【糾える縄】 対
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■ショートシナリオ
担当:からた狐
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:6 G 65 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:03月14日〜03月19日
リプレイ公開日:2008年03月22日
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●オープニング
京都北東に位置する比叡山。多くの信仰と――そして、権力を握る寺院がそこにある。
都の鬼門封じを務め、鬼の棲家たる鉄の御所と向かい合う延暦寺は、屈強な僧兵を多数有する。
その僧兵たちが、武を掲げて都に押し寄せてきた。鬼門を守り、戦の時も動く事は無かった僧兵達が。
突然の暴挙とも言えるし、来る時が来たとも言える。
なぜなら彼らが兵を挙げた矛先は、ジーザス教の拠点であったからだ。
「異教徒を京の都――いや、この日の国から追放する。かの悪鬼どもをこれ以上野放しにしてはならない。我々が動かずして、誰が世を導こうか」
乱世の日本を救う為、イスパニアからジーザス会が渡ってきたのは昨年の事。
神の導きで世を救おうと言うのなら、導けないでいる古来よりの仏教・神道勢力が面白く思うはずも無く。近年姿を見せ始めた悪魔との繋がりも噂され、また平織氏を始めとする諸国大名に取り入って急速に勢力を拡大していく彼らは、為政者たちからも危険視する声は大きかった。
「宗教対立による小競り合いは前からありました。が、今回はどうやら天台座主・慈円さま自らが指示されたとの事。御大が動かれたとなると僧兵たちの士気もこれまでとは違います」
冒険者ギルドを訪れて、京都見廻組の碓井貞光が険しい顔つきで状況を告げる。
京の都は神皇の膝元。
ジーザス会は神皇家に一度謁見しようとしたが寺社の反対もあり果たせず、それ故にか京都では大規模な活動はほとんど行われていない。
それでも活動自体はあちこちで見られ、ジーザス会の勢いに乗って他のジーザス教関係の団体も京都近辺に増えてきていた。
仏都京都に小なりと言えど異教徒が拠点を作る事を寺院が快く思うはずもなく、慈円の命令もそんな情勢を反映したものに思われる。
各地に点在するジーザス教関連の土地や、彼らを支持する者たちを、僧兵たちは容赦なく狩り出している。
その矛先はジーザス会や他の宣教師達だけに止まらず、ジーザス教を信仰し始めた一般人にも苛烈な手段で改宗を迫っているらしい。
さすがに外国人には手を出して来ないのでジーザス教徒が多く居る冒険者ギルドは今のところ蚊帳の外だが、ジーザス教に改宗した商人の屋敷が打ち壊され、資材が没収される事件も起きている。
そのやり方に反発したジーザス教徒達は都の貿易商人を通じて延暦寺に抗議した。
「私もジーザス教自体が悪であるとは思いません。けれど、乱世の我が国に入り込み、悪行を為す輩が多いのは歴とした事実なのです。冒険者がジーザス会を敵視しているのをご存じでしょうか。私達は悪魔から民を守らなければなりません」
延暦寺は、すべてのジーザス教徒を攻撃する意図はなく、身元が確かで周囲ともめ事を起こしていない者には攻撃しないと言った。
しかし、ジーザス教の布教が始まって間もないのだから周囲と揉めていない信者の方が少ない。事実上、京都周辺での布教禁止通告に等しい。
ジーザス教側も黙ってやられるわけにはいかないと、自衛の為に武力を集め始めた。
信仰心の厚い冒険者や、ジーザス教の洗礼を受けた侍や浪人たちが、改宗の為に延暦寺に連れ去られた信者たちを取り返さんと結集し始め、商家たちもこれを密かに資金面で援助しようとしている。
僧兵たちも無論そのくらいで退く気はなく、ますます鼻息を荒くしてジーザス狩りに専念しだす。
「武力に打って出た僧兵と、対抗しようとするジーザス教徒。双方退く気が無いなら、どちらかが消えるまで衝突は必至です。
ジーザス会に不穏な噂があるのも確かで、これまで野放しでしたから一度手入れをして、規制を作るのは良いことだと云う意見もあるのですが‥‥。
見廻組としてはどちらにも加担しかねるのですが、ひとまず一般の市井に影響が出ぬよう、治安維持に協力していただきたいのです」
