お猿と温泉

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:5 G 55 C

参加人数:7人

サポート参加人数:3人

冒険期間:02月11日〜02月16日

リプレイ公開日:2008年02月20日

●オープニング

 寒さ厳しい如月の日々。
 こういう時は温泉でのんびり温まりたいものだが‥‥。
「うちの温泉に妙なのが住み着いて困ってるんです」
 冒険者ギルドに訪れたのは、とある山奥で温泉宿を経営する主人。
 毎年この時期は雪にも負けずに湯治に訪れる客の為にがんばってる頃だが、今宿は閉鎖中であるという。
 その原因というのが、
「猿が湯治に来てるんです」
「かわいいじゃないですか」
「お客を追い返さなければですけどね」
 何気に告げたギルドの係員の一言に、がっくりと肩を落とす主人。
 冬の寒さを逃れようとするのは動物も同じ。どこで覚えたのか、その猿たちは温泉目当てにやってきた。
 立ち上がれば大人よりも大きな体格をした大猿の群。その数は三十を越える。
 頭目の猿が温泉に居座り、配下の猿たちが食料を調達。その食料も宿の台所から失敬していくのだから、始末に終えない。
 追い払おうにも数の上でも力の上でも向こうの方が上。声を荒げて逃げるような可愛い性分でもなく、むしろ歯を剥き出して威嚇してくる。
 住み着いた、というより、乗っ取られたというべきだろう。
「このままでは私達は死活問題ですし、こんな事で代々続いてきた宿を潰したくありません。どうか、この猿たちを何とかしていただきたいのです」
 告げる主人に係員は頷くと、紙を手繰り寄せて依頼を記し始めた。

●今回の参加者

 ea3094 夜十字 信人(29歳・♂・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea3597 日向 大輝(24歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4927 リフィーティア・レリス(29歳・♂・ジプシー・人間・エジプト)
 ea8714 トマス・ウェスト(43歳・♂・僧侶・人間・イギリス王国)
 eb1276 楼 焔(25歳・♂・武道家・ドワーフ・華仙教大国)
 eb3797 セピア・オーレリィ(29歳・♀・神聖騎士・エルフ・フランク王国)
 ec3613 大泰司 慈海(50歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)

●サポート参加者

マミ・キスリング(ea7468)/ 鷹司 龍嗣(eb3582)/ レヴィアス・カイザーリング(eb4554

●リプレイ本文

 温泉宿に巣食う影。
 それは冬の厳しさから逃れて湯煙に誘われたお猿たち。
 それで、のんびり風呂に浸かってくれるなら可愛いが、我が物顔で占拠して近くの宿にまで襲撃をかけるのだから手が終えない。
 しかも、現れたのは一匹二匹でなく、群れ一つ。三十匹ほどが暴れられては営業など出来様はずない。
 実際、温泉は入れず閉鎖。目玉商品が無い以上客足は遠のくし、そもそも宿の中でも暴れるので自然開店休業状態に陥れられる。
「人でも猿でも徒党を組むと、気が大きくなるのは一緒ってことか」
 面倒そうに、日向大輝(ea3597)は顔を顰める。弱い相手でも数が纏まればそれなりに脅威となり厄介だ。
「しかし、人よりは陰気で陰険でもなく、バケモノどものように血生臭くも無い。‥‥こうして耳を済ませると、何やら陽気にも思えてくる」
 現場までは距離あるものの、猿たちが騒ぐ遠吠えは聞こえてくる。
 その声に夜十字信人(ea3094)はしみじみと耳を傾ける。
「しかし、人間の大人より巨大な猿って一体‥‥。どんな餌食べてそこまで成長しちゃったんだか」
「そもそもそういう種類なのだよ。変異というなら是非とも調べつくして見たいものだがね〜」
 うろつく猿は、人並み以上の巨体。
 自分でも見上げねばならない猿がうろついてる様を想像して呆れる大泰司慈海(ec3613)。
 けひゃひゃひゃひゃ、と、独特な笑い声を立てながら、トマス・ウェスト(ea8714)が説明を入れる。
 訳あって素顔をクラウンマスクで隠しているのだから、余計に変わった印象を受ける。
「文字通りの湯治だけなら可愛いものだけど、ちょっとやり過ぎといった所かしら? ここは痛い目に遭わないと理解してもらえないようね」
 セピア・オーレリィ(eb3797)がふと鼻で笑う。
「そうは言っても、殺生はなるべく控えたい所だね。確かに殲滅は手っ取り早いだろうけど、それは避け、何とか居心地悪い場所と思ってくれるのがいいんだけど」
 大猿についての詳しい特性は、慈海もすでに知り合いの鷹司龍嗣から説明を受けている。
 知能が低い分、下手に出ると頭に乗ってどこまでも大胆になる。追い払っても、そこが安全で楽と覚えているなら何度でも舞い戻ってきかねない。
 すでに我が物顔で調子付いてる大猿たちに、二度と来てはならないと諭すにはかなりの荒療治が必要そうだ。
「だがやらねばなるまい! 温泉といえば女湯覗きと楽しみにしていたのに! 我が生きがいを奪った罪は重いぞ。そう思うだろう!」
「俺に同意を求めるな」
 血涙流す楼焔(eb1276)の眉間に、信人の日本刀・炎舞が刺さる。いや、鞘はついてるけど。


