【鉄の御所】 混戦
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■ショートシナリオ
担当:からた狐
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:10 G 85 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月12日〜12月17日
リプレイ公開日:2007年12月20日
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●オープニング
長く、存在と脅威だけが人の口に上り、しかし大きな動きは見せなかった比叡山・鉄の御所が、この水無月に突如として都へと押し寄せた。
酒呑童子率いるその軍勢を辛くも退けたが、被害は大きかった。翌月、新撰組を主体に討伐隊が組まれたが、壊滅には至らない。
以来、大きな衝突は無く。されど、小さな争いはあちこちで続き、今なお都の民に鬼たちは恐れられ続けていた。
勿論、都の中枢部とて、鬼を放っておくつもりは無い。
が、京には問題が多すぎて、鬼だけにかまっていられないのだ。次のいい手が浮かばぬ事もあり、とりあえずは警戒を続ける日々が続いていたが。
そんな折、御所の一角、政務会議で揃っていた貴族達の許へ慌しくその報告は届けられた。
「洛外にて、鬼どもの戦闘が発生。どうやら鉄の御所の輩のようです!! すでに幾つかの村が襲われ、怪我人が出ている模様!!」
馬を駆って知らせに来たその武者は、息も整わぬまま口早にそう告げた。
「何と!! して、その数は!?」
「馬頭鬼、牛頭鬼、人喰鬼などを主体に、山鬼、豚鬼、犬鬼などを含めておよそ五十ほどかと」
ざわりと、報告を聞いた者たちが声を上げる。
「すぐに、関係各所に連絡。鬼どもの討伐指令を!!」
「お待ち下さい! 御報告はこれだけではありません!」
指示に動いた都人らだったが、その行動を封じるかのように武者は身を進ませ、さらに大きな声で呼び止める。
「鬼どもの総数は五十ほど。しかし、村々を襲っているのは内三十ほど。残り二十はその鬼達を押し止め、村人たちへの危害を防いでるようなのです」
先ほどよりも、更に大きなざわめきが起きた。
負傷者はいるが、死者がまだ無いのもその立ち塞がっている鬼たちの動きが大きいらしい。
稀に、人を助ける鬼の話は耳にする。が、荒くれ者の集う鉄の御所の鬼たちが、それも多数共謀し、同じ鉄の御所の仲間を阻んで人助けとは。
聞いた者たちが、合点いかずに顔を見合わせる。
が、中の一人だけ暗い面持ちで嘆息。疲れた顔を上げると、重そうに口を開く。
「実はだな。鉄の御所に妙な動きが見られたので探りを入れてみれば、どうやら延暦寺の慈円殿が酒呑童子と接触したらしい。近々揃って山を空けるやもという報告を耳にしていたが‥‥、もしやそれが絡んでいるのかも知れん」
「慈円‥‥天台座主殿が! 一体何のために!?」
「い、いや、そこまでは‥‥」
襲撃の報よりもさらに大きなどよめきが辺りに満ちた。立ちすくんで呆然とする者もおり、周囲の困惑は止みそうに無い。
「それで! 神皇さまはそれを御存知なのか!?」
「どうやら内密に事を進めているらしく。さすがに何かあれば報告が入ろうが‥‥」
「何とそのような!! 愚僧どもめ、都をないがしろにするとはけしからん!!」
「待たれよ。天台座主殿には何か深いお心があるのやもしれぬ。短慮は禁物ぞ」
「しかし、延暦寺と鉄の御所が手を組んだなら都はどうなる!? これは立派な反逆ではないか」
様々な憶測が飛び交い、どよめきは今や喧騒にまで発展する。憤る者、宥める者、うろたえる者。様々な動きが見られたが、
「各々がた、静かになされよ。今は差し迫った問題を考えねばならないのではないか」
誰かの的を射た意見に、少しずつ冷静さを取り戻していく。
