復 活
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■ショートシナリオ
担当:からた狐
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:3 G 80 C
参加人数:6人
サポート参加人数:5人
冒険期間:03月04日〜03月09日
リプレイ公開日:2008年03月14日
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●オープニング
助けて下さい、と冒険者ギルドに人が駆け込む。
珍しくも無い光景だが、慣れるものでもない。
加えて事情を聞いたギルドの係員が冒険者を集め、いつもより険しい顔つきで依頼を話し出せば、否が応にも何かあったと推測できる。
駆け込んだ人は、京都の近郊にある村に住んでいた。
元々は本当に小さな村だったが、相次ぐ戦火や襲撃で家を無くした人々が流れ込み、近年徐々に大きくなってきていた。
その村が、死人憑きの群に囲まれたという。
村には、獣避けの柵が拵えてあり、そのおかげで一方的な襲撃は免れた。といっても、柵を閉ざして出入りを塞ぎ、かろうじて時間稼ぎをしたに過ぎないが。
死人憑きたちは生気に惹かれたか村から離れようとせず、柵の外にずっと張り付いている。
その数は十体ほど。村の大人たちが集まってがんばれば何とか出来たかもしれなかった。
そうしなかったのは、その死人憑きの中に先日死んだばかりの村人が混じっていたから。
死者に鞭打つ真似は気が咎める。それが知り合いならなおの事。その家族とて死んでいると分かっていても皆から虐げられるのを見るのはつらいと嘆き、訴える。
何とか穏便に成仏させる道は無いかと手をこまねいている内に、事態は確実に動いていた。
閉ざされた村の中で人が死んだのだ。
こんな時にと不安に思ったのは初日だけ。次の日も同じ死体が出たとなると、さすがに妙だと訝る。
何が起きたかようやく気付いたのは三日目。
死んだ者が起き上がり、死人憑きとなって動き始めたのだ。
それから毎日、人が死に数日後に動き出す。村の外ではなく中も死が溢れ、その数は増えていく一方。そうする内に数に負かされ柵が壊され、平然と村に死がうろつくようになった。
最早死者を悼むという話どころではなく、討伐すら手に余る。
身を守るにはひたすら家に隠れるより他無く、それでも確実に誰かが犠牲となっていく。
このままでは全滅も時間の問題。
そう考えたその村人は、意を決して死人憑きたちの間を抜け、助けを求めてどうにかギルドにまで走りこんだのだ。
「依頼主の願いは、村を救う事。だが、相手は単純な死人憑きだけではない。状況から言って‥‥間違いなく黄泉人が潜んでいる」
厳かに告げる係員の言葉に、冒険者たちの表情が強張る。
それは二年も前になる。
大和より大量の死人憑きが襲撃してくるという事件があった。
その対処に当時設立したばかりだった京都冒険者ギルドも駆り出され、調査の末に判明したのが黄泉人という謎のアンデッドたち。
多くの死を引き連れ、都の間近まで迫ってきた彼らの脅威を、諸国大名も参戦して討伐に乗り出して祓い、巣食っていた大和の石舞台古墳を攻略した。
指揮系統を失った黄泉人たちはそれから大っぴらに動きはしなかったが、各地で残党が蠢いているという話は度々聞かれていた。
「黄泉人に殺された者は数日後に死人憑きとして蘇ったと言うから間違いなかろう。規模からして、多分一体かそこらと思われるがな。それでも、逃がせばその先でまた死人憑きを増やすだろう。生きた人間がどれほど犠牲になるか‥‥。それを防ぐ為にも、確実に見つけて仕留めて来て欲しい」
黄泉人は干からびた死体のような姿をしているが、人と同じ姿にも変身するという。
人の流入が多かった村だ。人間のふりをして何食わぬ顔で村に入り込み、凶行に至ったのだろう。
溢れる死人憑きを始末して村を開放し、その上で無力な村人の中に紛れた化け物を探さねばならない。
