【糾える縄】 蚊帳の外

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:7 G 30 C

参加人数:4人

サポート参加人数:1人

冒険期間:05月03日〜05月08日

リプレイ公開日:2008年05月11日

●オープニング

 延暦寺によるジーザス教の排斥は、今も続いている。
 大儀名分としては、神を語って人心を惑わせ都を騒がす不穏な問題集団の取締り。その為、揉め事に関与せず身元確かな者は対象外としている。
 もっとも、ほんの僅かでも該当しないなら容赦無い、非常に厳しい姿勢をとっていた。
 弾圧されて不服を感じない者は無い。
 追及の手を免れた外国商人やジーザス信仰の武家、外国人冒険者などがひそかにジーザス教を支援していたが、一国に等しい権と財を誇る延暦寺に早々敵うものでない。
 兵を入れて騒ぐ延暦寺と対抗して暴れるジーザス教に都も頭を痛めるが、対処に当たるはずの貴族たちが謎の妖霊に襲われるという事件が起き、すっかり及び腰に。
 かくて、僧たちの動きは止まる事無く、関係施設は潰され、隠れていた信者や神父たちは、延暦寺に協力するようになった元信者たちの話から居所を暴かれ追い立てられていった。

 そうした最中で、ついに死体が転がる。
 亡くなったのはジーザス教の神父や信者たち。
 目撃者の話では、隠れていた所に乗り込んだ僧兵の仕業だという。端から標的を決めていたように、圧倒的な強さで神父に詰め寄るとあっという間に叩き伏せた。立ち塞がる信者たちも同様に。
 そうした事件が幾つもあちこちで起きていた。
「もっとも、延暦寺では殺生などしていないという話だがな」
 京都見廻組の詰所にて。渡辺綱が腕を組んだまま、どこか不服げに告げる。
「襲った僧兵の照会を延暦寺に頼みましたが、該当する者はいないとの答えでした。当たり前と言えば当たり前ですが」
「そりゃまぁ、肉食妻帯禁止を謳う総本山が露骨な殺生してるなんてまずいだろう。この混乱に乗じた犯人の扮装だっていうなら、嘘言っちゃいねぇ訳だし。匿ってるなら、素直に話すはずはねぇし」
 綱と同じくどこか憤りを見せる碓井貞光に、怒ってはないが呆れている占部季武。
「てぇへんだ、てぇへんだ、てぇへんだーーーーっ!!」
 そこに、坂田金時が彼方から走りこんでくる。
 荒げる息を整える間も無く、詰所の戸をがらりと開けて飛び込むと、綱が何気に出した足に引っかかって勢いのままに部屋の奥まで転がる。
「五月蝿いぞ」
「だからっていきなりこかすとは何事!? って今はそんな事より大変なんだってばさっ!!」
 奇妙な姿勢からがばりと身を起こすと、身振りも大げさに金時は声を荒げる。
「延暦寺から僧兵たちが大挙して都にやって来てるんだよ! 装備もこれまでと違ってはっきりと武装してる! んでもって、都内のとある宿屋では今後の対策を取ろうとしてるとか何とかで隠れていたジーザス教の神父や信者が集まっててやっぱりそこが狙いってな話で‥‥って、なんでそんなに冷静なのさね?」
 口から唾を飛ばして説明するも、三人の反応は冷めたもの。
「お前外回りに出てたからまだ聞いてないんだろう。その騒ぎに手を出すなと上からのお達しが来てんの」
「う、上って??」
「上は上です」
 ぼそりと告げる季武に、貞光が棘だった言葉を吐き出す。
「恐らくは天台座主自らが根回しされたのだろう。どこの組織にも命が下って、冒険者ギルドにすら声がかかっているらしい。
 無視して動いても処罰はされまいが、組織の人間としては立場を敢えて悪くする訳にも行かんのが面倒だな」
 小さく綱が舌を鳴らす。
 ただでさえ新撰組に押されて、京都見廻組の勢いは弱い。これで上から睨まれたら、有名無実の内職組織に追いやられかねない。
「しかし、武装蜂起とは穏やかでねぇな。殺された神父たちはこの前哨戦だったって訳か」
「にしては、そちらの事件に関与不許可は出てませんけどね。事情があるのか、それとも‥‥?」
 首を傾げる季武に貞光。それを横目で見ていた綱だが、小さく息を吐くと刀を手にする。
「どちらに?」
「騒動に関与するなと言われたが、周囲の混乱は免れまい。そちらの収拾を図るついでに事態を見るぐらいは許されるだろう」
 動き出した綱を見て、二人もまた頷く。
「この騒動に参加してない僧や信者もおりますね。各地の見回り強化ついでに、神父たちの殺害について調べてもいいでしょう」
「うだうだ考えるだけってのは性にあわねぇ。妖霊による呪詛とやらも誰の仕業かまだよく分かっちゃねぇんだ」
 支度を整えると、騒がしくなってきた京の都に飛び出していく。
「え、皆行っちゃうの? おいらは何すりゃいい訳??」
 三人の姿を見送りながら、帰ったばかりの金時はうろたえる。
 ひとまず自分の出来る事を考えようと、手近な杯に水汲んで喉を潤すと、とりあえず冒険者ギルドに顔を出してみようとのんびり歩き出した。

