【京都惑乱】 貼り紙
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■ショートシナリオ
担当:からた狐
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:8 G 76 C
参加人数:4人
サポート参加人数:1人
冒険期間:06月02日〜06月07日
リプレイ公開日:2008年06月11日
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●オープニング
『戦で傷付き倒れた者を、安祥神皇は敵味方問わずに癒そうとした。
されど、進軍の勅命は神皇自ら発したもの。
自らの令を翻して世を惑わし、混乱させて臣下すら貶める事罪深き。
素知らぬふりであたかも善行の如く佞者と群れて、自ら傷つけた者を手当てし崇拝を求めるは卑しき所業。
世の乱れの源は、暗愚の偽王の仕業。
真を欲するには、正しき神皇が世を統べるべき』
「という貼り紙があちこちで貼られている」
冒険者ギルドにて。とある冒険者募集の貼り紙の前に、係員からは別の貼り紙を見せられる。
詰まれた貼り紙は、なかなかの厚み。
捲って見れば、達筆な字で一枚ずつ丁寧に書かれている。複数人が書いたのか、筆跡は微妙に違っていた。
けれども書かれている内容はどれも同じ。明らかな安祥神皇批判。
誰の仕業かといえば、それは神皇を名乗るもう一人しか思い浮かばない。
「もっとも、長州自体に目立った動きは無い。これは向こうとは関係の無い、都に潜伏する五条の宮信奉の過激派が単発的に動いたものと見られている」
動きは無い、と言ってもおとなしくしている訳でもない。
五条の宮たちは九州・大宰府を中心に確実に西国から支配を広げている。今は都まで手を伸ばす気配が無いというだけの意味。
「犯行は複数人。筆跡から十人ぐらいが関わっていると見られている。貼り紙は夜の内に貼りまわっているらしい。幾度か新撰組やら見廻組やらが現場に居合わせたが、相手は京の裏路地まで知り尽くしているらしく、なかなかはしこくて捕まえられない」
世の識字率は高く無い。農民は字を読めずとも困らないので、地方に行くほど零に近い。
が、志士侍商人などが集う都になると読める者も珍しくなくなる。此度の戦に関するとあれば関心も高く、読めぬ者は頼んで読んで貰い、その声からさらに人々の口に広がる。
膝元から暗愚の王の噂が広まれば、民の心はますます離れる。不安な昨今、何がどう付け入って来るか分かったものではない。
「早急に噂を沈静化させるべく、この犯人たちを捕らえたいが何分戦に絡んで手が不足している。なので、こっちにまで手を貸すよう話が回ってきた訳だ」
延暦寺の離反で揺れる都。人心を惑わす芽は早めに摘んでおくべきか。
●リプレイ本文
延暦寺と都との騒乱。
傷付く人々を憂い、救護の手を貸した安祥神皇の慈悲に感謝の声も高い。
その一方で、それをよしと思わぬ者もいる。
いや、そもそも安祥神皇自身が邪魔でしかない輩もいるのだ。
「こんな紙切れに揺るがされる程、安祥神皇様の力は小さくない‥‥と断言したいものだが‥‥」
「何ですか? 神皇さまを疑うおつもりですか?」
嘆息付く月代憐慈(ea2630)に、即行で御神楽澄華(ea6526)が睨みつける。
共に京都見廻組。戦が終わっても市井の警備に忙しい中。そこに出てくる貼り紙は、凶悪さこそ無いものの厄介。
澄華の筆を握る手は強く。殺気すら感じる迫力に、慌てて憐慈は否定を入れる。
「いや、そうは思っていない。しかし、京は只でさえ人の心が揺れている。世が世なら笑い話で終わろうが、こうも騒動続きでは芯が強くても心揺らされ折れかねない」
