【糾える縄】 転向

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:7 G 30 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月17日〜04月22日

リプレイ公開日:2008年04月25日

●オープニング

 桜舞い散る春の京都。
 延暦寺によるジーザス教排斥運動は今だ続いている。
 僧侶たちの追及は退く事を知らぬが、それに対するジーザス教側の対応は様々。武器を手に抵抗を試みる者や、あくまで和平を求めて話合おうとする者や。
 直接延暦寺に乗り込む者さえいたが、信徒で寺に入って帰される者は無かった。

 そして、

「こちらです」
 僧兵たちを先導するのは男。着いた先は、どこにでもあるような小さな茶屋だった。
 茶屋の女が男に気付いて顔をほころばせる。が、直後、後ろに控える僧兵たちを見て顔を引き攣らせた。
「こちらに背信の徒が集っているだろう」
「裏切ったの!!」
 厳しい口調で声を張り上げる僧兵。それよりもさらに大きな声で茶屋の女は男に向かって叫んでいた。
 辺りに響く声に、茶屋の奥が慌しい物音を立てる。
 騒音を聞きつけ、僧兵たちは視線を交わすや、驚嘆して固まってしまった女に当て身を食らわせ、茶屋に乗り込んだ。
 怒声と悲鳴と。
 物音を聞きつけた者たちが野次馬として近寄り、また、関わりなるなと遠ざかる。
 激しい騒動が聞こえ、騒動は裏手へと抜けていき遠くへと向かう。
 余韻覚めやらぬ茶屋の中から出てきた僧たちは負傷した体で息を切らし、先より数を減らしていた。
「御無事ですか!?」
 心配そうに告げる男に、僧兵は重々しく頷く。
「抵抗された故、荒事も起きたが大事無い。他の者が逃げた者を追っている。捕らえた者は縛り上げた。一度寺に戻るぞ」
 減った僧兵の数を埋める以上に、縄で縛られた者たちが担ぎ出される。
 まだ動ける者がもがいていたが、猿轡までされていては何を言っても聞き取れない。
 悔しそうに顔を歪ませるが、やがて男に気付く。
 茶屋の女と同じく激しく驚いていたが、男が僧兵と共にいると悟ると恐ろしい目で睨みつける。
「連れて行け」
 気付いた僧兵が先に信者を運ぶよう促すと男の肩に僧兵は傷だらけの手を置く。
「気にするな」
「はい」
 短い言葉に、男は強く頷く。
 自力で動けぬ信者は担ぎ上げ、僧兵たちは延暦寺への帰路に着く。
「仏さまは僕らを見捨てたりなんかしない。間違った神に仕えた事を悔い改め、今一度慈悲に目を向けるべきなんだ」
 そして、男は躊躇いもなくまだ気絶したままの女を抱き上げ僧兵に従った。


「延暦寺の騒動は止まないな」
 京都見廻組の渡辺綱がふぅと陰の篭った嘆息をつく。
「元々数でも実力でも延暦寺に敵う筈がない。案外早々と片がつくかと思ったが、ジーザス側もどうにか逃げているようだ」
 延暦寺は下手すれば一国に相当する力を持つ。ジーザス教も近年急速に勢力をつけてきたとはいえ、土台が違う。
「だが、最近は連れて行かれた信者たちが僧兵たちの先に立ち、元の仲間たちの捕縛につくようになった。中でどんな教えを受けたかは知らないが、多少なりとも内情を知る彼らが動いた事でこれまで上手く隠れていた者たちも駆り立てられている。おかげで」
 綱が陰鬱そうに言葉を切る。
「おかげで、窮鼠猫を咬むというように追い詰められた信者と僧兵のいざこざがあちこちで続いている。信者の中には浪人や侍もいるから、街中の剣劇で周囲に被害が出る事もある」
 野次馬に死傷者はなくとも、店の物が壊されたり逃げる際にぶつかったりとかはしょっちゅう。
 僧兵たちにいい加減にして欲しいと頼んでくれとか、さっさとジーザス教徒たちを取り締まれとか、街中の治安を守るのがお前たちの責任だろうとか。都民たちの不平不満も京都見廻組に届かぬ日は無い。多分、他の組織も似たり寄ったりだろう。
「比叡山に抗議を入れた所で聞くと思えないし、ジーザス側の取り締まりにも罪状は無い。衝突した際に都を騒がしたと捕まえる事は出来るが、山から圧力かかって僧侶は解放、ジーザスは引き渡しというオチも見えてくる。
 だからといって放って見ぬ振りをする訳にもいかない。何とか治安が回復に向かうよう手を貸してもらいたい」
 治安を目的としているとはいえ、所詮は組織。上から命じられれば従わざるを得ない。
「ただ、この件には怪しいモノが関わっている気配がある。事態の収拾に当たる筈だった貴族たちが鬼や土蜘蛛の霊に襲われているし、道々でデビルとやらの気配もあったそうだ。
 ジーザス側で言えば、以前に関わった殺人事件に絡んで姿を消した神父がいたが、奴はデティクトアンデッドに反応があったりした。
 行動は任せるが、何がどう関わってくるか分からない。気をつけて動いてくれ」
 対立を止める事は難しい。怪の動きも得体が知れない。
 都の平和の為に何が出来るか。考え動く事が必要だった。

