大きな‥‥の上で
|
■ショートシナリオ
担当:からた狐
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:5人
サポート参加人数:1人
冒険期間:04月22日〜04月27日
リプレイ公開日:2008年04月30日
|
●オープニング
寒風もいつの間にか暖かく緩んで春爛漫。
そこらかしこに花が芽吹き、色鮮やかな景色が目を楽しませる。
「こんな時に争うなど無粋の極み」
「粋な我らは風流を楽しむものよ」
「風流か‥‥。くくく、花より団子ではないのか?」
「「「はははは。その通りだ」」」
舞い散る桜吹雪の下で、三人の少年が高らかに笑う。胸を張る姿は美少年といっていいのだろうが、何故か姿は真っ裸。その隣では何故か一匹の狸(もちろん裸)が同じく胸を張って笑っている。
「そういう訳で、寺に届けられた団子と、道中家先に置かれていた餅や弁当の数々と、家の中で何やら大樽に入っていた酒を早速いただこう」
「持ってくる際に、『泥棒だー』とか『売り物に何するんだー』とか叫ばれていたが、そんなの我らには関係ねぇ」
「という訳で、ぽん左氏、敷物用意だ頼んだぞ。あ、この石邪魔だな」
一人が足元にあった巨大な石をてぃっと勢いよく蹴りつける。
周囲には似たような石が並んでいる。というか、等間隔に盛られた土の上に、石はきちんと配列されている。
人、その場所を墓地と呼ぶ。
周囲には満開の桜に色とりどりの花々、萌える緑の濃い匂いに混じり、かすかに腐臭も感じるような気がするが、そんなの彼らは気にしない。
三人は適当に場所を確保すると、そこに狸が自分の金たまを大っぴらに伸ばす。
ただの狸で無いのは仕草でも分かろう。広げた部分は異様に薄く大きく広がる。
敷物として整えた後、持ち寄った大量の飲食物をそこに置いて、少年達もいそいそと座る。
「しかし、かように見事な花を放っておくとは‥‥。人間どもはやはり阿呆。ってか、阿呆だろ」
「だが、そのおかげで静かに花見が出来るのだ。馬鹿万歳と言ってやろう」
「今年は、花見客に迷惑かけるなと言われたからな。言いつけを守るとはさすが我らだ」
はーはっはっはと高らかに笑う三人と一匹。
「では、私ことぽん酢が僭越ながら乾杯の音頭を取らせていただく」
「おう! 我らの前途を祝して!!」
「「「かんぱ〜〜い♪」」
並々と注がれる酒。喰い散らかされる食料。やがて始まる歌踊り。
そして、冒険者ギルドでは、一人の和尚が倒れこむように依頼を持ち込む。
「あの罰当たりどもを何とかしてくれぃ」
京の都には化け物が棲む。
何の因果か、とある寺に住み着いたのは四匹の化け狸。
人に化けるしか能が無い。内一匹はふとした弾みで体の一部というか一箇所限定を大きくする力に目覚めたりするが、代わりに人化け能力を忘れる辺りで程度が知れよう。
性格は一言で言えば馬鹿。二言だと阿呆、三言だとたわけをつけるといい。
花見に浮かれる彼らは、つまりはそういう奴らである。
●リプレイ本文
春麗。陽気に誘われ花開き、はらはら散り行く桜吹雪。
蒼天に閃くひとひらひとひら。短きその束の間に思いを寄せるのは、何も人間ばかりではない。
ただ、人の感性とはやや外れた場所で大いに騒がれるのはちと困る。
「春の陽気に誘われて、化け狸たちがお墓で狼藉。これは一見の価値有り、ですか?」