はっきりと書かれた安祥神皇への悪意。そして、明言されてはいないものの五条の宮賛美を彷彿とする貼り紙。
剥がされた数は結構な量だが、それでもまた翌日には張り直されているのだから相手の執念も相当なもの。
市井にしても、戦を押さえられず都を焼いた神皇に憤る声があるのもまた確か。
紙切れ一枚といえど楽観出来ないのが昨今の情勢である。
「それは承知しております。人々が疲れて傷付き、これから立ち直っていかねばならないこの時期。だからこそ、周りを省みず己の主義主張を喚き散らすとはなんと恥知らずな。しかも、それが神皇陛下を貶めようなど言語道断です!」
静かな口調に憤りを乗せて、澄華はすらすらと筆を走らせる。
先程から熱心に書き綴っているのは、此度の戦の経緯。貼り紙が都合のいい事態しか伝えないのなら、きちんと姿勢に真相をやはり貼り紙で伝えようというのがその目的。
勅命は最初から攻撃命令が下されていたわけでなく、和解を首尾一貫して主張されていた。
ただ書き様によっては、勅命を利用して平織が攻撃した責任転嫁な批難文にもなりかねず。虎長はまだ都に必要な存在であり、故なく咎めていい者でない。またそれが目的でもない。
その推敲に苦労したが、程無くその達筆を紙に滑らせている。
貼り場所や内容についてはステラ・デュナミスにも手伝ってもらって調整ついている。
纏まった枚数を書き上げると、墨が乾くのを待って澄華は出かけた。
京の町はひとまず落ち着いている。昨日も今日も、そして未来も。
「これって安心していいのでしょうかね。この貼り紙‥‥何気に冒険者の悪口も入ってる気がするんで嫌な感じなんですけど」
カラット・カーバンクル(eb2390)がフォーノリッヂで垣間見た京の姿は実に平穏。明るいかは謎だが、少なくとも騒動は起きそうにない。
もっとも、何時の未来かはよく分からないが。
入った酒場は賑やかだが、どこか疲れた様子を見せる。談笑したりと明るいが、気が晴れる明るさではない。
戦の疲労はまだまだ残っている。
そこでカラットはどらごんのぬいぐるみを取り出すと、ヴェントリラキュイの経巻を使って一人漫才を始める。
「最近は神様も仏様も大暴走中みたいだな」
「ですよねー。困った事です」
「だからこれからはオレ様の時代だと思うんだ。皆、オレ様を頼って良いんだぜ?」
「その心は?」
「くっくっく。手なずけた後、オマエラ全部太らせて食っちまおうって計画さ!」
「‥‥でもこの子ってば、向こうのわんちゃんより弱いんですよー。ほらー」
「わー、こらやめろーっ!! 涎がー! 穴がー!!」
ふわもこなどらごんを軒下で待つ柴犬のライス長官に投げ与えると、ぱくりと咥えて持ってくる。
喋るぬいぐるみに居合わせた人は目を丸くし、その愛嬌に吹き出す。何となく重かった場の空気が払拭されたようだ。
「やれやれ。神も仏も大忙しだが、神皇さまもどうなんだろうなー」
「うん? 俺に聞いてるのか、この蜥蜴。そうだな、この戦の後では宮中も忙しかろうな」
「でも。この戦も元を正せば神皇様の失策らしいわよ」
「ああ、そんな貼り紙が出てたな」
どらごんを店の人々に向ける。尋ねられた人々もすぐに乗ってきてくれた。
中に気になる話を聞き、カラットの目が鋭くなる。
「神皇批判ねぇ‥‥。そいつもきっとオレと同じ計画なんだな!」
「おいおい、嬢ちゃん。芸とはいえそんな事は言わない方がいいぜ。不敬罪で首が飛ぶ」
しっと指を立ててごつい男が口止めをする。真剣な表情はカラットの身を案じてくれている。
とはいえ、その内容は今の話題。他の者にも気になるもので、声を潜め周囲を気にしながらも話は途切れない。
伝わってくるのは神皇という存在の大きさと、そうであるが故に生まれる不信感。
