京都見廻組 〜年の始めも忙しい〜

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:01月02日〜01月07日

リプレイ公開日:2008年01月11日

●オープニング

 波乱続きの日本。
 その中枢たる京もやはり例外ではなかった。
 叛乱・戦乱・鬼の襲撃などなど。休まる暇もあったかどうか。
 ごたごた続きの日常に、住んでる人も気が気でない。災禍がいつ降りかかるか、怯える毎日。
 そんな騒動も年と共に過ぎ行き、今年こそは良い年になるようにと、明けて新年、人々は祈りを捧げる。
 山の天辺で御来光、神社や寺や初詣。御近所や付き合いの多い方々への年始回りに、子供は元気に外駆け回り。
 寝正月という言葉はあれども、忙しい人はやっぱり忙しい。

 で、その結果。

「すみません。この子迷子みたいなんです」
「えーーん。お母さーーんどこーーー」
「あの‥‥、うちのお婆さん、見ませんでした? はぐれてしまいまして‥‥」
「近くに厠はないですかの」
「用件は端的に!! 一列に並んで下さいーってか、おいらの仕事は単なる見回りーーーっ!!! 相手するのは犯罪者!!」
「婆さんや、そんな難しい事言われても分からんよ。それより茶はまだかいの?」
「婆さんじゃないし、飲み屋でもな〜〜い!!」
 黒山の人だかり。あちらこちらから用件を言ってくる人々に囲まれて、京都見廻組の坂田金時が泣き叫ぶ。
 人いる所、騒動あり。大勢が集まるならばそれは特に顕著となり、犯罪も発生しやすい。
 さらに正月となればあちこちで酒が振舞われる為、気が大きくなったり判断が甘くなったりする人が増えて、なおの事騒動が起きやすい時期。
 それを事前に抑えるべく、都の防衛に努める組織はそれぞれで治安維持に奔走している。
 相変わらず一番勢力は新撰組ではあるものの、その後ろ盾たる源徳家康は江戸から追い出されて帰る目処はまだない。
 対し、尾張では平織虎長が奇跡のような復活を成し遂げている。表に出てこないとはいえ、私兵同然の黒虎部隊は勿論、長く傘下にあった京都見廻組も士気が上がるというもの。
 金時も他の仲間と組んで不審者がいないか見回り。
 その最中に、迷子を一人見つける。
「見つけたもんはしょうがないよなー。かどわかしにあってもしょうがないし、少し親を探すかー」
 これも仕事の内だと親探し‥‥を始めたのはいいが。
 丁度、周辺には大きな寺社仏閣が集まっており、参拝に来る客の多い事多い事。それだけ居れば、迷子や探し人も比例して発生し、見廻組が親探しをしてくれるという話だけが妙に広まって次々とはぐれた子供が連れ込まれる。
 はぐれるのは子供ばかりでなく、老人がいなくなった、連れ合いが消えたと探す側が相談に来たりして、辺りに人が溢れ帰る。
 これでは道行く人に迷惑だからと、近くの神社の社務所を借りてそこで話を聞いている内にも、外では「面倒はあそこで解決してもらえるぞ」と話がついて、さらに人がやってくる。
 一緒に見回っていた同僚たちは、
「見回りに戻る。後がんばれ」
 と、冷たいんだか暖かいんだか分からない言葉とともにさっさと姿を消し、残された金時一人、やってくる相談者の相手をこなすはめに。
「鼻緒が切れちゃってぇ。何かいい布ある?」
「そこの店で売ってた!」
「うちの子見ませんでした?」
「特徴は?!」
「家内が最近浮気してるみたいで‥‥」
「人生相談は坊主にしろ‥‥って、うわー、おいらも一応坊主じゃーーんっ!!」
 やってくる人も段々便利屋扱いになっている。
 大昔の偉い人には一度に十人の言葉を聞いた者がいるそうだが、この時の金時も負けず劣らずの頑張りを見せていた。
 が、如何せん、能力には限界がある。
 集まる相談者。遊びまわる迷子に、泣き叫ぶ迷子。姿が見えないとおろおろする親。茶を啜る爺婆。着物の泥はねを気にする姉ちゃんに、人生について悩む兄ちゃん‥‥。
「ちょっと! 大変ざぁます。うちのタマちゃんがいなくなったざぁます。すぐに探すざぁます!!」
「えうぅ、特徴をお願いしまぁす」
「全身真っ白で、目は茶色。伸びたひげがとっても愛らしく‥‥」
「猫かよっ!!」
「んま、失礼な!! タマちゃんは犬ざぁます!!」
「似たようなもんだーーっ」
 さらに動物探しも舞い込む始末。
「おい坊主、酒買って来い!! つまみもな〜」
「パシリかよっ! ってかここは宴会場じゃねぇえええ!!」
 ただ待つ身も暇でしかなく。ここであうのも何かの縁と、話があった者同士で飲み会が始まる一角も。
「ねー、あの子漏らした〜」
「これ食べていい? お腹すいたよ」
「眠いよぉ。何か歌え」
 そして、やっぱり待つ身は暇すぎて、自由気ままに駆けずり回る保護者待ちの子供たち。
「‥‥。逃げてやるーーーーっ!!」
「あ、ちょっとこの財布拾ったけど、どうしたらいいと思う」
「すみませ〜ん。ここにはどう行ったらいいでしょう」
 思い余って逃亡するも、即座に捕まり相談を持ち込まれる。
 解決するよりも早く、多く持ち込まれる厄介ごとに、現場は混沌としていった。

