【祇園祭】 京都見廻組・鴨川の水

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:5 G 55 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月24日〜07月29日

リプレイ公開日:2008年08月01日

●オープニング

 祇園祭。
 祇園社(八坂神社)の祭礼で、1日の吉符入りを始めに一ヶ月に渡って行われる。
 祇園御霊会、と呼ばれるように、そもは疫病流行を止める為、神泉苑に国の数だけ鉾を立てて祇園の神を祀り、災厄除去を祈ったのが始まりとされる。

 祇園祭が始まって間も無しの頃、そして、終了間近の頃に行われるのが神輿洗式。
 三基の神輿を四条大橋で祓い清める。その水に清められる事で厄除けや病から身を守るとされ、参列者も多い儀式だ。
「使われる神水は、朝に行われる儀式で組み上げた鴨川の水なんだけど。その鴨川でちょっと嫌な事起きてるんだよね」
 冒険者ギルドを訪れたのは坂田金時。子供のような顔に、深い皺を刻んで小さく唸る。
 鴨川は都の東を流れる大河。そこに最近、汚物や死体がよく流れるようになったという。
「水葬とか生活の廃棄物とかで流されたりはするのは普通だけどね。でも、これは桶に入れられたり、袋に入れたりして敢えて目立つように流されてるんだよ」
 しかも、沈まぬよう丸太に括りつけられたりしている。意図的に誰かがやっているのは確か。
 一つ一つは小分けされた些細な量だが、その数は尋常でない。水の淀みにでも引っかかれば、そこ一面に腐臭が漂う。
「以前も確か鴨川で死体を使った事件が起きていたが、それとは違うのか?」
「違うよ。手口が全然違うし、他の地域では特に起きてないし。どの道犯人はもう分かってる」
 ふと思い出してギルドの係員が問いかけるが、即座に金時は否定を入れる。その際、顔の不機嫌を更に強く描かれた。
「川を流れてくるんだから、上流を調べてみりゃいいだけだよね。そしたら、鬼たちが集まって流してるのが目撃されたって訳」
 それも一体二体ではない。熊鬼が八体に、下っ端として二十を超す茶鬼が入れ替わり立ち代り従っている。さらには、どこからか連れて来られたらしい十名ほどの人間が無理やり作業を手伝わされていた。
 鬼たちは何れも通常見かけるそれらより体格がよく、戦闘経験を積んでいると見た。
 だが、彼らが都まで降りてくる気配は無い。恐らく祭で人手が多く賑やかになってるのを知って思いついた、単なる嫌がらせだろう。
 だからといって放って置けるものでもない。
「死体は動物とかもあるけど、明らかに人のものもあるんだ。多分捕まってる人たちも、労働力兼材料って事だろうと思う。ゴミには汚物も混じってるし、神事の最中にそんな物が流れてくるのも困るよね」
 なので、儀式が始まる日までに彼らを排除したいと、怒りも露わに金時が訴える。
「‥‥ってか、それ京都見廻組の仕事なのか? 妖怪相手なら黒虎部隊だろ」
 都には治安部隊が多々あり、それぞれ専門が決まっている。もっとも、様々な政変とそれに伴う勢力格差でその境界はずいぶんあやふやになっているが。
 首を傾げる係員に、金時は「だって」と口を尖らせる。
「首謀者・熊鬼だよ。川を荒らしたり人を襲ったり! そんな事する奴がいるから銀が迷惑するんじゃないか!!」
 銀、とは、金時知り合いの熊鬼で、正確な名前は銀次郎。鬼にしては珍しく、わりと温和な性格をしていた。
 一時期金時と一緒に京で暮らしていたが、周囲の感情を考慮して今は郷里の山に帰っている。が、金時としてはまた京に呼ぼうと、無謀な野望は捨ててないらしい。
 鬼への悪評はその道の阻害に通じる。不機嫌の理由はそれらしい。
「悪い事する鬼はきっちりかっちり成敗し、困っている人たちを助けないと。でも、おいらじゃ手に負えないから協力してくれる人募集ね」
 軽い口調であっさりと。
 一体どこまで本気なのやら。とはいえ、放っておける事態でもない。
 私怨バリバリじゃないかと愚痴でも入れたい気持ちを抑えつつ、係員は冒険者募集の貼り紙を作りだした。