五条の宮も神皇の血筋は確か。安祥神皇とどちらが良いかとなれば、それは有益な方がいて欲しいとの声も少なくなかった。
張り紙が貼られるのは夜。逃げやすく、人目に付きにくいからだろう。
「貼られた順番ですけど、最初は被害の大きい北東中心。それから手薄になっていた西南へ。各地を注目され出すと、中心の御所近辺に貼られていたり。場所も目立つ表通りかと思えば、裏通りや郊外に向かったりと警備の裏をよくかいてますね」
「俺たちの仕事の大変さが良く分かっただろう。‥‥逃げ足の早さや警備の動向を把握してる辺り、賊は京を知り尽くしている。昨日今日入り込んだ輩じゃないな」
貼り紙の動向を調べてきた山本建一(ea3891)に、憐慈は肩を竦めて嘆く。
遭遇した新撰組や見廻組の話によれば、貼っていたのは浪人風の男で京言葉だったらしい。現行に不満を抱き、新たな神皇に望みを持った都の不逞浪士が集まって小細工を練ったという事か。
「どこに出るかも良く分からない輩となれば、探し回っても会えるかどうか。ですが、京の街を窺がっているとなれば、昼に貼った張り紙にも気付いているでしょう。彼らにとっては水を注す内容。手を出しにくる可能性も高いかと」
それを見越して、澄華は橋や行き止まりなど逃げ場を限定する場所に貼り紙を張ってある。
警備の者だけでは手が足りない。そう思って、冒険者にも声をかけた澄華だが、こちらも何かと忙しくしている。依頼でもなく夜の街をうろつかれるのも、不審者と間違われかねなかった。
夜の街は静かなもの。戦を受けて酒場や茶屋も自粛はしている。
それでも酔漢はいるし、家を投げだされた人々が安全な場所を求めて塒を彷徨う。
貼った貼り紙中心に見回っていると、やがて一箇所、不審な人影がうろつく。
襤褸を纏った男が一人、興味深げに貼り紙を覗き込む。手にした莚は寝床なのか、やけに大きい。
まじまじとそれを覗き込んでいた男だが、やおらそれに手を伸ばす。
「待ちなさい! 身元を改めさせてもらいましょう」
貼り紙をはがした男に、建一が声をかける。
「くそっ!」
ぎょっとして立ち止まる男。貼り紙を手にまごついていたが、悪態をつくや、莚を投げつけてくる。
「うわっ!」
視界を塞いだ邪魔物を建一は振り払う。すると広がった莚からは紙の束が散らばり、糊が転がる。
書かれているのは見慣れてしまった文章。間違いない。
「逃がすか!」
建一が怯んだ隙に逃げ出しかけていた男。その前に、憐慈はライトニングトラップを仕掛ける。
詠唱は一瞬。そして踏み込んだ罠も一瞬で消える。
「ぐはっ!!」
放たれた電気はその一瞬で男を締め付けていた。その威力は重く、男は身を強張らせてよろめいた。
そこに澄華が詰め寄る。フレイムエリベイションで動きは機敏になっている。
男は突き出された霊矛・カミヨを隠し持っていた短刀で逸らそうとするも、それを崩すかのように矛は男へと伸びた。
手合わせは数度。それであっという間に男は、叩きのめされてしまう。
「捕縛完了。さあ、おとなしく詰所まで御同行願おうか」
往生際悪く、倒れてまだ足掻く男を憐慈ががっちりと締め上げる。
「人心を惑わし、神皇様への不敬を為す。その所業は許し難し。仲間が他にいるのでしょう。きりきりと吐いてもらいます」
矛を構えて睨みつける澄華を、同じ強さで男は睨み返していた。
捕らえはしたが、男は強情で口が堅い。
何とか拠点とする場所を吐かせた時には、向こうも異変に気付き引き払っていた。
仲間が捕まり警戒を強めたか、それまでのように派手には動かない。それでも神皇批判の貼り紙は訴え続けられている。
人々の不安の払拭はやはり治安の回復が一番か。
しかし、今の京は懸念が多すぎた。