●今回の参加者

 ea0020 月詠 葵(21歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea1661 ゼルス・ウィンディ(24歳・♂・志士・エルフ・フランク王国)
 ea5480 水葉 さくら(25歳・♀・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea6356 海上 飛沫(28歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea6358 凪風 風小生(21歳・♂・志士・パラ・ジャパン)
 ea9455 カンタータ・ドレッドノート(19歳・♀・バード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ea9502 白翼寺 涼哉(39歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 eb2099 ステラ・デュナミス(29歳・♀・志士・エルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

 延暦寺によるジーザス教排斥は収まる気配は無い。
 寺に連れて行かれたジーザス教徒の中から、仏の教えを口にする者も出始め、ますます追求の手は厳しくなっていく。
「何故そうまでして、ジーザス教を排除しようとするのか‥‥。延暦寺の狙いは、ジーザス会が持つ癒しの力では?」
 先日、美濃まで出かけた白翼寺涼哉(ea9502)が報告がてら、自身の考えを口にする。
 数年前に暗殺された平織虎長が復活したという話は、もはや都でも知らぬ者は無い。
 尾張にて起きたジーザスの奇跡を、日本の最大宗派である天台宗総本山が快く思うはずもなかろう。
「尾張にも延暦寺からの通達があったらしく、対応に頭を抱えておるようで‥‥。そのせいか、大聖堂を解体するという話も耳にしました」
「その話は耳にしている。そろそろ市井にも話が広まる頃だな」
 京都見廻組の渡辺綱が、何とも微妙な顔つきで頷く。
 大聖堂の建立。それは近隣のジーザス信者たちの支えとなり、尾張はジーザス教を擁護していると取られていた。
 それが突然とも言える解体。そこにどんな思惑が隠れているか外からはなかなか伺いしれないが、ジーザス教徒たちの心境は複雑だろう。
 それで事態がどう起きるのか。あるいは何も起きないかは、しばらく状況を見るしかない。