●今回の参加者

 ea0629 天城 烈閃(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3075 クリムゾン・コスタクルス(27歳・♀・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea6354 小坂部 太吾(41歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea9502 白翼寺 涼哉(39歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)

●サポート参加者

サントス・ティラナ(eb0764

●リプレイ本文

 都の様子は普段通りだが、どこか不穏な空気が漂う。
 市民にこれから起こる騒動は告げられてはいないはずだが、何かしらの気配がするのだろう。道行く人も落ちつかなげに見える。
 都をうろつく延暦寺の僧兵たち。もはや珍しくも無い光景ながら、彼らの態度がいつもより険しいのがその原因だろう。
 ジーザス教への襲撃。それも珍しい光景では無くなったが、今回はいつもと少し違う。わざわざ事前に都の警備組織に手を出すなと釘を刺してきたのだ。
「こんな根回しなどせずとも、延暦寺の邪魔をしたがる組織などあるのか? わざわざ前に通達するなど、まるで自分から野次馬に来いと言わんばかり。注意を集めたい理由でもあるのか」
 浮かぶ疑問から、天城烈閃(ea0629)は僧兵たちの動きを見張る。
 通達が却って気を引き、京都見廻組以外の組織もまた野次馬や警邏目的を装って延暦寺に注視している。が、そちらを気に留める素振りは見せない。
 彼らの目的はただ宿の襲撃。そしてその成功。
 予想に反してなにやら別の動きを進める気配も無く。宿とは別方向に向かう僧兵たちもいたが、それは他の場所のジーザス教徒たちを探しに見回っているだけのようだ。
(「一体、何があるっていうんだ!?」)
 憚りを承知で告げてきたのは、それよりもなお邪魔に入られたくない。ただそれだけのようだ。
 僧兵たちの緊張は、まるで戦を仕掛けんが如く。
 彼らを見守る野次馬に紛れ込みながら、素知らぬふりで烈閃もまた動きを見守っていた。


