餅と酒と
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■ショートシナリオ
担当:からた狐
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:7人
サポート参加人数:1人
冒険期間:01月28日〜02月02日
リプレイ公開日:2008年02月06日
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●オープニング
とある日の小町邸。
陰陽師の小町が冬の寒さを噛み締めながら、火鉢でのんびり暖を取る。
同じく、寒そうに火鉢に当たっているのは居候の異国の青年。
と言っても、実際は人間で無い。正体はワーリンクスで、山猫人に獣人化する。いろいろあって本名を覚えてないので、とりあえず猫と周囲から呼ばれている。
「そういや正月も無事に済んだといえる時分だが‥‥。どうするんだ、この餅」
猫が、この餅、と指したのは家の中。至る所に餅が詰まれ、ぶら下がり、山となって存在している。
それを作った元凶はといえば。
「ゆ〜き〜だ〜〜ーーーっ!!!」
近所迷惑顧みず。喜び勇んで庭を駆け回る子供一人。
こちらもやはり人間でなく、正体は化け兎。もっとも、人に化ける以外能力は無い。皆からうさと呼ばれている。
粉雪舞う中、元気一杯。性格は天真爛漫‥‥というより、我が道を行く。
兎といえば月夜と餅つきだ。うさもその概念に漏れずどちらも好きだと公言する。
その情熱たるや凄まじく。正月はおめでたいから、と明けても暮れても餅を搗きまくり、小町宅を文字通り餅で埋めた。昨年はその対処に冒険者まで借り出すという一騒動。
今年もてっきりそうするのだと思っていたのが、日が経っても小町が動く気配は無い。
「つまりね。正月の熱入ってる時に消費しても、減った分だけまた追加しようと燃えてくれるだけでしょう? だったら、正月終えて気がすんで、もう餅はいいって時期に一気に消費した方が結果的には埋め尽くされなくていいんじゃないかなと思ったのよ」
確かに。正月も終わって気がすんだのか、うさは最近餅つきをしていない。今も家の中の白い餅より、外を白くする雪に夢中になっている。
御近所や知り合いに配ったりもしていたようだが、置き場所が無いなら遠慮する事ぐらいは知っているようで。総じて餅の総量は去年よりも少ない気がする。
「そういう事なんで。そろそろこの餅を片付けるのもいい頃よね。近い内にギルドに頼んで、料理してくれる人を募集してみるわ」
「おう。うさの餅、大事に食べてね。大事なんだから〜」
「はいはい」
餅の話を聞きつけ、うさが飛びついてくる。が、餅搗きしようとする気配は無い。
これで後はこの大量の餅を消費すれば、本当に正月は終わる。
今年は平穏に済んでよかった、などと軽く考えていた小町だったが‥‥。
数日後
「何よこれはあああああーーーっ!!!」
小町の絶叫が屋敷中に響き渡る。
ひとまず、片付ける餅を出しておこうかと縁側に並べて就寝。
一夜明けると、全て腐っていた。――もうでろでろに。
「うさの‥‥うさの、餅がああああああ」
「うげ。これは酷いな」
不気味な色合いと化した餅を前にうさは泣き崩れ、猫は異臭に鼻を摘む。
「誰だーっ! うさの餅をこんなにしたのはあっ!!」
「ふん、思い知ったか。馬鹿妖怪」
顔を真っ赤にして足を鳴らすうさに、小馬鹿にした声がかけられる。
声の主を探せば、屋根の上にちょこんと座る羽を持った小さな人型。シフールよりもさらに小柄なそれは、大きな葉を衣にしていた。