見廻組に限らず、その他治安組織も事態に動いているが何しろ相手は延暦寺だ。
延暦寺のやる事を迂闊に阻害すれば、政治的にも面倒になる。ジーザス教を見捨てたら、ジーザス会を保護する尾張平織家を始めとする諸侯が怒りそうな気もする。
そんな中でどう治安を保つべく動くべきか。京の混乱はまだ収まりそうに無い。
●リプレイ本文
各地で勢力を広げるジーザス教。
その勢いを懸念したか、天台宗・延暦寺が取締りを始める。
手荒いやり方に、ジーザス側の反発は強く。対抗する意志を見せた事から、さらに対立は激化する様相を見せ始めている。
単なる宗教対立ならさして問題にならないが、ジーザス教の影響は今や非常に大きい。
すなわち、かの動きによっては尾張が絡む可能性もある。政治的要素が混じると、また話はいろいろと変わり、事態は面倒な方向に進み出す。
黒虎部隊や京都見廻組といった元々平織配下の組織は考えの傾向が尾張寄りだし、逆に源徳配下の新撰組は平織が付け入ってきそうな機を作るのは危険と言えた。
都を守る治安組織としても対処が難しいが、かといって見過ごす事も出来ない。
新撰組三番隊隊士・水葉さくら(ea5480)はひとまずそういった情勢は抜きにして、純粋に京都の安全確保の為に動く事にする。
「虚言で人を惑わす怪しきモノに耳を傾けるなど言語道断。今一度、仏の御心が何たるかしかと説いてくれよう」
「あ‥‥あの‥‥待って下さい」
おおぴらに教会で活動すればすぐに僧兵が乗り込んでくる。
その為か、一般の住宅に隠れて集まる事も多くなっているようで。
それでも嗅ぎ付けて踏み込んだ僧兵たちが、ジーザス教徒たちを連れて行こうとする所へ、さらにさくらが駆けつけた。
「助けて下さい!」
いかつい僧兵に手首を捕まれた信者がさくらに助けを求める。
訴えてくる目に困惑したが、それでも気を引き締めてさくらは僧兵に告げる。
「み、都の中で揉め事は、止めて下さい。新撰組としては、都内での、争いごとを、認める事はできません!」
声を荒げて必死で告げるも、相手は動じる気配はない。
「邪教に心奪われ道を踏み外さんとする者に、今一度御仏の心を諭そうと言うのだ。邪魔をせんでいただきたい」
「け、けど!」
食い下がるさくら。
構わず僧兵は信者を連れて行こうとしたが、
「!!」
物陰からオーラが飛んでくる。
それは足元の土を削っただけだが、出来たわずかな隙に信者は拘束を振りほどき走り去る。
「待て!!」
「行かせるか!!」
逃げた信者を追いかけようとした僧兵の前に、刀を持った男たちが立ち塞がる。
立ち止まりかけた信者を逃げるよう諭した事から、どうやら同じくジーザス教徒。
「御仏を敬わず、刀を向けるとは‥‥。恥を知るがいい!」
「私利私欲に堕ちた寺社に加護などあるか! 真に世を救うのはジーザスだ!」
途端始まる乱闘。互いに腕に覚えがある為か、簡単に決着はつきそうに無い。
「だから! 揉め事は止めて下さい!!」
蚊帳の外に置かれたさくらだが、それでぼけっと見ていてはいけない。
ただちにストームを詠唱すると、争う彼らを強引に止めに入る。
暴風に吹かれてばらばらに転がる僧兵に信者。
が、信者側は元より長く争うつもりも無かった。飛ばされた距離を幸いに、起き上がるやただちに逃走する。
「で、ですから! 揉め事は!!」
「構うな! 追いかけろ!」
あくまで説得を繰り返そうとするさくらに構わず、僧兵たちは逃げた信者たちを追いかける。
(「く、組長!! 私、頑張りますからー!!」)
なかなか相手にしてくれない彼らに心で泣きながら、さらなる乱闘が起こさぬ為にさくらも移動を開始した。
身元が確かで周囲と揉めていない信者は見逃す。
そう公言する延暦寺ではあるが、ではその基準とはどんなものだろうかと疑問に思ったのは白翼寺涼哉(ea9502)。
身元については、周囲に尋ねるか、あるいは本人に尋ねれば、証言を辿って確認は出来る。
が、周囲は揉め事を嫌って積極的に関わろうとはせず。
そも、身元先がジーザス信者なら芋蔓になるだけ。
そうでない場合でも、神仏の教えを守る者が宗派違いでも権威ある寺の僧に逆らうかが微妙な話で、そういった事態を考慮していけば、本人に聞いたとて口を閉ざしがちになる。
結果、身元不明者は案外多い。
揉め事についても、訳の分からぬモノを持て囃すなど概ね変な奴と見られるし、その変な奴が大勢集まりだせば次にどう出るか分からず、危機感を覚えだす。