花見で騒ぐ化け狸四匹。
花に誘われ浮かれて騒ぐのは人間も同じ。それだけなら問題は無い。
ただ、彼らの花見会場が墓地であるのは‥‥周囲に迷惑かけずとも、非常識甚だしい。
いや、花見の道具は道すがら盗って来た辺り、十分周囲に迷惑かかっている。
そういった事情を興味深げに聞きながら、松藤屋さくら(ea9136)は書き記す準備に余念が無い。
「和尚が花見客に迷惑かけるなと言ったのが発端みたいだけど。去年も似たような事をやってたの?」
浮かんだ疑問に来迎寺咲耶(ec4808)が小首を傾げる。それに、ニキ・ラージャンヌ(ea1956)が首を横に振って答える。
「いえ、私の記憶が確かなら、花見客相手に騒いだのは一昨年の話どす。まぁ、例のもの広げて騒いだんは、後は温泉の女風呂ぐらいやったと思いやすけど、ただ騒ぐだけなら他にも月見とか正月とか節目に節目に」
「そ、そうなんだ‥‥。で、また今回って懲りてないなぁ。それとも反省はしたつもりなのかな」
「それは‥‥何とも言われまへんなぁ」
呆れる咲耶に、今度はニキが首を傾げる。
確かにその都度おとなしくはなるが、それが反省の証と思うには彼らの態度が屈託無さ過ぎる。
「何をどう思っていようと。人間をうつけ呼ばわりする大うつけ共の言葉だ。今後、そういった不相応な愚行を犯さぬよう完膚なきまでに徹底更生で猛省してもらわねば」
表面上は何事も無い態度で、その実、黒華月斎(ec4693)の言葉には、化け狸への憤りか棘がある。
「マヰスターのオスミツキ。思う存分ボコルアル♪ バチアタリポンポコ〜ズは、マヰスターに代わってオッシオキヨ〜♪」
そして、サントス・ティラナ(eb0764)は、独特な笑みを浮かべて楽しげにしている。
陽気な笑顔は、どことなく妖気な雰囲気も醸していた。
近付くほどに、ちゃかぽこと賑やかな音が聞こえてくる。
桜も確かに綺麗だが、地に目を向けた土饅頭の並びが心を自然と締め付ける。騒ごうという気が知れない。
「ややや、ぽんにゃん。人が来たぞ」
「ぽんわん、慌てるな。此度は花見で騒ぐと決めただろう」
「そうだぞ、ぽんちゅん。という訳で、我らは暴れぬから、そこの人間も適当に楽しむが良い〜〜♪♪」
素っ裸な少年三人、箸やざる持って踊れ歌えの大騒ぎ。褌一丁無い開けっぴろげなその格好に、女性陣は思わず目を背ける。
三人の傍には、一匹の狸。下半身から伸びて広がる大きな敷き革。
その上で三人が足を踏み鳴らし、物を叩く度に、何かうねうねと身を捩っている。
「本体と敷物部分を刃物で切り離そうかとも考えたが‥‥あれでは意味が無いな」
「オ〜、それはメ〜ンズには、とても恐ろしい仕置きアルネェ〜〜」
「喜んで効果無しか、急所に一撃必殺で効きすぎるかの一か八かどすなぁ」
視界内に妙な物が入らないよう、目を背ける月斎。ぽつりと漏らした呟きに、ニキとサントスが震え上がる。
「うーん、そういう荒事はあまり好きじゃないです。ここがどういう所か、キチンと話してどこかに移動してもらえないでしょうか」
さくらが、狸たちに歩み寄る。
「あのですね。ここは、お父さんやお母さん、ご先祖を祀る大事な場所なんです。そこに転がしてる墓石も故人その物を表しているんですね。だからお墓は神聖な場所で、みだりに騒いで汚してはいけないのです」
だから、他の場所に移ってくれませんか?