 そして。早々と見切りをつけて見回りに戻った同僚たちはといえば。
「庶民の悩みに応えるとは立派だが、下手な対応して京都見廻組はこの程度と思われては困るな。あいつだけだと不安だし、誰か応援呼んだ方がいい」
「とはいえ、正月の忙しさでこれ以上組に人は残ってない。とすれば、あそこに頼むしかないか」
 不審者の発見に努めながら、その足は冒険者ギルドに向かう。

 かくて、冒険者ギルドに依頼が出される。
 大勢の参拝客に囲まれ、騒動を持ち込まれている京都見廻組を助けてやって欲しい、と。

●今回の参加者

 ea1966 物部 義護(35歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2630 月代 憐慈(36歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea6526 御神楽 澄華(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea9150 神木 秋緒(28歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb1422 ベアータ・レジーネス(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 eb5061 ハルコロ(30歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)
 eb5475 宿奈 芳純(36歳・♂・陰陽師・ジャイアント・ジャパン)
 ec4328 藤枝 育(28歳・♀・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

鳳 蓮華(ec0154)/ 琉 瑞香(ec3981

●リプレイ本文

 新春の賑わいは晴れやかで。あちこちで勢いのいい声を聞くと、今年こそはいい年であれと、心の底から願いたくなる。
 もっともそんな晴れとは対照的に、泣きが入ってる場所もある。
「うああああー。来てくれたんだね、そうなんだね。いや遠慮せずに、ずいっとこの混乱を鎮めてちょ〜」
 姿を見せるや、逃してなるものかと凄まじい形相で京都見廻組の同僚たる物部義護(ea1966)と月代憐慈(ea2630)に坂田金時がしがみつく。
 傍には同じく同僚たる神木秋緒(ea9150)と御神楽澄華(ea6526)もいるが、そちらは両手ふさがって伸ばせないだけで、目はしっかり助けてと訴えている。
 実際、凄い有様だった。
 話をつけにきた同僚から聞いた情景よりも更に混沌と。あちらで子供が暴れれば、こちらで大人が怒鳴り。泣いてる女性の隣では、老人達が茶を啜る。
 人を探す声に探される声。早く対処して欲しくて窮状を訴える人は、人よりも切迫しているんだとばかりに声を張り上げている。
 喧騒が辺りを包み込み、それが勘に触るのかあちこちでさらに気の荒い声が行き交う。
