【祇園祭】 京都見廻組・人攫い調査

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:7 G 30 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月19日〜07月24日

リプレイ公開日:2008年07月28日

●オープニング

 祇園祭。
 祇園社(八坂神社)の祭礼で、1日の吉符入りを始めに一ヶ月に渡って行われる。
 祇園御霊会、と呼ばれるように、そもは疫病流行を止める為、神泉苑に国の数だけ鉾を立てて祇園の神を祀り、災厄除去を祈ったのが始まりとされる。
 期間中は多彩な行事が行われるが、中でも有名なのが山鉾巡行。独特な囃子の中で、山鉾が各町を練り歩く。
 夕方からの神幸祭で三基の神輿が暴れるのを前に、粛々としながらも荘厳な巡行は、京内外からも注目が高い。

「祭見物に多数の人が訪れるので警備だがな。特に今年は延暦寺の乱があったばかりで、いろいろと荒れている」
 冒険者ギルドに訪れた京都見廻組・渡辺綱。
 祇園社は延暦寺の支配下にある。影響が心配されたが、そこは各町の維持か誇りか、つつがなく祭は行われている。
 とはいえ、都自体はまだまだ復興途中。
 近年の乱続きや政治の不安定さも重なって、治安は一向に良くならない。
「実は、祭りに来た者から子供がいなくなったという届出が出ている」
 人ごみの中、はぐれてしまえば出会う術は少なく。人は多いが、であるが故に単なるすれ違いを覚えているような目撃者も少なくなる。
「毎年何件かあるのだが、今年は少し数が多い上その行方が掴みにくいと来ている。どうも悪質な人攫いが出たようだ」
 面目悪そうに、綱が口を曲げる。
 生活を失った人々が、にわか悪党に転じて横行している。それを踏まえて警備した訳だが、それで事件が起きたとあってはバツが悪い。
「それで。解決の目処はたっているのか?」
「勿論‥‥と言いたいが、それも微妙な所なんだ。それでこっちに来た」
 今度は正銘疲れたような溜息を落として、肩も落とす。
「銀蔵という男がいる。表向きは材木問屋だが、裏で怪しげな商売をしている素振りがある。わずかな目撃情報を頼りに子供たちの行方を洗った所、子供の一人が風体の悪い男と一緒に歩いている話があった。その後、その男が大金を持って銀蔵の店から出てくるのを見た者がいる」
 単純に繋げれば、男が子供を銀蔵に売り飛ばしたように思える。が、実際にその現場を見ている訳でもない。
 男は子供と別れた後で、店に行ったとも考えられる。
「男の方はどうした? 締め上げればいいだけだろ」
「一歩違いで京を出てやがった。が、それでますます話が胡散臭くなったという訳だ」
 不機嫌に鼻を鳴らす。しかし、証拠を得るのが難しくなったのは否めない。状況は怪しいがそれで確定するにもあやふやな部分が多すぎる。
 実際どうなのか。こっそりと探りを入れた所、男は銀蔵が昔世話になった相手の息子で、今その相手が金に困ってるので工面したらしい。が、それが本当という確証も勿論無い。
「近く、銀蔵は商談で他国に出る。勿論材木の仕入れだが、もし推測が正しいなら、子供らも裏で取引される恐れがある。が、これだけの話では見廻組もなかなか動きづらい。なので、冒険者たちに調べてもらいたい」
 銀蔵の悪事の有無。子供らが捕まっているならその保護。用心棒を幾人か雇っているらしいので、危険も予想される。
「銀蔵の店は街中にあり、材木の仕入れで川沿いに大きな倉庫も持っている。が、こちらも探りを入れてみたが、それだけでは怪しい様子は覗えなかった」
 銀蔵は夜遊びが好きで、毎夜のように歩き回っている。用心棒も雇い、その手勢もいるので、別の場所においている可能性もある。
 行方の知れない子供は十名。その全てが関わっているとも思えないし、そもそも全く関係ないのかもしれない。
「他の可能性も考慮して捜索は続ける。もし何かあれば、その時は子供たちの保護は勿論、手向かうなら斬り捨てても構わん」
 なるべく悪党は捕まえるに越した事は無い。が、そこらは時と場所にもよる。
 細かい事は任せるとの事。
 一つ頷くと、係員は冒険者募集の貼り紙制作にかかった。

●今回の参加者

 ea2562 クロウ・ブラックフェザー(28歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea7864 シャフルナーズ・ザグルール(30歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 ea9150 神木 秋緒(28歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb5868 ヴェニー・ブリッド(33歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)