「追い払ったぐらいじゃ帰ってくるか‥‥。頭目が温泉に居座っているって話だけど、下手にそれに手を出すと群れが次の頭目を立てて分裂して増える恐れがあるんだよな」
「そうか? いざとなったら頭目を退治してしまえば慌てると思ったが」
「うん。でもそれは本当の最終手段かな」
 慈海の問いに答えてから、頭を悩ますリフィーティア・レリス(ea4927)であったが、
「ひとまず、猿になりきって彼らと友達になってみよう。‥‥ウッキー」
 宿の周辺でうろついている大猿たちに、焔が声をかける。
 近くで見るとさらに際立つ巨体に怯みながら、どうにか陽気に手を振るが。
「ウホアアア!!」
「ギャアアアア! 集団で来るとは卑怯な‥‥いやん何するこの助平」
 見知らぬ相手に敵意を剥き出し、威嚇もそこそこ襲い掛かってくる大猿たち。
「大丈夫か?」
「大丈夫だろう。おかげで猿たちの戦闘能力も大体分かったし、宿に入り込みやすくなった」
 心配する大輝に、信人は冷静に判断を下して宿に乗り込む。
 何やら追い回された挙句にもみくちゃにされてるようだが、元気な声が聞こえる辺り死ぬ事では無いのだろう。
 大猿たちの注意が焔に向いていたので、その隙に宿に入り込むと厨房を目指す。
 宿の中は大猿が暴れたのか、所々破壊の跡が見られた。厨房に近付く程に、その傾向が強くなる。
 宿の人も勿論いるが、大猿は彼らの手に負える相手ではない。それが数体纏めて来られては、何とか逃げるのが精一杯だ。
「食料狙ってくるんで、最近では食材を安全な場所には隠してますが、無いと分かるととことん暴れて探すのでどうしたものか‥‥」
「とすると、やっぱりここに仕込んでおけばどうにかなりそうね。問題は薬仕込んだ食事を用意しても怪しんで食べない可能性があるって事だけど」
「けひゃひゃひゃひゃ。我が輩が猿も騙せぬ毒を作ると思うかね?」
 不安を隠せないセピアだが、その心配を吹き飛ばすかのようにトマスが自信を持って胸を張る。
 マミ・キスリングと運び込んだ毒入りの食事を台所に仕込み、さらにトマスは外にも同じ物を仕掛ける。
「よし、こっちの罠完成。食料も仕込んだし、後は出来れば頭のいる温泉に山葵でも流し込みたいんだけど」
 龍嗣の仕込んだ毒入り食料を置いたり、レヴィアス・カイザーリングが作った罠を仕掛けたりと忙しく動いていた慈海。
 温泉に細工は後の宿再開を思えば気も引ける。
 しかし、猿を追い出さねばどうにもならない。別に風呂を破壊する工作でもなし、宿屋の人は割りと気軽に源泉に案内してくれた。
 罠の作業はなるたけ手早く行われる。大猿たちがこちらに気が向くまでに作業を済ませねばならず、大変だ。
「こっちもファイヤートラップ設置完了した。‥‥そういう訳で宿の方々は外に出る時注意してくれ。猿に忌避を刷り込む為目印に棒を立てているので大丈夫と思うが、万一罠に引っかかると」