 妖霊たちに襲われた貴人たちから話を聞こうと、涼哉にカンタータ・ドレッドノート(ea9455)、月詠葵(ea0020)の三名が屋敷を訪ねる。
 療養中とか物忌みとかで嫌な顔をする所もあったが、葵が新撰組の名を出せば渋々ながらも会う者も。
 追われたとはいえ、源徳家康は現神皇の叔父。その配下たる新撰組を無碍にするのも今はまだ処世に関わるのだろう。
「晴明は神皇の傍に控えると言って当てにならぬ。呪詛なら、早う術者を探して捕らえて参れ」
「その為にですね、少しお話を聞かせていただきたいのです」
 会った反応は様々。ただ、自身で身を守る術が無いなら、怪異を恐れるのも無理は無い。
 失礼無いよう、気を使いながらの会話は疲れる。一通り話を聞いて回った頃には、くたくたになっていた。
「襲われた日に変わった事は無かったようですね」
「経緯にしても、いきなり鬼や土蜘蛛に取り巻かれたって話だ。後から、襲われた者たちの共通項を探して、延暦寺の件に関わろうとしていたと考え付いたぐらいだからな」
 聞いた内容を吟味して、葵は軽く肩を竦める。
 襲われた時の事を尋ねても場所は様々。帰宅途中も多いが、就寝中など家にいる時に襲われた者もいる。概ね、周囲に人気が無さそうな時に前触れも無く現れ、凶事を為した。
 唯一仕事中はなかったが、宮中の守りの厚さに霊の方が退散しただけかもしれない。
「延暦寺とジーザスの件に当たろうという話も別に秘密でなし、知ろうと思えば誰でも知り得たみたいですよね」
 延暦寺の騒ぎを秘密裏に対策立てる必要も無い。むしろ名を上げる好機と、意欲ある者は吹聴していた。
 都が組織である以上、事態に動く部署は概ね決まってくるし、そこから誰が担当するかの推測は十分可能。
 呪詛騒ぎの方が想定外なのだ。
「公家方の周りでいきなり金回りが良くなった人も無し。やはり延暦寺とジーザス教に関わるなという牽制でしょうか。どっちの関わりかは分かりませんけど」
「まぁ、貴人方の周りでは特に妙な事は見当たらなかったですけどねー。警備の人たちが殺気立ってましたけど、それも人外への対処と考えればおかしくない範疇でした」
 カンタータが指にはめたヴォーロスの指輪を見つめる。
 涼哉から借りた熊の指輪は危険が迫ると知らせるらしいが、少なくとも自分たちが危険と感じる事は起きなかった。
「公家たちも気になりますけど、改宗した元ジーザス教徒というのも気になります。確かステラさんが探してるはずなので、合流してみましょうか」
 カンタータは少し悩むと、フードを下ろして背筋を伸ばして歩き出す。


 改宗した元信者たちは自主的に寺に留まっているらしい。
(「ジーザス関連施設へも、僧兵たちと一緒の手入れみたいだし‥‥。というか、僧兵たちも彼らを一人で動かす気は無いのかしら」)
 ステラ・デュナミス(eb2099)の調べる限り、元信者に限らず常に複数で動いてる感じがあった。
 ジーザス教徒を探す彼らを見つけて後をつけてみるが、見ている範囲では怪しい素振りは無い。
 そうこうする内カンタータたちと合流。機もいいので、話しかけてみる。
「どうして、ジーザス教を支持しようと思ったの?」
 元信者の後ろには僧兵数名が控えている。黙って立ってはいるものの、こちらの話に注意を払っているのは分かる。
 気分を害させぬよう、言葉を選んでステラは元信者に尋ねる。
「今の世の中、戦ばかり。不穏な話は収まらず。あちらで静まったかと思うとまたどこかで現れ、京も何度も戦火に巻き込まれました。人は倒れて物は壊れて、景気も悪くなるばかり。そんな時にジーザスの教えを聞き、世を救えるのは彼らしかないと思ってしまったのです」
 悔しそうに元信者が表情を歪める。が、その顔をやおらに上げると、勢いよくステラに詰め寄る。
「寺に連れて行かれた時は、本当につらかったです。修行も苦しいばかりでした。ですが違ったのです。御仏は私たちを見捨ててなどいなかったのです」
「落ち着かれよ。相手が困ってるだろう」
 拳握り締めて詰め寄る元信者に戸惑うステラ。僧兵が軽く宥めると、咳払いして気を正す。
「あの、それじゃ何故また仏教に転向を?」
「御仏の教えを受けたからです」
 こちらも気を取り直し、改めて問いかけるステラに、元信者はきっぱりと告げる。
「もういいだろう。救わねばならぬ衆生はまだいる。先を急ぎたいのだが」
 もう少し詳しく聞こうと口を開きかけた所へ、僧兵たちが口を挟む。
「待ってくれ。手を怪我してるようだ。少し診てやろう。‥‥ジーザス会の信者は怪我を自分たちで治すのか?」
 そこを何とか涼哉が引き止める。
「勿論。お医者にかかる金はありませんし、寺院に駆け込む訳にも行きませんでしたから。手当てぐらいなら僕らでも出来ますし、神父たちには魔法を会得している者もいたようですが」
「そうか」
 イスパニア・ジーザス会は白も多いが、大元の多数は黒の父信仰と聞く。治癒の術が使えずとも、別に不思議ではない。
 僧兵たちの催促がもう一度繰り返される。元信者は丁寧に礼を述べると、彼らに挟まれて歩き出す。
 それ以上の引き止めも何なので、黙って一同は彼らを見送った。
「何か変なのよね。思えば延暦寺でもそう。目が覚めたきっかけを詳しく聞こうとするとはぐらかされてる気がするの」
 元信者に話を聞こうとまずは延暦寺に向かったステラ。
 外国人はジーザス教徒という固定観念があるのか、居心地は良くなく。半ば追い出されるように寺を出されたので、話はそこそこ。
 この情勢では仕方ないと納得もしていたが、どうもそれだけでは無いような?
「とすると、薬物などで洗脳されているとか?」
 カンタータが尋ねるも、涼哉は首を横に振る。
「その感じは無かったな。少なくとも彼は単純に傾倒しているだけのようだ」
「そうですか。チャームとしても、今度は月魔法を誰が使ったのかの問題が残りますしね」
「今回の転向騒ぎがデビルの差し金で、元信者は延暦寺の味方のフリして混乱を長引かせる為にお芝居しているとも考えられるけど‥‥」
 首を傾げるカンタータに、ステラも柳眉に皺を寄せていた。


