間違いだらけの聖夜祭

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:2〜6lv

難易度:易しい

成功報酬:1 G 36 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月23日〜12月28日

リプレイ公開日:2005年01月02日

●オープニング

 月道が開いてはや幾年。ぼちぼちと外国の風習も庶民のうちに流れ混んで来ている頃。
 この時期。ジーザス教圏内では聖人ジーザスの誕生を祝った聖夜祭が行われる。
 とはいえ。ジーザス教が生活に密接してない‥‥というより、あくまで異国の宗教で他人事な日本では、ああそうかい、めでたいねぇ、ぐらいで例年通り年末年始の仕度で忙しい。
 それでも、遠い異国の祭りに興味が無い訳でも無い。
「知ってるかい? 何でもこの期間、ジーザス教ではサンタクロースという老人がやってきて、子供たちに贈り物をするんだそうだ」  
 江戸のとある街角。どうやら地元の町民らしい二人の会話に、たまたま居合わせた商人はふと耳を傾けた。
「ほう。それは剛毅だねぇ。そのサンタクロースというのはどんなお人なんだい」
「いや。人と云うより何でもジーザス教のえらーい伝説の御仁らしくてな。赤い毛皮の服を来て白いひげが立派な爺さんらしい。大きな袋をしょって空飛ぶ馬だが鹿だかに乗ってくるんだとよ」
「西洋の大黒さんか? ‥‥赤服って事は案外還暦なのかね」
「ああ、それも何か言ってたなぁ。何でも赤と云う色のは血の色だそうだ」
「血染めかい? それは怖いねぇ」
「だがよ。子供らに物をくれるんだぜ。もっとも、こっそり家に入って物を置いてくらしいってんだから、無用心極まりねぇな」
「血染めの逆泥棒かよ。いいねぇ〜。そんな泥棒なら大歓迎さ。どうせなら大人にも何かくれねぇかね」
 ははは、と二人組みは陽気に笑う。そこで、聞き手だった方が何かを思い出したように身を寄せた。
「そういや。俺も一つおもしろい話を聞いたぞ。実は家の近所に月道渡りが住みだしたんだが、そいつが最近変な物を作ってたんだ」
「変な物?」
「ああ。柊をこう‥‥花冠みたいに丸くして、それを金細工とかで飾ってるんだ。それは何だと聞けば、正月頃に玄関に飾るんだそうだ。まだ言葉が今一つの御仁なんでそれ以上はよく分からなかったが」
「門松か? にしても変わってるな。さすが洋物。柊って事は魔除けかねぇ」
「おお、なるほど。年末ってのは物騒だからねぇ。人も騒ぐが鬼も騒ぐ」
「鬼といえば、聞いたか? 何でも京の都では‥‥」
 それきり、町人の話は別方向に動く。興味を失って商人は自分の目的を思い出した。

 さて、その商人は出入りの店に入った。ちょっと時間があったので店主と立ち話。話が弾んだ所で客がやってきて、そそくさとその商人は店を後にする。
「何だか、楽しそうでしたねぇ。何のお話でしたんで?」
 話を見ていた客はその雰囲気が気になり、何気に問うてみる。
「ええ。異国の風習の話ですよ。外国では新年前後に、宗教的なお祝いをするそうなんですけどね。その時、血染めの服を着たサンタクロースという爺さんが、家に押し入り物を置いていくとか。それを防ぐ為に、玄関口に柊の輪に金を散りばめた飾りを置いておくとよいのだそうで」
「もしかして、聖夜祭という奴ですか? 話には何となく聞いていました。何でも、聖人が生まれてから戒名をいただく日までのお祭りとか」
「おや、それは初耳です。そんな短い期間で俗世を離れねばならぬとはどう言う事か‥‥」
「そういえば、ジーザスとか言う神様はその昔処刑された人が仏に生まれ変わった姿だそうで」
「なるほど。なれば小さいのに戒名をいただいたのですね。その子供らに贈り物をするというサンタクロースは、それを偲んでいるのですかな。いや、血染めの話からして案外この御仁が犯人で返り血を浴びた証が、風聞悪い為に隠匿されたのかもしれませんね」
 しみじみと告げる亭主に、客も頷く。

 そして、客は家路につき、家の者に今日の話をする。家の者は珍しい話だと仕事場で披露すると、それなら俺もとまた別の話が飛び交う。話し手によっては尾ひれもつこうし、受け手が変われば解釈も変わる。所詮は外国、土台が違う話にピンと来なければ、身近な何かで例えを告げ、それが誤解の原因ともなる。
 こうして、噂は広まる。
 江戸の内ならば、話を聞きつけた外国人が「そうではない」と真相を明かして終わりだが。都土産にと地方に出れば、当然、そんな機会も無くなっていき‥‥。

