【仮設村】 新撰組四番隊・奪われる食料

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:5 G 55 C

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:08月16日〜08月21日

リプレイ公開日:2008年08月25日

●オープニング

 比叡山の乱の最中、両方の負傷者を引き受けるべく設立された仮設村。
 平織領内近江坂本の南に平織軍が設置したそこは、今も千人程の人が保護されている。
 延暦寺が呼び寄せた予想外の鬼の行軍で都は破壊され、多くの者が家を始めいろいろな物を失った。
 あれから二ヶ月以上経ち、村も落ち着いては来ている。
 自発的に職や家を探して出て行く者も増えてきた。
 しかし、一度に問題全て片付く筈無く。依然多くの人が寄る辺もないままここでの生活を余儀無くされていた。
 そんな彼らの生活を援助する為、様々な支援があちこちから届けられてはいるのだが‥‥。

「村に届けられるはずだった食料が盗まれたらしい」
 冒険者ギルドに顔を出したのは、新撰組四番隊組長・平山五郎だった。左の目には特徴的な傷があるが、それを気に病む事も無く、きつい眼差しをギルドの係員に向けている。
「盗んだのは鬼だ。話によれば、小鬼どもを従えた人喰鬼の集団らしい。以来、味をしめたかその辺りに出没するようになった。再度荷を運ぶにも、迂回しては手間がかかるし、何より奴らに遠慮する義理など無い。故に鬼退治を村の方から願われた。その人手を借りたい」
「了解したが‥‥。頼まれたってのは村人からか? いや、これは単純な好奇心だが」
「責任者からだ。奪われた食料分の調達に奔走せねばならなくなった為、向こうに余分な人手が無くなったそうだ」
 戦があったのはかれこれ二ヶ月前。
 当時はいろいろあった支援も、最早過去の出来事とばかりに打ち切る所が増えてきた。
 支援が先細りで減ってきても、村自体はまだまだ問題を抱えており、簡単には解決しない。
 元々資金繰りが十分と言えなかったのが、昨今ますます苦労するようになり、鬼の襲撃はさらにその追い討ちとなった。
「にしても。平織の方で鬼退治となれば、黒虎に頼むもんだと思ったが」
「現場は京外になるからな。何れにせよ管轄外だ。そんな場所に士気の落ちている奴らを送り込んで何かあっても困るとでも思ったんじゃないか」
 平然と告げる平山。
 確かに、京の治安部隊がおいそれと京を離れる訳にはいかず。黒虎部隊も虎長の復活以降はまた勢いをつけてきているが、新撰組には及ばない。
「こちらとしても管轄外は同じだが、平織ばかりに調子づかれても困るからな。だが、こぞって京を出て行って何かあっても困る。なので、ある程度の手勢は京に残し、足りない分はこちらで賄おうと声をかけた」
 四番隊からは平山と隊士四名が赴く。
 出没する鬼は人喰鬼が六体に加え、小鬼が二十体という集団。さらに現場は山の斜面に挟まれた谷底のような場所。夏の木々がうっそうと茂って視界も少々悪いという。
「まぁ、自信が無いなら断っても構わんが」
「そういう言い方はしない方がいいと思うがな」
 愛想無しに告げる平山に、係員はちっと小さく舌打ち。
 それでも悪びれない相手にそれ以上告げる事無く、冒険者募集の貼り紙製作にかかった。

●今回の参加者

 ea2445 鷲尾 天斗(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea9455 カンタータ・ドレッドノート(19歳・♀・バード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb1758 デルスウ・コユコン(50歳・♂・ファイター・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb2064 ミラ・ダイモス(30歳・♀・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb5868 ヴェニー・ブリッド(33歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 ec4117 ラグナート・ダイモス(26歳・♂・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

