【比叡山焼討】 場外乱闘
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■ショートシナリオ
担当:からた狐
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:9 G 4 C
参加人数:7人
サポート参加人数:1人
冒険期間:05月29日〜06月03日
リプレイ公開日:2008年06月06日
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●オープニング
戦の最中であっても、冒険者ギルドには依頼が舞い込む。
いや、戦の最中だからこそか。
人同士の戦ならまだしも、山から鉄の御所の鬼たちまでもが動いたのだ。
たかだか、百の鬼たち。だが、その全てが一騎当千の恐るべき人喰鬼たちであり、彼らを率いるのはこれまで幾度も討伐隊が出され、その度に圧勝してきた鬼の王・酒呑童子。
先に斬り落とされた筈の腕も、天台座主・慈円の手で再生を遂げ、紛う事なき完全な姿で平織の軍を翻弄する。
その話だけで京は大混乱に陥っていた。
浮き足立つ都民の間で流言が飛び交い人心は惑い、さらに混乱は広がる。
この機に乗じて小悪党が火事場泥棒に動けば、混乱を利用して政敵を亡き者にと腹含む者が刀を抜く。
それら対処に、都に残る治安組織も東西奔走。前線とは違う忙しさで神経をすり減らし、それでもなお手が足りない。
軍は元より戦いに忙しいとなれば、ギルドに向かうのは当然。
都から逃げたいのに可愛がっていた犬がどこかへ行ったから至急探して、から、賊が押し入り金品を盗んだ捕まえてくれ、まで。
ものの善悪大小様々な事象が一時に雪崩れ込んで、ここもまた戦場に近い有様と化していた。
その中に、青年も飛び込んできた。
「助けて下さい!!」
切羽詰った言葉は単純ながら事態の深刻さを物語る。
「鬼が、俺たちの村で暴れているんです!」
青年の村は、京の近くにある。元々小さな村だったが、近年京も駄目だと見限った人々が村を捨てていき、ますます小さくなっていった。
それでも青年を始め、何人かは何とか頑張ろうとした。年寄りは元より動けない。
しかし、今回の戦が起こる。
これまでの戦火はどうにか逃れてきた。今回もどうかと不安になっている所に、彼らが来た。
人、ならばまだ良かった。だが、それは鬼だった。
人喰鬼と呼ばれるもの達が二十体。それらが怒涛の如く押し寄せる。
鬼たちは鉄の御所の方角から来た。だが、隊列を組んではいなかった。どころか、互いに手にした得物を振るって端から盛大に殴り合っていた。
何が原因かは分からない。が、どうやら鬼同士で喧嘩になり、それがそのまま村まで流れてきてしまったようだ。
酒場の喧嘩でもよくある話だが、人と鬼では訳が違う。
鬼たちは、周囲には全く目もくれず気にもかけない。
その乱闘の末、家は壊され、人は潰され、田畑は荒らされ、家畜は踏みにじられた。
「村はもう終わりです。生き残ったのは、俺を含めて何とか逃げられた数人のみ。もう村は捨てるしかないですが、あの鬼たちをそのままになどしておけません。
お願いします。どうかあの鬼たちを退治して下さい」
言って、青年はその場に正座すると、地面にこすり付けんばかりに頭を下げる。
かくて、ギルドに依頼が出される。
「鉄の御所から来たらしいが、戦との関連は不明だ。まぁ、直接は関係ないだろう。とはいえ、確かに放っておけばまたどこで何をしでかすか分からん。これ以上、被害が広がらんように確実に対処して欲しい」
貼り紙を前に、説明を入れる係員。
依頼を受けるか否かは、冒険者たち次第となる。
●リプレイ本文
