【鉄の御所】 越後屋の薬
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■ショートシナリオ
担当:からた狐
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:5人
サポート参加人数:1人
冒険期間:09月17日〜09月22日
リプレイ公開日:2007年09月25日
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●オープニング
「大変でございます。大変でございます。一大事で御座いますっ!!」
髪振り乱し汗も拭わず、凄い形相で冒険者ギルドに飛び込んできたのはまだ年若い小僧。何となく見覚えあるような気がして、よくよく見れば越後屋の下働きだった。
慌てふためく小僧を宥め、水を勧めて気を落ち着かせてから、ギルドの係員は改めて話を聞く。
「失礼をいたしました。私は皆様に信頼と真心をお届けする越後屋にて下働きをさせていただいております。かかる大事に私如きがお訪ねするは分不相応と思いますが、番頭は店を離れられませんので代理で参りました、なにとぞ平に御容赦を、と暢気に話してる暇は御座いません!!」
「‥‥いいから落ち着け」
青い顔してまた騒ぎ出す小僧に、係員、容赦の無く頭を叩く。
「は、はい。失礼をいたしました。このたび、私が参った用件は越後屋の大事にして、ひいては都の一大事になると思い早急な解決をお願いしたくござ候」
まだ混乱しているような小僧ではあったが、それでもどうにか話を進め始める。
「知っての通り、私がお勤めさせていただいております越後屋は都屈指どころか世界に誇る大店で、他の店には滅多無い商品も取り扱わせていただいております。世界各地より仕入れた品質確かな商品を見合う価格で販売し、時にはどんと大盤振る舞い。お買い物は是非是非越後屋で‥‥ってそんな宣伝はこの際置いといて!!」
話が逸れて涙目になる小僧。係員はもう何も言わずに黙って成り行きを見ている。
「ええと、それで何を話したかと申しますと、他の店には滅多無い商品を扱ってるという事ですね。入手方法などは詳しく申せませんが、けして法に触れる事はしておりません。ただ、他の店舗にこの手の情報を盗まれるのは店の売り上げに致命的な打撃を与えかねないので慎重にならざるを得ないという事情はお察し下さい。
ともあれ、そういう珍しい品も取り扱います当店では、商品の輸送には実に気を使っていたのですが。どこで何をどう知ったのやら、此度店に仕入れる商品を鬼どもに狙われてしまったのです」
比叡山の酒呑童子が動いて以来、各地で鬼が活性化している。でなくても、商人の荷など盗賊に狙われやすい。越後屋でも当然警護をつけ、厳重警備で仕入れをしていたのだが。
「襲ってきた鬼たちの大半は護衛がやっつけ、荷もほとんど無事でした。しかし確認した所、店に並べるはずだった治療薬をごっそりと盗られていたのです。ああ、何たる失態か。どうやら、襲撃に気を取られていたどさくさに小鬼が持ち去っていたようなのです」
越後屋に置かれる治療薬はそこらにあるような薬草とはまるで違い、いずれも魔法が使われている。当然値段も効果も劇的に違う。製作の手間隙などから簡単に手に入るものでもない筈だが、それが当たり前のように常備されている辺り、越後屋の凄さが分かる。
「入手経路はそこだけではありませんし、在庫も十分にございますから店頭での販売に支障が出る事はございません。しかし、盗まれた品も少なく無い量です。鉄の御所にはいまだ傷の癒えぬ鬼どももいるでしょうし、そういった輩に使われたらえらい事になります。
なので、早急に荷物を取り返したいのです。しかし、品を襲撃された以上、安全な経路をまた探らねばなりませんし、念を入れて倉庫も移して警備も再確認しておくべきとの方針で動いておりまして、店の者だけでは人手が足りませぬ。そこで、冒険者に奪われた荷物を取り返してもらおうという事と相成りまして、不肖私が番頭より依頼を授かってまいりました」