「貴腐妖精じゃない。なるほど、物を腐らせるのはお手の物って訳ね。でも、なんでこんな事するのよ。うさじゃなくても怒るわよ! 誰がこの悲惨な縁側掃除すると思ってるのよ!!」
「そこか、怒る所は!?」
うさ程ではないが、やはり怒りの表情で指差す小町に、猫は横から突っ込みを入れる。
「ふん! お前達は私の丹精込めて作り上げた大事な物を奪ったんだ!! ならば、同じように大事な物を奪って何が悪い!」
「むー、うさはお祝いはしても、泥棒はしないもんっ!」
「じゃあ猫、あんたね!!」
「あんな奴知るか!! それより術の材料とかで調達したんじゃないのか、陰陽師!」
「失礼な!!」
屋根の上から、貴腐妖精も怒り心頭で見下ろしてくる。
覚えの無い出来事を三人三様なすりつけ合うが、それがまた勘に触ったようで小さな足を精一杯鳴らして怒鳴りつける。
「ふざけるな! そこの子供!! いや兎! 貴様の子分だ!!」
「「「‥‥‥‥子分?」」」
突きつけられた言葉に、今度は三者仲良く首を傾げる。
「そうだ! 私が丹精込めて発酵させていた酒を、どこで嗅ぎ付けたか目を離した隙にことごとく飲み散らかしやがったんだぞ、あの四匹は!!」
びきり。
擬音で表すとこんな感じ。空気が急激に凍る音がした。勿論、心の中で。
「‥‥‥‥四匹って。もしかして、一見イケメン少年だけど何故かいつでも真っ裸でバカアホ丸出しの性格した実は正体化け狸な四匹の事だったりする?」
「やっぱり知ってるじゃないか」
当然とばかりに胸を張って答えた貴腐妖精に、今度は猫と小町だけが脱力して膝を折る。
「奴ら、咎めても悪びれるどころか数に任せて私を縛り付けおって! 『兎の親分がいたらこの程度では済まさない。餅作りが忙しくてよかったな』なんぞと抜かしおって!! ようやく抜け出した私は、その言葉を元にお前を捜しあてたのだ!!」
「敵に罪を擦り付けるとは、ちっとは知恵をつけたようだな」
「浅知恵って奴だけどね」
とある寺に住み着いた化け狸四匹は知らぬ仲ではない。が、親しいとは呼ばれたくもない。
彼らの性格は迷惑千万。昔いろいろあって、うさとは非常に仲が悪い。勿論、親分子分の間柄でも無い。
「むー!! あんな馬鹿狸、子分じゃないもん! うさの子分はもっと賢くて可愛くて小さくてお餅が美味いんだもん」
「世迷言を! そんな嘘を今更信じると思うか」
が、そんな事情は知らない貴腐妖精。彼らの思惑通りに言葉を解釈し、信じて疑ってない様子。
「今回は、これで満足してやる。だが、今度私の酒に手を出してみろ。もっと酷い目にあわせてやるからな!」
貴腐妖精はべーっと舌を出すと粉雪ちらつく空へと飛んでいってしまう。
「むー、うさは怒ったぞ!! 許さな〜〜〜い!! うさの餅に謝れーーっ!!」
「コラマテ。話がややこしくなるから、大人しくしろ」
怒り狂って杵振り回し、後を追おうとしたうさを猫が襟首掴んで捕まえる。
「‥‥とはいえ、どうすんだ?」
「放っておいても、あの馬鹿たちがまた何かしでかす可能性もあるし、誤解を解いておく必要はあるわね。じゃ、あたしはギルドに人頼んで貴腐妖精探して来るから、あんたはここの掃除お願いね☆」
「待て。何が起こるか分からんから、俺が行く」
「そんな事言って、単に掃除したくないだけでしょ!!」
「それはこっちの台詞だーっ! お前ん家なんだからお前がやれ!!」
「むー、うさは行くぞ! 絶対ごめんなさい言わせるんだぁあああ!!」
腐った餅を前にして、三者揃って口々にわめく。