 で。

「とある村から警備の依頼だ‥‥」
 冒険者を前に告げるギルドの係員だが、依頼書片手に顔を顰める。
「何でもこの付近では、『さたんくろす』という異国の老人が自国の風習に従って血を求め、夜な夜な街を徘徊し子供達を袋叩きにするらしいという噂が立っている。真偽は定かでないが、万一そうだと子供たちが危ない。なので、村を守って欲しいとの事だ。
 幸い、『さたんくろす』の活動は、正月を挟んだ数週間で終わる。しかも、この老人は柊が嫌いでな。これを輪にしてニボシを飾った物を戸口に飾っておくと降参して、所持品を置いて逃げるらしい。が、村中の輪を用意するのも時間がかかるし、その間だけ頼む、と言う事だが。
 『さたんくろす』と云う者は、白いひげを生やした爺さんで、返り血で真っ赤に染まった毛皮を来ているらしい。殺した子供を喰らってぶくぶくと太っている。悪魔の馬と鹿を操って空を飛び、どんな家にでも侵入する事ができる。勿論、噂なのでどこまで本当か分からないが‥‥」
 言って係員は嘆息する。
「全く。外国では聖夜祭とか言う厳粛な祭りが開かれていると云うのに、血生臭い話もあるものだな」
 聖夜祭。
 12月24日からの約二週間。聖人ジーザスの誕生前夜から洗礼を受けたとする日までのこの期間は、旧年を振り返り新年を寿ぐ祝祭となっている。ジーザス教の人々はジーザスを称える為、教会に集い、常緑樹の枝でリースを作って玄関や暖炉・かまどの上に飾りつけるという。
 また、同じ白ヒゲの老人でもサンタクロースは子供の守護聖人であり、魔法の馬やトナカイとかいう鹿に乗ってよい子供に贈り物をして回るらしい。着ている服の赤は自分の命をかけて他人を助け、血を流して人々のために尽くす象徴なんだとか。
「本当に、同じ異国の風習でも大違いだ」
 どこか憤った風に係員は告げる。‥‥あいにく、真相に気付いて指摘する者はいなかった。

●今回の参加者

 ea0264 田崎 蘭(44歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea1462 アオイ・ミコ(18歳・♀・レンジャー・シフール・モンゴル王国)
 ea3809 山浦 とき和(33歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea4653 御神村 茉織(38歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea7242 リュー・スノウ(28歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 ea7666 郭 培徳(53歳・♂・ファイター・ドワーフ・華仙教大国)
 ea7742 ヴィヴィアン・アークエット(26歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)

●リプレイ本文

 新年まであとわずか。
 新しき年を祝うべく、どの家でも慶賀の準備に忙しいこの時期。怪奇な噂が巷に流れる。
 曰く、白ひげの老人が夜な夜な子供らを袋叩きにすべく徘徊していると。殴り倒した子供らを喰らってその身は異様な程太っており、着ている防寒具は血で染まる。悪魔の馬と鹿を操って空を飛び、どんな家にも侵入してくる恐るべき相手。
 その名は『さたんくろす』!
「‥‥悪魔の十字架なんて、不気味な名前ですねぇ」
 話を聞き、ヴィヴィアン・アークエット(ea7742)が顔を顰める。
「全く迷惑な爺さんだな。異国の祭り、とは聖夜祭という奴の事か? 何か違う気もするが」
「勿論違いますよ。聖夜祭はそんな血生臭い話ではありませんわ」
 首を傾げる御神村茉織(ea4653)に、クレリックであるリュー・スノウ(ea7242)はきっぱりと否定する。
「ジーザス教に関わる者として。神聖なこの時期に振舞う狼藉。許せませんわね」
 唇を噛むリューの肩を、山浦とき和(ea3809)が気軽に叩く。 
「だから私たちが呼ばれたのよ。心配しなくても、村の宝である子供を喰らって太る勘違い爺ぃは、このとき和様が成敗してやるわよ!」
 笑みを浮かべてとき和が叫ぶ。勢い込んで踏み出した一歩は、しかし、
「うぎゃぎゃ、足を踏まんで欲しいのじゃ!」
「おっと、御免よ。熱くなると見境がなくなる性質(たち)なんでね」
 慌てて謝るとき和を、ちょっと恨みがましい目で見つめる郭培徳(ea7666)。踏まれた足をさすりながらも、こっそり目線を探るように他の仲間たちへと動かしている。
「ま、襲撃予告があった訳じゃなし。輪が出来るまでの間のほんの数日なんだ。大げさに警戒するよりもドーンと構えて村人を安心させてやろうじゃないか」
 にっこり笑うと、とき和は大きく胸を叩いた。