●リプレイ本文


 祭の混雑に消えた子供たち。
 治安のよろしくない京の町では食い詰めた者が、小金求めて俄か悪党になる事も多い。
 人攫いの行方を捜して、浮上したのが一件の材木問屋。
 しかし、怪しさはあるが、確たる証拠が無い。
「それでは、こちらは他に見落としが無いか捜索していく。そちらは何かあればよろしく頼む」
「分かってるわ。京の情勢が悪化しているとは言え、そんな不埒な行為を許す訳にはいかない。見廻組の誇りに掛けて、必ずや子供を助け出し、悪漢どもを捕えてみせるわ」
 苦い表情で続けて捜索に赴く京都見廻組の渡辺綱を、神木秋緒(ea9150)は眼差しに強い意志を乗せて見送る。
「といっても、今の手がかりはその材木問屋の銀蔵くらいなのね。行方不明になった子達の身辺を聞いて回ったけど、不審な人影とかはなかったようだし」
 ヴェニー・ブリッド(eb5868)が僅かに柳眉を潜める。
 いなくなる以前から、子供を狙って不審者が出ていないかと探ってみたが、その手がかりは乏しい。
 攫われた子供は京外から来ている者もいる。行きずりの犯行という線が強かった。
「占いだと子供たちは今の所無事って出てるわね。それにしても子供を攫うなんて! 犯人は見つけ出してやっつけてやるんだから」
 神秘のタロットを整えながら、シャフルナーズ・ザグルール(ea7864)は声を荒げる。
 弱く身を守る力の乏しい子供を狙った犯行。それに憤るのは彼女だけではない。
「政情が安定しない限り、こういうのは増える一方だぜ。そんな急に状況が変わる訳ねぇし、目の前の事件を解決して行くしかねぇか」
「上に立つ者からして裏切りだのなんだのと規律を守らないんだもの。下の人間に守れっていうのが無理ってもんでしょ」
 複雑な表情でいる黒虎部隊隊士のクロウ・ブラックフェザー(ea2562)に、ヴェニーは軽く肩を竦めていた。
 とはいえ、世の大半の人間は真っ当に生きているのだ。そういうものだと投げ出す訳にもいかない。


 手がかりは怪しい銀蔵の行動ぐらい。となれば、その周辺を探るのは当然だろう。
 中でも襤褸を出しやすそうなのは銀蔵自身でなく、さらに身辺にいる用心棒やごろつき達か。
「いなくなった子供は十名。その全てが捕まっているとなると、隠すにはそれなりの場所が必要よね。銀蔵の屋敷と所有する蔵に怪しい所が無いなら、さらにその他がある訳で。子供たちの食事も必要だろうけど、人目も気になってくるわ」
「それに見張りもいる筈だ。商売が近いなら、銀蔵との連絡も取るだろう。ごろつきどもにそういう動きが無いか探ってみよう」
 銀蔵の周囲をうろつく用心棒達。その手足としてうろつくごろつきの後をクロウはつける。
 見張ったごろつきは用心棒達の連絡役としてあちこちに動き回る。
 途中、幾つかの店に立ち寄り何かを頼んで行く。
「御免。今の奴は何を言ってたんだ?」
「へぇ、そこの材木問屋が旅に出るそうなんで、その下準備らしいですよ。携帯できる食料や品を頼んでいかれました」
「何をどのくらい?」
 店の者が示した品は確かに旅支度だし、量としては些少。
 ただ、寄った店での買い物を合わせると、結構な量になる。
 誰がそれだけを消費するのか。
 それを考えると、クロウはますます気を引き締めて、さらにごろつきの動向に探りを入れる。

「じゃあ、私は該当しそうな屋敷が無いか調べてみるか」
 言って、秋緒は街中へと繰り出す。
 人の居ない場所では却って目立つだろうし、利便も考えれば人里から離れない方が勝手よさげだ。
 昨今のごたごたで、街中でも人気の無くなった箇所はある。そのどこかに拠点を設けている可能性は無いだろうかと考えた訳だ。
(「とはいえ、それが京のどこにあるかがまた問題よね」)
 京都も広い。そのいずこにあるのか分からない。まるで雲を掴むような話だし、そもそもそれで当たりかも分からない。
 しかし、そこで悩んでも仕方が無い。
 該当の家が無いか。子供の泣き声を聞いた事が無いか。怪しいごろつきが出入りしている家が無いか。秋緒は地道に聞き込んで回る。

 シャフルナーズは、用心棒に目をつける。
「兄さん、随分羽振りが良さそうね。一緒に飲んでいい?」
 休憩中なのか、酒場で呑んでいる浪人崩れに声をかける。
 いかにもな顔つきをしたその用心棒は、シャフルナーズを上から下まで見た後軽く笑う。
「あいにくまだやる事がある。他をあたれ」
「あら酷い。やる事ってこんな時間から一体何をするのよ」
「何でもいいだろう。お前には関係ない」
 素っ気無く言うと、用心棒は店を出て行く。
(「手強いなぁ。でも、早々羽目なんて外してられない時って事なのかしら」)
 顔色変えず、シャフルナーズは内心で冷静に判断する。
 材木問屋としても商売を控えている。確かにあまり粗相をしていい時期では無さそうだが。
 去っていく用心棒を名残惜しそうに見ながら、また別の誰かを探すフリをして、シャフルナーズもまた酒場を出る。
 