「年明け早々大忙しね。本来の仕事とはかけ離れてる気がするけど、困った人を助けるのは悪い事じゃなし。何とか捌いていきましょう」
 あまりの混雑に呆れながらも、ひとまず秋緒は訴えてくる人を宥めにかかる。そうしなければ、話どころか準備も出来ない。
「まぁ、新年らしい仕事と見えなくも無いな」
「今は他に差し迫った仕事もありませんしね」
 祭りの賑わいともまた違う華やかさに、憐慈は苦笑し、澄華も不承不承でありながらどこか楽しげに笑う。
「あ、そう? じゃ、おいらは見回りの仕事があるので、後はよろしく〜」
 挨拶もそこそこ。金時は踵を返すと一目散に駆け出し‥‥たかったのだろうが、その襟首を素早い動きで澄華が捕まえる。
「どちらに行かれる気ですか? 私達は来たばかりで事情を把握できかねます。これまでに持ち込まれた案件に関して、坂田さまにはまだ居ていただかねば困ります」
「最初期に行われた受付対応に知っているのは貴殿一人だしな。消えるなら、せめてその辺の引継ぎだけでもしていってもらおうか」
 生真面目に諭す澄華に、こちらも逃がしはしないぞと義護も笑顔の脅迫を向ける。
「‥‥‥‥‥‥‥人生万事経験。適当にやってりゃ道が開けるさ〜、って事で駄目?」
「「駄目」」
 顔を引き攣らせながらも何とか反撃を繰り出す金時。けれど、それは一刀両断あっという間に却下される。
「まぁ、居なくなったら寺田屋からの差し入れを分ける頭数は減るわね。せっかく用意してきたけど、居なくなっちゃうんじゃ仕方ないものね」
「え、あ、それは‥‥あの‥‥」
 大きな風呂敷包みをこれ見よがしに振りながら、大仰な仕草で秋緒はため息をつく。
 金時は応対追われて食にもありつけなかったらしい。涎垂らして見つめているが、それでも押し寄せる人の多さと差し入れのどっちを取るか。答えを出せず、その場に固まる。
「あの‥‥。僭越ながらわたくしからもお願いしたく思いますの。これだけの人になりますと、人手はいくらあっても困りは致しませんわ。
 それとも、ご迷惑でしょうか? 坂田様も御自分の職務がございますから、無理にとは申せません。けれども‥‥今暫く、わたくし達とおつきあい下さいませんか?」
 楚々と進み出ると、控えめな口調でお願いするハルコロ(eb5061)。純粋な瞳でそっと訴えてくる姿に、金時はうっと胸を詰まらせる。
「‥‥‥。分かったよ。やる! やればいいだろ! ええい乗りかかった舟だ! 嵐の中でも突き進むぜ!!」
 進むべきか立ち止まるべきか。まるで、人生の全てを決断するような苦悩っぷりで延々と悩んでいたが、結局周囲の目には勝てなかったようで。
「お。そうか、残ってくれるか。なら当分俺と一緒に受付案内な」
「うわああ、せめてそこの彼女と〜。駄目なら差し入れだけでも〜〜」
 拳振り上げ決意を表明。苦渋の決断といわんばかりの態度を、憐慈はあっさりいなして金時を引き摺り仕事にかかる。
 名残惜しそうに喚く金時をハルコロはきょとんとした目で見つめていたが。少し考えた後、とりあえず残ってくれた礼にと頭を下げた。

