死の家

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 71 C

参加人数:5人

サポート参加人数:1人

冒険期間:09月07日〜09月12日

リプレイ公開日:2008年09月16日

●オープニング

 陰陽師といえば、神皇家に仕え、精霊魔術を駆使して京を守る尊い職業である。
 が。
 仕事が尊かろうと、それに就く陰陽師もまた人徳者であるとは限らない。
「まったく、下らん話だわい」
 その日、冒険者ギルドを訪れた陰陽師・蘆屋道満も人の手本となりそうに無い人格者だが、持ち込まれた依頼もまた大概だった。
 陰陽師は陰陽寮などの役職に就く事もあるが、こうした席がそう余っているわけではない。
 京外で主君を見つけて仕える者もいるが、生涯野に出て術の探求などを深める者も多い。冒険者もその口だろう。
 話の陰陽師も術の探求を追い求めた口だったが、そいつが追い求めたのは呪術だった。
 いかにして、人を呪い殺すか。また、それを防ぐか。その研究に没頭し、様々な研究を重ねた。
 僧侶に入門して神聖魔法を学んだり、レミエラにまで手をだしたりと非常に熱心だったらしい。
 ‥‥熱心なのはいいが、研究の内容が内容だ。
 近くの村々では犬猫が頻繁に消え、いなくなった人もいたとか。
 怪しいとは思っていたが、確たる証拠はつかませない。それでも一度はっきり調査するべきだと、その理由を模索している最中。
 そうこうする内に、そいつは死んでしまった。祟りだ罰だと騒ぐ者もいたが、その因果までは読み解く事は出来ない。
 ただ。
 無人となったそいつの屋敷で、程無くして怪異が起き始めた。
「怨霊に怪骨に餓鬼が合わせて三十体ほど確認された。人里離れた屋敷でこそこそ呪殺の研究となれば、自然何をしていたのかも検討がつくし、大方の予想を裏切らなかったという訳だ。溜まった陰の気が死人たちを呼んだんだろうよ」
 ふん、と道満が鼻を鳴らす。
「ともあれ、件の陰陽師は死んだが、そのやらかした事となると陰陽寮としても放っておけない。呪殺の研究とやらも野に放っておくには危険すぎる。妙な新技を完成させてそれが政敵に渡るようなら、下手すれば神皇さまの身も危うくなるからな」
 さすがに道満の表情も不機嫌に変わる。
 新しい術というのはなかなか完成するものではないが、未完成であっても残された研究材料を元にさらなる開発をする恐れがある。
 既存の術を上回り、害を為すようなら、知らぬ存ぜぬではいずれ危難を招きかねない。
「なので、それを防ぎ、内容を確認する為にも奴の家の物を押収しておく必要がある。
 それには、アンデッドどもが邪魔だ。奴らを掃う手を貸せ」
 ‥‥命令形と来たもんだ。
 何か一言言いたい気もしたが、そこはぐっと堪えてギルドの係員は商売用の笑顔を浮かべたまま、冒険者募集の貼り紙作成にかかった。

●今回の参加者

 eb1065 橘 一刀(40歳・♂・浪人・パラ・ジャパン)
 eb3583 ジュヌヴィエーヴ・ガルドン(32歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 eb3834 和泉 みなも(40歳・♀・志士・パラ・ジャパン)
 ec3981 琉 瑞香(31歳・♀・僧兵・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ec4110 刈野 十蔵(34歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ヴィクトリア・トルスタヤ(eb8588