荷の行方を捜した結果、小鬼たちと共に発見。現在、襲撃現場から比叡山まで真っ直ぐに逃走中。だが、山奥にある深い谷に阻まれ足止めを食い、小鬼たちは迂回して橋を渡るか谷底に通じる崖を下りて向こうに渡るかでもめているらしい。
「馬鹿だから、追われてる事も考えずに決着つくまで当分動かないみたいです。なので、今の内に荷物を取り返してください。取り返してくれるのが一番ですが、どうしても無理なようなら、最悪商品は破棄するようお願いします」
店にとってはかなり痛い出費になるが、鬼たちに盗られるよりはマシ。
どうかお願いしますと、越後屋の小僧は頭を下げた。
●リプレイ本文
仕入れの途中で盗まれた越後屋の品。それは魔法効果のある薬で、そこいらにある薬よりも格段に値が張る。しかし、高価だからというよりも即効性のある治療薬という点から、越後屋は事態を重く見て冒険者ギルドに依頼してきた。
何故なら盗んで行ったのは小鬼たち。そこから比叡山の鬼たちの手に渡れば後々どんな厄介になるか。
「取られた魔法薬は十箱。となると、結構な量ですね。それだけ大きく事が動こうとしているのでしょうか」
比叡山討伐で多くの鬼を葬り、王たる酒呑童子の腕も切り落とされた。しかし、鬼たちの傷もそろそろ時が癒してくる頃。そして、酒呑童子の腕も奪い返されてしまっている。
不穏な流れに、トウカ・アルブレヒト(eb6967)の表情が曇る。
「エチゴヤさんには普段からお世話になってますし、出来ればお薬は取り返したいのですけど‥‥」
ツバメ・クレメント(ec2526)の言葉も尻窄みで、心許ない。が、それも仕方が無い。依頼に現れた冒険者は四名。対し、小鬼は大所帯で十六という。数の上では圧倒的に不利だ。
「人数が少ないからな。あまり荷物を考えないで小鬼たちを倒していく事に集中した方がよさそうだな」
状況は理解すれども、だからといってレオナール・ミドゥ(ec2726)に不安げな表情は一切無い。むしろそれを踏まえた上で奮起して、長棍棒を振るう。
「小鬼たちが留まっている場所は崖の傍だとか。降りる事も可能だそうだが、相手には手荷物がある。攻撃すれば逃げやすい橋へと向かうのではないだろうか。箱の数が十で、大きさからして小鬼は一人一箱以上持てない。すると箱を捨てない限り、手隙の小鬼は六匹以下になる。――四対六なら勝算はある」
聞いた情報を元に考え、物見昴(eb7871)が強く言い放った。
越後屋からの盗みが成功し、もう逃げ切れたと思っているのか。小鬼たちは情報通り、崖の傍で言い争っていた。
ぎゃあぎゃあ言い合う騒ぎは実にやかましく、離れた場所からも丸聞こえ。鬼の言語は分からぬものの、 向こうと崖下とを指差し、腕をふりあげ、ずいぶん白熱している。おかげで、木々に隠れながら簡単に近付けた。
「それじゃあ、いっちょやるか!!」
大声をあげるや、レオナールは棍棒を振り回し、小鬼たちの騒ぎへと突っ込んでいく。
「おらおら! 盗んだ薬は返してもらうぜ! 素直に置いて行く方が怪我しないで済むぞ!!」
「ゴゴブ?!」
口うるさく騒いでいた小鬼たちは、突然の乱入者に大いに戸惑う。
「鬼は外! というより、比叡山から出てくるな。おとなしくしないから痛い目に合うんだ」
右往左往していた小鬼に昴がさらに追儺豆を投げつける。小さな豆粒を酷く嫌がり、身を震わせた小鬼にすかさず忍者刀を叩きつけ。気絶した所に一刀浴びせる。
先制は取った。しかし、小鬼たちは気を持ち直すと、数で押し切ろうと各々斧を構えて向かってくる。負わせた手傷も、箱を開けて中の薬で癒していく。そうなると数が減らず、動きも鈍らずでかなり厳しい。
「援軍を呼んできます!! すぐに連れて来ますから!!」
ツバメはわざと声を荒げ、派手に木々の葉を鳴らして飛び退る。
援軍など勿論無い。すべては小鬼を追い込む為の方便。人を呼びにいったように見せかけ、その実ツバメも傍に潜んで小鬼の動きを見守る。