そして、小町は冒険者ギルドに足を運ぶ。
「そんな事情なんで。馬鹿狸ぶっ飛ばして貴腐妖精の居所聞いて誤解を解き、うさも宥めて、腐った餅を始末して無事だった餅を消費したいのよ」
「‥‥新年始まって間も無しというのに、大仕事だな」
「まったくだわ」
一息にまくし立てる小町に、ギルドの係員は同情の目を向ける。なおもぼやき続ける小町はさておいて、とにかく係員は依頼の貼紙を作り上げると、冒険者募集を始めた。
●リプレイ本文
去年と同じく大量に作られた正月の餅。
その一部が一夜にして腐り果て、無残な姿を小町宅の縁側で晒している。
冬場なのでマシだが、これが夏場なら異臭漂いさらに凄まじくなる。
「あ〜、勿体無いっす〜。これだけあれば、美味い雑煮や善哉が幾ら食べれたっすかね〜」
山のような異物を前に、太丹(eb0334)が落胆する。彼の無敵の胃袋にも、さすがにこれは収められない。
餅の管理が悪かった訳ではなく、そも一夜で腐るなどありえない。
通常でない手段が絡んでおり、その方法も犯人(?)も分かっている。
腐敗の妖精・貴腐妖精。
しかし、貴腐妖精がこの様な真似をしたかといえば、また別のもののけが絡んでくる。
「トドのつまり。全ては駄狸どもが悪いと」
邪悪な笑みを湛えて、白翼寺涼哉(ea9502)が指を鳴らす。
貴腐妖精が怒ったのは大事な酒を化け狸たちに飲まれたから。貴腐妖精が餅を腐らせたのは化け狸たちが化け兎・うさに責任を擦りつけたから。
何も悪い事してないのにこの仕打ち。怒り狂ううさを宥めながら、小町が依頼し、訪れた冒険者は六名。
とりあえずは、誤解を解く為貴腐妖精を探さねばならず、その為には化け狸たちに居場所を尋ねる必要がある。
「あいつらに頭を下げて尋ねた所で意味ないし、殴り倒して聞くしかないわね」
腐り縁側を不快そうに見ている陰陽師の小町に、やる気というより殺る気満々でうさは彼方を示す。
「むー。化け狸叩きはうさもやる!! 行くぞ! 亀!!」
「いやだから亀じゃねぇし。ついでに子分でもねぇし」
相変わらず名前を呼んでくれないうさに落胆する黄桜喜八(eb5347)の隣では、エレメンタラーフェアリーのりっちーが楽しそうに言葉尻を繰り返している。
「別に出向く必要はないですよ。どうせこちらで何か楽しそうにやってれば邪魔しに現れるに決まってます。そこを捕まえればいいんです」
浅知恵とはいえ、手の込んだ所業に藍月花(ea8904)も戦闘準備は整っている。
「楽しくって何を?」
「宴会やったら餅の消費も出来るんやおまへんか? どうせ餅はあれが全部と違いますんやろ?」
「ええ、まだまだまだまだあるわよ」
あれと腐れ餅を指差すニキ・ラージャンヌ(ea1956)に、すんなり頷く小町。
「宴会っすね〜。自分、酒とかつまみ持ってきてるっすよ〜。さあ、ポン吉たち〜、皆で来るっす〜」
用意されていく大量の食材に、丹も笑顔で手伝いながら、摘み食いにも精が出る。
「むー。餅が踏みにじられたのに、お祝いなんてしたくないもんっ」
その中で、不満そうにしているのは実はうさ。とても楽しんでいられる心境ではない。
「したらば、餅搗きしねぇか? その踏みにじられた餅を補充する為にもよ」
頭をわしわし撫でながら、喜八が提案。
そうとう頭に来てたのだろう。餅の一言にも即反応せず、眉間に皺寄せ考え込んでいたうさだが。
「分かった、じゃ虫も手伝え〜♪」
「‥‥いやだから虫じゃなくてりっちーって名前があるってばよ」
「ばよ〜」
やはり好きな物には勝てないのか。軽い足取りで杵と臼の支度にかかる。