「それで、村長さん。『さたんくろす』なる人物が現れるのは夜な夜な‥‥つまり、昼間は出没しないのですね」
 村にたどり着き、村長の家にてリューが尋ねると、村長は重々しく頷く。
「うむ、そう聞き及んでおる。まぁ、悪党と云う者は夜動くと相場が決まっておる」
「とすると、夜中に子供を出歩かせない様にしないとな。‥‥子供の傍には大人がいるようにして、決して子供一人にさせてはならない」
 何せ相手はどこにでも侵入できるのだから油断はならない。険しい声音で告げる茉織に、その場にいた大人たちは神妙に聞き入る。
「出来れば子供らを一箇所に集めている方がいいのですけど、どこかそういう場所はありますか? 例えば寄り合い所のような」
「それでしたら、私の屋敷をお使い下さい。ほんの数日、子供らを寝泊りさせる場所ぐらいはあります」
 ほっとしたように村長は告げると、急いで使用人たちに寝場所の準備をさせる。
「ただまぁ、噂は噂だ。事の真相はまた後で調査するにしても。案外、子供の躾けの為に作られた教訓かも知れないな。いい子にしてたら御褒美をやるって風習か? 何か贈り物を用意してやったらどうだ?」
「はぁ‥‥」
 茉織の話に、村長たちはただ曖昧な返事をするのみだった。 