「ゴゴゴゴ!」
果たしてその言葉を理解したか。一部の小鬼が騒ぎだし、戦闘していた他の小鬼を諌めると荷物を纏め出す。
「難しい事を考える相手ではありませんし、逃げるとなれば早いでしょう。けど、違う方向に逃げられても困りますしね」
崖も降りようと思えば降りられる。が、そちらに行かれては計算が狂う。
枯れ木に火をつけると、トウカはファイヤーコントロールで小鬼たちへと炎を動かす。殺傷力は低く、さしたる傷は負わせられないものの、生き物のように襲ってくる炎に小鬼たちは驚き慌てる。
「ゴブゴブ! ゴォゴォ!!」
一匹が橋のある方を指差すと、後は雪崩れてそちらへ走り出す。
「じゃあ、僕は一足お先に行かせて貰います」
「おう、気をつけろ!」
シフールの飛翔でツバメは小鬼たちを追い抜き、先に橋へと向かう。
荷物を抱えて小鬼たちは走る。残る荷物を抱えていない小鬼は、彼らを逃がそうと追撃を阻んでくる。
「小鬼たちが! さっさと走れ!!」
「妙な方向に逃げず、きちんと道筋を辿って下さいね?」
邪魔になる振り払い追いたて。あるいは誘導しながら、一同は集団を追いかける。昴の犬・ジンパチも崖を降りたり別方向に逃げようとする小鬼が出ないよう、回り込みながら小鬼たちを橋の方へと向かわせていた。
「あの橋か‥‥、しかし抜けられては困る。先に向かわせてもらおう」
どのくらい走ったか。まぁ、結構走りはしたが遠すぎるということも無く。谷にかかる橋を見つけ、昴は小鬼たちを追い抜く。疾走の術のおかげで移動も速い。
薬を奪った時、揉めずにさっさと決めていれば簡単に乗り越えられた橋を、小鬼たちは追いかけられながら無理やりに渡らされる。
「でも、ここからは行かせる訳にはいきませんから!!」
橋の途中で、霞小太刀を抜いたツバメが小鬼たちに襲い掛かる。動きが制限されてしまう場所で、空から自在にかかってくるツバメに、小鬼たちは手をこまねく。
前に通してもらえぬなら、一旦引いて。そう考えるのはたやすく最後尾にいる小鬼から引き返そうとしたが、
「こちらは駄目です。抜けさせません」
ヒートハンドを使って熱した石をトウカは戻りかけていた小鬼に投げつける。滞空中に幾分冷めてしまうが、単なる投石でも十分痛い。
「荷物抱えて動けない、今が好機! 一気にたたませてもらう!!」
気合を入れて橋に乗り込むと、レオナールも小鬼を打ち据えていく。
橋の上という極めて限定された空間。荷物を抱えたままでは小鬼たちも存分に戦う事は出来ない。
が、荷物抱えても走る事は出来る。そして持っているのは薬。数は限定されるが、回復にはまぁ困らない。
谷を越えれば、ひとまず足止めされるような場所は無い。そして、彼らは戦う必要は無く、薬を運ぶ方が大事なのだ。
乗り越えるべきは今。普通に戦っても勝ち目は無い。移動を最優先として小鬼たちは纏まって比叡山へと走り抜けて行く。
「行かせるものか!!」
一丸となって比叡山を目指す小鬼たちの前に昴が立ち塞がる。しかし、一度に相手できる数も限度があり。誰かに感けている間に、後続の小鬼たちはその横を無理やりすり抜け、橋を渡りきる。斬りつけられた傷も薬ですぐに回復して動き出す。
谷を越えれば比叡山。道のりはまだあれど、一応の難関は突破して後は道無き道をどうとでも進めばいい。
気付いたトウカとレオナールも追いつき、ツバメと昴が行く手を阻めど、手ぶらな小鬼が邪魔をしている間に、他の小鬼は荷物抱えてトンズラ。山の中をあちこちに広く散ってしまう。
戦闘中にも結構な量を消費し、何とか倒した小鬼が落として行った分など、幾つかの箱は回収出来た。
けれど、半分近くの箱はそのまま小鬼たちに盗られてしまった。比叡山に運ばれ、寝込む鬼たちが復活して動き出すのも時間の問題というわけだ。
「ヤマト、お願いしますね」
せめて取り戻した荷物だけでも取りまとめ、トウカは馬のヤマトに積み込む。
果たして鬼が今後どういう動きを見せるか。気がかりを残しつつ、一同は京へと戻って行った。