「悪いけど、今日は他を当たってくれないか」
「そうするよ、手間かけさせて悪かったね」
 延暦寺の僧兵たちが乗り込むという宿屋に先んじて、客として訪れたクリムゾン・コスタクルス(ea3075)。
 だが、主人から断られてしまう。
 間も無く僧兵たちが動くだろうし、ごねて無理に泊まろうとしても不審がられるだけ。長々と交渉しても仕方が無い。
 それに。
(「ヴォーラスの指輪が熱い‥‥。参ったね、これは」)
 危険を感知する魔法の指輪は、白翼寺涼哉(ea9502)から借りた物。
 一見単なる宿屋でしかないのに、嫌な予感がそこはかとなく漂う。
 裏に回ろうとして、その想いが更に強まる。それとなく外への見張りが配置され、中々中を窺がわせてもらえない。
 宿にいるのはジーザス教の神父や信徒たちであるのなら、延暦寺を警戒しての事と考えればおかしくは無い。しかし、僧兵の動きに気付いた様子は無いのに、この殺気だった気配はどういう事か。
 おかげでどうにか苦労して忍び込んだのに、幾らもしない内に外が騒がしくなる。
「レオ神父!! 延暦寺の僧兵たちが!! ぎゃあ!!」
 聞こえた叫びは、先ほど話した主人に相違無い。短い悲鳴の後その声は消え、代わりに荒々しい足音が辺りに響く。
「二階奥に奴の反応があります!! 数は一体!!」
「よし! 流血は避けたいが、歯向かうなら堕落した者たちも調伏して構わぬ!! 伏兵には気をつけろ。デティクトライフフォースに反応は!」
 戸口から聞こえる声は、僧兵たちか。
「神に手をかけようとは、不埒者が!!」
「愚か者には死あるのみ!!」
 ならば、中から飛び出してきた声はジーザス信徒たちなのだろう。
 裏口からも人の気配が押し寄せ、そして、金気の打ち合う音や怒号に破壊音があっという間に宿内に広がる。
 大量の水がばら撒かれるような音に、鉄錆びた濃厚な臭いも重なる。
 今までもジーザス教との競り合いはあったが、それとは比べ物にならない程、本格的な戦闘が起きているようだ。
(「って、ちょっと待て。それやばいじゃん!!」)
 邪魔にならぬよう、身を隠したクリムゾンだが、聞こえた言葉に大いに焦る。
 延暦寺直々の通達を無視して動けばいろいろと問題が起きかねない。
 介入出来ないもどかしさが募れども、ここは息を潜めて事をただ見届ける‥‥つもりだったが。
 聞こえたデティクトライフフォースは生命探査の魔法。彼女は元気に生きている。
「隠れても無駄だ!!」
「うわっと!」
 気合一閃。隠れていた場所が、薙刀の一振りで取り除かれる。目前には、その薙刀を構える僧兵たちが。
「いや、違うんだ!! あたいはただ」
「問答無用! 言い訳は御仏の前で聞こう!!」
 慌てて弁明しようとするクリムゾンだが、相手の攻撃はそれより早い。
「うっ!!」
 見事な体捌きで繰り出される武器は躱していたが、その動きが突如止まる。コアギュレイトをかけられてしまった。
 解こうにも、一度かかればその術は無い。
 自力で動けなくなったクリムゾンは脅威無しと判じ、僧兵たちはすでに別の相手を取り押さえにかかっている。
 が。そこへ、別の僧兵が声を上げる。
「奴の気配が消えました!! 代わりにたくさんの何かが近付いて‥‥うわあああ!!」
 最後は絶叫になったが、理由はすぐに知れた。
 地面の中から、あるいは空の高みから。鬼と土蜘蛛の死霊たちが姿を現す。
(「何が! 一体、どうなってんだ!!」)
 宿に溢れ返った霊たちに、クリムゾンが目を瞠る。動けぬ身がひたすらもどかしい。
「消失‥‥転移か? よもやそれほどの相手だったとは‥‥」
 口惜しそうに僧兵が告げるも、すぐに気を取り直す。
「一人は娘を寺に運べ! 後の者はこれを片付けるぞ!! 邪教徒の動きにも気をつけろ! 逃がすな!!」
 口早な指示の元、一人の僧兵がクリムゾンを抱えて走り出す。
 冷たい牙を剥き、爪を閃かせる妖霊たちに、詠唱を響かせる僧兵たち。その只中を、ジーザス教徒たちが僧兵や妖霊たちをあしらいながら逃げようとしていた。