宴会と別目的の為に用意された食材は豊富で、ついでに飲み物も抜け目無し。
「お、美味い酒が揃ってるな」
「いや全く」
「このような豪勢な食事も久しぶりよのぉ、ぽん羅よ」
「ああ、ぽん理。またいい思いをさせてもらえそうだ」
「特にこの団子と来たら口の中どころか体中が燃えそうで‥‥」
「「「「ばたんきゅー」」」」
並んだ食事を見ていた涼哉の傍で、何時の間に現れたか化け狸四匹が突っ伏す。手にした団子は、ニキが狸用に用意して庭に撒いた激辛。泡吹いて真っ裸で倒れる狸たちを、ニキのセッターとボーダーコリーのリキが吠え立てている。
「高い所から現れたがると思ってましたが‥‥。今日はどういう心境でしょう?」
首を傾げた月花に、同じように狸たちも首を傾げ、
「ひゅ? ひょんなひょとひてたはろーは? ほん瑠や」
「ひわへふほふーこほはひへはのはろう。なぁ、ほん冷よ」
「はらば、はらへははるはい! いふほ! ほん琶!」
「ほう、ほん雄よ! はれらのゆうひ、みへへひゃる!!」
腫れたままの口で話し合うと、一目散に屋根へ駆け上がり、
「「「「あ〜れ〜〜〜〜」」」」
足を滑らせ地面に落ちる。月花が油を塗っていたので当然だ。
さらに張ってあった縄に足を取られ、今度は天高く放り上げられる。これもやっぱり月花の罠。
「口上遅れましたが、仏罰戦士ボーズマンブルーです。それにしても、また見事に引っかかりますね‥‥」
高く飛んでまた地面に激突した狸たちを見ながら、月花が感心するやら何とやら。
「ボーズマンクローどすー。ま、狸やし」
同じく口上述べながら、ニキはひたすら苦笑するしかない。
「ボーズマンシローだねぇい。褌嫌いと言ってる駄狸には(ピー)から葱をぶっ刺すねぃ」
にやりと笑うと、涼哉は用意した葱を狸らに仕込んでいく。相手が寝そべってるので刺し易い。
しかし、葱を用意したケント・ローレルからは、「食いモン粗末にすンぢゃねェ!」と力一杯注意を受けていたが‥‥これはいいのか?
「馬鹿というか、どうしようもなく馬鹿だね。でも、馬鹿だからと言って容赦はする気はないよ。さあ、貴腐妖精の居場所を吐いて貰おうか」
馬鹿狸の動きに呆れ果てるムウ(eb5305)だが、そこで見逃したりはしない。
小太刀をすらりと抜き放つと四匹に突きつける。
「ふっ。誇り高き我らが、そんな下種な手段に屈するとでも‥‥」
「喋るのは一体でいいんだから、うさも三体まで殺っていいよ」
「いや、やるならぽん代を先に。小さいし」
「いやいや、ぽん湯を。大きい方がいいだろ」
「いやいやいやいやぽん吾だな。長さ比べしてみよう」
「ここは一発ぽん云がやられるべきだ。回転率なら一番だー」
容赦する気は微塵も無く。
隣で杵振り上げてるうさと一緒にどれからやろうかムウが相談始めた途端に、始まる醜い譲り合い。
ただ、どこまで真剣みがある。
「むー。いちにさんのいちにさんで、狸足りないよ?」
「そうだね。じゃあ、面倒だし全部殺っちゃおうか」
「むー♪」
狸を数えて困惑しているうさ。その頭を撫でると、その笑顔のままでけろりと物騒な提案をする。
うさは喜んで飛び跳ねているが、狸たちは震え上がっている。
「まぁ、ここは酒でも飲んで落ち着いていけ。珍しい『華国名物ぽんぽこりん』も手に入ったから一緒にどうだ?」
震える狸たちを宥めて、涼哉が差し入れる。
酒は珍酒・犬饗宴。狸らには勿体無い気がするが、涼哉は気にしない。
そして一緒に差し出したのは、縁側で腐った餅だった物。
「「「「うげええええ〜〜〜」」」」
存分に咀嚼し、飲み下し、酒もなみなみと飲み干し、ほっと一息ついてから苦しむ狸たち。