「それで、詳しい状況は?」
「現在はとある村にて、双方武器を構えて睨み合い動く気配がありません。村人たちは味方する鬼たちがすでに逃がし、中には誰も残っておりません」
とはいえ、これら鬼たちが動き出せば、そのさらに近隣の村々もまた危険になる。
「延暦寺が絡むかとなれば、下手に兵を動かすのも後々面倒になりますかも」
「仕方ない。冒険者ギルドに人をやれ。彼らで何とかしてもらおう」
全く面倒な。
彼らの顔にはそんな表情がありありと浮かんでいた。
●リプレイ本文
鉄の御所から押し寄せてきた鬼の群れ。五十という数は人にとってまさに脅威。
だが、彼らは一丸となって都に押し寄せてきたのではなく、むしろ争いながらそこにあった。
三十ほどの鬼が都へ攻めようとし、残り二十ほどがそれを食い止めようとしているのだ。
鬼たちに何が起きたのか。それは奇異としか言えない行動。
その糸口を求め、比叡山・延暦寺へと向かっていた神楽龍影(ea4236)だったが。
「どうでしたか?」
おっとりとした笑顔で迎える神楽聖歌(ea5062)に、戻ってきた龍影は残念そうに首を横に振る。
「高位僧侶の方に取り次いではもらえたし、お話も聞いてはもらえたが‥‥」
延暦寺の天台座主・慈円と鉄の御所の酒呑童子が会談を行っているらしい。もしそれが本当ならば此度の事態と無関係ではないはず。
ではあるが、相手は数々の寺社を束ね、時には一国の主を動かし、神皇にも意見を述べる大物。天台座主が所用で不在の時に勝手な振る舞いは出来ぬと、肝心の事ははぐらかされた。
志士である龍影にすれば、都を置いて酒呑童子と交渉を持つなど何を考えてるのか腹の内が気になる。なので去り際、神皇を蔑ろにする意図はないかを問い詰めもしたが、
「無礼な」
と睨まれ、態度を硬化させるだけだった。
「久々に鉄の御所が動いたと思ったら、いきなりの仲間割れ。ほぼ同時期に、延暦寺に動きあり、ね‥‥。最近腕を治させる為の高僧探しも下火になりかけてたみたいだし。詳しい事態は分からないけど、無関係とも思えないわよね」
柳眉を寄せてステラ・デュナミス(eb2099)が考え込む。龍影の見聞きした状況からしても、何かがあったと勘繰るには十分だった。
「鬼さん同士でも争そうたりするんは無い訳や無いやろけど、今回はそれとは違うみたいやね。何ちゅうか‥‥ついてかれへん過激派の一部が動いたちゅう感じやろか」
「比叡山の状況に、こちらが思う以上の変化があったと言う事でしょう。容易ならざる事態。慎重にいかねば」
首を傾げるのは鷺宮夕妃(eb3297)。ボルカノ・アドミラル(eb9091)は覚悟改め気を引き締める。
「延暦寺や鉄の御所で何が起きてるのかは存じませんが。向こうの動きを考慮して、鬼の方々にはおとなしく撤退願いたいですね」
フードを目深に被り直すと、カンタータ・ドレッドノート(ea9455)はクレセントリュートの弦を爪弾く。銀の弦が奏でる澄んだ音色は辺りに響き、やがて穏やかに消えていった。
洛外の小さな村を占拠して、鬼たちはいた。
村人たちは防衛に入ってくれた鬼たちのお陰で、無事に避難を完了している。
人気の無い村で正面衝突は避けたいのか、互いの鬼は見合ったままほとんど動かない。鬼の言葉で何やら話し合う他は静かなもの。
その村に、突如として騒ぎが起きたのは夜半も過ぎた頃だった。
「すみません。見付かったようだ」
フライングブルームから降りた雀尾嵐淡(ec0843)が顔を歪ませ村を振り返る。
夜の闇に紛れて上空からの偵察。ミミクリーで顔だけジャイアントオウルに変化し、灯りが無くてもどうにか村を見る事は出来たが。
さすがは鉄の御所の鬼というべきか。見張りの鬼たちに発見され、警戒が強まっていた。
「ひとまず、村の情報を。中央に陣を布き、話し合いを続けていたようです。それを囲むように手下達が輪を描き、牽制しあってます」