誰か行ってくれないか、という係員の声に、冒険者たちはどうするかと顔を見合わせた。
●リプレイ本文
死人に襲われた村。
死人憑き自体はありふれた‥‥とは言わないが、それでも珍しい存在ではない。
だが、生きている者が次々と倒れて、その後蘇ってくるという状況は、はっきりと異様だった。
「それに説明つけられる存在が‥‥黄泉人、という訳ですね‥‥」
誰に告げるでもなく、呟くように日向陽照(eb3619)がその名を口にする。
かつて、京の都を震撼させた存在・黄泉人。その名を知らぬ者も今では少なくない。
だが、同時に。今だ謎の多い存在とも言える。
知識の統一を図ろうと、火車院静馬(eb1640)や九烏飛鳥(ec3984)は勿論、飛鳥や琉瑞香(ec3981)に頼まれたベアータ・レジーネスや琥龍蒼羅がその知識や戦闘体験などを語り、おおよその能力は把握できた。
しかし、裏を返せばそれだけとも。
宿奈芳純は陰陽寮に赴いて黄泉人について調べたらしいが、得られたのは近年の遭遇した報告ぐらい。他と大きく変わる内容は無かった。
知性を持って組織的な動きを見せるにも関わらず、その目的など全貌は今なお闇に包まれている。
幸いな事に今回予想される黄泉人は少数。一人か二人、多くても四、五人となる事はあるまい。
「それでも死人憑きはゴチャゴチャおるし、めんどいこっちゃで。それに少ない言うても黄泉人相手やしな。気ぃ入れていかんと」
「未来どうなるか分かりませんが、彼らの悪行を許す訳には参りませんからね」
飛鳥が奮起して告げると、瑞香が穏やかに微笑んで頷く。
土御門焔がフォーノジッヂの経巻で未来を見ようとしたものの、指定がまずかったのか上手くいかなかった。
それでも村を救い出せると信じ、冒険者たちは行動へと移す。
村に入り込むのにまず問題となるのは死人憑きたちだ。
最初に襲った時には十体と言われたが、黄泉人の仕業でその後も数は増え続けている。
それは依頼人がギルドに駆け込み、冒険者たちが辿り着くまでの間でも。
安全な距離を保ち、村の外からまずは様子を探る。
「外から視認出来る限りだけでも二十以上‥‥。ほとんどが内部に入り込んでいるのでしょうね」
「言われていた通り、柵の一部が破壊されていましたから。出入りは自由。目の前の獲物を求めたのでしょう」
目を凝らすリュー・スノウ(ea7242)に、同じく死人憑きの様子を窺がっていたルース・エヴァンジェリス(ea7981)が頷く。
人の流入に合わせて家を建て増し、村を広げたのだろう。都のように区画が整理されておらず、どこか雑然とした佇まいを見せている。
その建物の隙間を縫うように、動く人影。
ただしそれはもう生きてはいない。
「うようよといる‥‥死人たち。‥‥僕たちは‥‥これからあれらに‥‥たかられると言う訳ですね」
死人たちから視線を外さず、ただ状況を語る陽照に、瑞香は強く頷く。
「そういう事ですね。私たちはあれらを惹き付けますので、そちらは黄泉人をお願いします」
「二手に割れるんは戦力分散になるけどしゃーないわ。死人も黄泉人も、どっちも見過ごす事は出来へんしな!」
あっけらかんと明るく告げるや、飛鳥が村へと飛び出す。その後に離れず、陽照と瑞香も追いかける。
三名が村に入ると、近くをうろついていた死人憑きたちがすぐに寄って来た。
「来よったで〜。ほないっちょやったろやないか! 小烏丸! 死人相手に遠慮はいらん! せやけどうっかり噛み付いて腹下すんやないで!」
のろりと近付く死人憑きたちを、飛鳥は容赦なく日本刀・姫切で斬り付けていく。
アンデッドに対してさらに切れ味を増すその刃は、ただの一刀で深々と死肉を割き、もろくなった骨を砕く。
従う柴犬も機敏な動作で主の助けとなり、追撃を阻んでいった。
「これは、これは数の多い‥‥。審判の矢を放とうとも‥‥、人の身なれば少々限界というものも‥‥ありますのですね‥‥」
陽照も後方よりブラックホーリーで支援する。
邪悪な者は抵抗できないその魔法に、勿論アンデッドが適う筈なく。黒い光が被弾すれば、確実に痛手を被っている。