●リプレイ本文

 人里離れた屋敷にて、その怪異は起こっていた。
 うろつく怪骨、通り抜ける怨霊、がちがちと歯を鳴らし獲物を探す餓鬼。いずれもアンデッドだ。
 屋敷の住んでいた陰陽師は呪殺の研究に熱心で、近隣では様々な失踪話が起きていた。犬猫がほとんどだが、時には人も含んでいる。これらの事象が繋がっている確たる証拠は無い。が、どうにも不吉な関連付けを考えずにはいられないのも確かだ。
「人を呪わば云々と聞いた事がありますが、真実のようですね」
 そして、陰陽師は死んだ。外傷は特に無く、健康状態は見るからに悪そうだったので体調を崩したのが原因とされている。が、そこに実は死者たちの祟りがあったとしても、驚くものは少ないだろう。
 話を聞いたジュヌヴィエーヴ・ガルドン(eb3583)にしても、笑うでもなく訝るでもなく、至極納得した表情を見せている。
「大方研究に明け暮れ、不摂生が祟ったのだろう。自業自得というものだ。‥‥全く出雲の件で忙しいというに、こんなつまらぬ死者どもに煩わされるなど。晴明も晴明だ。他に手はあろうに、わしを寄越すとはあの狐小僧めが」
 憤りを隠さないのは、陰陽寮から来た陰陽師・蘆屋道満。
 もっとも、その怒りは少々――ではなくかなり別方向に向かっている。
 陰陽寮でもかなりの術者であり、実力と共にそれなりの人望を集めているというが、前者はともかく果たして後者は鵜呑みにしていいものやら。
「亡くなった陰陽師さんのお屋敷はどのような所かわかりますか? そこで戦う以上、地の利を掴んでおかないと危険ですから。
 怪骨に怨霊、そして餓鬼‥‥。こちらも珍しいアンデッドではありませんが、何か変わった特徴があったりするのでしょうか」
 刃を合わせるだけが戦闘ではない。相手の情報を掴んでおくとおかないとでも、後の戦況に差が出る。
 なので、和泉みなも(eb3834)の質問はこれまた至極当然の内容ではあったが。
「そっちに資料が纏めてある。勝手に読んでおけ」
「は、はい」
 怒鳴られるように告げられ、みなもは肩を竦ませる。
「なんだか怖そうな方ですね。‥‥ととっ。何でもありませんよ。資料拝見させていただきます」
 そのやり取りを刈野十蔵(ec4110)は少し離れてみていたが、何気ない呟きも即座に睨み返され、慌てて頭を下げる。
「あの御仁はなるべく関わらない方が吉だな」
「ですね。軽く受け流す方がよさそうです」
 ひそひそと耳打ちしてくる橘一刀(eb1065)に、みなももしょうがないと言いたげにこっそり頷いてみせる。
 互いに思いあっても普段はなかなか会えぬ仲。
 仕事中に私情など言語道断とでも言われそうだが。怒られながら現場に向かうよりかは、緊張を解いて視野も思考も広く持たせた方が格段にいい。
 少なくとも、今はそう判断できる。そういう御仁だった。


 屋敷は、人目を避ける場所に建っているにしては立派だったが、やはり都で見るような家に比べれば粗末な建物。
 塀はあったが通常よりも多少頑丈だろう程度。
 その程度でも、獣避けとしては機能していたようで、今はアンデッドたちを表に出さぬ事に一役買っていた。
 勿論、怨霊には通じぬ話であるし、怪骨、餓鬼にしても、彼らが本格的に暴れ出せば、あっけなく崩れるに違いない。
「上に立つのはやはり無理そうですね」
 遠目から屋敷を確認して、みなもは小さく溜息。まぁ、山中だけあって枝ぶりのいい木も多い。上を取るのは難しくないと見た。
「安全地帯確保完了。秋風も気持ちいいですし、風鈴の音がある内はこの周辺にアンデッドは入って来れません。ホーリーライトも準備しておきますので、怪我があればただちにこちらに戻って下さい」
 琉瑞香(ec3981)が、木の枝に魔除けの風鐸を吊るす。風に揺られ、死者の嫌う金属音が細く周囲に広がって行く。
 続いて、瑞香とジュヌヴィエーヴでレジストデビルをかけてまわり、その際に瑞香は一刀に強烈な匂いの保存食を渡す。
 屋敷内部に留まられては戦いにくいし、あちこちから散発して出てこられるのも面倒。なので、一刀と十蔵が囮になって誘き寄せ、出てきたところを叩こうというのだ。
「そう上手くいくかな」
「私たちの身の丈に合った手段で行こうと思います。どうかお付き合い下さいませ」
 毒づく道満に、ジュヌヴィエーヴが愛想笑いで頭を下げる。
 その態度が良かったのか、ここで冒険者たちと争っても意味は無いと考えたのか。
 ともあれ、道満は鼻を鳴らしてじろりと睨みはしたが、それ以上は何も言わず他の者と一緒に待機する。