 村の中心、重たい荷物を置いてようやく身軽になったアオイ・ミコ(ea1462)がナイフなどを手に笑顔で告げる。
「それじゃ、まずはお手玉を。うまく出来たら御喝采。みんな、掛け声よろしくー!!」
 集まる村人の中心に立ち、アオイは場を大いに盛り上げる。軽業はお手の物だが、お手玉の類は今一つ。得に刃物や大きな物を使ってのお手玉は大道芸人でも相当の技量を要する。その手の技術を持たない彼女では危なっかしい限りなのだが、そこは愛嬌でごまかしている。
「ところで、さたんくろすについては何か知ってる事ある?」
 そろそろ人が集まって来たな、と思う頃にアオイはおもむろに尋ねる。途端、はっとした顔で村人がアオイの顔を見た。
「私が聞いた話じゃあ、奴の活動時間は夜。しかも、夜更かしなんざしている子供しか襲わねぇ、という話だったな。どうやら、襲う時の子供の悲鳴が好きなようだな」
 とりあえず、呼び水として田崎蘭(ea0264)が伝え聞いた話をすると、子供の一人が大いに否定する。
「えー、ちがうよ。いい子にしてるとやって来るんだよ」
「じゃあ、皆悪い事しちゃえばいいの?」
「そうだったよ。ねぇ、お母さん」
 別の子供に尋ねられ、答えた子供が傍にいた母親に自身満々で尋ねる。
「ええ、私はそう聞きましたけど‥‥」
 が、母親の方はどうにも心もとない様子。途端に否定の声が入った。
「いやいや、奥さん。それは違いますよ。奴は良くも悪くも昼は元気に遊んで夜はぐっすり寝る子が好きなんだよ。そして、夜中その枕元に佇み、大きな白い袋を‥‥」
「おや? あっしの聞いた話じゃ、足袋を気にする子供が好きだと聞きましたけどね?」
「『き』違いじゃないのか? わしは足袋を木で釣る子供が好きと‥‥」
 あっという間に、その場がさたんくろすの話で盛り上がる。ただ、出る内容はと言えば、誰それに聞いた話、何となく耳にした話、わしはこう思う、いや俺が考えるには‥‥、と推測憶測をさらに推考ようなあやふやなモノでしかない。
「それじゃ、誰か見た人はいるのかな?」
 アオイが尋ねると、一斉に大人たちは顔を見合わせた。
「うーん。隣村の爺ぃが見たと大騒ぎしておったがのぉ」
「しかし、奴は目が悪かった。大方猿かなんかを見間違えたのかもしれんし」
「隣の隣の隣の村の薬屋が襲われたらしいが。何でも亭主まで大怪我をしたとか」
「ああ、そうじゃった。その後、子供どころか母親まで消えたとか‥‥」
「おや、そうかい? 昨日、婆様の所に里帰りしているのを見たような??」
 首を捻りながらも、一応目撃談は出てくる。出てくるが、そのどれもが先の話と大差無しに頼りない。
「やれやれ、頼りない事じゃのぉ」
 培徳が肩を竦めながら、首を振る。やや大仰な動きはどこか芝居がかっても見えた。
「よいか? わしの仕入れたとびっきりの情報を教えてやろう。これはわしの爺ぃ情報網の中でも最高機密の秘密であり、それによるとじゃな‥‥いやいや、これは秘密じゃしな」
 ぐるりと周囲を見渡す。もったいぶって口を閉ざす培徳に、村人たちは興味津々で先を続けるよう催促する。身を乗り出して聞く体制にある村人たちを確認し、満足したように笑うとようやく培徳は言葉を紡ぐ。
「よいか。誰にも言うてはならんぞ。秘密というのは、何と、さんたくろすは爺ぃだけに涙脆いのじゃ!」
 胸を張って告げる培徳。
「何だって、郭爺さん! それじゃ極悪爺ぃさんと思えないじゃないのさ!!」
「うぉぉおお! く、首がああ!!」
 新たな弱点発覚に、驚いたとき和が培徳を締め上げがくがくと揺さぶる。慌てて周囲が止めに入ると、咳払い一つ、改めて培徳は村人たちを見遣った。  
「くれぐれもやたらに教えてはならぬぞ。最重要の秘密ゆえに扱いには気をつけるのじゃ。涙を誘う話をする前に、奴に秘密を知っていると気付かれたら襲われるからの。昼間、明るい場所で話すならバレないのじゃが、夜の暗がりで話すと何処かで聞きつけてやってくるそうじゃからな。黙っておられぬならわしの接吻で黙らすぞい♪」
「いいけど‥‥いや接吻がじゃなくて、秘密厳守の方な。ただ、『さんたくろす』じゃなくて、『さたんくろす』じゃなかったのかい?」
 神妙な顔して告げる培徳。が、村人の一人が何気に指摘すると、ひげで見づらいその顔が少々動揺したように見える。
「うむ? そうじゃったの。いや、うっかり間違いが出たかのぉ。これでも96年生きとるからのぉ」
 ひげをしごきながら、うひょひょ、と軽く笑う。何かが不自然にも見えたが、とりあえず村人一同首を軽く首を傾げるのみで終わる。
「そういえば。サンタクロースについて何か知ってる人はいるのかな?」
 ふと首を傾げるアオイにまたもや村人たちは顔を見合わせる。が、それは誰か知ってる者がいるのか確認する為の動作だった。
「聞いた事あるようなないような?」
「何か白ひげの赤い服で空を飛ぶとか‥‥」
「それはさたんくろすと何が違うのさ」
「さんたくろーすはね、薬を贈り物として配るんだよ!」
 ぼそぼそと小声で告げられる内容は、先の話よりももっと心もとない。冗談交じりにアオイが告げるとしきりに感心しているだけ。
 そうこうしている間に、村長宅から子供たちを期間中そちらに泊まらせる用意が出来たと知らせが入る。
「はーい、それでは皆さん集まって下さい。離れちゃダメですよ♪」
 行き場が決まると、早速村の子供らとわいわい歌いながらヴィヴィアンが先導する。が、子供たちの表情はどこか暗い。やはり噂とはいえ、――いや、噂だからこそ、得体の知れぬさたんくろすが心にかかるのだ。
「大丈夫さ。先も言ったけど夜更かししている子供が好きなんだ。それに、雪の降る晩が好きらしい。後、ソイツに対抗するにゃ、塩がいいらしいぜ? とりあえず玄関前にでも盛り塩しておけばいいんじゃねぇかな」
「それいいわね。少なくとも魚よりも臭わないし」
 輪作りは材料が足らないとかで、まだこれから。それでも柊につけるニボシの匂いが気になるのか、とき和は鼻を押さえがち。嫌いな物ほど気にしやすい。
「これもさんたくろすの策略なんだね。さぞかし、ずるい爺ぃと見たよ!」
 胸に怒りの炎を燃やすとき和。名前をさておいても、さすがにそれは違うんじゃないかなー、という目で村人は見ていたが、やっぱり何も言わなかった。