とはいえ、魔法にはおのずと魔力の限界が来る。配分を考えねば、敵を葬り去る前に自分が動けなくなりかねない。
ましてや、死人の数も多い。
閉じこもった獲物より、外をうろつく生気の方が襲いやすいとその腐った脳で考えたのか。村の至るところから死者が顔を出してくる。
「思ったよりも、被害が大きいですね。こちらに全部引き寄せられるでしょうか」
四方八方から囲んでくる死人たち。それらを見渡し、瑞香は胸を痛ませる。
敵の数が多い事自体はさほど苦にならなかった。
瑞香の掲げるホーリーライトは死人の動きを阻む。三人と一匹程度、その光の中に十分収まる。
「明るい所は‥‥苦手なんですけどね‥‥」
「そやのん? うちは暗い雰囲気でおる方が嫌やけどな」
やれやれと肩を竦める陽照に、別の意味で飛鳥も似た動作を作る。
光の中から死人たちに向かえば、さほど苦労もなくしとめられる。魔法にしても、中にいたまま唱えて放てるので、詠唱の時間も戦況を読む時間も十分取れる。
反撃食らっても、瑞香のレジストデビルでほとんど傷はない。
さりとて、その死人の数は犠牲者の数でもある。彼らのほとんどがしばらく前まで生きていたのだ。
「もう一班の方では、無事に奴らを見つけられたでしょうか」
目の前の死者はもう救えない。
これ以上の犠牲を出さぬ為には、死人憑きの他にも黄泉人を葬らねばならない。
分かれた残りの冒険者たちを案じつつ、瑞香が死人をコアギュレイトで縛り上げる。
動けなくなった相手に容赦の無い攻撃。それでも死人たちは怯まず、三人を追い求める。
そして、そんな死人たちを引き連れ、ホーリフィールドの光に守られ、少しずつ三人は村から離れていっていた。
死人たちが先に入った冒険者たちを追ったのを見計らい、残る三名も村へと入り込み、手薄になった場所から救出にかかる。
「どなたか居ますか? 助けに参りました」
戸口を叩き、警戒を解く為にリューは依頼人の名前を口にする。
もちろん、中にいるのが黄泉人の可能性もある。いきなり襲われても手が打てるよう、リューの傍にはフロストウルフのぽちがしっかり警戒していた。
家の中では。知った名を聞いた故か、そろそろと物音をほとんどさせずに戸が少しだけ開く。
訝るように隙間から覗く目に笑いかけると、夢ではないと悟ってすがるように村人たちが転がり出てくる。
「怪我はありませんか? 動けるようでしたら、向かいの家まで移動をお願いしたいのですが‥‥」
安堵で泣き崩れる村人を、ルースがもう少しだからと元気付ける。
そうして家々を回り、生き残っていた人たちをある程度一纏めにしていく。
村人とて、行き詰る生活からようやく他者と語る機会を得られたのだ。まだ絶対安心は出来ぬものの、のしかかる恐怖は和らごう。
そう、まだ油断はならない。
ほんのわずかな道でも、危険が排除された訳ではない。
「後方の右の建物の陰に死人がいます!!」
「全く面倒だな!」
中の様子を探る為に、リューがデティクトアンデットをかければ、やはり囮に釣られなかったのもいて範囲内に死人が引っかかる。
姿を見せた死者に、静馬が木刀を叩きつけた。
バーニングソードはすでに付与してある。あいにくそれは単なる死人だったが、魔法効果を得ている木刀は相手が黄泉人であっても威力を発揮するだろう。
「道返の石が使えないのが少し痛いな‥‥。まぁ、この程度の相手なら不要だが」
ひとまず死人を死に返し、静馬が軽く笑い飛ばす。
道返の石は時間と魔力をかけて祈れば、アンデッドを鈍らせる結界を張る。
ただ、祈りは安置して捧げねばならず、動かすと効果が消失してしまう。家々を回らねばならぬ今、それでは意味が無い。
もっとも、単なる死人憑きならばそれほど手強くない。大半は囮となった飛鳥たち三名を追っかけて行ったので、囲まれる程残ってもないだろう。
となると、問題はやはり‥‥。
戸口で問答していたリューがはっと顔色を変えて二人を見、無言のまま指で伝える。
二人はやはり無言のまま頷くと、それぞれが武器に手をかけた。
これまでと同じように戸が開き、出迎えた村人がほっとして表情を和らげる。
「奥に誰かいますね?」