 延暦寺では、都の喧騒離れて仏の教えを会得しようと修行に僧たちが励む。
 勿論、僧以外でも修行を重ねる者もおり、中には修行をさせられている者もいる。
「こちらで朝夕念仏を唱え、昼の内は本堂の清掃などを行っている。善行を積み、己を悟る修行を続けているのだ」
 凪風風小生(ea6358)が改宗した人たちの更生した様子を見学している最中、海上飛沫(ea6356)は天台座主・慈円との面会を求める。
 とはいえ、向こうも暇ではない。
 面会を求めて断られてを何度か繰り返して、かなりの時間を待たされようやくどうにか許される。
「お忙しいようですので、手短に。これ以上、ジーザス信徒の収容数を増やさない様にするか、収容場所を延暦寺とは別の所にできませんか?」
「ほう?」
 礼の後、切り出した飛沫の言葉に、慈円の眉が僅か動く。
「ジーザス信徒の収容は、彼らを一箇所に集めている事にも。一斉蜂起されれば、内部から攻撃を受けます。ここが落とされるとは思えませんが、万一でも鉄の御所への押さえが無くなってはなりません。納められている酒呑童子の腕が狙われる可能性もあるでしょう」
 黙って返事を待つが、慈円は頷くだけ。
 仕方なく、飛沫は話を続ける。
「すでにお気づきかと思いますが、ジーザス信徒との諍いを必要以上に煽る影があります。信の置ける僧を隠密裏に動かして、陰陽寮や京都見廻組などの機関と情報の共有を図れませんか? 現在、延暦寺は各機関から浮いた状況にあります。情報の行き違いが招く惨事は回避すべきです」
「ここは元々俗世とは離れた場。それは仕方あるまい」
 ゆっくりとした喋りで、慈円は軽く首を振った。
「ジーザス教の追求を休める訳にはいかぬ。かといって、ここ以上の修行場所も簡単に用意できまい。そなたの懸念も外れてはおらぬが‥‥ふむ‥‥‥‥」
 考え込む慈円。
 だがそれも束の間、俄かに外が騒がしくなる。
「何事ぞ!?」
「曲者です! どう致しましょう」
「にゅー」
 駆けつければ、多数の僧兵に囲まれ風小生が妙な姿で立っていた。コアギュレイトで縛られたらしい。
 更生施設を一通り見た風小生だが、寺内部にデビルや怪異の影が無いか、密かに探ろうと改めて潜入した。
「これは一体どういう事か!」
 さすがに怒気を露にして、慈円が飛沫に詰め寄る。
「ジーザス信徒たちの様子を探りたかったようですね。妙な企みが存在しないかと」
 第三者の声がそこに響く。
 見れば、風小生の傍で一人の僧侶が魔法を唱えていた。白い光が身を包むや、風小生を解呪する。
「この者に不審な点はありません。解放してもよろしいでしょう」
「そう仰られるなら‥‥」
 慈円が丁重に礼を取ると、二人を連れて行くように僧兵たちに指示する。
「私たちの為す事が不審に見えるのも仕方の無い事。ですが、けして非道な事はしておりません。それだけは信じていただきたい」
 僧兵たちに促されて歩く二人の背中から、僧侶の若い声が届いた。
「にゅ〜。さすがに警備が厚いにゅ〜〜〜」
 奥地まではまだ距離がある。風小生の腕でも潜入が難しい程、延暦寺では相当厳しい警備を布いていた。
 半ば放り出されるように寺を出され、二人、顔を見合わせる。
「それで、デビルや怪異を操作してそうな人はいたのですか?」
「最初に見た感じでは、真面目に修行させてただけにゅ。前に追いかけていた僧兵の姿は、見なかったにゅ。教徒追っかけて外に出てるのかもにゅね。信者さんたちも見なかったから、あの後逃げられてたのかも」
 何となく強張った感じのする体を伸ばし、風小生は大きく手を上げた。


