闘え! ぼくらの巫女連者

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:2〜6lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 36 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月01日〜01月06日

リプレイ公開日:2005年01月10日

●オープニング

 遥か昔。その地は恐ろしき妖怪たちが吹き溜まる悪の地だった。
 凶悪無比な妖怪たちの横行により、人の心は乱れ、惑い、ただ苦しみだけがあった。
 しかし。絶望の日々は続かなかった!
 人々の嘆きを耳にして、悪の根幹を祓うべく、神は五人の乙女を使わした!!
 麗しき乙女達は各々の特殊な能力を使い、悪しき妖怪たちを次々と退散・退治せしめ、人々の心に愛と平和を取り戻したのだ。
 こうして世界は救われた。偉大なる乙女たちを人々は『巫女連者』と呼び、その功績を称えて使わした神と共に祀り崇める事にしたのだった‥‥。 

「というのが、うちの神社創設にまつわる口伝じゃ」
 うまそうに茶をすする神主に、ギルドの係員は、はぁ、とも、ほぉ、ともつかぬ曖昧な返事を返す。
「で、毎年、年始めにはこの伝説を風化させぬ為に皆の前で寸劇として披露するのじゃが‥‥。今年はちと困った事が起きての」
 予定の役者が都合悪くなったのだ。特訓の際、皆で食べた食事が当たったらしい。幸い症状は軽くすんだが、村医者の見立てでは当分は要安静らしくて激しい動きは無理との事。
「そう難しく無い劇じゃし、村の暇な者に代役を頼もうかとも考えたんじゃが。せっかくだし、ここは冒険者の方にしてもらおうかと」
 休止には出来ない。一応神事であるし、娯楽を求める村の期待もある。最近では話題を聞きつけ、ご近所の村からもやってくる。客層は老若男女、幅広い。
 何より、これをやるとやらないでは、賽銭に大幅な違いが出てしまうのだ!
「まぁ、賽銭はさておき。そういう事情なら、募集をかけてみましょう。」
 さらに詳しい話を、と尋ねる係員に、満足そうに神主は懐から書き付けを取り出す。
「これが巫女連者の配役表と演技の基本方針じゃ」

『巫女連者 主要登場人物一覧』
・赤の巫女・烈奴 :炎の巫女。何か炎っぽい事をしてみよう。火事厳禁。
・青の巫女・撫流雨:水の巫女。水っぽい事をしよう。ただし、子供も見ているので水商売系は後にする事。
・黄の巫女・家路 :土の巫女。大地っぽい事をしよう。植え木の手入れでも可。
・緑の巫女・倶鈴 :風の巫女。風っぽい事をしよう。ただし、風邪をひいたと云うオチは却下。
・白の巫女・補歪斗:癒しの巫女。癒しっぽい事をしてみよう。なお、去年の補歪斗役が爆乳伝説を作ったので、男たちの注目高し。
・黒の巫女・武楽 :破壊の巫女。破壊っぽくはいいが、壊す物は選ぶように。物によっては弁償してもらう。
・土地神  :性別不明。窮地に神々しく現われ、助言だけして去っていく。戦闘不可。
・おさる  :可愛い猿。台詞は「ウキー」とか「ウッキッキ」とか。ルール無用で問答無用。
・悪役妖怪 :悪役。悪い事して最後はやっつけられる。

