秋の日の釣瓶落とし

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:10月16日〜10月21日

リプレイ公開日:2007年10月24日

●オープニング

 食欲の秋とはよく言ったもので、この季節、様々な実りがあちこちで見られる。
 山に目を向ければ目に鮮やかな紅葉に混じり、柿栗銀杏芋アケビと秋の味覚が目白押し。冬を前に餌を蓄える動物に混じって、人間たちも山の幸を楽しもうと、山に入るのは当然の事。

「冬の蓄えを作る為にも、この時期山に入って収穫する者は多く、それは毎年の事なのですが‥‥。今年は山に入った者がほとんど帰ってこなかったのです」
 冒険者ギルドにて。とある村から代表でやってきたという若者は青い顔で窮状を訴える。
「熊や狼が出た年もありましたが、それでも入ったほとんどが出てこないというのは妙な話で。それで村の若い者を中心に組んで、真相を探りに行ったのですが‥‥」
 奴らは生い茂る葉に隠れながら、音も無く木の上から現れた。獣を警戒していた彼らは主に地上を注意していた為、気付いた時には一人が木の上に引きずりこまれていた。
「飛んできたのは生首の群れでした。それが、仲間を引き摺り上げたかと思うと、大量の血が降って‥‥。突然の出来事に皆どうしていいか分からず、逃げ帰るしか出来ませんでした」
 若者は口元を押さえる。彼もまた同行して現場を見たのだろう。田舎青年に凄惨な死の現場はあまりにつらい。
 胸の悪さを無理やり飲み下し、青い顔をさらに蒼くしている。ギルドの係員が心配して、少し休むよう水を勧めたが、それを断り、改めて屹然とした表情で話を続ける。
「恐らく‥‥というより、ほぼ間違いなく山に入った者は奴らに殺られたのでしょう。推測はつきますが、かといって僕らでは奴らにどう対処していいか分かりません。とりあえず、山は封鎖して誰も入らないようにしましたから、今の所新たな被害は出ていないのですが‥‥。最近村近くでそれらしい影を見るようになったのです」
 係員は頷く。
 飛ぶ生首といえば、釣瓶落としだろう。低級なアンデッドで知能も低い。それゆえに、獲物を求めて単純に生気の多い場所へと集まってきたに違いない。恐らくは、逃げた彼らの後を追って。
 それこそ容易に推測ついたが、言葉には出さない。仲間の死に今だ動転している彼に告げても、自責を駆りたてるだけだ。
「奴らが危険なのは重々分かっていますが、手が出せず‥‥。申し訳ありませんが、村に危険が及ぶ前に退治していただけませんか?」
 釣瓶落としの数はよく分からないが、十はいたという。それなりの早さで飛ぶ上に、生首だけの大きさなので物陰に簡単に隠れてしまうので、不意に現れることが多い。
 強敵とはいえないが、面倒な相手ではある。が、放っておいては村に被害が出る。
 お願いしますと頭を下げる若者に一つ頷き、係員は冒険者募集の貼り紙作成にかかった。

●今回の参加者

 ea7652 カレン・ストロー(30歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)
 ea8878 レイン・フィルファニア(25歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb2149 御崎 陽太(26歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2975 陽 小娘(37歳・♀・武道家・パラ・華仙教大国)
 eb3235 建御日 夢尽(34歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ec3888 顔無し 霧原(34歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ec3981 琉 瑞香(31歳・♀・僧兵・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ec3983 レラ(28歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)