都への不当な振る舞いに、平織は延暦寺を責める。
仏へ刃を向ける非道に、延暦寺は平織を詰る。
そして、戦の手段として担ぎ出された鬼たちが、人など気にせず暴れまわる。
「だから‥‥戦なんてやってもいい事ないですって」
グリフォンのナフカに跨りながら、何やってんだと言いたげにルーティ・フィルファニア(ea0340)は肩を竦める。
空の高みから問題の村へと偵察に行った彼女は、前方に不自然に広がる雲を見つけて高度を落す。
下に入ればそこは雨で、雲の中心にはゼルス・ウィンディ(ea1661)がいる。レミエラで魔法用に生み出された雨雲なのだ。
傘はいらない程度だが、濡れる事には変わりない。降りるとナフカが不快そうに身を震わせて水滴を払っていた。
鬼たちは村全域に散らばり、各鬼が牽制しあって大きな動きは見えないという。
ただし小さな動きは多少ながら見え、その動きを観察しているとどうも大きく二つの勢力に分かれている気配があるとの事だった。
「村は潰されて崩れている所も多く、様子が違っているとは言っていたが‥‥聞きしに勝るだな」
九十九嵐童も手伝って、逃げ延びた村人から村の様子を聞いた壬生天矢(ea0841)。
村人たちは逃げるのに必死で、鬼に関して詳しく覚えてなかったが、村内部の配置については詳細に語ってくれた。
少しでも力になろうと絵まで描いて詳しく説明してくれたのに、今、天矢の目に映る光景はそこから想像できる村とは違っている。
鬼の暴れた痕跡は大きく、崩れた家屋があちこちにあり、その材木が道を塞ぎ、残り火から出火したか焼けた家もあった。
「近くで見ると、さらに陰惨ですね‥‥。人の気配は見えなかったですが、この中で生き延びるのは‥‥」
改めてみる景色に、ルーティも俯く。
「人喰鬼が二十。ですが、これはほんの一部で鉄の御所にはもっと多くいるのですよね。それを纏める酒呑童子の腕前は賞賛したくなりますが、今やるべき事は奴らの排除。
行きましょう。これ以上、奴らに故郷を踏みにじらせるのは哀れです」
リースフィア・エルスリード(eb2745)は強く村を睨むと、ペガサスのアイオーンに跨る。
リースフィアが飛び立つと、ルーティもグリフォンと共に後を追って村へと迫る。
「鬼たちを追い立ててくれるというが、任せてばかりもいられない。こちらに注意を向けたいが、さて、香木で効くかどうか」
「だったらこっちを試してみては? 臭いも強烈ですし、地方によっては鬼たちの好物だという話も聞きました」
風上を選んで火を焚く天矢。その中に、ゼルスはひょいと大蒜を放り込む。
立ち込める独特の臭いが、鼻を刺激する。
鬼たちのお気に召すかはともかく、存在を示すには十分か。
ゼルスの雨も鬼たちの頭を冷やせず。むしろ高まった闘志で立ち昇る湯気まで見えそうだ。
そこに、リースフィアとルーティが姿を見せる。
それを合図としたかのように、鬼たちは一斉に動き出した。
「ウグルウウ!! グルゥアアア!!」
「ガオオオ! ガオ、ガオオオ!!」
彼女たちに目をやる鬼もいたが、すぐに他の鬼に殴られ蹴られ。報復に乗り出した頭にはもう二人の存在は無くなってしまっていた。
激しくぶつかり合いながら、鬼たちの言葉で何事か叫んでいる。勿論意味は分からない。
「潰し合うの結構ですが、これ以上村を壊されては困ります! こちらにおいで下さい!!」
オーラエリベイションはあらかじめ唱えてある。効果時間も十分。
リースフィアはグラムを構えると、アイオーンを走らせた。鋭い嘶きの後、文字通り飛ぶ速さで鬼たちが騒ぎあう只中に突っ込んで行く。
反応が遅れた人喰鬼が剣に捕らえられて弾き飛ばされ、重傷を負って転がった。
それでようやく存在を思い出す鬼たち。自分たちの喧嘩に水を注されて怒り出し、殺気だった目をリースフィアに向ける。