「はい、押さないで押さないで〜。一列に並んでよーん」
「そこにはこの通りを真っ直ぐ行って二つ目の角を真っ直ぐ東ね。‥‥あ、そこの人、横入りはご遠慮願いますわ。申し訳ないけど、急いでるのは皆様同じなの」
「えーと、どんな御用件で? ああ、人と逸れたのか」
 混乱した現場を押さえるには、まず来る人々を整理せねばならない。
 大雑把に何を求めているのかを大別し、その用件に応じて設置した窓口で担当の者が対処に当たる。ベアータ・レジーネス(eb1422)の知人である琉瑞香も準備には力を尽くし、混乱は少なくとも手がつけられないという状態からは脱出した。
 一列でお願いしますと置かれた立看板は、文字が分かる人がしたり顔で説明するので識字率の低さもさほど気にならず。
 憐慈と金時が誘導案内する傍ら、秋緒も道を尋ねる人に地図を広げて道を示す。落し物は箱に集め、迷子は一箇所に集め、ハルコロが面倒を見ている。
「どこの国にもいろいろな話がありますけれど、わたくしの国にも勿論あります。ポンヤウンペという若者の話ですが‥‥」
 子供にじっとしていろと告げても無理なもの。なので、ハルコロが故郷の民話を語って聞かせる。独特の言語をどう分かりやすく訳すか。時折それが何かと子供らに質問され、一緒に考えながら保護者たちが探しに来るのをゆったりと待つ。
「旦那さん、奥様を連れてきましたよ」
 迷うのは何も子供ばかりではない。妻が逸れたと訴えてきた老人の元へ、藤枝育(ec4328)が探して来た。
 途方に暮れていた老女に老人は罰が悪そうに叱りつけると、嬉しそうに礼を告げて参拝の列へと戻っていった。
『一仕事ご苦労様‥‥と労いたいですが、まだ後が控えていますので次をお願いします』
 不意に見知らぬ声が語りかけてきて、育は周囲を見回す。すぐに宿奈芳純(eb5475)がテレパシーで連絡取ってきたのだと気付いた。
 姿を探すと、やってくる人に囲まれながらも、こちらを見て手を上げる芳純と目が合う。
『気にすんなって。一緒に居るべき同士が離れてしまってるってのは何か嫌だからな』
 労いもそこそこ次の人探しを頼む芳純に、育は率直にそう思い伝える。
『それで、どんな奴を探すんだい?』
 促す育に、芳純は探して欲しい相手の特徴を細かく伝えた。
『はぐれたのはそろそろ一刻ほど前の事。占ってみた所、まだその近辺にいるようですが、まぁこれは当たるも当たらぬもという奴ですから参考までに』
 芳純が的確に情報をかいつまんで説明すると、育は分かったと頷くやすぐに雑踏へと飛び出す。
 その後ろ姿を見送るのもそこそこ。芳純も目の前の相手の応対に戻る。
「落ち着いて下さい。それから何があったのか、ゆっくりとでいいですから話して下さい」
「ええ。それが土産に買った品をどこかに置いたまま忘れてしまって‥‥」
 探す相手の特徴を聞きだすとまずは占い。それから、捜索に出ている者たちにテレパシーで情報を伝えて対処を求む。
 悩める人は後を絶たない。一つ解決してもすぐに次がやってくる。
 探し物が届けられたり迎えが来たり、新しい迷子が来たり。冬の寒さにハルコロが温かい物を振舞うと、それ目当てに人が集まる。
 周囲の賑わいに平行してここの騒動も収まりそうにない。