 崩れかけた門は、外から閂がかかっている。明らかに後から付けた物であり、陰陽師の死後、誰も立ち入らぬよう取り付けられたのだと分かる。
 簡単に取り除き、一刀と十蔵が内部に踏み込む。
 荒れ果てた家は、まさに死人たちの棲家にふさわしい。主に屋敷内部で蠢いていたアンデッドたちも、生者の気配を感じて、すぐに表に出てきた。
 ぎゃあぎゃあと啼き騒ぐ餓鬼ども。カタカタと骨を鳴らす怪骨たちが逃すまいと迫り来る。
 だが、それよりも速く飛翔してくる怨霊たち。
 青白く光る不可思議なその身が、気がつけば一刀の間近にまで迫っていた。
「くっ!」
 七桜剣に手をかける一刀。
 その鼻先を銀の光が掠めた‥‥ような気がした。
『きいいいいいいぃ』
 光に撃たれた怨霊が、まさしくこの世のものと思えぬ声で呻く。
「言わん事じゃない。ぼさっとするな。来るぞ」
 一体、何を言ったのやら。相変わらず不機嫌そのものの声で、道満が告げる。
 先のは彼のムーンアロー。命中率やその射程は申し分無いが、反面、威力に難を見る。
 一撃必殺とまではいかず、先の怨霊もたちまち復活。恐れをしらぬアンデッドたちは仲間が攻撃されても、それを苦にせず目の前の獲物――一刀たちに襲い掛からんとしていた。
 そこへさらに風切り音を立てて、矢が飛来する。
 射掛けているのはみなも。自身の身長のおよそ倍はある強弓・十人張を引いている。
 童顔相まって、まるで子供が遊んでるように見えるが、その腕前は達人以上。
 下級アンデッドを捕らえるなど造作も無く。三本の矢を纏めて番えて放っても、弓の魔力で実体持たぬ怨霊すら射抜き、餓鬼を地面に縫いとめる。
「さすがに怪骨は厳しいですけど」
 骨だけの体は、刺さる部分が乏しい。比較的狙いやすい頭蓋骨や骨盤に狙い定めて逃さず射抜くが、無茶はせず、まずは数の減らしやすそうなものから対処していく。
 前衛組も勿論ぼさっとしてない。
 後方からの支援を受けて、矢と魔法が降る中を機敏に動き、死者たちを斬りまわる。
「術を使わずとも、楽勝な相手ですけどね。念には念を入れてって奴です」
 疾走の術を使った十蔵の動きは速い。群がる死人たちの合い間を縫うように踏み込むと、日本刀・姫切で次々と斬り付けていく。
 アンデッドスレイヤーの威力はさすがで、肉は削げ落ち、骨は断たれ、怨霊の姿も揺らがせる。
「この調子だと、治療の必要はなさそうですね」
「ですね。怪我が無いのはいい事です」
 ジュヌヴィエーヴと瑞香。共にホーリーライトを掲げて、どこかのんびりと言葉を交わす。
 数こそ多いが、単体では成り立ての初心者が腕試しに倒すような相手ばかり。玄人の彼らの敵では無い。
 格闘に自身の無いのはジュヌヴィエーヴと瑞香、そして道満だが、彼らにしてもホーリーライトや風鈴の側にいる限りは敵も近づけない。
 そして、彼らからの行動は近付く必要がない。
 恨めしそうな目で餓鬼が近寄ってくるが、瑞香がコアギュレイトで縛り上げ、ジュヌヴィエーヴがピュアリファイを唱えると、それで最期。手負いだった相手は跡形も無く消滅してしまう。
 怨霊は壁も地面も透過する。そうでなくても荒れた庭。遮蔽物に紛れ、不意打ちをしてくる危険はあったが、そちらは瑞香がデティクトアンデッドで索敵している。怪しい所は先んじて指示を出し、注意を促している。
「全く。面倒な事だ」
 ふん、と鼻で息すると、道満が呪文を唱える。
 途端に、餓鬼の影が爆発。周囲にいた怪骨なども巻き込まれて吹き飛ぶ。
 死人たちを掃討した後、屋敷はいろいろと調査せねばならない。庭先とはいえ、そんな派手に動いていいのかと冒険者は心中疑問に思うが、依頼してきた道満自身が行っているのだから、まぁいいだろうと考えない事にする。
「数が多くて懸念したが‥‥。これで終いだな」
 七桜刀を掠めるように素早く振るい、的確に急所を狙って四肢を落とす。
 餓鬼や怪骨などは派手に体を崩し、動きを鈍らせる。その後を仕留めて回るのは簡単な作業だった。