「気をつけて下さい。連中、何をしでかすか分かりませんよ」
「分かってます。そちらも注意して下さい」
鼻先を翻すと、リースフィアが村の外へと走り出す。その後を人喰鬼たちが凄まじい形相で追っていく。
それでも気付かず乱闘していた残りに、ルーティはグラビティーキャノンを唱える。
淡い茶色の光がルーティを包むと、一直線に伸びる黒い帯。散らばっていた木屑や土壁も全て吹き飛ばし、捕らえた人喰鬼たちも破砕する。
本来なら重力波の影響で弾かれ体勢を崩すものだが、肉体的に頑強な人喰鬼たちで転ぶ者はほとんどない。
傷つけられた恨みを視線に乗せると、即座にこれも先のリースフィア同様、ルーティを追い回す。
「来たぞ!!」
鬼の足では空かける獣には敵わず。むしろ鬼たちを引き離さずに追わせる方が難しい。
そこをどうにか村の外まで誘い出す。
広がるのは田畑。障害物はほとんど無い。荒らした所で管理し育てる者達ももういない。
とはいえ、追っても無駄だと分かれば、鬼とて諦めてしまう。村との境界がせいぜいか。
「ここまで出てきていただけたら、派手に暴れても多少は大丈夫ですわね」
微笑して姿を見せたジークリンデ・ケリン(eb3225)に、鬼たちは足を止める。
ダズリングアーマーの強い輝きが鬼たちの目を引いたが、同時に警戒させてしまったようだ。
それはそれで好都合とジークリンデは魔法を唱える。
フレイムエリベイションで高ぶった志気は、より確実に魔法へと集中させる。
鬼たちを纏めて捕らえた熱きマグマ。地中から吹き上がったそれは、まさしく人智を凌駕する圧倒的な威力で、人喰いたちを焼き尽くす。
「ゥグルアぁアアアーーーッ!!」
「ガウウウ?!」
咆哮を挙げる鬼と、戸惑いに目を瞠る鬼と。場が一瞬凍り付いた。
マグマが消えると鬼たちがばたばたと膝を付く。一撃で滅びなかったのは、さすがというべきか。だが、もはや碌に動けはしない。
魔法の因果を鬼たちが理解したかは分からない。だが、敵が誰かを認識はした。
鬼たちは互いに目配せすると、嫌そうに一つ頷きあった。争っている場合では無いと判断したらしい。
だが、その間にも冒険者たちは動いている。
ゼルスが唱えたトルネードが纏めて鬼たちを吹き上げる。
見上げる高さから一気に落下。先に傷を負っていた動けぬままに巻き込まれた鬼が、鈍い音を挙げてあらぬ方向へと体が曲がる。
「ガウッ!!」
鬼が吼えると同時に、残りの鬼たちが瞬く間に散る。纏まっていては不利と悟ったようだ。
「一匹たりと、逃がしはしない‥‥っ!」
静かな怒りを宿して、天矢がブラヴェインを振るう。
漆黒の刃から生み出される衝撃波は、確実に鬼を捕らえて身を切り裂く。
「グルッ! グルウウア!!」
「お前たちの声を聞く必要はない。‥‥おとなしく山に篭っていればいいものを!!」
風をまとって振り回された金棒を、アヴァロンの盾で受け止める。
重い衝撃を踏みとどまると、すかさず天矢は闇夜の代わりとばかり鬼の赤き血を斬り裂く。
体勢を崩した鬼がよろけて遠ざかる。だが、その鬼だけに固執はしない。
まだ鬼の数はこちらより多い。騒ぎを聞きつけ、村に残っていた鬼も姿を見せ始め、事情が分からないまま参戦してきていた。
戦力を削ぐ事が先。そう判断し天矢は、手近な鬼たちに刃を合わせる。
「何ですと!!」
バル・メナクス(eb5988)は鬼と斬り結ぶ。握り締め、その重みを加味したクレイモアの一撃を、しかし相手は受け止めた。
にやりと笑う鬼がさらに手を詰める。
幾度と無く打ち込んでくる金棒を、エチゴヤシールドを受け止め、クレイモアで弾き。
「ウガア!!」
「甘い!!」
追い詰めたと思ったか、鬼の攻撃が大降りになる。