木下 茜(eb5817

●リプレイ本文

 仮設村の行く末は今だ定まらず。
 乱直後に比べて落ち着いて来ているとはいえ、支援を必要とする人も相変わらずで。
 そのやりくりも大変な最中に、ちょっかいをかけてくる鬼は、厄介であり面倒であった。
「しかし、平山さんがこういう依頼を受けるとは思わなかったなぁ」
「確かに管轄外ではあるがな。仮設村は神皇様の慈悲の賜物。そこに都の仇敵が今また仇なそうというのであれば見過ごす訳にもいくまい」
 意外だと目を丸くする新撰組一番隊士組長代理の鷲尾天斗(ea2445)に、四番隊組長はといえば表情も変えずに当然と告げる。
 運ぶ荷車のきしむ音。その警戒には他にも冒険者たちと平隊士たちが従っている。
 鬼たちが山道をどこから来てもいいように、荷車を囲んで周囲に気を配る。
「そろそろだぞ」
 以前、荷が鬼に襲われたという地点に差し掛かり、平山が低く告げる。
「敵地に侵入という訳か。もっとも、ここも平織領内。新撰組には鬼が出ずとも気になる所」
「平織も神皇さまの臣下であり、その守護を担っている。敵ではない‥‥ひとまずはな」
 軽口叩く天斗を、平山は鼻で笑うが目は笑っていない。味方ではあるが、その存在はいろいろと複雑なものだ。
 襲われた地点は聞いてた通り、道幅はあるが左右は斜面で押し寄せるような圧迫感がある。鬱蒼とした木々が乱立しており、視界良好とは言い難い。
 小柄な小鬼は勿論、大柄な人喰鬼が身を隠すのも容易いだろう。
 表面上は変化無く。されど、これまで以上に警戒を強めながら山道を進む。しかし、襲撃は無い。
「動きが無いまま、通り過ぎて無事に村につけても困りますよねぇ。ここは一つ、彼らに出てきてもらわねば」
 視線を走らせるが、風や動物が揺らしただろう動きしか見られず。
 カンタータ・ドレッドノート(ea9455)は愛馬ならぬ愛驢馬のタムナスさんに跨ったまま、取り出したクレセントリュートを奏で出す。