「奴らはどうやら死んだ餌より、生きた物らしい。これは返しておこう」
 一刀が苦笑しながら、瑞香に保存食を返す。
「討伐完了。不死者の気配はどこにもありません」
 瑞香とジュヌヴィエーヴが屋敷中を一通り探索して回り、安全を確認する。
 冒険者側にも怪我は無く、誰もがしっかりとした足取りで屋敷の内へと踏み入れた。
「これは‥‥」
 そして絶句。家具は倒れ、床は剥がれ、壁も穴が開いている。
 日本の家は土足厳禁だが、アンデッドたちに荒らされて泥だらけで、とてもじゃないが脱ぐ気にはなれない。
「どの道、必要な物を運び出せばここは壊す事になる。構わん」
 と、道満の言葉で、遠慮無しに履いたまま座敷に上がる。
「何か危険な物を残しておいても困ります。怪しい物が無いかぐらいは確かめた方がいいとは思いましたが、こうも荒れてると何が何やらですね」
 ジュヌヴィエーヴが軽く両手を上げる。
「でも、陰の気が溜まる原因ぐらいはどうにかしないとまた寄って来ますよ。‥‥だからって腐肉や臓物の山を始末するのは嫌ですねぇ。ま、そういうのは餓鬼が始末してそうですけど」
 部屋の中を見渡し、顔を顰める十蔵。篭った死の匂いは、当分消えそうに無い。
「確かにその通りだな」
「い、嫌ですねぇ。ほんの軽口ですよぉ。脅かさないで下さい」
 不意に声をかけられ、十蔵が驚く。笑ってごまかそうとするが、しかし、道満は笑みを見せず厳しい表情のまま奥の部屋を顎で示した。
 奥の部屋‥‥というより、その向こう――裏庭か。
 巨大な穴が掘られており、辺りに散らばる茶色の枝。
 いや、それは枝ではなく、変色した骨だった。
「もしや、いなくなった動物や人たちの?」
「のようだ」
 掘り返された後には、共に埋められていたらしい着物も混じっている。首輪のような物もあるので、飼い主の確認も取れるだろう。
「こんな所に埋めたままでいるのも可哀想です。運び出してきちんと供養してもいいですか?」
「うろついていた死者たちももう化けて出ない様、弔いたいですし」
 漁られた惨状に、ジュヌヴィエーヴは目を伏せ頼み込む。
 瑞香にしても、これ以上の蘇りは遠慮したい。
 研究室らしき部屋を漁っていた道満は、幾つかの経巻を袂に入れると、好きにしろと軽く言い放った。

 死体で分かる物は親元や飼い主に返され様が、その前に調査も必要なので埋葬はさすがに駄目と言われてしまう。
 それでも、彼らがきちんと成仏できるよう。また陰陽師もこの罪を悔い改めているようにと冥福を祈る。
 彼らが引き上げる頃、連絡を受けた調査の一行がやって来る。
 骨の山にも莚がかけられ、丁寧に運び出されていった。
 なお余談だが、このあと志士を辞す事を希望した十蔵は、散々怒られた上で聞かなかった事にされた。