【祇園祭】 京都見廻組・屏風の行方

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 9 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月15日〜07月20日

リプレイ公開日:2008年07月24日

●オープニング

 祇園祭。
 祇園社(八坂神社)の祭礼で、1日の吉符入りを始めに一ヶ月に渡って行われる。
 祇園御霊会、と呼ばれるように、そもは疫病流行を止める為、神泉苑に国の数だけ鉾を立てて祇園の神を祀り、災厄除去を祈ったのが始まりとされる。
 宵山までの数日間。京の街中では、屏風祭りが行われる。
 家々が所有している美術品を町屋に展示し、格子越しかあるいは格子を外して直にお目にかかれる。粋で雅な京都らしく、豪華な品々が公開されるのだが。

「えらいこっちゃやがな。こないな阿呆な話、御先祖に顔向けできやしまへん」
 京都見廻組の碓井貞光と共に冒険者ギルドに入ってきたのは白髪の目立つ中年の男だった。蒼白な顔でおろおろとしている様で、窮しているのが良く分かる。
「祭の支度に蔵開けたら、出し物に用意しとったとびきりの屏風が消えとったんや。犯人も分かっとる。息子の大二や。阿呆な子や思とったけど、ここまで阿呆や思わんかった。もうかまへん。はよ捕まえとくんなし」
 歯噛みして、怒り出さんばかりの勢いでギルドの係員に詰め寄ってくる。うろたえたり、憤ったり、何とも忙しい親父だ。
「とまぁ、こんな調子で京都見廻組に乗り込んできまして。大方の事情はこっちで聞いていますので、御説明します」
 興奮している親父を宥めながら、貞光が係員に告げる。
 といっても、話は簡単。
 屏風祭りの用意で蔵を開けた所、件の屏風の紛失に気付いた。
 一体誰がと大騒ぎになった所で、そういえば坊ちゃんが前日にと使用人がふと口に漏らす。
「息子の大二さんは前々から手癖の悪い連中とつるんでいて、見廻組でも度々捕縛に当たっていました。その度に、この親父さんが更生させると引き取りにきていたものです」
 貞光の苦い表情が、親父さんの苦労を語る。結局の所、親の心子知らず‥‥というより、大二にはまったく通じてなかったのだ。
 大二は素行を改める事無く、同じ事を繰り返していた。
 そして問題の前日。親父さんが留守の時、家に顔を出し「これまでの反省として、人前に出す品をもう一度事前に問題ないか点検するよう親父に頼まれた」と言って蔵に入ったという。
「わてはそないな事言うてやしまへん。聞いた使用人も変やと思たらしいけど、大二がしおらしうしてたんと、まさか家の物にまで手つけるとは思わんかったらしくて鍵渡してしもたんや」
 勿論、しおらしくしてたのは演技に違いなく。
 阿呆の癖にいらん知恵ばっか利口にしとると、親父は肩を落とす。
「事態を知って慌てた親父さんが見廻組に駆け込んできまして。こちらで事情を聞き、いろいろ聞きこんでみた所、確かに大二さんが屏風を持ち逃げしたみたいなのです」
 人の高さほどある立派な屏風なのだ。祭であちこち騒がしいとはいえ、持ち歩けば目につく。
 大二自身は以降、家に帰らずなじみの女の家を渡り歩いているのを確認している。
 が、屏風の行方はといえば、とある茶屋でふつりとその足取りが途絶えた。
 そこは大二の悪党仲間連中が常駐している茶屋で、どうやら仲間に渡したらしい。
「あの屏風はその昔、神皇家縁の家で使われていたというそれは立派な物。わが家どころか、わが町の誉れですぞ。‥‥今年の屏風祭りは他の物で間に合わせはしましたが、どうしてもあれは取り返していただきたい」
 頭を下げる親父に貞光が頷く。
「恐らく、屏風はその茶屋にあると思うのですが、であるが故においそれと手を出せない状態。浪人崩れのごろつきなれば、下手に乗り込めば屏風そっちのけで破損させる危険もあります」
 美術品など金以外の何物でも無く。金づるであるが故に、大事にはするだろうが、所詮は自分が一番。土壇場になればどう出るか分からない。
「茶屋には浪人崩れの用心棒が常に四〜五人居つき、下っ端やごろつきの出入りも多い。裏で不正の売買や賭場などを開いてる疑いがあり、手入れをしようと話していた矢先。なので、こちらとしてもいい口実ではあるのですが。如何せん、祭の警備で人手が足りず。なのでこちらの手も借りたいと参上した次第です」
 祭が終われば、手が空くものの。この賑わいに乗じて、さっさと屏風を処分されかねない。親父の思いを思えば、それも避けたい。
 なので、なるべく急ぐ必要があるのだと、貞光は頭を下げた。

●今回の参加者

 ea3891 山本 建一(38歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb3824 備前 響耶(38歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ec0843 雀尾 嵐淡(39歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ec3984 九烏 飛鳥(38歳・♀・侍・人間・ジャパン)