 向こうも用心していたのだろう。なかなか尻尾をつかまさなかった。
 とはいえ、商売として動き始めれば当然商品管理も必要になる。用心棒やごろつきの動き、不審な建物の情報などをいろいろと調べ上げていけば、怪しい一件の屋敷にたどり着く。
 郊外に程近い場所。山に埋もれるようにして残っていた古い家屋だった。
「反応あるわね。子供ぐらいの大きさが八、大人が三」
 物陰に隠れながら、ヴェニーがブレスセンサーの経巻を使う。
「部屋の構造まで分らないけど、一階に全員居るみたい。子供たちが固まって、その周囲に二人。他に一人があちこちうろついていたわ。世話係かしら?」
「だが、その人数なら問題ねぇな」
 言って、クロウが家の裏に回る。 
 秋緒は正面に回ると、派手に古びたその扉を開けた。
「御免! 京都見廻組よ。ここに子供達がいるわね! 中を検めさせてもらうわ」
「な、何事でしょうか!?」
 出迎えたのは、妙齢の女。とすると、言っていた世話係というところか。
 構わず進み、子供らのいるという部屋を開けると、中から抜き身の小刀を持った男が飛び出してくる。
「おとなしく捕まるならそれでよし。歯向かうなら容赦なく斬り捨てるわよ」
 突き立てられた刃をあっさり躱すと、秋緒もまた日本刀・無明を抜き放つ。
「ぎゃ!」
 その一方で、中にいたもう一人が悲鳴を上げた。その男の手には手裏剣が刺さっている。
「幼い子供を人質をとろうとは、とんでもない奴だな」
 部屋の隅に固まっている子供達。彼らを男が押さえる前に、裏から回ったクロウが手裏剣を投げて牽制。間に割って入ると子供らを庇うように、浪人らしい男達に向けて霞小太刀を構える。
「という訳で。あんたたちは子供達にとって危険だから、仲良く向こうへ行ってね♪」
 そして、ヴェニーがクロウと並ぶやストームを唱える。ヴェニーの前面、広がる暴風が男を部屋の外へと押し出してしまう。
 庭に転がり出た男二人に、秋緒が間合いを詰め、ヴェニーが援護に出る。
 性懲りも無く、反抗する二人とやりあう間に、情勢悪しと判断した出迎えの女が逃げようとしていたが、
「ひぃ!」
「あら駄目よ。貴女にも、聞きたい事はあるんだからね」
 そこは見逃さず。シャフルナーズが小太刀・陰影を突きつける。
 数の差と力量差もあって、その場の決着はあっさりとついた。


「聞いていた子供たちの人相に間違いはないわ。やっぱり捕まえてたのね」 
 子供らを保護し、大事無いと判断して、一同、安堵の息をつく。
 顔と名前を確認したヴェニーが安堵の息と共に、違う方向を睨みつける。そちらにあるのは銀蔵の屋敷。今もこの事態を知らずに、表の商売を勤しんでいる頃か。
「この顔は、銀蔵の店にもいたわね。声かけたけど、私の事覚えてる?」
 彼らの監視と世話係として置かれていた用心棒に見た顔があり、シャフルナーズが笑顔で話しかける。最も、当の用心棒達はむっつりと口をへの字にして、不機嫌丸出しで黙っている。当然といえば当然だが。
 京都見廻組に連絡して、子供らを確保し、改めて用心棒達を捕まえる。
「生き証人がいる以上、銀蔵も言い逃れられないわね」
 その足で、見廻組は銀蔵の屋敷に向かっていた。すぐに、そちらでもケリがつくだろう。
「そういえば居なくなったのは十人。見つけたのは八人。二人足らないが、どうしたんだ?」
 嫌な考えが一瞬よぎるが、綱があっさりそれを否定する。
「心配ない。一人は別件の迷子で、もう一人は家出だったらしい。どちらも先ほど家に戻った」
「おうおう。手を焼かせてくれるじゃねぇか」
 それで連絡のあった数に足りる。
 人騒がせなと苦笑しながらも、クロウの表情は明るかった。
 
 程無く、銀蔵捕縛の報も入る。本人はしらばっくれているものの、店を洗えば証拠の品も出てくるだろう。
 事情聴取の後に、子供らは滞りなく解放される。迎えに来た親達の元に走りよって行く子供達は不安から放たれ、元気そうだった。