「こ、この騒動で、考えられる最も困難な状況は、延暦寺が京と手を切り、京が鉄の御所からの脅威に晒されつつ、デ、デビルからの襲撃も受ける、でしょうか‥‥。デビルと鉄の御所、京がその二勢力の挟み撃ちになる事は、ぜ、絶対に避けなければならない‥‥と思います、です。はい」
 新撰組の隊服を着込み、水葉さくら(ea5480)は己が胸の内を告げる。
「京都見廻組が、ちょ、調査して、姿を消した神父さまが‥‥、デ、デビルの使いだった場合。京にジーザス教という異教を広め‥‥京と延暦寺の関係を乱す、という目的も推察できます、から。京と、延暦寺の間で動こうとした貴族の方達を死霊に襲わせ、仲違いを継続させる‥‥という行動にも、な、納得がいきます」
 デビルが絡んでいるのは、分かっている。
 が、それがどう絡むのか、掴みきれずにいた。
「そうすると‥‥ジーザス教と延暦寺がケンカしても、それによって京と延暦寺の間に亀裂が、は、入らない関係にしておきたいです、けれど‥‥」
 さくらは考えると、
「も、目的が決まっても‥‥、手段も決まる、とはいかないの、ですよね‥‥」
 がっくりと肩を落とす。
「まぁ、そう気を落さないように」
 隊は違えど、同じく新撰組の関わり。ゼルス・ウィンディ(ea1661)が心中察して声をかける。
「夜廻りは、つ、続けてますけど‥‥。妖霊たちの、す、姿は、無い、ですね。貴族たちが、及び腰になって、動く気配無いので‥‥動くの止めたのでしょうか‥‥」
 はぁ、とさくらが嘆息付く。夜回りの疲れもあってか、なおさら元気が無い。
「ジーザス教に恨みはありませんが、延暦寺が脅かされれば波紋は各所に広がります。延暦側勝利による早期決着が一番無難な解決でしょうし、対処出来る内に動かれた慈円さまの判断は正しいと思います。
 ‥‥もっとも、ジーザス教徒がこのままおとなしくしているとも思えないんですけどね」
 そんなさくらに目を向けた後、ゼルスは自分の調べた事を告げる。
 そもそも喧嘩するには圧倒的にジーザス教徒側が不利な相手。しかし、窮鼠も猫を咬む。
 思いつくのはやはり尾張だ。
 カテドラルは解体が決まったが、そこに集い占拠して、何かよからぬ企みを企てる可能性もある。
「死者の復活という奇跡を見せたジーザス会の象徴とも言える大聖堂。信徒の逃げ場としてもおかしくはなし、虎長さま達とて人道的立場から救いを求める信徒を無碍には出来ないでしょう。一時的でも解体の中止となれば、延暦寺との関係も悪化させかねません。悪魔が裏で糸を引くなら、これほど使いやすい道具はなし‥‥」
 そう考えてゼルスは延暦寺の僧たちに尾張へ流出する信徒を警戒すべきと進言したが、そこは彼らも読んでいてすでに警戒の目を光らせている。
 街道は、現在伊賀で戦闘が繰り広げられている為、多くは安全策をとって近江回りで東に行く。延暦寺の勢力圏を通る訳だし、尾張への流れに少なくとも目立つ動きは無い。
「で、では。わ、私は‥‥ま、また見回りがありますので」
 言って頭を下げるさくらに、手を振った後でゼルスは再び自分の調査に目を通す。
 尾張への流出に目立つ流れは無い。むしろ顕著なのは尾張から京への流入。かなりの物資や人手が都へと運び込まれている。
 平織は伊賀で戦闘中。その最中であっても、確実に上洛の準備を進めている。
(「しかもこの動き‥‥。上洛の時は、割と近いかもしれません」)
 天下布武を掲げる平織が、今の京に何をもたらすか。
 それを知るのも間も無くかもしれない。