●リプレイ本文


 茶屋は普通の店として営業している。
「お茶と軽い食事はできますか?」
「あいにく、売り切れでね。お茶も出がらしになるよ。嫌なら、よそあたっておくれ」
 しかし、客として山本建一(ea3891)が入ってみるも、店の対応はすこぶる悪い。
 何かを言おうとするなら、奥に座っていた浪人たちがじろりと睨みを効かせ、無言で店を出るよう要求してくる。
 ごねても仕方が無いので、軽く礼を述べると建一はすんなり身を退く。
 その後も店の様子を覗うが、出入りするのはどこか風体よからぬ輩ばかり。たまに一般客と思しき者も入って行くが、すぐに居心地悪そうに出てくる。
 用心棒を置いている店も少なくは無いだろうが、店の規模に合わせると数人でも少々多いように思える。
 それもそのはず。茶屋とは名ばかりで、実体は質の悪い噂がごっそりと出てくる怪しげな場所。小悪党の溜まり場になっていて、雰囲気が悪いのは当然だ。
「おう、お前。どうした? さっきも来ただろ?」
「いえね。どうも財布を落しちまったもんで」
「どうせ中は空だろ。あっても誰かが使っちまってるさ」
「そしたら、そいつから巻き上げまさぁ」
 その中に一人の男が、入り込んでくる。気付いた浪人は追い出さず普通に声をかけている。
 適当に返事をして奥へと乗り込んだのは、見るからにごろつき風の男。話慣れた感じからして店の常連なのだろう。
 早々と奥に入るごろつきを、浪人は不審そうに見つめながらも咎めず、ずっと相手にするのも面倒だとまた横になっている。
 入ったごろつきの正体は雀尾嵐淡(ec0843)。といっても、彼が常連のごろつきだった訳でない。
 出入りするごろつきを捕縛した上で、ミミクリーで化けたのだ。至らぬところも化粧でごまかし、外見は上手く変装している。
 とはいえ、長居は出来ない。リードシンキングで捕まえたごろつきの思考を読み、その人となりは掴んだとはいえ――ちなみにほとんど罵詈雑言だった――、訛りやちょっとした仕草、過去の記憶などから疑問を持たれ、正体がばれる可能性は高い。
 素早く茶屋内部の捜査を終えると、また何事もなかったかのようにぶらりと外に出る。
 誰も付いてきてない事を確かめてから元の姿に整え、他の冒険者と合流する。
「用心棒の数は五名だが、時間帯によっては抜ける者もいるな。ごろつきたちは出入りが多く、常に十人ぐらいが店で遊んでいる。で、例の屏風は奥の座敷の床が隠し部屋になってるらしく、そこに他の盗品と一緒に纏められている。あいにく、どのような状態までかは覗けなかったが、貴重品として丁寧にはしてもらっているようだ。他と纏めて売りさばく気だな」
 茶屋内部の見取り図を描きながら、嵐淡は報告する。
「ご苦労様です。妙な事をしていると怪しんでましたが、やはりでしたか。盗品を差し押さえれば、奴らとて言い逃れできませんね」
 生真面目に憤る京都見廻組の碓井貞光に、同じく見廻組の備前響耶(eb3824)も頷く。
「出入りはやはり表裏の二箇所か‥‥。相手の力量もさることながら、ごろつきどもの数が多いのも厄介だ。下手をすれば持ち逃げされかねん」
「屏風は取り戻したるゆうて、親御はんと約束したんや。他の盗品まで手回るかしらんけど、とりあえずうちらとしてはそれが一番や」
 任しとき、と言って胸を張る九烏飛鳥(ec3984)。
 見廻組としては口実に踏み込みたいが、頼まれた屏風の奪還も気にしなければならない。
 大きな品だが、故に何の弾みで傷付いても困る。
 どういう風に動くべきか。図面を前に話し合う。