 どっかーーん がらがらがらがら

「‥‥ああなる。火は注意してるが燃え移る危険もあるので、かからぬ方がいいんだが」
 大輝が宿の人たちに説明している途中で火柱が上がり、派手な物音が。
 よろりと煤けた姿で、焔が厨房へと入ってくる。何も知らずに罠を踏んづけてしまったようだ。
「大猿よりも効いたぞ。防具のおかげで何とか無事だが‥‥。さすがはエチゴヤマフラーだ」
「おかげはそっちじゃないと思うぞ」
 軽い傷は負っているが、数日で治る程度。セピアが念の為リカバーかける傍ら、焔は感謝をしつつマフラーを巻きなおす。


 罠の効果は大したもので、引っかかった大猿は警戒して近付いてこない。
 混ぜ物の温泉も気になるのか、不快そうに風呂の周辺にたむろするばかりになった。
 が、人家近くの方が食料も取りやすいのは変わらないし、風除けもある。
 宿に襲撃をかける事はなかったし安易に食べ物を狙う事も無くなったが、かといって温泉の傍から離れようともしない。
「罠が一時的だと覚えたら、また元の木阿弥になりそうだな」
 大猿たちの様子を見ていたリフィーティアは、難しい顔つきで呻く。
 警戒しているが、同時に危険か否かを見極めようとしている。ここで安全と覚えては意味が無い。
「叩き出すのが最良ではないか? 纏めてお山に帰ってもらおう。皆殺しは死体の片付けは面倒だし、猿肉には食指が動かん」
「実験材料でも持ち帰るのが大変そうだな」
 告げると信人が鬼相の惣面をつけると、トマスもマスクの下から笑いかける。
「これ以上は宿屋にも御迷惑だろうしな。さっさと片付けさせてもらおう」
 慈海も日本刀・法城寺正弘と十手を構えてみせる。
 時間は黄昏。
 夜の厳しさから逃れようと、温泉の熱を求めて大猿たちが集まってきていた。
 そこにゆらりと現れる冒険者たち。
 俄かに現れた謎の集団に、猿たちは警戒の声を上げる。
「警告だ。ここはお前達の場所ではないと母猿から聞かなかったのか?」
 殺気も露に信人が進み出ると、向こうからは一際体躯のいい大猿が先頭きって吠え掛かる。
 群れの頭。この大勢を束ねるだけあって退く気は無いようだ。
「勇ましいのは大したものだが、暗くなるまで悪戯してると化け物に喰われるぞ。覚えておけ」
 牙を剥いて飛び掛ってきた頭に向かい、信人は容赦なく一撃揮う。
 刃は、まだ大猿に届く距離ではない。が、生まれた衝撃波は確実に頭を捕らえて毛皮に血の色を添える。
「ギャア!!」
 悲鳴を上げた頭の声に、周囲の猿たちが退いた。そのまま怯えたように逃げる猿もいれば、群れを守ろうと襲い掛かってくる猿もいる。
「ここは遠慮なし! 罠でおとなしく引き下がればよかったものを!!」
 大輝の太刀が唸りを上げる。真っ直ぐに下ろされた刃はその重量加味してさらに鋭く大猿に食い込む。
 一息に切り裂かれた毛皮から吹き出る大量の血で、辺りは真っ赤に染まる。
「無粋な男は嫌われるわよ。女の扱いをもっと勉強してらっしゃい」
 セピアに飛び掛ってきた大猿がその手前で突如止まる。
 張られているのはホーリーフィールド。しかし、猿には魔法は勿論見えない壁があるという事も理解できない。
 大いに戸惑い、空間を探る大猿に向けて、易々と聖槍・グランテピエを打ち込む。
「この自分だとサンレーザーは使えないんだよなぁ。まぁ、元々そんなに威力ある訳じゃないけど」
 ぼやきながらもリフィーティアは両手に握った鬼神ノ小柄を振るい続ける。
「貴様らが我が物顔で寝そべっている場所を何と心得る! 女湯と言う桃源郷だ!! 進化転生して美少女または美女に生まれ変わってから出直して来い! 俺以外の誰かが、完膚無きまで叩きのめしてくれる! さあ行け、夜十字!!」
「自分で行け」
 熱弁揮って指揮を取った焔だが、あっさり信人に蹴り出される。
 それでも飛び込んだ大猿の群れの中で、木刀握り締めて急所を狙い動きを封じていく。
「コアギュレイト〜! とはいえ、手元に置いておいても詰まらんもんだがねぇ」
 トマスの詠唱一瞬。五体の大猿が動きを止めた。確実に使いこなすにはまだ少し修行が必要だが、今回ぐらいの相手なら危険も少なく、掛け損なっても誰かが援護に入ってくる。
「死角は取られないように! 数で押されるとさすがに面倒だ!」
 長い手を上から下から身軽に伸ばして捕まえてこようとする。
 その手を弾き飛ばし、あるいは避けながら、冒険者たちは大猿たちに確実に痛めつけていく。


