならさっさと済ませましょう」
「はいな」
 促す文淳に、ニキは従う。手荷物もって出かけた二人を、不安そうに猫は見ている。
「じゃあ、こちらはお月様を招く為にしっかりと準備をしましょう」
「今は駆け出し陰陽師だけど。いつかは月の道での仕事に就けたらなーと思ってるんだ。月の精霊には沢山お世話になってるし、お月見崇拝の心得をいろいろ教わりたいよ」
「分かった、任せろ〜♪」
 その意味を知るのは月花と澄華ぐらいで、後は気にも留めずに月見の準備に励んだ。

 御近所から「あまーーーっ!」と絶叫と騒動が少々聞こえたりもした日暮れ。夕闇が過ぎれば、美しい真円の月が空に昇り始める。
 月花用意した盥にも月が映り込み。天と地の二つに月を迎えて、支度もすでに準備万端。
「お月見だーーーっ!!!」
「ポォォ〜〜ッ!!!」
 杵を振り上げ歓声を上げるうさ。合わせてミヒャエル・ヤクゾーン(ea9399)が指でリズムを取りながら、巧みな足の動きで滑るように登場。
 前へと歩を出すと見えて後ろに進み。中央に進み出た所で、高速詠唱でライト打ち出し輝く舞台に。右手は高々と天を指差し、左手は股間へ。口に加えた麗しき薔薇で吹雪のように舞い散る花びらの幻影が乱れ飛べば、自然、一同の視線はミヒャエルに釘付けにされる。
「オ〜ッ! うささん、始めまして! キミの素敵な踊りを見せてくれないか!?」
「おーっ! うさはやるぞー!」
「では、僭越ながら私が伴奏させていただきますね」
 大仰な仕草で踊りを促すミヒャエル。見事な登場に刺激されたか、張り切るうさに文淳が苦笑しながらクレセントリュートを手にする。
 銀の弦が奏でる澄んだ音色に合わせて、兎が跳ねる。それを見ながら、澄華や月花たちの作った料理に舌鼓を打ち、ニキの激甘団子にやゆよが倒れる。
「オ〜ッ、キミのはなんて個性的な踊りなんだろう〜。ボクの素晴らしくビュ〜チホ〜な踊りとコラボレートしようじゃないか〜♪ 
 月の素晴らしさを伝えるなら、ボクの技を教えてあげるよ〜。楽しいだろ〜♪」
「ムゥ?」
 登場した時に見せた不思議な足裁きを軽やかに見せるミヒャエル。うさは必死にまねをするが、どうもそこまでうまく出来ないようだ。必死に見つめては首を傾げて真似をしている。
「はは、さすがにミヒャエルさんの踊りは難しいかな。それより私たちにも踊りを教えてよ。ね?」
「私は歌踊りに長けてませんので。代わりに出雲を混ぜてやって下さい」
「下さい」
 笑って教えを請うわらびに、澄華は月のエレメンタラーフェアリーを手招く。 
「んじゃ、こっちのうーちゃんも♪」
「茅萱たちはちょっと無理じゃないかな」
 小兎たちも招こうとしたうさだが、化けどころかまだ成長もしてない幼い身には厳しい。
 ちなみにこの出雲とわらびの兎・茅萱とやゆよの兎・ぴょん助は人間よりも上座で上等な席が用意された。
「オ〜ッ。このライトはお月様みたいだろ〜? さぁ、これを持って皆でもう一踊りだ〜♪」
「やっぱり賑やかですね。挨拶回りはしておいて正解でした」
 この調子では朝まで歌って踊れるだろう。楽しくはあるが、近所への配慮を考えると少々申し訳ない気もする文淳。
「え? 賑やかって‥‥うるさいって事? 目立っちゃいけないのか〜い? だけど、ボクの踊りに人は惹かれずにいられないからね〜。オ〜ッ、ボクってなんて罪作り‥‥」
「うーん。まぁ人目引いて変なのに入り込まれて困るいうんは、今少しありますなぁ」
 崩れ地面に伏して嘆くミヒャエルに、ニキは少々考え込む。
「大丈夫。人目引いて目立って大好きになるのはお月様が一番♪ お月様の素敵さに適うのはいないもん。だから、婆がちゃんとやってるか見てくるね」
「ちょお待ってくれよりまへんか? 何でそないなりよりますのん?」