 村長宅についてからは、夜寝るまでの間、とりあえずある分だけでも柊の輪作りを。折角なので子供らと一緒に作る事になった。
「リースの要領なのでしょうか?」
 柊で輪を作る、と言っても様々な形がある。とにかく伝え聞いた話を元に、リューはそう推測する。
(「と言いますか。このリースといい、先ほど話されていたさたんくろすとサンタクロースといい、何か似ています‥‥わよね?」)
 クリスマスリースの要領で柊を編みながら、リューは自問自答する。
 ここはジャパンであり、ジーザス教は根付いていない。異国の地の異なる風習。そも、さたんくろすなる怪人を冒険者として今まで聞いた事無かった事を思えば、もしかして聖夜祭の噂が歪んだのでは、という考えが頭によぎる。
 だが、この考えは果たしてどうなのだろう? そう考えて、リューはヴィヴィアンを探す。村人に聞くのは問題外だし、今回の同行者の中で聖夜祭を知っていそうなのは彼女ぐらいか。
 しかし、
「子供を食べてブクブク太ってるだなんて、許せませーん」
「ああ。しかし、衣装といい、さんたくろうすとかいう奴の真似をしているんだろうな。人気者には偽者がつきものだし」
「どこが?! 空飛ぶ馬だか鹿だかを連れてるなんて、高レベルの魔法使いかしらねぇ。とにかく、聖人とはかけ離れてますよ!」
「というか、悪魔としか思えないよ。‥‥実在したらだけど」
 何気なく告げた蘭の言葉に、声を上げるヴィヴィアンと呆れるアオイ。
 子供らと楽しげに柊のリースを作っているが、この話になるとヴィヴィアンはしきりに怒っている。さたんくろすをサンタクロースと同一とは見て無い模様。
「ま、さんたくろうすの話を大人連中には話しておく。混同していい奴を殴っちゃ大変だからな。ついでに出入り口に盛り塩もしてこよう」
 言う蘭もまた、サンタクロースについての知識はあるようだが、それでもさたんくろすと同一とは見て無い。
(「とすると、やっぱり勘違いなのでしょうか???」)
 リューの胸に疑問だけが渦を巻く。
 あまつさえ。
「どっちかと言えば、日本の節分の風習である赤鬼になぞらえて悪さしようって魂胆っぽくない? だったら上等。豆投げて退治あるのみ!」
 とき和に至ってはそう結論付けて豆を用意している。
「もしかして『悪い子はいねぇがぁ!』って出てくる異国風なまはげ? だったら涙もろいって話もある程度は‥‥って、ごめんよ、恐かったかい?」
 そのまま自分の考えに没頭するとき和。声色変えてすごんで見せると、周囲の子供が驚いて泣き出す。
 そんな冒険者らの動向を見ながら、ほくそえむ爺が一人。
(「どうやら。真相に気付いているのはわしぐらいのようじゃな」)
 最初に話を聞いた時から疑念はあったが、村人の噂を聞くにつれそれが確信に変わる。
 すなわち。村人は単に聖夜祭の噂を勘違いしているのだと。
(「ま、ここは出任せ勘違いのまま置いておく方がおもしろいじゃろな。後で大人には教えてやってもいいが」)
 うひょひょ〜、と楽しそうに笑い出す培徳。気味悪そうに見つめられる中を、胸が詰まって思わず激しく咳き込んでいた。

 それから。昼は柊の輪作り。夜は涙もろい話をしてさたんくろす対策を取りながら、子供らは集団生活を送る。勿論、用心して夜の見回りも行う。
 で。
(「おや?」)
 その日の夜。屋根で見張りを続けていた茉織は、村中をうろつく影に気付く。
 すわ出たか、と思ったが、話に聞くよりずっと小さい。さもあらん、影の主はアオイだった。
「今夜はサンタが来る日だからね。贈り物を置いておこうかと。ふふふ、この薬を飲めば‥‥」
 言って、昼の内に摘んでいたのだろう。家の一件ごとに薬草を置いて回るアオイ。毒草知識で作る薬は毒薬になるが、さて。
「サンタは薬を置いていく、か‥‥」
 さたんくろすもそうだが、サンタクロースとやらもそういう話だっただろうか?
 茉織の謎も深まる。

 それから暫くして。村中に配る柊の輪が完成した。
「じゃあこれからも、これを首からぶら下げて安全対策してくださいね」
 ヴィヴィアンの言葉に、子供たちは泣きそうな顔をする。実際、柊が痛くて泣いた子もいる。
 悪魔の馬と鹿に乗り、夜更かしする悪い子供を捜して袋叩きにする雪好きで涙もろい爺ぃ・さたんくろすは、警備の賜物か、はたまた盛り塩効果か豆を喰らうのを恐れたか、とにかく現れる事無かった。代わりに聖夜祭の特別な日に毒薬を置いていくサンタクロースが現れた模様。
 連日の涙話にとき和が目を腫らした他は、特に異変も無く。
 かくて、依頼は無事終了。念の為にとき和が柊をもらって帰ったが、さて、役に立つのかどうか。
 そして、この村の人々がさたんくろすの真相を知ったかどうかは、培徳の胸先三寸である。