直視しないよう微妙に目線を外し、さくらが狸たちに訴える。
途端、阿呆な動きをしていた狸たちがぴたりと止まった。
「何‥‥、ここが墓地だったのか‥‥」
効果はあったのか、驚愕を露に化け狸たちがおののいている。
この分だと、すぐに退いてくれそうだとほっとしたのも束の間。
「前々から気になってたんだが‥‥。何で人間は死骸を土に埋めておくんだ?」
「そりゃ、あれだ。冬の餌が足りない時に掘り出して喰うんだ」
「ぽんめーは物知りだなぁ。にしても、人間とは何とも食いしん坊野郎だ」
「違います! 全然っ違いますっ!!」
頭をつけて真面目に話している内容に、さくらは拳を握り真っ赤な顔で即座に否定を入れる。
「何!? では、春になると土中の人間が芽吹いて新たな人間を生やす為というのか!!?」
「それも違いますけど、でもああもうこの際いっしょくたにそういう事もあるという事で!! いいですか? この場所を荒らせば幽霊に祟られたり、眠りを妨げるなと起き上がってきたり、それはそれは恐ろしい目に合ったりするんです! だから狸さんたちも、早くお墓を元に戻して丁重にお詫びしないと、とっても酷い目に遭ってしまいますよ!」
手をばたばたと動かして、必死に強調して喋るさくら。
その動きをじっと見ていた狸たち。やおらにふっと静かに笑うと、
「よく分からんが、さような脅しに乗らぬぞ、我ら!」
「なんか出てきて厄介というなら、先に我らで始末するだけ!!」
「そーれ、掘れ掘れ〜〜」
「やーめーてー下さ〜〜〜いっ!! そもそもの話聞いてくれてました??」
さすが狸と褒めるべきか。素早い動きで地面を掘り出す。
慌てて止めて埋めなおし、懸命に墓に謝罪する。
「人と妖怪では感覚に違いがあるかもと考えに入れてたけど。説明は本当に骨が折れそうね」
「個体差いうんも大きいどすえ。これは言うといておきまへんと、一緒くたにしたら他妖怪が可哀想で仕方あらしまへん」
頭を抱える咲耶に、ニキも深々と嘆息する。
動物から転じた化け妖怪たちは、多くも無いが少なくも無い。
例えば、悪名高き九尾の狐も、生きた年月や蓄えた妖力こそ雲泥ながら、基本は同系統の妖怪。他にも化け猫、化け犬、化け兎‥‥と様々いるが、それら全てのおつむが目の前の狸と同じだなどと考えられない。いや、他の化け狸にしてもこれは無いだろう。そう思いたい。
「はんはつふるには、ほもひろいはもへすけど。ひらいはどうしたものへしょう‥‥」
興奮して動き回りすぎたか。流れる鼻血をふき取りながらさくらは困惑至極に振り返る。
「そうだねぇ‥‥。人様に迷惑をかけないよう考えたその寛大さを、墓石の下で眠ってる人にも発揮してもらって、ここは一つ、場所を移してはもらえないかな。
追加の酒も出すし、こんなうつけな人間でよければ酌ぐらいはさせてもらうよ」
咲耶は荷物の中からどぶろくと取り出すと、狸たちに差し出す。
「うーむ。酒は存分に間に合ってるからなぁ」
「しかし、酌がしたいならば文句は言わぬ」
「ささ、よきに計らえ」
敷物の上で鎮座し、さあさあと手招く狸たち。
「‥‥だから、場所を移してってばさ」
動く気配全く無しの彼らに、握った拳を震わせる。
永久の安眠を守る為、自尊心を曲げて泥棒墓荒し妖怪に頭を下げた意味が無い。
「所詮は大うつけ。まともな交渉など出来るはずがない。幸いここは墓地だ。いっそ今死んで詫びろ。何、人間様と同じ土に還れるだけでもありがたいと思え」
月斎が冷たく睨む。
「そして、来年新たに新生素敵我らとして生え変われと?」
「素敵さ溢れる我らといえど、さすがにそんな力は持っていないぞ」