「むー。素敵なお月様に失礼してないか、確認しなければならないのーっ!」
 月を仰いで胸を張っていたうさだが。次の瞬間には踵返して外に出ようと歩き出している。ニキが慌てて止めたが、うさは行きたいらしくてもがいている。
「うさ様、少し休んで木彫りの器でも作りませんか? ススキや月を彫り込むのです。月見の器にぴったりと思いません?」
 木の器と道具を手に澄華が誘いをかける。目新しい事にうさは興味を惹かれて悩んでいるようだが、どっちを選ぶかはまだ分からない。
「影縛りした方がいい?」
「それは後々怒り出しそうだしなぁ」
 経巻構えてどうしようか悩むルンルンに、猫も困惑気味。
「うささん、ほら見て。お月様カードが出たよ。大当たりだね、こんぐらっちゅれーしょんず♪」
 神秘のタロットから月のカードを選び、うさに見える。西洋絵の独特な図柄は、うさの気を引くに十分だった。
「これが出るとね、今日は出掛けずにお月様の見える所でお月見準備頑張ろう〜、って意味なんだよ。出掛けちゃうと、お月様の占いがはずれちゃう事になっちゃうね。お月様占いってはずれちゃう事あるの?」
「ないよ」
「じゃあ、続けてここでお月見しなきゃね♪」
「おー!」
 やゆよの言葉に乗せられて、うさはさっさと月見の席へと戻っていく。
「ここには、踊りの上手い人も多いですからね。お月様を呼ぶ踊りを教えたらいかがです。いえ、もう彼らの方が上手いんじゃないでしょうか?」
「そんな事ないもん。もっと踊りに情熱を込めなきゃ」
 月花が告げると、やおらやる気になってうさが立つ。
「それではこちらももう一踏ん張り。朝まで踊り続けそうな勢いですね。私も負けてられません」
 気合を入れなおすと、文淳がリュートを奏でる。
「頑張って下さいね。疲れた時の甘い物も用意してますので、適時休息はとって下さいよ」
 とにかく元気なうさを見ながら月花はこそりと皆にそう告げて回った。
 歌って飲んで踊って食べて。賑やかな月見は陽が昇るまで続いた。

 十五夜が沈んで月見も終了。
「お月様はやっぱり素晴らしかったです。この感動はうさの胸にはしまわず、皆にきちんと伝えるべきです」
「待って、うささん! お月見踊りの特訓をお願いします!!」
 ではあるが、小町が戻れるだろう日にちまではまだ少し時間がある。いきなり平和になる訳もなく、今しばらくはうさに街へ出歩かれては困る。
 貫徹でつらいとも言ってられず。感動に打ち震えるうさに、わらびが必死に頭を下げる。
「そうですよ。踊りは朝昼晩とやるべきです」
「いつも心にお月様だね」
 その訴えに月花も強く勧め、やゆよもやる気で並ぶ。もっとも、本当に朝昼晩と踊り続けられたら困ってしまうが。
「オーッ、まだ踊るのかい? いいだろう、ボクの素敵とキミの元気でひたすら踊り続けようじゃないか」
 ミヒャエルが優雅に格好を決めると、その卓越した踊りの腕前を披露し始める。
「そういえば、うさは正月みたいに餅ついとりまへんなぁ」
 ふと気付いてニキが小首を傾げる。
「お月様は素晴らしいからお供えして崇めなきゃいけないの。正月はめでたいから皆に振舞わなきゃいけないの」
 返答は良く分からないものだが、うさは真面目だ。まぁ、月見は餅搗くよりも踊りまくっていたので、それで忙しい分手が落ちるのかもしれない。
「何にせよ。この子らが何の気兼ねもなしに暮らせる世にしなければなりませんね」
 一緒にはしゃいでいる出雲を見ながら、澄華は静かにそう思う。来た時は生贄狩りの目を気になり、懐に隠して連れて来た。帰りも多分そうせねばならないだろう。
 京に押し寄せる波乱の影。その影に一時の光を差し込ませた月見とその後の数日はそうして無事終了した。