その分、重さを伴った唸る一撃を、バルは盾で受け止めるや、返す刃を即座に放つ。
とっさに鬼は身を引き、受け止めようとしたが間に合わず。
一体一なら勝負は互角。いや、こちらの方が能力は上。
ただ、数の多さが戦闘を厄介にしていた。
「少し面倒な展開になってますわね」
ざっと戦場を見回し、ジークリンデが柳眉を潜める。
超越魔法は魔力の消費が大きい。ソルフの実を携帯してなお数回が限度だ。。
「アグライベイションで手数を減らしてはいますが‥‥、距離と抵抗もなかなかです」
ルーティも小さく舌打ち。
彼女の腕前では十分な距離からの行動抑制はまだまだ失敗の方が多い。かといって近寄りすぎると鬼に叩かれる。魔法への抵抗で無力化される事もある辺り、意外にあの鬼たちも筋肉馬鹿なだけではないらしい。
リースフィアのペガサスやゼルスの埴輪やスモールシェルドラゴンのバルドスなども戦闘に混じっているが、人喰鬼の戦闘力に翻弄され、ともすれば壁として利用されたりもしている。
「それでも負けられません!」
魔法使いの懐に入り込もうと、走りこんできた鬼たちに向かって、リースフィアが衝撃波を放つ。
「グハッ!!」
一体の鬼をライトシールドで受け止めた途端、ボルカノ・アドミラル(eb9091)の身に別の鬼の棍棒が叩き込まれる。
肺から押し出される熱い息。だがそれを堪えると、野太刀を大仰に振るう。
鋭いその切っ先が鬼たちを捕らえた。
「この村の惨状。戦の末。平織家武将としては恥じ入るばかりです」
口惜しそうに唇を噛むと、ボルカノは目の前の鬼を睨む。
「亡くなった者、追われた者。そんな村人たちへのせめてもの供養として‥‥あなた方は討たせてもらいます!!」
一体の鬼が突っかかってくる。
振り下ろされた一撃を盾で受け止めると、即座に渾身の力でその鬼に叩き込む。
てこずったのは最初だけ。
堅実に数を減らしていけば、どうにか勝機も見えてくる。けれども、敗色濃厚となっても逃げようとする人喰鬼でもない。
その身が傷付いても戦意は逆に燃え立たせ、怒りに満ちて襲い掛かってくる。
「これで最後です!!」
ゼルスのヘブンリィライトニングが鬼を打つ。魔法光と共に浮かび上がるレミエラの紋。頭上の雨雲から落ちる雷は、弱っていた鬼の命を確実に奪った。
ゼルスの魔法も使い果たし、雨が上がって雲もゆっくり消えていく。
負った手傷を薬や魔法で癒す。治し切れない傷の治療に寺まで行くべきだったが、今はそれより村人たちを迎えに行く。
晴れる空の下、村人たちが戻ってくる。そこで見るのは逃げ出した時と全く違う村の景色。
壊れた家屋に荒れた田畑。ジークリンデが石化し捕らえた鬼が、この村に起こった惨劇を物語るようで。
家屋に潰された死体や、鬼に裂かれた死体。喧嘩中でも腹は減ったと見えて、喰われた死体も少なくない。
そういった遺体をボルカノが持って来た台車に乗せて運び出す。
村の共同墓地があるらしく、せめて先祖や皆と一緒にと、穴掘りにほぼ従事した。
宗教の対立が問題になっている今、騒動とは無縁な僧侶を連れてきて読経もきっちり上げる。
「鬼も火葬せねばなりませんね。死体を利用されても厄介です」
物騒な昨今。何をどう使われるのか分かったものではない。
人の通わぬような場所まで鬼の死体を運び出すと、焼いて埋める。
「統率されていない二十の人喰鬼のせいで、村は無残な姿に‥‥。戦のとばっちりも大概だが、やはり鉄の御所は存在してはならない場所だな」
生き残った村人数名。僅かな遺産も手に入れ、ありがとうと礼を述べて村を去って行った。
とはいえ、その旅立ちはけして喜ばしいものではない。
バルが鬼の来た方向を見つめる。
比叡山・鉄の御所。多くの人喰いたちが今だそこに息衝いている。