(「どうやら、終わったようだな」)
 宿の周囲では、野次馬に混じって白翼寺涼哉(ea9502)が事を見届けていた。
 僧兵たちの突入で始まった騒動は、決着まで長かったようで短かった。
 野次馬整理に僧兵たちが宿を囲んでおり、外からでは中の出来事はあまり良く分からない。
 それでも、響いてくる物々しい音が中の戦闘の凄まじさを語る。
 加えて、妖霊たちの出現。
 それは野次馬たちにも確認でき、おかげで一時現場は混乱した。
 その混乱に乗じて、ジーザス教たちは宿から逃げ去り、妖霊たちもすぐにその姿をまた眩ませた。
 騒ぎで、野次馬たちにも怪我人が出たが、それは驚いて逃げようとした際に転んだとかの事故のようなもの。
 多くの僧兵が逃げた信徒たちの後を追ったが、現場に残った僧兵たちがリカバーをかけてまわる。
 サントス・ティラナに頼んで避難できそうな寺を確保してもらっている。けれども、そこに運び込むほど酷いモノではなかった。ひとまずそちらはお手並み拝見でもいいと踏んだ。
 被害が大きいのはやはり激突した内部だろう。
「そこをどけ! 急ぎ寺に運び込むのだ」
「いや、どなたかに来ていただいた方がいい。あまり動かすな!」
 捕らえられた一部の信徒たちが運び出される中、戸板などに寝かされ、血塗れの僧兵や信者もまた担ぎ出される。
 今いる彼らの手には余るのか、流れる血が地を濡らし続ける。
 朱が零れるその惨状は、そこに仏がいるのか疑わしくなる程。
「此度、かような騒動を起こして皆の心を騒がせて申し訳ない。だが、全ては世の平安の為。仏の慈悲は間違いなく皆をお守りくださる」
 集まり騒ぐ野次馬たちに、神妙な顔で告げる僧兵たち。
 それをありがたがって拝む者、猜疑の目で見る者、特に何とも思ってない者。周囲の目は様々だ。
(「中での詳しい事は後でクリムゾンが教えてくれるだろうが‥‥。無事に運び出されたはいいが、帰って来れるのか?」)
 妖霊たちが出現した辺りで、彼女が僧兵によって外に連れ出されるのは見た。
 が、ジーザス教の仲間と思われたか、そのまま延暦寺まで連れて行かれる。
 冒険者ギルドに照会すれば身元はどうにかなるので、無体な目には会わないだろうが心配は心配だ。


 小坂部太吾(ea6354)は、京都見廻組で事件記録を洗い出し、これまでの騒動に何か特徴が無いかを考えた。
「京は霊的な守りを施された場。一連の怪異の黒幕とジーザスに潜むデビルが手を結ぶか、あるいは黒幕が同一ならば、目的を果たすのに京都の霊的な護りを徹底的に破壊すると思ったが‥‥」
 が、見る限りでは特に何も無い。
 ジーザス狩りの衝突は当然ジーザス教に関連した場所が多い。が、それは単なる逗留場所に過ぎず、古来からの宗教施設とは無関係。霊的な護りに関わる場とも思えない。
 貴族が襲われたのは人気少ない時間や場所であり、中には自宅で襲われている者もいる。
 狩りに出くわしたジーザス教徒たちが逃げた方向も、判明してる限りではてんでばらばら。とりあえず近くの知り合いに匿ってもらい、という傾向が強い。
 僧兵たちに阻まれ情報が足りてないのも事実だが、それでもこれ以上何かが出るとも思えない。
「そこらは今は置くとして。今回のジーザス狩りでジーザス信者が逃げるとしたら、さてどこになるか」
「のはいいけどさ。何でおいらが一緒しなきゃならんわけ?」
「やる事無いなら付き合っても構わんじゃろ。土蜘蛛の霊などに会えるかもしれんし、もしくは黒幕とも会えるかもしれんぞ」
 地図からの考察はひとまず置くと、文句を垂れる京都見廻組の坂田金時と共にジーザス教徒の足取りをたどる。
 あからさまな延暦寺の襲撃予告に、どこの組織も反感を覚えている。言われた宿への手出しはしないが、それ以外は許さないと言わんばかりに警備が強化されていた。
 おかげで、暇をしている者はほとんどなく‥‥その中で手持ち無沙汰にしていた金時が逆に問題である。
 ともあれ、宿での襲撃は程なく終えたと伝わっている。が、逃げた者も居る様子。
 その行き先は僧兵たちも読んでいて、太吾が回るより早く彼らが網を張って待ち受け、そしてジーザス教徒たちはその手に乗るまいと姿を隠す。
 どうやら収穫は何も無し。そう思われたが、
「きゃああ!!」
 女性の悲鳴が響く。即座に二人は声がした方に赴く。
 見れば、僧兵二人が女一人を捕まえている。
「言え! 奴はどこだ! 隠すと為にならぬぞ!」
「手荒な真似はよせ。寺に連行してあの方がお調べになれば、すぐに知れる」
「しかし、ぐずぐずしてまた逃がすような事になれば‥‥」
 一人が女の髪を鷲掴みにしている。もう一人は諌めようとしているが、女への配慮は今一つ見えない。
「こら! 市民に手をかけるのは許さないぞ!」
 さすがに見かねた金時が飛び出す。
 はっと僧兵二人がこちらを向いた。同時に、女を掴んでいた手が緩む。
 その僅かな隙に女は懐剣を手にすると、あろう事か絡んでいた髪をざっくりと切り捨て、そのまま逃走を図る。
「逃がすか!!」
「ちょっと待てよ! 幾ら何でもこれは‥‥」
 女を追いかける僧兵を咎めようとしたが、その前にもう一人の僧兵が立ち塞がる。
「あの女は邪教の信奉者。逃亡を助けるというなら、おぬしたちもその仲間と見なす!」
「何だよそれ! 言っちゃ何だけど、何の権限あってこの都で好き勝手するさね!!」
 六角棒片手に仁王立ちの僧兵に、つっかかる金時。小柄なパラな事もあって、傍から見てると駄々をこねる子供にしか見えない。
「無礼は承知。だが、全てはこの国を救わんが為。仔細告げる事罷りならぬが、けして都に仇は為さぬ」
 言うが早いか、踵を返してその僧兵も女の後を追う。
「インフラビジョンでは特に問題なし。とはいえ、一体何をしているのかのぅ」
 やれやれと太吾は嘆息付く。
 すでにあたりは騒然として、重い声が響いている。他の僧兵たちにも連絡が行ったのだろう。女一人相手に、それは大層な騒動に思えた。