ざっと村の地形など説明した上で、鬼たちの布陣を紙に書きとめていく。
「魔法は専門を使うとして‥‥向こうの鬼さんまで上手く届くやろか」
距離を安全と取るとより高位の魔法を唱えるべきだが、如何せん、それの成功率はまだ低い。なので、夕妃はフレイムエリベイションの経巻を広げて祈ると、続けて、テレパシーの呪文を唱える。
赤い光の後に銀の光。目ざとい鬼たちから先に見つけられぬよう、迅速に行動を開始する。
村周辺。鬼たちがあちらこちらに目を光らせている。
(「全部消えればどれだけすっきりするだろうな」)
我が物顔でうろつき回る鬼たちを見ながら、フローライト・フィール(eb3991)はそんな事を思う。
鬼の総数どころか、鉄の御所にいる鬼たちの数からしてもここに集っているのは微々たるものだが、いなくなれば当分は静かになろう。
もっとも、すぐに報復だとかで騒がしくなるだろうし、そもそれをするのが目的でも無いので想像だけに止めておくが。
警戒を強めて騒がしくはあったが、おかげでどちらが村を守ろうとしているのかが何となしに分かる。
『ちょっと詳しい話聞きたいんやけど、頭はどちらさんどす?』
「ホブッ?!」
夕妃のテレパシーで、突然話しかけられた豚鬼が驚く。間違いの可能性も考えて緊張していた冒険者だが、相手は彼らを認めても攻撃はしてこなかった。
その場で待ってろと言われおとなしくする事しばし。やがてついて来いと案内される。
『頭目さんやろか? うちらは事態収拾に遣わされたんやけど、何で味方同士で争ってるんか‥‥人を守ってくれてるんか、教えてくれまへんやろか?』
『酒呑さまは大事なお話をされている。その間、勝手な振る舞いをする者がいれば止めるよう、自分たちは言い付かった』
相対したのは人喰鬼。出会えばまず戦闘間違いなしの気の荒い鬼だが、やはり襲ってくる気配は無い。夕妃の質問にもキチンと答えてくる。
『何であちらさんは村を襲ったん?』
『状況に流されるまま、人との和平など冗談ではないからな。抗議のつもりだろう』
だったら直接酒呑に言えばいいものを。まぁ、自分たちも政治が悪いからと神皇に告げられるはずもなし、鬼の世界も面倒なのだろう。‥‥はなはだ迷惑でしかないが。
『とりあえず、食料用意してきましてん。村を守ってくれたお礼にどうぞ』
『結構。我らとて主命あって動いたまで。貴様らの為ではない。勘違いされては、虫唾が走る』
お礼を告げるがにべもない。どうやら守ってはくれているが、味方とは言い難いようだ。
実際、周囲を警戒してフローライトが目を走らせると、殺気だった目で見てきている鬼が多い。命令が無ければ即座に血に沈めるのにと悔しそうだ。
『向こうさんは食料、大丈夫でしょか?』
『大丈夫だろう。牛や鳥は十分残っていたし、生米も喰えん事は無い』
こちらを束ねる高位の鬼は五体。目の前の鬼を除いた残りの四体が、向こう側の鬼の相手をしている。おかげで人と接触持った事はばれてない。
代わりに向こうの事態も窺い知れず、心配する夕妃にやはりあっさりと返す。
人を襲うのは駄目だが、そんな時でも略奪は構わない。さも当然に告げる辺り、やはり人とは考えが違うのか。
「金剛童子を知っておられぬか、問うて下さらんか? 彼はガラシャ殿と共に天樹という名で生き、人を助けておると。ただこの件、広く知れ渡ってはいけませぬ故、他の方には内密に‥‥」
龍影が小声で告げた内容を夕妃が改めて伝える。
『知らんな。人と馴れ合うなど気が知れぬが、おらぬ訳ではない。が、それは我らとは何の関わりも無い』
返答は鼻で笑われる。和解の糸口にならないかと期待もあったが、やっぱりその気は見えない。
「こちらの役目は、人の場所を守る為に動く事。目的が一致する限りそちらと事を構える気はないし、襲った側とも戦わずに済むならそれに越した事はないわね」
『異論は無い。が、向こうがおとなしく聞くとは思えん』