 旅人が〜路を往く〜♪
  鬼たちが〜躍り出る〜♪

 瞬間、銀の光がカンタータを包み込んだ。歌い上げる声に魔力を乗せて、メロディの効果で誘いだそうというのだ。
 果たして。
 呪歌が効を相したか、はたまた声を聞きつけたか。
 左右、迫る斜面から降るような投石が始まった。
「いたた! 歌のお礼ならもっといい物下さいよ」
 驚くタムナスさんを宥めるや、手当たり次第にぶつけてくる石から身を庇いつつ、カンタータは地面に降りる。
「いや、上等でござろう。大した上物がおいでになった!!」
 氷晶の小盾で身を庇いつつ、きっ、とラグナート・ダイモス(ec4117)が山を睨む。
 視線の先で草木が騒ぎ、金棒振り上げ人喰鬼たちが姿を現す。
「グオオオー!!」
 草を踏みつけ、木々をへし折り。援護の投石がぶつかろうとも気にも留めず、素晴らしい早さで一直線にこちらへと駆けて来る。
 その後ろを、子供がはしゃぐように斧を振り上げ従う小鬼たち。投石はまだ続いてる所からして、他にもこそこそ隠れている奴がいる。
「さすが、比叡山の近くだけあって鬼の動きが盛ん。――隊士の方は、魔法系の方の護衛と小鬼排除をお願いする!!」
「小鬼程度なら護衛は一名で十分でしょ。後は平山さんと前衛をお願い」
 ラグナートが告げると、カンタータが言い返す。確かに小鬼に寄られるよりも人喰鬼に来られる方が危険だ。
 唸りを上げて金棒振り回す人喰鬼。迎え撃つ冒険者。
 現れた人喰鬼は六。恐ろしく力を持った鬼だが、集った冒険者たちの力量を持ってすれば対処は十分に可能。
 だが、それも順当に組み合えればだ。
 従う小鬼たちは全くの小物。この冒険者にしてみれば朝飯前にもならぬ敵だが、数がざっと現れた数だけ見ても十を超す。それらが一気に数に任せて群がってくればどうしても手に余る。
 また事前報告からすれば投石している小鬼たちもまた同じ数だけいるはず。その投石にしても当たれば痛いし、目に当たればさすがにまずい。
 人喰鬼たちと小鬼たち。それぞれを対処していらぬ邪魔をいれさせぬようにするのが得策と踏む。
「所詮、鬼なんてケダモノ。人の論理を当てはめる事自体が変ってものなんでしょうけど。ここを襲うとどうなるか、体験させてあげるわね」
 きゃあきゃあと声を上げる小鬼たちに向けて、ヴェニー・ブリッド(eb5868)がストームを唱える。
 荒ぶる風が折れていた枝ごと、小鬼たちの半数ほどを巻き込んで吹き飛ばす。
「‥‥さすがに人喰鬼は倒れないわね」
 その派手な顔立ちを少し不服げに歪めるヴェニー。だが、元より小鬼相手に放った技。たまたま範囲に入った相手に長々と悔やむ事もしない。
 むしろ倒れなかったが為に、人喰鬼の周囲から取り巻きが消える。
「グルルル!!」
 却ってせいせいしたとばかりに、人喰鬼は笑う。足を止める事無く、手近な獲物目掛けて金棒を振り下ろした。
 振り下ろされたそれを飛び出したラグナートは盾で受け止めた。
 続けざまに打たれた二撃目もやはり受け止めるや、すかさず皆朱の槍を振るう。
「ふぬん!!」
「ガアア!!」
 重い槍はさらにその倍化する威力で人喰鬼の筋肉を切り裂いた。
 一気に瀕死に近い傷を負い、人喰鬼が血をほとばしらせ、よろめく。
「グウウウ!」
「ガウガウ!!」
 それで一気に辺りの空気が変わった。
 仲間が倒れたのを見て、他の人喰鬼たちの表情が険しくなる。
 どこか調子付いていた気配も、今や殺気に取って代わった。本気になった目で冒険者たちを睨みつける。
「退かずに闘争心をかきたてられたという事ですか。さすが、高位の鬼は気性も違います」
 デルスウ・コユコン(eb1758)がどこか感心したように告げる。
 小鬼たちはと言えば、すっかり怖気づき、攻めようか逃げようか慌て中、といった感じだ。
「逃げるんでしたら、さっさと逃げた方がいいですよー」
 刀で踏み込まむには距離がある。その油断から躊躇し動きを止めた小鬼に向けて、容赦無くカンタータは呪文を詠唱。小鬼たちの足元、影が破裂する。
「ブアアアア!!」
 気が緩んでいる時に、思いもよらぬ足元からの攻撃。魔法の力など、足りない頭に理解し難く、訳の分からぬ事態に小鬼たちは動転して一気に逃げ出そうとする。
「この程度ではね。もう少し身に染みてもらわないと」
 言うや、ヴェニーがまたストーム。転んだ小鬼には平隊士が刀を振るい、さらに遠くへ逃れた小鬼にはライトニングサンダーボルトを仕掛ける。
「逃げる方はお任せしてもいいようですね。しかし、無謀な者はこちらが対処しましょう」
 逃げたくとも逃げおおせそうに無い。そう考えたか、斧を構えて向かってくる小鬼も少なくない。
 人喰鬼に加勢すれば、まだ生き延びる道はある。判断は間違って無いが、そう易々成し遂げられるものでもない。
 小柄な鬼が斧を持って突進してくる。下手な構えは素人そのもの。
 そこに向けてデルスウが、右手の宝剣バリサルダを振るう。
 放たれたのは衝撃波。武器の重さを乗せる為にさらに大降りで隙も大きかったが、小鬼程度に負ける技量でもない。
「ヒギイイ!!」
 全身を己の血で染めながら、小鬼たちは次々と地に倒れる。
「今だ爪跡消えずの仮設村の状況‥‥。その物資を狙うなど、言語道断。恥を知るべきでしょう!」
 統制乱れる小鬼と違う意味で、人喰鬼たちもまた個々に動き出す。
 鼻息も荒くその鋭い歯を剥き出し、敢然と挑みかかってくる。
 遊びは無し。情け容赦は端から無く、金棒で音すら破壊するかの如く殴りつけてくる。
「くっ!」
 ミラ・ダイモス(eb2064)は氷晶の小盾で受け止める。その重さに体が傾ぎかけたが、堪える。
「のこのこと現れたのが運のつきです。後顧の憂いにならぬよう、ここで果たさせてもらいます!!」
 霊刀ルイが唸る。ミラは事前にオーラエリベイションを唱えているが、それに頼らずとも剣技はすでに超越している。
 ミラが大降りで動きを鈍らせたとはいえ、その動きに反応できたのは人喰鬼も天晴れと褒めるべきか。
 しかし、ミラの一撃は止めようと構えた金棒すらもあっさりと断ち切り、鬼を両断していた。
「白銀の騎士をその程度で貫けると思うな!」
 倒れた鬼には見向きもせずに、次の鬼に刀を振るう。
「武道大会では、鬼より強い相手と戦う事もある。姉上には負けてはいられぬ」
 ミラの勇姿に弟も続く。
「一つ教育してやるぞ。食い物の恨みは怖いってな!」
 オーラの技で身の守り、士気、武器威力を向上させると、天斗もまた人喰鬼と組み合う。
 右に小太刀・新藤五国光、左に霊刀・ホムラ。両の武器を巧みに操り、金棒の乱撃を捌く。
 一つの刀で金棒を止めると、もう一つの刀ですかさず鬼を捕らえる。分厚い筋肉は刃すらなかなか通さないが、ならばと急所を狙い済まして刀を打ち込む。
 人喰鬼が苦痛に顔を歪めた。とっさに身を退きかけ人喰い鬼だが、すぐに踏み込んできた。
 その一撃をあえて受ける。急所だけは守って傷は軽減させると、天斗は即座に逃さぬよう踏み込み、その首目掛けて二つの刃を挟み込んだ。
 切断には至らず。だが、深手は負わせ、蹴りは速やかにつく。
「さ、鬼より怖い新撰組! どんどん来いや!!」
「残念だが、それで終いだ」
 平山が静かに刀の血を拭う。
 赤く染まった大地に、鉄に似た臭気を運ぶ風。
 彼らの他に動く者は何も無く、鞘と柄が合わさる音が響いた。