周辺住民に不安を与えたというのが揉め事の理由となるならば、ジーザス信者はすべからく対象に入ってくる訳だ。
「全ての信者が悪いとは言わんが‥‥、縄張り争いで犠牲を強いるのはどうだろうな」
延暦寺側の調査をしていた涼哉は、同じく聞き込んでいたステラ・デュナミス(eb2099)にそう漏らす。
「こっちもいろいろ聞きまわっては見たけれども。まぁ、不安といえば不安にしてたわねぇ‥‥」
調査内容を思い返して、ステラは口を濁す。
ジーザス教とは関係の無い場所として寺社を中心に回っていたのだが、場所柄もあってか、聞こえる声は概ね肯定的だった。
仏教と一言で括っても、宗派によって活動はまちまち。思想の違いによる争いもままある事で、時には寺の潰し合いに発展する。
武力を伴う騒動は少なからず日常に影響を及ぼし、その波及がどこまで広がるかは確かに心配だろう。
が、そうして顔を顰めはしても、それもまた常識の範疇を大きく外れる事ではないと見ている節がある。
むしろ、信仰を捨てるというのはその神仏の否定に繋がり、信仰している者にとっては罪に他ならない。
神仏を捨てた罰当たりに慈悲なり罰なりを下すのは当然と捉える気配もあった。
「延暦寺の強引なやり口に反発を覚える者は確かにいたけどね。でも、それでジーザスの擁護に回るかはまた別の話って感じ」
結局の所、ジーザスが正当な神として認められるか否か。その認識の差が非常に大きい。
ジーザスが神仏を侵害する存在と一般的になれば、それはそれで不安も解消されて民衆こぞって排除に回るだろう。
「患者にも聞いてはみたが‥‥ま、意見としてはあまり無かったな」
涼哉が疲れたように肩を竦める。
医師として接する患者にも意見は聞いたものの、どこで話が漏れるか分からないのであまり話に乗ってこず、大っぴらに聞けたのは延暦寺擁護側ぐらい。
「尾張とか伊勢にも不穏な動きがあるようだし、京都近郊でも種々の事件が起きているわ。ジーザス会に関わる黒い影は、気のせいというには濃すぎるし、何らかの規制は必要と思うけどね‥‥」
京都見廻組の碓井貞光から聞いた話を思い出して、ステラは頭を抱える。
「規制を作る動きは、こちらもいろいろと動きやすくなりそうだ。けど、それにしたって尾張平織家を刺激せんようにしないと拙いだろう。当の規制をどこまでやるか、その基準も問題になるな」
涼哉の悩みは、誰もが思い当たる所だ。
なので規制の動きはあるものの、それがどのくらいで纏まるのかは窺い知れない。
延々議論ばかりで纏まらない可能性もまた考慮しておくべきか。
「全く悩みは尽きないわ。まぁ、そっちはお偉方に任せるって手もあるけどね。
とりあえず、得られたジーザス教の動きについて流しておこうかしら。公認されてない宗教が見過ごしえない動きをしていると京に示せれば、規制の動きにも繋がるかも」
やれる事は限られているが、それでも何もしないよりはマシ。
より良きを目指し希望に向けてステラは自分に出来る事を考え、一歩を踏み出した。
実の所。
ジーザス擁護の藩といえば尾張が有名になっているが、巨大カテドラルを建立して熱心に支援しているのは濃姫であり、藩として見れば大きな動きはあるのか無いのか。
もっとも、そんな巨大建造物を容認する辺り、少なくとも反ジーザスでないだろう。
兎角、尾張藩武将としてミネア・ウェルロッド(ea4591)は、此度の延暦寺の動きをどう思うか、濃姫に話を伺うべく尾張へと向かったのだが、
与えられた日程に対して尾張はちょっと遠かった。
「荷物重〜〜」
「仕方あるまい。とにかく歩け」
護衛として動向した夜十字信人(ea3094)。旅立つ前は果たしてそんなモノが彼女に必要かはなはだ疑問に思っていたが。
道中、食事とかテントとか毛布とか明け方の防寒服とか、まるで万能猫型からくり御伽噺のような活躍をしてくれた。
いやマジで。いなければ、旅はさらに過酷だった。
何せギルドへの報告期日を考えると、道中余計な行動は取っていられない。
適時休息を取り、進める時はとにかく進む。昼夜を問わぬ強行軍で向かいはしたものの、それでも謁見する時間を捻り出せたかといえば‥‥ごめん、無理。
「せっかく近くまで来たんだし。濃姫さまに京の様子をお伝えしておくぐらいは手配しておこうかなぁ」
「まぁ、報告といっても現状では延暦寺がジーザス教排除に乗り出したってぐらいしかないだろう。一山幾らとはいえ、此度の一件、一端に関わる身としては‥‥まぁ、俺の信仰は揺るがんから大丈夫か」