「そもそも、素敵さに満ち溢れた我らに生え変わる必要はなかろうに」
「生え変わらんでいいから、ただ生まれ!! じゃない、埋まれ!!」
眉間に皺寄せて考え込む狸たちに、容赦なく月斎の叱責が飛ぶ。
「ま、言って素直に聞くようやったら和尚もあれほど消耗しよりまへんて。やつらの耳が竹輪で万事筒抜け仕様が変わっとらへんのやったら、ちゃっちゃと済ませますえ」
お手上げ状態で、ニキが魔法を詠唱する。
「「「ふふふ、青いお空が悪いのさ〜」」」
「墓地で騒ぐんも縁起悪いよって、場所を移すとしましょ」
ディスカリッジで気持ちが沈んだ狸たちをあっさりと縄でぐるぐる巻きにして、一同、ひとまず墓場を後にする。
「ムーフーフ〜。ユリカゴから墓場まで、ナマモノ煮詰める仏罰戦士ボ〜ズゴ〜ルド・葉っぱ屋サンちゃん参上ネ〜! ボ〜ズマンじゃなくてもボ〜ズなミーをリスペクトするアル〜♪」
白い歯煌かせるサントスに、狸たちが俄然抗議。
「くっ、やはり我らの前に立つか、ボーズマン!」
「長年に渡る決着、今度こそつけてやる」
「そういう訳で、この縄を説く事を要求する!!」
「する訳無いだろう。おとなしくじっくりと入ってろ」
縄で縛られ巨大な鍋の中。不自由ながらも、不満を露らに鍋の縁を蹴りつける狸たちを、月斎が鞘ついたままの日本刀で叩いて大人しくさせる。
「必殺激甘辛料理人のボーズマンクローどす〜。せっかくお重を用意してきたんやけど、まだ食べ取りまへんなぁ。‥‥ぽんたち、食べます?」
「「「ふっ、我らに食わせたのが運の尽きよ」」」
「ちなみに、罰料理も幾つか混ぜたんやけど‥‥おや、当たりどすか?」
作ってきた料理を、大口開けてる狸たちに放り込む。
説明しよう! 彼のあまりにもはっきりした味覚基準で作られる料理は、当たりも外れももれなく必殺料理の域なのだ。
そして、遠慮無しに頬張った狸たちの顔色が赤くなったり蒼くなったり目まぐるしい。
「オ〜。最後の晩餐も無事済んだアルネ〜。それでは、マダムより怖〜いオ〜シ〜オ〜キ〜ア〜ル〜♪」
その様子に涙を拭ったサントスだが、一転、僧衣を脱ぎ捨て褌一丁の漢な格好に変わる。
「ミーは脱いでもマブスィのヨ〜♪ ゴリッパイチモツもシャイニングパワ〜でチ〜リチリネ〜♪ レッツ、サンレーザ〜ア〜ル♪」
両手にしっかりと握り締めた葱を振り回して魅惑の踊りを振舞えば、伸びた陽光が鍋に火をつける。
「「「あちちちちちゃちちちゃちゃ」」」
ぐらぐらと煮立つ鍋の中、四匹が縄で縛られたままで騒ぎ立てる。
「こういう時の援護って‥‥祝福のグッドラックをかけてあげる方がいいんでしょうか」
「「「ふざけるな! お前たちの祝福なんぞ我らの不運の敵ではない!!」」」
「じゃ、コアギュレイトでいいんですね?」
煮られながらも何故か胸を張る狸たちに、さくらがコアギュレイトで動きを縛る。
狸たちは鍋で固まり、ただ湯の沸く音が静かに辺りに響く。
「思ったんやけど、彼らのぽん某のぽんとは、すっぽんぽんの『ぽん』なんやろか」
「ミーはアカポンタ〜ンの『ぽん』を押すアル♪」
首を傾げるニキに、サントスは狸たちへと手を合わせる。
ぽんにもいろいろあるようだ。
茹で狸となった彼らは、生きてはいるが最早動く気力を無くし。回復する頃には、桜の季節は終わっている。
これにて依頼終了。せっかくなので花見にしゃれ込み‥‥の前に、墓地の墓を直して丁寧に手を合わせる。
花見酒も供えたが、後で話を聞いた和尚が申し訳なさから立て替えている。
「騒がしてごめんね。後はゆっくり休んでちょうだい」
咲耶の詫びに返事はなく。
ただ、桜だけが答えるように風に散って降り注いでいた。