切ってはならぬもの
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■ショートシナリオ
担当:からた狐
対応レベル:6〜10lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 9 C
参加人数:8人
サポート参加人数:7人
冒険期間:04月10日〜04月15日
リプレイ公開日:2008年04月18日
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●オープニング
花も綺麗に咲き誇り、鳥が艶やかに鳴き、温かな風が芳しき香りを運んでくる。
天気上々、春麗。
どこか出かけてのんびりしたいような日だが、そんな日であっても冒険者ギルドには火急の用で飛び込んでくる人がいる。
事件に季節は関係ない。必死に依頼人は窮状を訴える。
「私、料理人を目指しております。この春より伝を頼ってどうにか江戸の料亭で働かせてもらえる事になったのですが、郷里の田舎から山を越えてくる際、鬼に襲われてしまいました」
見ればあちこち怪我をしている。大事は無さそうだが、見た目は痛々しい。
襲ってきた鬼はどうやら小鬼ばかり七体。
一体一体はさほど強くないが、集団で襲い掛かって無抵抗な者を叩きのめすという悪質さを持っている。
この時も、依頼人は一人だけで山道を歩いていると、不意に集られてしまったとか。
「どうにか鬼は振り切る事が出来ましたが、もっていた荷物は奴らに奪われてしまいました。荷物はほとんど着替えで、これも奪われて惜しい物でないのですが、ただ一つ、どうしても奴らから取り返して欲しいものがあるのです」
それは一本の包丁だという。
同じく料理人だった祖父の形見となる品で、出際に祖母がいつかこれで美味しい料理を作っておくれと願いを込めて託してくれたもの。
そんな大切な物を奪われて、ただ無念と嘆くだけではいられない。
「ましてや、鬼の手に渡ったとなれば、いずれ殺傷目的に使われるのではと気が気でなく‥‥。祖父の形見がそんな事に使われでもしたら‥‥例え大成したとしても祖母たちにも顔向けできません」
どうかそんな事に使われる前に取り返して欲しい、と依頼人が訴える。
話を聞いたギルドの係員は、改めて冒険者たちと向き合う。
「実はその山には山姥が住み着いていて、小鬼はその手勢だと言われています。恐らく包丁は山姥に献上され、そちらが持っていると思われます」
山姥は山奥に住み着いて、人前には滅多に出てこない。
どこにいるか分からない為、探す必要はあるだろう。
「依頼人に託された願いを血に塗れさせる訳にもいきません。どうか鬼たちを見つけ出し、包丁を取り戻して上げてください」
願い出る係員を前に、この依頼を受けるか否か。決めるのは冒険者次第である。
●リプレイ本文
奪われた包丁。込められた願いの為にも取り返したいと願うが、奪った相手の居場所はさて何処か。
小鬼と、その後ろに控える山姥の所在を突き止めるべく、冒険者たちは動き出す。
「とはいえ、山も広い。闇雲に探しても山姥どころか、小鬼すら当たらない」
春の陽気に霞む緑の山々。そのどこに鬼たちは隠れ住んでいるのか。
見渡す群雲龍之介(ea0988)に、瀬崎鐶(ec0097)が無表情に頷く。
「彼らに関しては、ここら辺では結構知れ渡っているみたいね。話を聞くのは楽だった」
山を我が物顔でのさばる彼らによる周辺の被害は少なくない。
出会って追い回されたり、獲物を横取りされたり。下手をすれば死体として転がる。
淡々とした鐶の報告。さらにサイーラ・イズ・ラハル(eb6993)も陰守清十郎の聞いてきた話を加える。
それを聞きながら、鳴滝風流斎(eb7152)は用意していた紙を広げる。
「山中、主に見かけるのは小鬼で、山姥は滅多に出歩かないようでござる。とはいえ、小鬼でも下手に出くわせば命が危ういので、猟師たちも周辺には近寄らないようにしてるらしいでござる」