「‥‥色々突っ込みたいが、とりあえず、質問その壱。主要人物が九名いるようだが、募集は八名でいいのか?」
 書付に目を通した係員。その目が何となく細くなる。困ったように額を書いた後、肩を落として依頼人を見る。
「うむ。実は悪役妖怪については是非やって欲しい御仁がいるのじゃ。こないだ家の裏で拾った異国の御仁じゃが、何と、猫に化ける事が出来るんじゃ!」
「え、えと?」
 確かに姿を変える魔法はあるが、それだろうか? 
 首を傾げる係員に気付く様子も無く、神主はしきりに頷く。 
「ほんに異国者は見事な芸を使うのぉ。あれを劇で使えば、うける事間違い無しじゃ!! まだ話しはしとらんが、蕎麦に御節に雑煮に屠蘇としこたま奢ったんじゃ。嫌とは言わせん!!」
 それでいいのだろうか。いや、依頼主がいいと言ってるのだからいいのだろう。構わず、係員は話を続ける事にした。 
「‥‥質問その弐。巫女が六人いるようですが?」
「確かに伝説は五人なのだが、六人でやるのが通例なんじゃ。六人目の話は失伝したのか、あるいは舞台用に手が加えられたか」
 すでに口伝歪んどりますがな。そう思った係員だが、やはり神主が気にして無いようなのでとりあえず頷いておく。
「次に。何故、猿が?」
「巫女連者たちを支援していた猿じゃ。戦う乙女たちを時に励まし、時に叱り、共に戦い、最後の戦いでは倒れた乙女たちに代わり、この地を仕切っていた悪妖怪の頭領にトドメを刺したと云う」
「‥‥どう考えてもそっちが英雄じゃないですか」
「猿より乙女らの方が民衆の心をぐっと掴めるじゃろうが!!」
「なるほど!」
 力説する神主に、係員、大いに納得。
「それで。詳しい話の流れについては?」
「うむ。舞台と云う物には魔物が潜んでおり、何が起こるか分からん。それが故に常に神経を張り巡らせる事で、自然、神託を承り、その神の導きにより‥‥」
「無いんですね。行き当たりばったりでいいんですね。悪役が悪い事して、巫女連者がそれと戦って、やられそうになったら土地神の助言で一発逆転、猿がトドメをさせれば良しなのですね」
「別に猿がトドメで無くても構わん。うちで祀ってるのは巫女連者なのだし、乙女らにがんばってもらっても。なんなら、五人の乙女と土地神と悪役妖怪。これは外せぬが、乙女の一人と猿役はどうしてもと云うならいなくてもよいかのう。これ以下はダメじゃし、無論人数が来るなら全役ついてもらうがの」
「あー、はいはい」
 告知用の注意事項として、あっさりさらさらと係員は書き付ける。募集の内容を大雑把にまとめて一つ頷いてから、念の為にと、係員は神主に告げる。
「では、一応募集してみます。けれど、なるべく女性の冒険者に来ていただくようお願いはしますが、必ず期待に添うとは限りませんから。もしかすると男性ばかりになる事もありえますので‥‥」
「? 何故、女性である必要があるんじゃい?」
 きょとんと聞き返す神主に、逆に同じ表情で係員が聞き返す。
「え、だって。乙女で巫女でって‥‥?」
「気にせん、気にせん。何年か前など出演者全員が身の丈七尺近い筋骨隆々の巨漢じゃった。あの時の事は、またそれで素晴らしい伝説として残っておる」
 瞼を閉じ、感慨深げに告げる神主。一体、どんな伝説があるのやら‥‥。
「そうそう。衣装などはこちらで用意しておくから安心するように。巫女連者はそれぞれの色を生かした巫女装束。動きやすいように裾丈は短くしてあるぞ♪ おさるはまるごと全身おサルじゃ。そして、土地神は豪華じゃぞ。絹の衣に金銀細工の冠をかぶるんじゃぞい。毎年この冠を狙って何人もの賊が乱入してくるんじゃ」
「‥‥こらマテ。」
 ジト目で係員が睨むも、相変わらず神主は自分の世界に浸っている。
「そんな訳で武器は自由。防具も衣装の上に鎧を装備するなり、下に着込むなり自由じゃ」
 ちなみに演技用の巫女装束は一般服と同じ。別に耐久性に優れてたりはしないらしい。
「なぁに、観客は何が起きても演技と思うじゃろ。た・だ・し。貴重な土地神の冠が盗まれたり壊したりしたら許さんからな!」
 じろり、と真剣に睨みつけてくる神主に、係員はため息一つ、天を見上げた。

●今回の参加者

 ea2838 不知火 八雲(32歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea3741 レオーネ・アズリアエル(37歳・♀・侍・人間・エジプト)
 ea4183 空漸司 影華(31歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea5164 大曽根 浅葱(28歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea5989 シャクティ・シッダールタ(29歳・♀・僧侶・ジャイアント・インドゥーラ国)
 ea6967 香 辰沙(29歳・♀・僧侶・エルフ・華仙教大国)
 ea7055 小都 葵(26歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea8896 鈴 苺華(24歳・♀・志士・シフール・華仙教大国)