●今回の参加者

 ea0841 壬生 天矢(36歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea1966 物部 義護(35歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea9150 神木 秋緒(28歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb0862 リノルディア・カインハーツ(20歳・♀・レンジャー・シフール・イギリス王国)
 eb3824 備前 響耶(38歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文


「川の下流に対して露骨な嫌がらせ‥‥。一体何がしたいのでしょう?」
「まんま、嫌がらせがしたいんだと思うな」
「川は生活の基盤。嫌がらせでも地味に効くな」
 川を流れる桶や皮袋。中にはあまり口にしたくない目にしたくない物が入っている。
 流しているのは鬼で、鴨川の上流に巣食っている。
 その意味を分りかねて、首を傾げるリノルディア・カインハーツ(eb0862)に、京都見廻組の坂田金時と同じく備前響耶(eb3824)は似たり寄ったりの呆れた声を上げる。
 勿論、呆れているのは上流の馬鹿に対してだが。
「祇園祭の邪魔、というより本当に嫌がらせね。でも、鬼たちに捕らわれている人たちも居るなら放ってはおけないわ」
 浮かぶゴミに顔を顰めていた同じく見廻組の神木秋緒(ea9150)だが、その強い眼差しを鬼たちに向ける。
「鬼も気になるが、まずは人となっている者たちは見捨てられない。無事に救出せねば」
 依頼は京都見廻組だが、鬼退治であるなら壬生天矢(ea0841)の所属する黒虎部隊の出番。とはいえ、捕らわれている人を気になるのは、同じである。
「幸い、川の傍なら舟が使える。問題は上手く手に入れられるかだ‥‥」
 やはり見廻組の物部義護(ea1966)が川の上流を見つめる。
 告げるその間にも、川の合い間からは不要な物が浮き沈みして流れて来ていた。


 偵察に向かうリノルディアとは一端別れ。舟が手に入らないかを交渉する一同。
「あの辺で舟を動かせる人はいるだろうか」
「いいけど、何でさ」
 漁師や船頭など船を扱う者は多い。彼らから小舟を借りようとするが、理由を話すとさすがに鬼相手にはと難渋を示す。
 それでもどうにか舟二艘、確保は出来た。
「出来れば、舟を出す為に付いてきて欲しいのだけど‥‥」
「いや、それは。お役人さまの言葉とはいえさすがに御勘弁を。あっしも喰われたくはねぇんで」
 秋緒が言いにくそうに頼みはするが、相手は青褪めた顔で首を横に振る。
「まぁ、無理にとは言えないわね。鬼の側に近付く真似は誰だって怖いでしょうし」
 恐れる気持ちは十分に分かる。強くは出ずに、秋緒は意見を引っ込めたが。
「でも、小舟とはいえ船頭は居た方がいいと思うな。人質たちの体力も心配だけど、船遊びじゃないんだし、何かあった時の為にちゃんと舵取り出来る人が居てくれた方がいいと思う」
 少し首を傾けた後で、金時が告げる。
「一艘は俺でどうにかなると思うが‥‥。貴殿は舟は扱えないか?」
「無理」
 見下ろす響耶に、子供じみた仕草で金時はきっぱり首を横に振る。
「とすると、せめて後一人どうにかした方がいいかしら。‥‥その、請け負ってくれそうな人に心当たりないかしら」
「そうだなぁ」
 やや困惑ぎみに秋緒が尋ねる。
 行く気は無いのだろうが、気にはなるのだろう。船頭は腕を組むと真剣に使えそうな伝手を考えてくれた。