「冒険者ギルドに照会しました所、間違いなく所属する冒険者である事が確認できました」
 延暦寺の奥にて、クリムゾンが解放されたのは数日後。照会だけにそんなに時間がかかる訳は無く、取調べの時間を設ける為に先延ばししたのだろう。
「彼女に悪しき気配はありませんし、またその考えもありません。解放して差し上げなさい」
「仰せのままに」
 男とも女ともつかぬ若い僧侶が穏やかにそう告げると、周囲の僧たちがこぞって頭を下げる。
 戦闘で負った傷は癒されている。滞在中、監視がついたり、魔法でいろいろ調べられたりと閉口したが、一応家には帰してもらえるようだ。
 帰り際に、その若い僧に声をかけられる。
「調べとはいえ、勝手に思考を読んだ事をお許し下さい。ですが、あなたの悩みは私の力の至らなさ。此度の動きで、不安を与えてしまいましたが、あなたが道を外さぬ限り望む場所にいていいのですよ」
 若い声で凛と告げる。
 尾行監視の類がない事を確認してから、一旦皆の所に向かう。
 もっとも、京都見廻組の連中から延暦寺での様子を根掘り葉掘りと聞かれて二度閉口したが。
「そういや寺に居る間、窮屈な目にはあったが、危険は感じなかったなぁ」
 涼哉に指輪を返す際、ふとその事に思い当たる。
「問題は、ジーザスにあるという事かの。にしては、延暦寺の動きもよく分からぬモノがあるのぉ」
「案外、平織上洛を警戒してるんじゃないのか? 虎長復活がなった時期となんか被る気がするが、偶然かねぇ」
 首を傾げる太吾に、涼哉もまた似た表情で顔を顰める。
「その平織上洛だが、いよいよだな。動きが慌しい。‥‥ただ、それに伴う流入の動きが少々気になる」
「というと?」
「平織ほどの要人が上洛するとなれば、その警備もまた重要。とはいえ、運び込まれる武具が多すぎる。配置される人も兵士がほとんどで、しかもその人数は単なる警備の度を越している」
 尾張からの動きに探りを入れていた烈閃。その言葉に一同の身が強張る。
「それでは」
「ああ。今の騒動だらけで治安の悪化した京都。何から手をつけるかは分からぬが、とりあえず‥‥動くぞ」
 短い言葉に緊張が走る。沈黙が降りたその場に、ほつりとクリムゾンが力無く呟いた。
「なぁ、あたい、ここにいていいんだよな?」
「当然だろう。何の咎も無いのだから」 
 騒動の一端を担うジーザス会。直接関係は無いものの、世間では十把一絡げに見られもする。
 自信をなくして落ち込む彼女に、周囲はあっさりと頷いている。
 
 程無くして、平織虎長が上洛を果たす。
 長旅に身を休める事も無く、早々と世の治安回復に向けての活動を始める。
 その一歩として、都に混乱をもたらした延暦寺を平定せんと、兵を動かし始めた。