「京都見廻組です! 中を検めさせてもらいます!!」
 恫喝にも似た強い口調で、京都見廻組が手入れを告げる。
「お待ち下さい、旦那方。一体何を証拠にそんな真似を」
「調べはついている。邪魔をするなら、引っ捕らえる」
 踏み込もうとする役人たちを、ごろつきたちは愛想笑いをしてなんとか留めようとしていたが、
「暴力で押し込もうというんかい! ああ!? そっちがその気なら、こっちも相応の態度ちゅうもんがあるぞ!!」
「口だけは達者だな。後ろ暗い所が無いなら、声を荒げる事もあるまい」
 すぐに馬脚を現し、悪い人相で凶悪な眼を飛ばし各々に刀や小刀を抜き放つ。
「影牙! 陰牙! 雑魚は任せる!!」
 響耶は叫ぶや、ごろつきたちをすりぬけ、奥から走ってきた浪人と斬りあう。呼ばれた柴犬二匹は一声高く返事をすると、ごろつき相手に唸りを上げた。
 力量を見る為、斬り結ぶ事数度。しかし、手練の響耶と場末に落ちた浪人とでは相手にならない。踏み込み名刀・村雨丸を振り抜くと、浪人の腕が消し飛び血飛沫は辺り一面を染める。
「うがあああ!」
「うわあああ!」
 上がった悲鳴は二種。苦悶に呻く浪人と、出血の多さにうろたえるごろつきたち。痛みのあまりに傷口を押さえて蹲る浪人を、ごろつきたちは真っ青な顔で響耶と交互に見つめる。
 当の響耶は注目を浴びても平然とした顔で刀を振るう。常に水気を帯びる不思議な刀は、その一振りで刀身に纏わりついた血も振り払っていた。
「手癖の悪い大馬鹿には反省も必要でしょうね。さて、まだ来ますか?」
「このぉ、よくも!!」
 建一が丁寧に語りかけるも、相手は耳を貸さず。斬られた者はよそに、残る用心棒たちが一斉にかかってくる。
「なるべくお縄にかけたいのだが」
「同感です」
 振り下ろしてきた日本刀を潜り抜けると、響耶は相手の腹に柄を打ち込み。建一もジェイド・ブレードで相手を抑えにかかる。

 表の騒ぎは裏まで聞こえ。当然間の中にも騒ぎは伝わっている。
「やべえ! やられてるぞ!」
「冗談じゃねぇ。命あってのモノダネだ!」
 座敷でごろごろしていたごろつきたちも、情勢が悪いと判断するや、助けるどころかそのまま逃亡にかかる。
 その際、辺りにあった金目の物も先立つ駄賃と貰っていこうとするが、
「うわあああああああ!!」
 件の盗品を隠した床に手をかける前に、ふいに仲間のごろつきが立ち塞がる。
 この事態に何の真似かと怒鳴ろうとしたが、それより早く相手の姿が崩れ出し、ごろつきたちは悲鳴を上げた。
 ミミクリーでごろつきに変化して入り込んでいた嵐淡が、さらに姿を変えただけだが、襲撃で動転している頭ではそこまで考えが及ばなかった。
 茶色い不定形の訳の判らない恐らくは生き物と化した仲間に、気の弱い者など腰を抜かしてそのまま引っくり返る。
「何もせんと気ぃ失ぅてくれるんは、うちのやる事減って楽やけど。‥‥でもおたくら、ごっつう情け無いで」
「なななな! 何だ、お前は!!」
 もはや金の事も頭に無く。一刻も早く逃げ出そうと青い顔していたごろつきに、裏で張っていた飛鳥は露骨に肩を落とす。
 よほど驚いたのか。こうして単に対峙しているだけでも、足を震わせている者がいる。
「まぁ、ええわ。うちも人斬るんは苦手やし。何も持ち出さん言うんやったら、変な加減もせんでええし」
 納得すると、鉄扇を広げる。
 レミエラが輝く事しばし。逃げ出したいごろつきが駆け寄るよりも早く飛鳥が鉄扇を振るうと、起きた風が衝撃波になったようにごろつきたちを捕らえてうち倒す。
 なおも逃げようとする者には、柴犬の小烏丸が追いすがって足に咬み付いている。
「こっちに残る者はなし。となれば、自分も支援といかせてもらおうか」
 もはや逃げる事しか頭にしかないようで。屏風を持ち出す気概ももう無いと判断して、嵐淡が元々の姿に変わるとマグナソードを手にぐずぐずと残る者へと斬りかかる。


「全く、どこから集めたのか。きっちり白状していただきますからそのつもりで!」
 逃げた者も多少いるが、大方は捕らえた。お縄にした小悪党たちを、貞光はじろりと睨みつける。
「逃げた者もその内何かして捕まるだろう。‥‥さあ、きりきりと歩け。まずは牢屋で休んでもらおう」
 縄で繋がった悪党たちを、響耶が連行して行く。不服そうにしながらも、その格好では何も出来ず。おとなしく京都見廻組まで引っ張られて行く。
「屏風も無事で何よりですが‥‥大二さんはどうなったのでしょう?」
 その他の盗品と共に、屏風は所在を確認。安堵の息を漏らした建一がふと首を傾げる。
「女の所に行く途中を捕縛したそうだ。思考を読ませてもらったが、今一つ反省の色は見られない。親御さんたちにはその旨を伝えてはいるが‥‥どうするかは向こう次第だ」
「屏風は家の物を持ち出しただけやし、盗んだとも言われへん。余罪も調べるやろけど、案外はよ外に出てくるんちゃうやろか。
 今回の事がええきっかけになってくれたら思うけど、親御はんもほんま苦労しはるで」
 ある意味、諸悪の根源である息子の大二。その今後はといえば、今一つ明るくはなさそうで。
 馬鹿息子を持つ親の苦労を思い、一同は誰もが同情を隠せなかった。