 夜の闇の中。皓々とした松明の灯りも全てを照らすには及ばず。隠身の勾玉で気配を消すと、逆に濃く生み出される影を利用して、リノルディアはその集落に潜入を果たした。
 小屋はあるが、夜目に見ても掘っ立て小屋程度。雨や夜露が凌げればそれでいいぐらいだ。もっとも、大半の鬼たちはそこいらの木陰で雑魚寝しているが。
 前日の晩にも、侵入し概ねの配置はすでに理解している。そして、捕まっている人間たちも。
(「酷い有様です‥‥。早くどうにかしないと」)
 どこからつれてこられたか、捕まっている人は老若男女問わず。小屋にも入れられず、この時間でも起きて河原にいた。
 生気の無い、やつれた顔。潰れても、すぐ補充できると思われているのか。碌な休憩も食事も与えられずに、終始碌でもない作業を行わされていた。
 周囲の鬼たちへの威圧もあって、体も心も酷使されている。見張りに起きている鬼たちが退屈しのぎのようにいたぶりながら、汚物を袋に詰めるよう強いていた。
 そんな様子は、他の冒険者にも昼の内に合流して詳細は告げてある。
 おそらくすでに動き、この状況を見ているだろう。
 リノルディアからはこの暗さで、他の者がどこにいるのかまではよく分からない。
 それでも、頃合を見計らい。リノルディアは鬼たちの大体中心部まで入り込むとライトの経巻を広げる。
 浮かび上がる光球。それと同時に、見張りの鬼たちが騒ぎ出し、その騒ぎを聞いて他の鬼たちも目を醒ます。
「いつまでぐずぐずと寝ているのでしょう? ぼやぼやしてないでさっさと捕まえて御覧なさいな」
 姿勢正しく、演説するかのように告げると、リノルディアは鬼たちの頭上を飛びまわる。
 侵入者に、鬼たちは斧を持ち出して打ち払おうとするが、宙を飛ぶシフール相手では分が悪い。
 業を煮やして投石を始めるが、それも身軽に躱されている。
「どうしました? シフール一人に怯えているんですか? 乗ってこないなら‥‥てぃっ!」
 騒ぎに乗らずに、人間たちへ作業を続けるよう脅していた鬼に向かって、リノルディアはシフールの礫を投げる。
 小さな礫だが、シフールが投げるとその威力は増大する。
「グアッ!!」
「ガアア!!」
「ギャ!!」
 かすり傷ではすまない傷をこしらえて、鬼三匹が悲鳴を上げる。
「ウガ! ウガアアア!!」
 怒りの声を上げる三匹に、他の鬼たちもいきり立つと、ますます声も荒げてその後を追いまわし始めた。
「グギャアアア!!」
 そして、茶鬼の一体が悲鳴を上げて倒れる。
 その背にはばっさりと斬られた後。そして、天矢がそこに立つ。
「後ろを見せるとは隙だらけだな。」
 倒れた鬼を一瞥した後、天矢は鬼たちに向かって構える。シフールを追い回して鬼たちは、突如現れた彼にぽかんとした表情を見せていたが、
「ゴブ? ‥‥ゴブゴブ! ホブゴ!!」
 また別の一体が騒ぎ出す。鼻をひくひくさせ、周囲を見渡し、すぐに小屋を指差した。
 いつのまにやら小屋からはもうもうと煙が立ち昇っている。中では炎が蠢き、勢いを増そうとしていた。
 騒ぎ出す鬼たち。それを人々はぼやっとただ見ていたが。
「静かに。鬼たちが騒ぎに気を取られている隙に逃げよう」
 不意の事態に鬼たちは対応できていない。が、その内意図に気付き、暴れ出すだろう。
 時間との勝負。迅速に響耶は捕まっている人たちに声をかけて集めて回る。
「バグ!! ウギイイ!!」
 目敏い一体が声を上げて、逃げようとしていた響耶たちを示す。
 それでようやく、他の鬼たちも何が起きたかを把握し出す。
「気付かれたわね。構わず行って! まずは安全を!!」
「分かっている! ‥‥上流に舟がある。そこまで走れ!!」
 火をつけた松明を手近な鬼に投げつけると、秋緒は日本刀を抜き放って叫ぶ。
 響耶も太刀・鬼切丸を抜き放つと、捕まえようと走ってきた茶鬼の首を刎ね、捕まっていた人たちに道を示す。
 間近で始まった戦闘に悲鳴を上げながらも十人ほどが示された方角へとひた走る。
「早く、こっちこっち!」
 川辺には金時と二艘の舟。そして、船頭一人。
 舟は気付かれぬよう、陸路を輸送して上流から運び込んでいた。
「慌てないで、落ち着いて! でも、急いで! って、そんなところでへたらないで!!」
 二手に分けて舟へと乗り込ませる。が、早く逃げようとつっかえたり、助かった安堵からか体力の限界からか河原に座り込んで動けなくなるなど、乗船にもたつく。
「こちらは任せて、早く安全な所へ」
「ああ、後は頼む!! 彼らを逃がしたらまた戻る!」
「それまでに終わらせるさ」
 捕まえた人たちを追いかけようとする鬼たちを、また別のところから斬りかかりながら義護が叫ぶ。
 邪魔をするなと振り下ろされる斧。躱せば、その重みで体勢を崩し、そこをすかさず霊刀・ホムラで斬りつける。
 その間にも何とか舟に乗せると、響耶もまた舟に乗り川へと漕ぎ出す。
「グオオ!」
 岸から離れ行く舟に追いすがろうとする鬼たち。
「行かせるか!!」
 すかさず回り込んだ天矢が、名剣・ブラヴェインを大きく振るう。
 生み出される衝撃波が複数の鬼たちを巻き込み、暗い飛沫を周囲に散らす。
 流れに乗った後も追いかけようとする者がいたが、到底追いつかない。石でも投げようとした鬼たちだったが、その姿がぱたぱたと倒れて行く。
 天矢の懐から飛び出した月のエレメンタラーフェアリー・闇月がスリープを唱えている。もっとも、鬼たちに凄まれると慌てて天矢の後ろに隠れてしまうが。
「さて、舟は行ったみたいですね。どうしますか? もう馬鹿はやめて、おとなしくしますか?」
 今度はウインドスラッシュの経巻広げ、リノルディアが鬼たちに語りかける。
「グウ、グウ。オマエ達、セキニン、取レ。代ワリニ、我ラノ、タメニ、働ケ!!」
「勝手な事を言わないで!!」
 地団太踏んで悔しがる熊鬼に、秋緒が切りかかる。