そこには、マイユ・リジス・セディン、シェンカー・アイゼルリッシュ、ビーツァー・パルシェに協力してもらい、敵の戦力や行動範囲、聞き込んだ山の地形などが書き込まれている。
エレガントな仕上がりのそれに鐶の情報も書き加え、風流斎は皆に説明する。
「だからか。ここら辺の緑に聞いてみたが、山姥の居る方角を聞いてもあまり答えてはくれなかったな。
鬼とて水は必要。だが、サーチウォーターで山の中の水源は幾つか分かっても、そのどれを利用しているかまではあいにくだ。山奥にいるという事は、麓近くのではないだろうが‥‥」
鷹司龍嗣(eb3582)がその上からさらに探索した結果を書き込んでいく。
「だが、情報としては十二分だ」
地図をせっせと書き写すと、サスケ・ヒノモリ(eb8646)がバーニングマップの経巻を広げる。
燃えた地図はやがて灰になると、冒険者たちに辿るべき道を示していた。
普段は人が入りそうにない山の奥。
小鬼たちが通る他は獣道ぐらいしか見当たらないそこを、冒険者たちは慎重に分け入っていく。
幸い月は満月に程近く‥‥とはいえ、生い茂る山の夜道歩くのは生半な苦労ではない。
やがて見えてきた明かりは何も知らなければ、誘われて一夜の宿でも頼みたくなる程魅力的だった。
そんな飛んで火に入るになるつもりは無いが、それでも苦労が報われた事はありがたい。
安堵の表情はほんの一瞬。さらに厳しく表情を引き締めると、更に慎重な足取りで灯りへと近付いていく。
夜目にも分かる小屋は、およそお粗末なもので雨風を凌ぐ程度。
そこから賑やかに声が響いてきていた。
魔法光で向こうに気付かれぬよう、本多文那(ec2195)がバイブレーションセンサーで探る。
「振動は八体。全員集合で間違いないよ」
地面から伝わる振動で中を判断すると、サイーラは艶やかに笑いテレパシーを唱える。
声を伝えぬ言葉で風流斎に話しかけ、相手が頷いたのを確認すると後はゆっくりと鬼の小屋へと近付いていく。
他の者は散開し、小屋を取り囲んで身を潜める。
中では、どうやら食事中らしい。動物らしき肉片や骨が散乱して、異様な臭気が漏れ出てくる。
むかつく胸を押さえて、深呼吸をするとサイーラは壊さぬ程度に襤褸小屋を叩く。
「こんばんは。山姥姫と七人の小鬼さんのお宅はこちらかしら?」
「何者だい!!?」
壁に立てかけてあった山刀に、山姥が手をかける。食事をむさぼっていた小鬼たちもひとしきり騒いだ後、あたふたと斧を手に身構えていた。
「そう構えないでよ。いい話を持って来たのよ」
敵意が無い事を示すも、相手の警戒は依然解けない。
「あなたたちはこの辺りを狩場にしているのでしょう? その狩場に、私が人を誘い入れる代わりに、取り分として獲物が持っていた金目の物を貰いたいのよ。定期的に人にありつけ、獲物を探す労力も減ると思うんだけど、どう?」
笑みを浮かべて尋ねると、刃を向けたまま山姥は考え込み、
「いいね。詳しく話を聞こうじゃないか」
老婆の相貌に鬼の笑みを浮かべると、サイーラを招き入れる。
サイーラが手土産にもってきた獣肉にサスケから陰守森写歩朗の弁当、そしてどぶろくを振舞うと、小鬼たちは素直に喜んでいる。
だが、山姥は小屋の奥へと招きこむと、あっさりと山刀を振り上げた。
明日の利益より今の欲か。血に塗れた刃がサイーラへと振り落とされる。
その刃から逃げたとしても、室内では逃げ場は無く、入り口に戻ろうにも鬼たちを掻い潜らねばならない。
哀れ絶対絶命‥‥になる前に、手を打つのが冒険者。
危険を感知できたのは、小鳥遊郭之丞の指輪のおかげか、アナマリア・パッドラックの祈りが通じたか。
サイーラは相手が動くと同時、転がっていた包丁を掴むと、火を逃れて蟠っていた月影に飛び込む。
詠唱は一瞬。サイーラの姿は足元の影に潜り込み、山姥の刃は虚しく空を切る。
ムーンシャドゥ。夜に行動したのはこの為だ。
「大丈夫、こっちは確保したわ!」
「よし、行くぜ!!」