●リプレイ本文

『S・G・M、Special・Guard・Miko‐ranger。それは燃える心と華麗な技で、闇に蠢く者たち――有得無邪(ありえないじゃ)を討つ、五人のうら若き乙女たちの事である!』
 〜調伏戦隊・巫女連者オープニングより〜

「村人、外国語知らんじゃろし、調伏は仏の言葉じゃけど‥‥。ま、えっか」
 戯れとシャクティ・シッダールタ(ea5989)はのたまったが、神主結構気に入った様子。
 神社にて、新年恒例らしい伝承の寸劇をする事になった冒険者たち。人数もそろい、配役も決まり、事前に練習を‥‥、と順調に進んでいる。
 これで残る憂い事は一つ。
「やだね」
 神主が家の裏で拾ったという異国の青年は、交渉一発、即答即否定に終わった。
「食い逃げは‥‥あかんのと違いますか?」
 本番前から全身おさるの衣装の香辰沙(ea6967)が告げる。途端、ぎろりと睨まれて、辰沙は半歩身を引いた。
「人が倒れてる時に、家に招いて食事まで出してくれたら善意と思うだろうが。いろいろ世話した後で要求を出す方が酷いんじゃねぇの?」
 青年が神主を睨む。さっと目を反らす辺り、神主にも自覚が無い訳ではないらしい。
「そんな事言わずに‥‥助けてくれませんか?」
 小都葵(ea7055)が胸の前で手を組み、すがるような目で青年を見る。
「今回、知り合いが猫さんしかいないんです。私、初対面の方や多くの人前に出る事は苦手でして、本当は如何したらばと‥‥。近くにいて下さるだけでも構いません。それで安心できますので、どうか、一緒に劇に出て下さい〜〜」
 緊張と不安で青冷めた顔をしていた葵だが、最後は気も緩み、泣きそうな顔で青年にすがりつく。青年は引き攣った顔で葵を見たが、何かを振り払うように頭を振ると、顔を背ける。
「いーや。傍にいるだけなら舞台袖からでも客席からでも見守っといてやるよ。だがな、何と言われようとやる気なんざねぇ。大体、芝居なんてガラじゃないんだ。そこいらのやりたい奴らでやれば‥‥」
「逃げるのか? ‥‥これだから弱い奴は困る」
 踵を返しとっとと去ろうとした青年に、空漸司影華(ea4183)がふっと鼻で笑う。
「もしかして、ボクの事が恐いのかな? ま、しょうがないよね。どう見たって、キミより僕の方が強そうだしねー♪」
 冷たい目で見つめる影華の隣では、鈴苺華(ea8896)も得意そうににっこりと笑っている。
「んな訳無いだろ」
 言葉は冷静ながらも、青年のこめかみがひくついている。当人隠してるつもりようだが、結構、頭に来ているのは明白だった。
 それを見て取った後で、おもむろに不知火八雲(ea2838)は口を開く。
「少し珍しい芸が使える。その程度で天狗になってるんだろう。観客の視線に臆し台詞を忘れ、一歩も動けず泣くのが目に浮かぶ。無理に誘う必要も無い。彼に恥をかかさなくてもいいと思うが?」
「んだとぉ‥‥」
 青年が睨みつけてきたが、八雲はそれを軽く受け流す。
「違うというなら行動で証明してはどうだ? まぁ、そんな度胸があるようには見えないがね」
「猫さぁん」
 葵がすがるような目で見続ける。八雲と葵とを嫌そうな目で見た後に、青年がヤケ気味に叫ぶ。
「あー。分かったよ! そこまで言われりゃやってやろうじゃねぇか!!」
「そうですか。それはよかったです。一応代役も考えてましたが、やはり役を完璧にしておきたいですしね。これで心置きなく練習に励めますね」
 途端に、シャクティが顔をほころばせると、巫女役の冒険者を集める。
「名乗りの場面は、舞台の見せ場。息があうまで特訓ですよぉ♪」
 喜び勇んで指導するシャクティに、他の面々も気合が入る。その稽古を見ながら、複雑そうな青年。
「‥‥もしかして、乗せられた?」
 何を今更。そう思いはしても、実際に返す者はいなかった。