 熊鬼を始めに茶鬼たちが群がり、力任せに斧を振るってくる。
 囲まれては厄介ではあるものの、集った冒険者の技量は高く、生半な事では揺るがない。
 鬼の数は多く、捌くのに時間はかかったが、飛びぬけて窮地に陥る事も無く。
 捕らわれていた人の安全を確保した後、響耶もまた加わると、逃げ出す鬼なども出始め、程無くして現場は静かになった。
「‥‥といっても、これをここに放置しておくとまたぞろ妙な気起こされても困るよねぇ」
「黒華の役目は終わったと思ったが、仕方が無い」
「ま、荷車もあるしな。雪風たちはさほど疲れてないようだし」
 人々を安全な場所に送って治療して、現場に戻ってからも怪我を癒して回った金時。
 全て終わって一息ついたのも束の間、うんざりとした表情で告げる。
 天矢も似たような表情で周囲を見渡し、義護が肩を軽く竦める。
 日が昇って露わになった倒れている鬼の死体。数が多かった分だけ、周囲の陰惨な景色は相当なもの。
 逃げた鬼たちが早々戻ってくるとは思えないが、別組でも現れると困るし、これらが鬼たちの汚物の代わりに川を流れていってもつまらない。
 舟を輸送した大八車や、冒険者たちの戦闘馬を用いて、鬼たちの死体を川辺から離す。
「最後まで、面倒かけてくれたわね」
「もう少しの辛抱だ。頑張ってくれ」
 嫌な荷を引く雲竜に並んで秋緒は肩を落とし、響耶が影駿の首筋を叩いて励ます。
「今度はちゃあんといい鬼に生まれて来いよ〜」
 川に落ちる心配の無い場所まで運び出し、その他の目立つ不浄も取り除くと、金時が念仏を唱える。

 その日を境に、川を流れていた嫌がらせもぴたりと止む。
 助かった人々も、順当に回復し、帰れる者から順次礼を述べて去って行く。
 かくて、鴨川の流れはまた清らとなり、祇園祭での儀式を無事に迎える事が出来た。