小屋の外の影から姿を現し、依頼人の包丁を改めて確かめると高らかに声を上げる。
その声を合図に、一斉に動き出した。
小屋の中は、突然消えたサイーラを探して大騒ぎしている。とりあえず外へと逃げたのかと、外に出たところを冒険者たちと鉢合わせ。
「まずは小鬼から!!」
事態が把握できず、斧は持てども行動に出れない小鬼に向かって柊海斗(ea7803)は容赦なく日本刀を振り下ろす。
包丁を取り戻した以上、長居は無用‥‥ともいかない。追って来る可能性もあるが、放っておいても被害は大きくなるばかり。
斬られた小鬼が悲鳴を上げる。血塗れで転がるその姿を見て、ようやく他の小鬼たちは事態を悟る。
逃げ出そうとした者もいたが、そこに風流斎の忍犬二匹、天晴丸とワン太夫が回りこむ。
「敵に後ろを取られるとは、やはりこの程度でござるか」
足を止めた隙に背後に忍び寄ると、風流斎はそのまま後ろからばっさりと首を斬りおとした。
刎ね飛んだ仲間の首を見て、小鬼たちがさらに叫ぶ。
「何をしてるんだ! しっかりおし!!」
そこに山姥の叱咤が飛ぶ。気を取り直した小鬼たちは身構えかかってくるが、半ばやけくそ。
「逃げ出さないだけ立派か?」
「逃げ出しても逃がさないけどねー♪」
サスケが高速詠唱でグラビティーキャノンを唱える。直線状に伸びた重力波で小鬼がすっ転ぶとそこに文那から矢の雨が降り注ぐ。
「仮に隠れたりしても無駄だしな」
騒ぎに紛れてやり過ごそうとしていた小鬼を見つけて、龍嗣はムーンアローを詠唱。
月の矢は障害物を全て通り抜け、過たず狙いの小鬼を射抜く。
サイーラがイリュージョンやコンフュージョンで、絡みつく蔦を見せたり混乱させたり。おかげで、小鬼は無秩序にありもしない方に斧を振り回し続けていた。
迂闊に近付くと危ないが、遠距離からの攻撃には関係ない。安全な位置から確実に小鬼たちを仕留めていく。
勿論、山姥も見逃すつもりなど無い。
「きええええ!!」
「くっ!!」
奇声を上げて、山姥が山刀を振り回す。とっさに鐶は躱すが、それでも腕に一本の朱筋が入る。
さすがというべきか。小鬼たちとは動きが違う。
それでも、山姥には焦燥の色が濃い。周囲で小鬼たちがばたばた倒れているせいもあるが、
「うまく動けないだろう。アグラベイションで抑制したからな」
サスケの言葉に、ぎろりと山姥が目を光らせる。魔法は理解できなくても、何かされたのは分かったようだ。
「包丁は取り返した以上‥‥、オーラソードでちまちまと削る必要はないわよね?」
万一にも包丁に傷をつけてはならない。オーラソードなら普通の物質はすり抜けるので、その心配は無いわけだが、そもそもの品を取り返しているなら憂慮も入らない。
ならばと鐶は日本刀・青蛇丸を抜き放つと、踏み込み、山姥に斬りつける。
「ぎゃあ!!」
悲鳴を上げてよろめく山姥を龍之介が捕まえて投げようとする。
それは何とか堪えたものの、体勢は崩れ、そこにさらに鐶が追撃を入れる。
小鬼たちに山姥。数は多いものの、完全討伐までさほどの時間はかからなかった。
「刃こぼれなし。脂の付着も見られない。使われた痕跡は無しだな」
包丁を検分して、龍之介がほっと息をつく。
自身も料理を作るので、包丁への思い入れも理解できる。取り返しても、それが血塗られていたりしたらと思うと、背筋が寒くなる。
「はい。商売道具が無くなっちゃったら辛いよねー」
「ありがとうございます。本当に良かった」
文那が手渡すと、依頼人は目をうるませて頭を下げる。大切に包丁を布で包むと、懐に抱える。
「さて、依頼もひと段落ついて腹は減ってないか? 牡丹鍋でも作ろうと思うがどうだ」
「じゃあ、依頼人さんも何か料理作ってくれないかな〜」
依頼の支払いもすんで、万事終了。
龍之介の誘いに、文那が期待の眼差しを依頼人に向ける。
「いいですが‥‥まだ、修行もこれからなので御期待に添えるか分かりませんよ」
照れくさそうに依頼人は告げると、包丁を抱え、その一歩を踏み出した。