「お、そうか。そんな悶える程嬉しいか。もう少し食べたくないならさっさと貴腐妖精の居場所を吐いてもらおうか」
「「「「うぇろうぇろ」」」」
「その吐くじゃない。全く煮沸消毒が必要だな」
「湯は用意してありますよ。遠慮なく」
涼哉の言葉に、月花が笑顔で大量の湯を示せば、喜八はその中に芋がら縄を千切って入れる。
「味噌味で良かったのか?」
「新巻鮭もあったから、これも入れるか」
実に美味そうに出来上がる味噌汁。しかし、そこに入るのは狸たちである。
「「「「ぉわっちちちちちち!!」」」」
「おー! 美味そうに煮えてるっすね〜。早く居場所言わないと狸汁っすよ。いやいや言わないで欲しいっす〜」
煮立った鍋の中で踊り続ける狸たちを、涎を垂らし、皿と箸を手に準備万端で待つ丹。
その目はマジだ。
「ふっ、我慢大会その位置ー」
「煮ー」
「こー参〜」
「右に習え〜」
狸たちは相変わらず危機感があるのか無いのか良く分からない態度ながらも、一応危機とは悟ったようで。
のらくらと煮立てられながらも、酒を飲んだ場所を吐いたのだった。
化け狸が酒を見つけてドンチャン騒ぎをしでかしたのは郊外のとある森の中。
行ってみると、確かに傍の木の洞に何かを貯蔵していた痕跡はあったが、肝心の貴腐妖精は見当たらない。
「姿はりっちーと似ているし、仲良くしてたら警戒解いて出てこねぇか?」
言って喜八がりっちーを手招くが、
「むー。腐れ虫出て来〜い!!」
そんな温厚手段そっちのけで、杵構えて叫ぶうさ。
幼い声が森中に響き渡ってしばし。いきなり一直線に銀の光がうさへと打ち込まれた。
「きゃうっ」
「誰が腐れ虫か! 愚弄するなら本当に容赦はせんぞ!!」
ムーンアローだ。飛んできた方向に目を向ければ、そこにいたのは貴腐妖精。
顔を朱にして、印を組む仕草を見せる。
「待って下さい。いろいろ誤解があります。とりあえず狸殴ってお酒で宴会しようと思うので御一緒しませんか?」
その前に飛び出すと、慌てて月花は貴腐妖精を宥める。
「化け猫冥利ってのを持って来た。興味あるようだったらって、猫‥‥何勝手に呑んでるさ」
「堅い事言うなよ。あれ運んできた報酬でいいじゃねぇの。細かい事ぐだぐだ考えてるから禿げるんだぜ?」
「禿じゃなくて皿だ」
珍酒・化け猫冥利は非常に濃厚なマタタビ酒。化け猫じゃないが、同じく猫系妖怪の猫としても効果はあったらしい。
からから笑いながら、喜八の頭をずっと叩いている。
もっとも、貴腐妖精はそれどころではない。
「あーっ! そいつらはーーっ!!」
猫の運んだ荷物。それは鍋に入った狸たち。
煮込んだ味噌汁はすっかり冷めて、今はいい湯加減と言わんばかりに浸かっている。
「やっぱりお前らそいつらの仲間か!」
「むー、こんなアホタン仲間じゃないもんっ!」
声を荒げる貴腐妖精に、うさも負けじと声を張る。
「そうなのよ。知り合いではあるけど、仲間じゃないし。という訳で、これは詫びね。昼間に便利なサンレーザー♪」
鍋を下ろして薪をくべると、小町が呪文を唱える。
伸びた金色の光が薪に当たると、あっさり燃え出す。
「「「「あちゃちゃちゃちゃちゃ!!!!!」」」」
再び沸き出した味噌汁に、狸たちも真っ赤になって逃げ出そうとする。
「はいはい。大人しくね」
「むー♪」
そこをすかさずムウが蓋をして、うさも大きな石で重しを乗せる。
「くぉらだせぇい。かような狼藉、ぽん愛が許さんぞ!」
「おうよ、ぽん快がぶらりと成敗だべー」
「いや、それより今はこの汁を食え呑め歌え〜」