 観客席は満員御礼。地面に筵を直引き、焚き火で暖をとっても北風はなお冷たく、乾いた空気は埃を巻き上げる。
 だが、そんな事などお構い無しに、客は舞台に集中している。年に一度の娯楽とあれば、見逃してはならぬと、そこらの木によじ登って見ている者すらいる。
 客の層はそれこそ様々。舞台の上ではすでに青年が端役の黒子相手に悪役ぶりを披露していた。神主の希望通りに、人の姿から人型の山猫の姿に変わり、大いに客を沸かせる。子供が恐々と見つめ、大人は笑って眺めていた。
「あれ、ミミクリーですやろかね。詠唱もしとらんかったようやけど‥‥」
 舞台袖で見つめる辰沙が首を捻るも、答えを出す者はとりあえず無し。葵は気を静めようと、自分で一杯一杯だった。
「にしても、男性多いですね‥‥。去年の白巫女様は爆乳伝説を作られたとかですし‥‥」
 顔を真っ赤にしながら、大曽根浅葱(ea5164)はことさら胸のさらしをきつく巻きつける。以前、ぽろりとやった事があるようで、それを警戒している。神主曰く「勿体無い」。
「そろそろ出番かしらね。その前に最後の仕上げ、と」
 いそいそと道具を用意すると、レオーネ・アズリアエル(ea3741)が皆の化粧を整える。
 土地神役の八雲は、衣装の冠と共に出番までどこかに潜んでいる。忍者である彼に潜まれてはそこいらの賊では太刀打ちできまい。毎年、土地神の冠を狙って賊が押し入るというが、今は無事な事間違いない。
「はっはっは〜。我が前に敵無し! この俺を倒せる者がいるならば、是非見てみたいものだな!」
 舞台上では悪役青年が口上と共に高笑い。‥‥嫌がってた割にノリノリである。
「さて出番だね! 頑張っていくとしよう!!」
 陽気に苺華が告げると、残る六名もまた舞台へと飛び出した。