 勝てない相手と死闘を繰り広げるべき状況でも無し。
 弱い猿から順当に逃げ出していくが、それを追うほどの物でもない。
 ただ、トマスの捕まえた大猿たちは魔法が切れるまで逃げようが無く、その分、他より怖い目にあってもらったが。
「お猿たちは全部逃げたようだね。とすると、片付けるのは温泉ぐらいか‥‥」
 周囲を見回り、倒れている猿がいないのを確認すると慈海がほっと一安心‥‥も束の間に重い落胆の息を吐く。
 それもそうだろう。
 あちこち猿の毛だらけ食いカスだらけ落し物だらけ。戦闘で散った血肉や毛皮などで酷い汚れ具合になっていた。
「破損が無いのが不幸中の幸いって奴か。さすがに修復はどうにも手が出ん」
 気の重さは変わらぬものの、どこか安堵したように大輝が告げる。
「私たちがいる間に楽しめそうにはないけど。宿の人にはこれから頑張ってもらいたいしね」
 セピアも軽く肩を竦めて笑う。これなら綺麗に磨き上げればまたすぐに元通りの営業が出来るだろう。その磨くのが大変だが。
「とはいえ、お猿たちは本当に大丈夫だろうか。あれだけ痛い目に合わせたのだから早々戻らないとは思うが‥‥」
「猿が嫌がるという物を植えてみるかね。上手くいくといいがね〜」
 心配そうなリフィーティアに、トマスは用意していた植物を示すとさっそく宿周辺の植え付けを始める。
「ともあれ、猿は追い払ったんだ。是でお互い堂々と覗きが出来るな、夜十字?」
「だから。俺に振るな」
 鼻息荒く、喜び勇んでいる焔にはちょっと周囲が見えてないようで。
 嬉々としている彼に、信人が頭抱えて訂正入れる。
「つまり安易な覗きでなく、女でもさらに極め絞った年齢対象で無ければならんと言いた‥‥」

 ごりゅ

「おーい、雑巾一つ出来たぞ。風呂の底をこいつで磨け」
 首を傾げて、信人の心中を察しようとした焔だが、異様な音がすると言葉が途切れる。
 信人がずりゅずりゅと重そうに、泥だらけの風呂の底を磨きこんだ雑巾がその後どうなったかはまた別の話。