「ああ、いた。よかったです」
 石垣に腰を下ろし、暇そうに足を揺らしていた子供を見つけてベアータはほっと肩を落とす。
 聞いた特徴を確かめ、名前を呼ぶと、不思議そうに相手はベアータを見つめてきた。
 人探しで、逸れたという場所を中心にパーストで見てみるも、具体的な時間が分からねば徒労に終わる。ならばとサンワードで尋ねた所、幸い反応があった。漠然とした解答しか得られないものの、とりあえず方角が分かればそう遠い所にいないはず。
 とはいえ、魔法の使用に経巻を使ったので魔力の消費はすこぶる激しい。専門の威力を使えるのはいいが、数回の使用で限界が見えた。
 ゆっくり休めば魔力はまた使えるが、しかし、悩める人々はまだまだやってきている。迷子探しは結構深刻だ。
 困っている人を放っておけない性分故、これで終わりとする事も出来かねた。
「まぁ、何とかなるでしょう」
 ひとまず子供を保護者に渡そうと、ベアータは事情を話して子供と歩き出す。
 だが、そうして戻る途中。程なくして騒動に行き当たる。
「だから、さっきから謝ってるじゃないです!!」
「それが謝ってる態度か!!」
 大の大人二人。人目も憚らず怒鳴り散らしている。
 周囲は野次馬が足を止め、係わり合いになりたくないものは足早に過ぎ去ろうとする。
 人の足が乱れ、ちょっとした混乱が出来た中を、澄華が顔を出す。
「まあまあ。お二人とも道の真ん中では御迷惑ですよ。まずは少し脇に行きましょう。ああ、皆さんは御気になさらず。どうぞお先に」
 にらみ合う二人を道の端へと誘導すると、足を止めた人たちに進むよう促す。
 おもしろそうな見世物だと集まっていた人も、役人が現れれば致し方ない。つまらなそうにしながらも流れはまた前のままに戻る。
「どうしたんです?」
「どうもこうも。肩が触れたの触れないのと良くある話です」
 その流れを横切って、ベアータが澄華に話しかける。
 大まかな事情を聞き取った澄華が呆れて告げる横で、また二人は口論を始める。厄介な事に二人とも酒が入っているのか、顔は赤いし口から臭気もする。
「アイスコフィンで固めますか? それぐらいの魔力は残ってますよ」
 いきなり物騒な提案を述べるベアータに、澄華はその内にと笑う。
「武を持って鎮めるのは難しくないですが、新年早々にそれは無粋でしょう。‥‥もっとも、周囲の人に迷惑をかけたりするなら、私も容赦はしませんけど」
 段々気を大きくしてきた二人に、澄華は抑えた声のまま腰の物に手をかける。
 竹光ではあるが、酔った二人にはとっさの判断が出来かねた。どの道澄華が本気なのは確かで、それを見て二人ともすっかり酔いも冷ましたようだ。
「ここはいいですから先にその子を。お母様がお待ちでしょう」
 連れていた子は、大人の騒ぎをものともせずベアータを見上げている。
 ベアータは一つ頷くとその子を伴って詰め所に戻り、澄華は改めて二人から話を聞き、気を落ち着けるよう諭す。

 ひっきりなしに訪れた揉め事は、人の数が減ると共に少なくなり、日暮れる頃にはすっかり参拝客たちも姿を消していた。
「お‥‥終わった‥‥燃え尽きた‥‥」
「ご苦労さん」
 ばたりと文字通り地に倒れ伏した金時を、周囲は苦笑しながらも労う。
 対処していた時間は彼が一番長いとはいえ、少々大げさな表現だと思ったが。大変だったというのは誰に聞いても明らかだった。
「こちらを貸して下さっていた神社の方にお礼を述べておきませんとね。ついでと言っては何ですけど、場所もよろしいですし、初詣と参りましょうか」
 秋緒の提案で神社に参る。
 思いがけず、この神社にも人が集まっていたが。夜となった今では昼の熱気が嘘のような冷ややかな静寂が辺りを支配していた。
「大変ではありましたが‥‥、本来ならばこのような仕事ばかりであるのが良い事なのでしょうね」
 静かな境内を眺め、澄華が呟く。
 騒動は起きたが、誰が損した訳でもなく。死人も出ず、また治安維持の為にと誰かを殺す必要も無い。
 一同並んで神が鎮座する前に立つと、鈴を鳴らして拍手を打つ。各々が祈る胸の内は、さてどのような願いが込められているのか。