 芝居の流れでは、悪役が暴れて巫女連者が登場。奮戦むなしく倒れ付した時に彼らを守護する土地神が登場となる。
「うっきー。うきゃきゃ」
 おさるとして巫女連者を励ましながらも、辰沙は賊を警戒して周囲に目を走らせる。
 そして、土地神登場。扇で顔を隠し、声色もなるべく女声に似せて、性別不明の神を演じる。豪奢な絹衣装を纏い冠を頂いて、八雲は舞台の前へと進み出て、語りかけようとしたが。
   スターーーン!!
 風を切る音と共に、頬を掠め矢が後ろの壁に刺さる。それに驚く間も無く、次々と客席側から矢が降り注いでくる。三名の射手が、見物客を装って人手に紛れていた。
 悲鳴を上げて慌てて身を伏せる客たち。逃げ帰ろうとする者がいないのはさすがというか、何というか。
 冒険者たちも動きようが無く、急所を庇ってやり過ごす。どうやら舞台に向けて適当に撃っているらしく、狙いは定まらずこちらには当たらない。であるだけに、下手に動いてつまらぬ怪我を負いたくは無い。
「てめぇら危ねぇだろが!」
 そんな中で、一人、猫化けした青年だけが矢も構わずに客席へと飛び出す。射手が驚き騒ぐのと、肝心の矢が尽きたようで、ようやく矢が止む。
 同時に、舞台袖から黒子たちが飛び出してくる。事前に打ち合わせた予定では彼らの出番など無い。予想外の襲撃に心配して、と考えても、平民が冒険者を心配するなどありえない。あからさまに怪しい登場。それもそのはず、巫女たちには目もくれず黒子たちはただ土地神・八雲の元へと駆け寄り、その手を伸ばす。
「させるか!!」
 襲撃に注意が観客側に向いていたものの、寸での所で八雲はひらりと躱す。黒子たちを次々と躱して距離を置く。その開いた距離の中に巫女連者たちが割り込んだ。
「とうとう現われたな、悪の手先め!!」
 びしっと影華が黒子たちを指差すと、あからさまに彼らが怯む。
「姿で判断する無かれ。我が胸中にて静かに燃ゆる炎なり! 灼熱の赤炎、赤の巫女・烈奴、見参!! ‥‥と、こんな感じでいいのでしょうか?」
「大丈夫です。だから、ちゃんと胸張って!」
 宣誓するも、どこか心もとなげに小声で問いかけてくる葵に、やはり小声でシャクティが小声で返す。
「激流の青破、青の巫女・撫流雨!」
 観客たちの観察してくる目線に恐々としながらも、レオーネが続けて名乗る。
「大地の力をこの身に受けて、金剛の黄土、黄の巫女・家路ですわっ!!」
 意気揚々とシャクティが叫ぶ。
「天かける風にして密林の緑光、緑の巫女・倶鈴!」
 くるりと宙で翻りながら苺華もまた客の視線を受ける。
「慈愛の白翼、白の巫女・補歪斗」
 浅葱がゆったりと優雅に告げる。
「‥‥黒き破壊を司る。漆黒の闇牙、黒の巫女・武楽」
 告げながらも日本刀を構える影華。
「「「「「調伏戦隊、巫女連者!!!」」」」」
「うきゃ♪」
 全員揃って、決めの格好を取る。と同時に、背後でそれぞれの色を乗せた噴煙が上がり、轟音が轟く。
 魔法無しに爆発を作るのは結構大変なのだが、黒子(乱入者じゃない正規の奴ら)たち、頑張った模様。そのかいあってか客からの多大な拍手が送られる。
「ふふふふ。こうなっちゃ仕方ねぇ。力づくで奪うまでよ!!」
 黒子の覆面を脱ぎ捨て、冒険者――否、巫女連者たちと対峙する賊たち。どこか芝居がかって聞こえるのは、彼らも場に飲まれているのかもしれない。 
「どんな夜にも必ず終わりは来る。闇が解け、朝が世界に満ちるもの、人、それを『黎明』という! 私は‥‥絶対諦めない‥‥! 人々に光と安らぎを取り戻す為、私達は負けたりしない!」
 撫流雨・シレーネが力強く告げたが。
「お待ちなさい、乙女たちよ」
 戦いを止めたのは土地神。と、土地神は大ガマの背に乗ってのそりと舞台に出てくるではないか。
「乙女たちよ。どうか、彼を忌まわしき呪いから救って下さい。彼は、冠よりも、命よりも大切な最愛の人。彼が心を取り戻せば、必ずや強い味方となってくれるでしょう」
 ガマの背に乗ったまま、涙ながらに訴える土地神。賊は土地神にというより、自分たちの倍ほどもある大ガマに度肝を抜かれている。
 そして、土地神に指差された青年は射手の一人をぼこぼこに踏みつけていた。しばしきょとんとしていたが、ようやく芝居中と思い出したらしい。
「そうでしたの。彼は騙されていたのですね!」
「ふふふ、まんまとかかったな。巫女連者たちよ」
 大仰に告げる家路・シャクティに、含んだ声が告げる。声の主はおさる・辰沙。
 本来喋る予定のないおさるの台詞に客たちがざわめいたが、何か行動を起こされる前に辰沙はおさるの衣装を脱ぎ捨てる。
「おさるとは仮の姿。真の黒幕はこのうちや! ‥‥さぁ、下僕たちよ! 土地神の冠を奪うんや!!」
「おおさっ! ‥‥って、指図するんじゃねぇ!」
 おっとりした口調ながらも邪笑浮かべて辰沙が指示すると、下僕・賊たちが呼応して声を荒げる。
 一斉に隠し持っていた刀を抜く賊たち。が、喋ってる間に土地神はさっさとどこかに消えていた。戸惑っている間に、倶鈴・苺華が飛び出る。
「緑って今一目立たない役だよね〜。でも、ボクがその伝統を覆してあげるよ! この劇ではボクが一番目立っちゃえ‥‥今、そんなちっちゃい体じゃ目立つのは無理って言ったの誰だ〜!」
 ひらりひらりと賊の間を飛んですり抜けながら、隙を見て賊の急所を狙って攻撃する苺華。だが、飛んだ野次に講義するのは忘れない。
 怒る苺華を見て客はけらけらと笑う。舞台の上では巫女連者対賊の戦闘が本当に繰り広げられているのだが、実にのんきな風景。
「喰らいなさい! 夢幻水泡!!」
 言って隠し持った筒からシャボン玉を作るレオーネ。舞台に生み出される泡に客は歓声を上げる。その声を聞きながらレオーネはアビュダの剣技を披露。
 ちなみに、シャボン玉。石鹸を使わずとも木の実などからでも作り出す事が出来る。なので珍しいものではあるが、目新しいとも言えない。
 ついでに舞台は木の床である。土に比べると吸収も悪い。なもんだから。
「きゃああ!!」
 鬼神ノ小柄で自衛していた葵が、泡で濡れた床に足を滑らせ見事に転倒。仰向けに倒れた所へ、折り悪くやはり滑った賊が倒れて重なる。さらなる大絶叫を上げて葵は賊を蹴り上げた。
「い、今の見て無いですよね??」
 蹴りあげて捲くれた袴を葵は慌てて直すも、
「太ももが少し‥‥」
「忘れて下さい〜〜〜〜〜!!」
 舞台真ん前にいた男衆が鼻血を出すのを、泣いて見つめる。
 動きやすいように舞台衣装の巫女装束は裾丈が短くしてあるという。実際、自前で着込んできた浅葱の巫女装束と比べるとあからさまに足は出るし、胸の辺りの露出も多い。
 シャクティなど着崩れをしきりに気にしているが、案外、それを狙った衣装かと疑いたくもなる。
 浅葱は優雅に敵の動きを見切り、かかってきた所を反撃している。
(「踊るように、と心がけるとやはり動きづらくなりますね。普段の型通りに行くべきでしょうか」)
 浅葱の霞刀を振るう手は淀み無いが、演技しながら戦闘せねばならない。胸も少々気にせねばならない。結構大変だった。
「喰らえ‥‥我が必殺の輝衝斬!!」
 影華が助走を付けて突撃、日本刀が床をえぐり粉砕する。その威力に、賊たちの顔が露骨に引き攣った。
「えぇい、こいつらに構うな。狙いは冠だ!」
 一人が叫ぶとその行方を探す。
 冠は八雲と共に、高い屋根の上。そうと見て取ると、壁に刺さった矢を抜き、弓に番える。が、放つ前に、冠を黒鷲が奪い取り、更なる高みへと飛翔する。辰沙のミミクリーである。
「うぉら、マテェい。降りてこ〜い」
「みすみす渡しに降りてくる訳無いよね」
 両手振り回して叫ぶ賊に、苺華が一撃を入れて気絶させた。