ステラの考えに、人喰鬼は大きく頷く(勿論、間に夕妃が入ってる)。と同時に、弱りきった情け無い表情は、あまり交渉は上手くいってないのだろう。
『向こうが下がらんのやったら、こちらも暴れることになってまうけど‥‥』
手加減などできるかどうか。脅迫にならぬよう注意しながら伝えると、相手は嫌そうにしながらも仕方が無いと答えてきた。
彼ら鬼に守られながら、襲撃をかけてきた鬼にも同じく夕妃が語りかける。
結論は酷く早かった。
『人となど馴れ合えるか!!!』
獲物がいると見るや、即座に得物を手に襲い掛かってくる。もはや、同族たちが止めに入るのも構わない。
「聞く耳無しね。だったら、仕方ないわ!!」
殺気だらけで突進してくる敵鬼の群れに対し、ステラは素早く飛び出すと高速でアイスブリザードを放つ。達人技の威力は凄まじく、鍛え上げた戦士たちも耐え切れず、冷気に塗れて苦しむ。
だが、扇状の範囲から逃れた者も多く、気は抜けない。
「五十全部相手ではないですが‥‥、それでも数が多いです!」
襲撃を良しとしない鬼たちが止めている間に、聖歌はオーラを発動させる。
「抑制は難しいか‥‥。楽しみたいけどそれも面倒になりそうだし」
なんにしても厄介だなと、一度後ろに下がって距離を開けると、フローライトは鉄弓を構える。
狙うは相手の頭目。話し合う際から目をつけていた牛頭鬼に向けて矢を放てば、狙い違わず相手に刺さる。分厚い皮膚に阻まれ致命傷には遠いが、体勢を崩して身を丸めている。
「ぐっ!」
斧を振り下ろしてくるのは馬頭鬼。十手で受け止めたボルカノだが、その重さに一瞬顔を歪める。
「喰らえ!!」
が、それで怯む所か、力強く踏み出すと右腕の聖者の剣を相手に叩き込む。渾身の力を込めて打ち込まれた剣をどうする事もできず、馬頭鬼はその身で直接味わう。
『貴様ら退けぃ!! 無駄に命を落したいか!!』
『貴様らこそ退け!! お前らさえ邪魔をしなければそんな奴らなど!!』
人喰鬼たちが吼える。
周囲に響き渡る異形の叫びに、打ち合う刃の音もしばし止められ。
そこに、銀の澄んだ音が混じる。
――鬼族の勇士、耳目傾け給え
我等は、争う事を望まない
鬼の王の志、無碍にする事無かれ
報いは、御身に降りかからん
退かれる事を切に望む‥‥――
銀に合わせてカンタータが歌う。
月の呪力を借りたメロディ。心にまで染み込んでくるその歌に、鬼たちは戸惑いを浮かべている。
絶対の強制力は無いが、頭を冷やすには十分。
そして、動きを止めたその隙に、抑止の鬼たちは襲撃者たちへと飛び込み、打ち据える。
『もう気は済んだろう。これ以上の勝手な振る舞いは、酒呑さまの敵になったとみなされるぞ』
ぼろぼろの格好で跪く鬼に、人喰鬼が武器を突きつける。
勝敗は規した。今戦う余力は残れど、そのまま戦い続けるのは不可能。
襲撃に来た鬼は、唇を噛み締め唸りながらも、かの鬼の言い分を飲むしかなかった。
「大丈夫。あいつらちゃんと山へと帰っていった」
フライングブルームで鬼たちの動きを見届けてきた嵐淡。
襲撃に来た側も止めに来た側も構わず、無事な鬼が負傷者した鬼を助け一纏まりで山へと去って行った。
「本当面倒だったわね。‥‥これが鉄の御所が大きく動く予兆じゃないといいけど」
ふるりとステラが身を震わす。
今回は、半数が仮とはいえ味方に付いた事で大きな被害は出なかった。しかし、彼ら全員が敵に回っていたならどうなっていた事か。
まだまだかの地の動向には気が抜けない。
「しかし、無事に済んだのはいい事ですが‥‥問題はこの土産をどうする?」
運びこんだ荷物にボルカノが弱る。
鬼に配る気でいた食料だが、頑として鬼たちは受け取らなかった。人数考え大量に仕入れただけに、持ち帰っても簡単に消費出来そうに無い。
結局、その荷物は占領された村人たちに配る事になった。
今回の顛末を報告する際、その事も告げると都の方から代金の立替が来る。一応、建前でも都が施したとしたいらしい。