●サポート参加者

サントス・ティラナ(eb0764

●リプレイ本文

 山に現れた釣瓶落とし。犠牲がすでに出ている中、新たな犠牲が出ぬようにと依頼が舞い込む。七名の冒険者が話を聞き、村へと赴いた。
「釣瓶落としって言いにくいから、つるべ。なんだかハゲッっぽいから呼称つるっパゲでいいわよね?」
「つるべでハゲでって見るからに女の敵ね!! 何でもいいから撲殺しない? というか、嫌なツラを思い出して殴りたくなるのよ!!」
「いえ、必ずハゲとも限らないと思うのですが‥‥」
 きっぱりと言い切るレイン・フィルファニア(ea8878)に、拳を堅く握り締める陽小娘(eb2975)。その二人のただならぬ気迫(?)に押されつつ、カレン・ストロー(ea7652)は静かに微笑む。
「とりあえず、そのつるッパゲに襲われた時の状況をなるべく詳しく聞かせてくれねぇか? 思い出したくもねぇだろうが、あんたらにとっても弔い合戦になんだろ? 頼む」
 依頼人はじめ、村人たちに対して、建御日夢尽(eb3235)は頭を下げる。
 言われて、当時を思い出したのだろう。顔を蒼くし、気分悪そうに口元を押さえたが、それでも気力を振り絞るように彼らは状況を話し出す。
 かなり動転していたらしく、細かくは分からない。化け物が出たと悟るや、後は無我夢中で村へと逃げ帰ってきたそうだ。それでも、何とか情報を多く得ようとあれやこれやと質問を重ねる冒険者らに、一生懸命協力しようとしていた。
「山に入った者は無差別‥‥。男女の区別無しって事は、若い女限定ではないのね。よかったとはあまり言えないけど」
 渋面作る小娘は沈む村人たちを見て唇を噛み締める。そもそも彼女が払いたいのはまた別の者で、そっちの対策はさっぱりというのも、喜べない理由のようだが。
「ついでに、獣であっても襲われる時は襲われるって事でいいのでしょうか?」
「アンデッドは生の力を嫌って捕食しますからね。釣瓶落としの知能はかなり低く、行動は本能が基本ですから、獣も襲う事があるのでは?」
「とすると、人間の食物もやはり有効ではないのでしょうね。撒き餌で出てくれたら楽でしたが」
 村人たちに尋ねると、思い返せば少々獣の数が減ったかなぁとあやふやな答え。首を傾げるレラ(ec3983)に、琉瑞香(ec3981)が答える。
「‥‥に山を調べてもらったけど、特に異変らしい異変は無かったって。見付からなかったのは残念だけど、それはつまりまだ特に問題は起きてないって事よね?」
 小娘の手伝いで、先に山を調べたサントス・ティラナはいつもご機嫌の怪しげな笑顔で帰って行った。陽気な口調で告げられた報告を思い出しながら、小娘の眉間の皺が更にくっきり見え出すのは何故だろう。自分でも分かったか、慌てて伸ばしている。
「久々の依頼が空飛ぶ生首とはね。ま、京の情勢はここんとこ最悪だし、ここはいっちょやったろ〜じゃん」
 村の中からも見える、秋の山々。ところどころに紅葉が見られるそちらに目を向けながら、御崎陽太(eb2149)は不敵に笑いたてた。