 賊の討伐はさほどの時間はかからなかった。最後の一人は辰沙がブラックホーリーで吹き飛ばし、黒幕というのも実は悪を偽る姿であった事を明かしておさるに戻った。
 最初の悪役である猫化け青年は土地神との愛を取り戻し、客の拍手喝采で幕。
 賊は役所に届ける為に縛り上げ、冠も無事に護られた。
「猫さん、お疲れ様です。お茶をどうぞ。それとこちらは報酬として‥‥」
「ああ、ありがとうよ」
 まだ顔を赤くしたままの葵だが、皆にリカバーを駆け回った後、荷からマタタビを取り出すと青年に手渡す。
「協力してくれてありがとう。舞台前は悪かったな」
 八雲が礼を述べると、気にするな、とただ手を動かして答える。
「お疲れ様でした〜。お雑煮作りましたから、皆様どうぞ」
 竈を借りて浅葱が作った雑煮を運んでくる。暖かに湯気がたち、立ち込めるおいしそうな香りに一同顔をほころばせる。
「うむ。この後の仕事の為にも、精をつけるのは大切じゃからな」
 雑煮を手にする冒険者らを見ながら神主が告げるも、言われた方は分からず首を傾げる。
 それが分かったのだろう。無言の笑顔で神主は一点を指差す。
 そこには、戦闘で荒れた舞台が寒風の中にただあった。