 荷車はそれらしく荷を積んではいたが、万一何かあってはまた運び直さねばならないと止められ、それっぽく見せたただの偽装。
 鬼の脅威を取り払った事を告げると、さっそく本物の荷が運びこまれていった。
「ひとまず酒を差し入れましたが‥‥十や二十程度じゃ、とても足りないですね」
 運びこまれる物資の量に、デルスウが頭を掻く。宴会にして、一部に恩恵が行くぐらいか。
「伊勢の斎王さまにお伝えして、物資をと思ったけど‥‥事の他厄介みたいね」
 とりあえず、村の様子を見て回ってミラが考え込む。
 物資は必要で今はまだ工面に四苦八苦しているが。やがて村人たちは出て行く身。そうすると、今度は折角の物資が余り兼ねない。
 そこら辺の調整をどうすべきか。村の責任者たちの模索が続いている。
「局長に頼んで、京都近郊にでも手に職をつける為の施設を作ってもらって、村人たちの生活の手立てとするきっかけに出来ないだろうか」
「新撰組の仕事は京の治安活動だ。彼らが夜盗にでも転じて捕縛するならともかく、何でも無いのに世話焼いて回れるほど京は暇ではない」
 悩む天斗に、平山は興味なさげにあっさりと告げる。
 確かに。局長に告げた所で芹沢鴨なら興味も持たない気がする。
 対して、近藤勇ならどうだろう。少なくとも何か手を打ってはくれそうだ。
 しかし、新撰組の仕事では無さそうだし、その権もあるのかどうか。
 感けて治安維持に手が足らなくなるなら本末転倒にもなりかねない。
「結局は、村の方にがんばってもらうしかないのでござろうかね」
 ラグナートが搬入に走り回る責任者の姿に肩を落とす。
 村はそもそも仮設で、長期で使用するなど誰が予想したか。
 抱え込んだ問題は、今のままだと増えはしても減りそうに無かった。