 情報を仕入れたら、作戦を立てて山へと向かう。
 見たと聞いた現場は、確かに村からはそう遠くない。何の弾みで釣瓶落としが村に気付けば、すぐにでも飛んで被害を出すだろう。
 そうなる前に、こちらが探して叩く必要がある。
「囮なんて気のりしないなぁ」
「パゲを御案内するだけさ。大丈夫だって。とりあえず頭上注意だが、足元留守にして転ぶんじゃねぇぞ」
「大丈夫、足を引くつもりはありませんよ」
 気鬱にしている小娘に、夢尽は笑って励まし、レラも緊張しつつ頷く。
 歩いているのは三人だけ。他の者は山を出た辺りで待ち構えている。
 相手の数はどうやらこちらよりも少々多いらしい。
 飛行する敵はそれだけで厄介。そうでなくても出来る限り戦闘はこちらに有利に進めたい。
 なので、村人から聞いた地形を推考し、誘き寄せて迎え撃つ事になった。
 とはいえ、小娘がふるりと身を震わすのは何も怖いからではない。
 山に入れば空気はひやりと寒くなり、風が身を震えさせる。レラの持って来た松明の炎がささやかな暖にもなっていた。
 冬の前にと、木々は鮮やかに色付き目を楽しませるが、それに見とれる暇は無い。木の影に不穏な兆しが無いか。注意深く目を向ける。
 そうして歩き回る事しばし。気を配った甲斐があったか、空を飛ぶ妙な塊を視界の端に捕らえる。
 何と考える間もなく小娘は身を沈ませると、頭のあった位置でがちんと歯の鳴る音が聞こえた。
「いいい〜〜〜やああああ〜〜!! 出たああああ〜〜〜!!!」
 完全に姿を認め、小娘の悲鳴が山に木霊する。これだけ響けば、離れてる別組にもいい合図になる。
「おいでなすったか。まずは、こっちに来てもらおうか!!」
 木の影、葉の裏に隠れながら、丸っぽい物が飛び回る。素早く飛び回る人の顔。頭しかないのに、ぎろりと目を剥き動き回るさまは不気味という他無い。
 釣瓶落としたちは、夢尽たちが走ると、その後を追って簡単についてきた。
「火は怖がりませんね。まぁ、それなりの武器にはなりますから邪魔にはなりませんけど!!」
 レラが纏わりつく松明で振り払う。殴れば傷をつけられるが、別に火でどうこうという気配は無いようだ。
 山道は走りにくいのに対し、奴らは障害少なく空を飛んでくる。走る事に全力を費やしても、追いつき喰らいつこうと歯を鳴らして付き纏う。
「皆様!! 避けて下さい!!」
 だが、長く逃げる必要も無い。視界が開けると同時、かけられた声に反応して素早く横に飛ぶ。即座に釣瓶落としたちに向けてアイスブリザードが吹き荒れた。
「あーもうっ、臭い臭い臭い〜!! 脂ぎった頭も臭いけど、死の匂いが臭いったらもう!! 女性の前に出るなら気合い入れて清潔にしなさい! 体も無いし、礼装まで要求しない慈悲深い私に感謝なさい!」
 レインが指突きつけて釣瓶落としに怒りをぶつける。その足元ではセッターの羚羊が激しく吠え立てていた。
 扇状に広がる吹雪に巻き込まれた釣瓶落としは、それだけで身を崩して動きを鈍らせる。
 逃げたり変に暴れたりされる前に、夢尽と小娘が駆け寄ると、各々の武器で斬りつけ殴りつける。移動は速いが、機敏ではないらしい。オーラパワーを付与した威力は凄まじく、夢尽の日本刀はあっさりと釣瓶落としを両断し、小娘の月桂樹の木剣も止めを刺す。
「数は今倒したのも含めて十六体。まだ隠れて飛び回ってるのがいます!」
 それでもなお動く影がある。瑞香がデティクトアンデットを唱えると、周囲の状況を確認。範囲も時間も極めて限定され、何度も掛け直してはより細かい位置を把握して、指示を出す。
 その間にも、釣瓶落としたちは増えた獲物たちに向けて嬉々としてかかってくる。
「うっとうしいですね。連携取る訳でもなく、無造作に群れてくるだけとはいえ、数がいると面倒です」
「確かに数は多いですが、釣瓶落としはけして強敵ではありません。慎重にかかれば必ず倒せます」
 四方から飛び回る相手に、振り回されること無く。レラは松明ついでに短刀を引き抜き、斬りつける。割れた頭によろめいたそれを、カレンは素早く殴りつけ。開いた隙にブラックホーリーを唱える。
「ギャアアー!! あっち行け! キモい、ウザい、即座に消えろ〜〜〜!!」
「あのー、さすがにもう大丈夫だと思いますけど」
 瑞香がコアギュレイトで動きを止める。その一体に対し、執拗なまでに小娘が攻撃を繰り広げていた。太目のハゲ面で少し髭な釣瓶落としは、何やら先日手伝っていた御仁に似てる気もする。
「なんつーか。デブハゲヒゲ親父に恨みでもあんのか? まぁ、見てて楽しくねぇ面だけどよ」
「言〜わ〜な〜い〜で〜〜!! ああ、早く江戸に戻りたいーーっ!!」
 苦悩に身を悶えさせる小娘。
 さすがにそれ以上はもう何も言わず、陽太は残る釣瓶落としを狩って、近くは金剛杵を構え、遠方にはサンレーザーで打ち落とす。
「パゲ叩き‥‥。結構もの足りないな」
 固まっている群れに対して、夢尽はソードボンバーを放つ。距離こそ短いが、扇状に広がる衝撃波は相手を纏めて叩き潰す。多少大降りにはなるものの、夢尽の力量相手に釣瓶落としが適うはずなく。たとえそれから逃れても、動きを鈍らせふらついた相手は容赦なく止めを刺されている。
 それよりもさらに距離を伸ばして、纏めて一網打尽にしているのはレイン。一撃必殺とはいかないが、与える傷も十分。高速詠唱で唱えれば、機を逃す事無く次々と釣瓶落としを地に落としていた。

 結局、掃討までさしたる時間はかからなかった。負った怪我は皆無ではないが、放っておいても大事無い程度。
「肝試しの旬は、二ヶ月も前に過ぎてるのよ。それに、真昼間に出るお化けなんてまるで気の抜けたエールよね〜、‥‥って、これは皆には何か分からないわよね〜」
 胸を張って高らかに宣言するレインだが、自分の言葉に引っかかり首を傾げる。
「弔いに酒を供えたりもしますが。その前にきちんと埋葬して化けてでないようしっかり供養しなければ」
「はいはい。村で湯とか食事とかも用意してくれるようだし。もう一踏ん張りしようかしらね」
 苦笑しつつ、レインに穴掘り道具を渡す瑞香。戦闘で無残に散った釣瓶落としは原型留めぬものも多く、埋葬にはいささか手間がかかる。
 死をきちんと土に返すと、瑞香は慣れた仕草で読経を唱える。二度とこの世に戻らぬようにと。
「今回、犠牲になった方々にも‥‥。遺恨残さず、ゆっくりと眠れるよう報告しておかねばなりませんね」
 気付いてすぐに封鎖したとはいえ、被害者は少なくない。人生半ばで命を落した彼らに哀悼の意を示し、カレンは祈りを捧げる。
 全てを終えて村に戻り。報告がてらに疲れを癒した後、報酬を受け取って一向は都へと戻って行った。