「そうすると、汁が消えて鍋の底が直接あちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃ」
がたごとがたごと。
鍋は揺れるが周囲は意に介さず。むしろ、貴腐妖精の方が唖然と口を開けて見ている。
「‥‥いいのか?」
「貴腐妖精のお酒なら世界の宝。呑んだ罪は重く、身で償うのは当然です」
唖然としたまま指差す貴腐妖精に、月花はきっぱりと言い切る。
言葉の裏には、私も飲みたかったと恨み節。
「馬鹿狸は月に代わってお裁き完了。次は腐れ虫の番だかんね!」
怒りも露に杵を向けるうさに、貴腐妖精はというとどうしたものかと困惑気味。
「狸とうさ公が無関係ってのは分かってくれたと思う。で、うさ公にとっての餅は、あんたにとっての酒だ。謝っちまえよ」
睨みつけるうさの前で、喜八がそう諭す。
しばらくは嫌そうに逡巡していた貴腐妖精だが、
「すまん。謝って済むのか分からんが、私の間違いだったようだ」
やがてふと息を吐くと、素直にそう告げて頭を下げた。
「床にピュアリファイをかけておいた。気休めにはなるだろう」
「見た目は変わらないからあれだけどね。まぁ、後は拭うだけだし、何とかなるわ」
縁側に残った大量の腐れ餅。
狸の胃袋に収めた他、喜八のガマが食べたり土に埋めたりして粗方処分は出来た。
汚れは残ったが、涼哉が浄化したので衛生面の問題は大丈夫だろう。
すっかり後片付けがすんでも、まだ仕事はお開きにならない。
持ち寄った食材は何も狸汁の為ばかりでなく。席を整えると、宴会を再開。
違うのは、今度は貴腐妖精も顔ぶれにいる事。
「ほならかす汁作りましたさかい、暖まっておくれやす。甘酒も用意しとります。善哉汁粉、餅は大量やさかい、遠慮のう食べておくれやす」
「おまけで搗いた分もあるし、本当遠慮しなくていいから。お土産分の餅も用意出来てるしね」
憂いの無くなった食卓に、ニキが作った食事を運び、小町もせっせと餅を勧める。
「別に嫌いじゃないっすけど、大豆を全部納豆にするのはやめて欲しいっす。というか、食べ物を駄目にするのはダメっす」
「そうだな。今度は大黒柱とやらを腐らせるか」
並ぶ食事に次々と箸をつける丹。美味しく堪能するも、貴腐妖精の気まぐれ一つで一気に食べられなくなってしまう。
かなり真剣にそう頼むと、どこまで本気か貴腐妖精が答える。
「ところで、あの狸汁はどないしますのん?」
さすがに喰い疲れたのか、鍋の中で四匹団子になって高いびき。急所もろだしも気にしてない。
「人型のまま丸煮込みで食べるのは嫌よ。本性の方も皮を剥がないと毛が絡まって食べれたもんじゃないわ」
「ほなら、今回はこれまでと言う事ですかいな」
顰める小町に、ニキも小さく頷く。
「よかったな。でも、今度悪さしたら狸汁だぞ」
笑いかけるムウを合図にしたかのように、狸たちが一斉に目覚める。
「ふっ、斯様な不当な行いに我らは負けぬ」
「今日は負けても明日は勝利」
「せいぜい今に酔いしれとけよ〜」
「と油断した所で、そこの食もらっぶぎゃっ!」
口々に口上述べた所で、一斉に手近にあった食事に飛び掛る。
が、途中にあった見えない壁が、狸たちを阻む。
「狸対策ホーリーフィールドぐらい張っとりますて」
「こりゃ、近日中に狸汁になりそうだ」
のんびりとニキは甘酒を啜り、ムウはどうしようもないと天を仰ぐ。
「でも、その前に悪亀も鍋だもん」
「おいらは悪亀じゃない前に亀でもないぞ!?」
狸成敗して気が大きくなったか。杵を構えて鼻息荒くするうさに、喜八は少し震えるのだった。