「ああ。今朝になって家が死人に襲われてからがらに逃げ込んできたんだよ。可哀想にねぇ」
涙を流す村人が、奥に手を招く。
「助けが来たのか‥‥。よかった、死ぬかと思った」
恐る恐る顔を出したのは一人の男。
血色は悪いが、不安で神経磨り減らしたせいと言われればその程度。村人の中にはもっと死人じみた表情をしている者もいた。
他の村人たちと同じように冒険者たちの姿に安堵し、礼を告げる。
そしてやはり同じく、人を纏めるべく、彼らを移動させようとしたのだが。
道を行く途中で、リューの身が淡い白に包まれる。
途端に、目の前を歩いていた男が悲鳴を上げた。
「な、何だい?」
「いいから走って。ここは危険です。大丈夫、そこの家で他の人も待ってます」
訳が分からず戸惑う村人の背中をルースは押した。
危険の言葉と、勢いに任せて村人は戸惑いながらもやがて脇目も降らずに走り出す。
残されたのは、冒険者三名とそして男。
「今のはピュアリファイ。普通は食料や傷口などを清めたりする魔法です。‥‥普通ならばですけどね」
リューが高速詠唱で唱えた魔法が、男を撃ったのだ。
普通ならば口にした通りの効力で、これといった異変は無い筈。が、不浄な死人には手酷い攻撃となる。
「‥‥騙しおおせると思ったのだがな」
苦痛に呻いていた男が顔を上げた。
その顔は、もうそれまでの顔とは全く違っていた。
乾ききった肌に落ち窪んだ眼孔。死者そのものが平然とそこにいる。
「させません!」
詠唱の構えを見、唱えられる前にルースがセクエンスを大きく振り下ろす。
生じた衝撃波が黄泉人を捕らえる。乗せたオーラパワーも合わさって、それだけで深い傷を負わせる。
「ぐぅっ!」
そこにすかさず、静馬が踏み込んだ。避けようとした黄泉人だが、躱せず木刀を叩き込まれる。
「どうした、ずいぶんと遅いようだな。邪気払いの桃の話は、本当だという事か?」
「そうか、その木刀‥‥桃から作ったという訳か」
揶揄するように口端を歪める静馬に、黄泉人は獣のように低く唸る。
三対一。向き合うには技量も数も違いすぎる。
黄泉人は逃げようと動きかけたが、それを許さず‥‥反撃の隙も与えぬほど静馬が踏み込み手を加えていく。
その猛攻を凌いだとしても、すかさずルースとリューが距離を置いても攻撃を仕掛けてくる。
決着がつくのは、瞬く間だった。
「この騒ぎは何が目当てだ!?」
四肢をもがれて地に伏した黄泉人に、笑みを消して静馬が睨みつける。
「‥‥復活‥‥」
代わりに黄泉人の口元からは、気味の悪い笑みが貼り付いていた。
負けたはずの者が、何故か勝ち誇ったように冒険者を嘲笑う。
漏れる息は風の音となり、かろうじて言葉を載せる。
「‥‥お前たちの罪は‥‥何れ‥‥」
途切れ途切れの言葉は、すぐに何も伝えなくなる。
念の為にリューがもう一度浄化魔法を唱えると、それで全てとなった。
村中を回り、他に黄泉人がいない事を確認する。入り込んだのはただの一人だったらしい。
死人憑きの方もその頃には始末できて、間もなく冒険者六人は合流する。
村人たちは助かったと喜んだが、その笑みは直に消えた。
この襲撃で半分近くが命を落としていたのだ。
リューが村人たちの治療や安否確認をする傍ら、他の者たちも死人憑き始めまだ起き上がってはいない死体も捜し出し、火にかける。
「もう起きんでええねん。ぐっすり永眠したってや」
瑞香の経に合わせて、灰になる死者たちに向けて飛鳥が手を合わせる。
泣き崩れる人に、呆然とする人。晴れやかとは言い難い雰囲気であるが、冒険者たちにしてもその表情は実に浮かない。
「今回の騒ぎ‥‥何か理由があると踏んだ方が自然なのだろうが‥‥」
静馬が顔を歪める。
黄泉人の態度からしても、その想像はそう外れてなかったのだろう。
が、黄泉人が何をするつもりだったのか‥‥何を言いたかったのか、よく分からない。
「最近、死人やデビルの動きが活発になっている様子。今回の件が何ぞの先触れでなければ良いのですが‥‥」
不安げにリューが呟く。
その考えが正しいか、単なる杞憂に終わるのか。
それを見定めるには、まだまだ時間が必要だった。