延々と旅だけして帰るのも芸が無い。
疲労困憊を隠さないまま、とりあえずそれだけの事をして今回は一旦京へと戻る事にする。
「初っ端から信人兄ちゃんの韋駄天の草履を履いて向かえば間に合ってたのかなぁ。どうだろう」
「俺の存在価値は荷物のおまけか!?」
「あ、保存食は後でちゃんと返すね」
朗らかに笑うミネアに、信人が頭を抱える。
ちなみに、帰りもやっぱり強行軍だった。
同じく尾張藩の武将であるネフィリム・フィルス(eb3503)はジーザス会の施設を訪ね歩いていた。
といっても、分かる施設は延暦寺の手入れが入っていて、人気が無い。
彼らがどこに行ったのか。探し当てるのに、しばしの時間を要した。
「ジーザス会としては、現状をどう思っているんだい?」
「非常に残念と言わざるを得ません。私たちとしては、彼らを刺激せぬよう気をつけてきたつもりでしたが、このような事になろうとは‥‥」
ジーザス会の神父だという老人は、憔悴しきった様子で首を横に振った。
尾張のカテドラルは立派なものだが、京ではそんな大きな施設など無く、既存の小屋などを改修して使っていたりもしていた。
今はそれより更に酷く、粗末な小屋にまさしく逃げ隠れていると言わんばかりの場所。
神父の他は、信者と思しき者たちが人目を憚りながら出入りを繰り返している。
「外国人には手を出さぬと申した所で、私たちが布教活動などすれば当然手は出されます。身の危険を感じて姿を隠している者も多いです。心ある信者のおかげでどうにかそういった所にも連絡が取れるのは幸いですが」
「散ったジーザス教徒たちが集まって、延暦寺に抵抗しようとしているみたいだけど」
ネフィリムが問うと、神父は静かに頷く。
「このような仕打ちに耐えかね、せめて自衛の手段を得ようとしている者も多いようです」
「自衛ならばいいけどね。とにかく、暴力や非道に同じ手段で返すのは遺憾であり、ジーザスの教えにも反している。辛い時期だと思うけどしばらく耐えて欲しい。他の奴らにもそう伝えてくれないか」
端的に語る神父に、ネフィリムは丁重に頭を下げて願う。
「政治的な話になるけどね。尾張の平織家の上洛を考慮して京洛の支持を得たい所だけど、騒ぎが大きくなって市井に被害が出るようなら、ジーザス教保護する尾張藩も京都のジーザス教徒を助け辛くなる。
将来を見れば、今は彼らに道を譲り、施設を洛外に移すとかして最大限の譲歩を行い、更に洛中での活動は炊き出しや治療などの無償奉仕に留め、暴力を振るわず自らを律し慈愛と献身の姿を人々に示せば大きな力となる筈」
尾張は、今は地元で忙しいが、やがて京へと上るに違いない。その時どう動くかはまだ分からないが、少なくとも不当な弾圧を良しとはしないだろう。
(「下手な騒ぎになって虎の字が介入してくるようなら、最悪どうなるか‥‥」)
かの気性やその身辺を思えば、ネフィリムとしてはすんなりと歓迎はし難い。尾張に仕えていても‥‥いや仕えているからこそ、不安は尽きないのか。
けれど、神父はネフィリムの言葉に首を横に振った。
「譲歩はこれまでに十分してきております。これ以上どうすればよいのか‥‥。
どの道、京都近辺での活動は、今は難しいでしょう。どう動いても僧兵を刺激するだけです。
母は慈悲と慈愛を説き、父は困難に打ち勝つ事を喜び下さいます。この苦難もまた我らの試練として耐え抜きましょう」
神父が祈りを捧げると、信者たちもそれに倣う。
一瞬訪れる静謐。
それを破るように鐘の音が鳴り響いた。
信者たちが驚き目を見開いて注目するより早く、ネフィリムはその錫杖を手にして小屋から飛び出す。
外でもその騒ぎを聞きつけたか、周囲を警戒していた信者が身を強張らせていた。
「今、誰かいたか?」
「い、いえ。別に‥‥」
視線を巡らせるが不審な影は見えない。その頃には錫杖も音を上げるのを止めている。
「お客人、それは?」
怪訝そうな目で神父はネフィリムの手にした錫杖を指差す。
とはいえ、神父始め信者たちは錫杖よりもむしろネフィリムの方に不審の目を向けている。
(「やれやれ。弾圧している側の象徴みたいなもんで騒いだんだから仕方ないかね」)
苦笑したい気持ちは胸の内に仕舞い込み、まずは騒いだ事を詫びる。
ネフィリムが用意していた退魔の錫杖は範囲内にデビルがいるとうるさく鐘を鳴らす。つまりはそういう事だ。