山の海月
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■ショートシナリオ
担当:からた狐
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:3人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月18日〜09月23日
リプレイ公開日:2008年09月27日
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●オープニング
長月に入っても秋到来と思えぬ昨今。
高山では紅葉が軽く色付き出しているが、蝉はまだ元気だし、日差しも暑い。
とはいえ、水は徐々に冷たくなり、海辺などではクラゲが漂い潜るのも一苦労。
さて、とある山中。海とは程近く、潮の臭いも風向きによっては漂ってくるその山道にて、妙な事が起こるようになった。
さほど大きな道ではない。人一人が歩くのがせいぜいか。
そんな道幅で大道にも通じていない為、通商には適さない。が、近隣の村へ出歩くのに便利なので、地元民はよく利用している。
その道で、歩いているとクラゲが降ってくるようになった。
奴らは木の上で待ち構え、下に人が通ると狙い定めて落ちてくる。ぐにゃぐにゃの軟体を利用して服の中に潜り込み、長い触手を絡めて人を麻痺させ昏倒させる。
そして、また服から這い出ると、おもむろに人に化け、すっぽんぽんのまんま海へと還って行くという。
「人に変化したり、ありえない山の中で発見されたりする辺りで、妖怪だと分かるな? 人を麻痺させるぐらいで後は何もしないが、麻痺の作用は半刻ほど続く。そんな長い間動けないままだと他の獣に襲われたりする恐れがあるし、そうでなくても蚊に食われてとても大変な事になる。またクラゲの毒にしても体質によっては死に至る危険もあったりするからな。
厄介な被害が出る前に、この一件を片付けてきて欲しいとの依頼だ」
ギルドに集った冒険者を前に、ギルドの係員が説明をしている。
受けるか否かは、冒険者の気持ち次第だ。
●リプレイ本文
紅葉がうっすらと色味がかり、夜ともなれば秋の虫の音が軽やかに山で歌う。
とはいえ、日のある内はといえばまだ日差しは暑く、耳を澄ませば蝉の鳴き声も聞こえるという夏の終わり。
山でクラゲに襲われるという、不可思議な事態が起きていた。
現場は街道ではないが、近くの村人などはよく利用している小道。このままでは迂闊に歩けないとギルドに依頼を持ち込んできたのだ。
引き受けた冒険者たちはクラゲ退治に出る前に、まずはそのクラゲがどんな物なのかなど幾つか村人たちに聞きまわる。
「化けクラゲが出る場所は聞きまわってきましたが、やはりほぼ同じ箇所のようですね。せり出した木が登りやすく、視界の邪魔にもなる‥‥といったら、山はどこもそんな感じですが。その箇所は近くに海があり、行き来がしやすいそうなんです」
セブンリーグブーツで先んじて村に入っていた妙道院孔宣(ec5511)が、村人たちから聞いた言葉をもう一度繰り返す。
化け妖怪とはいえクラゲはクラゲなのだろう。あまり海から離れたくないのか、出るのはその周辺限り。
なので、今はその現場の様子見に宿奈芳純(eb5475)が出向いている。その帰りを待つ間にも雀尾嵐淡(ec0843)は、化けクラゲにやられた人の治療に勤しんでいた。
「半刻も麻痺が続き動けなくなるとは、けっこうきつい毒です。人によってはその後も痺れが残ったり、腫れがひかなかったりと後に響いてますし、あまり油断しない方がいいですね」
幸い、どの患者も回復に向かっており、後の応急処置ぐらいで手当ては済んだ。
だが、それ程に強い麻痺が出る毒なら、抵抗力の弱い老人や子供が刺されては大変な事になる。なるほど、確かにこれは安心できない、と改めて村人たちの不安を認識する。
「ああ、ここにいましたか」
村人の治療も終わり、続けて情報収集の傍ら茶を啜っていた彼らに、山から戻ってきた芳純が声をかける。
「どうでしたか?」
「厳しいですね。人型の姿で動いている分にはどうやら人に準じて体温を持ってるようですけど、クラゲの体温だと周囲に紛れますし、大きさも小さいので見つけにくくなります」
出るという現場周辺を、遠くからインフラビジョンにエックスレイビジョン、テレスコープを重ねて化けクラゲを探していた芳純。
しかし、温度で見分けるインフラビジョンだが、クラゲの温度はずば抜けて高くも低くも無い。
人に変化している時はまさしく人のように動いて見える様子だったが、木に登ってクラゲに戻ると木に貼りついている事もあってかはっきりとした違いが見づらくなる。
「いるのは確かなので、村の人たちは近付かないで下さい。私たちも、少し休んだ後出向きましょう。そこで私と雀尾さんで探査し、発見できなければ近くまで接近して倒すという事でよろしいですか?」
「元より私は冒険者として経験は浅いですから、先輩方の方針に従いますよ」
芳純の言葉に、孔宣はあっさりと頷く。
孔宣は童顔で若く見えるものの、年としては他二人とさほど変わらない。それでも、こういう現場では経験が物を言う事も多い。
素直にそう告げると、勉強させていただきますとにこりと微笑んだ。
●
現場までの道のりは特に苦難も無く。道幅こそ狭いものの、村の人たちも利用するだけあって厳しい悪所もなかった。
それでもそんな小さな道なので、人が通わなくなれば山に埋もれるのも早い。
所々で雑草が幅を利かせるようになってきており、のんびりしていると道そのものが失われる可能性もあった。
「この道以外にも、街道伝いで近隣の村へは行けるそうですね」
「それは私も聞きました。ただそちらの道を使うと大回りになるので、やはり近隣の村へ行くにはこの道を通るのが一番だとか」
「村が閉ざされる危険が無いのは一安心ではありますが、それに甘んじていい状況でも無いという事ですね」
孔宣と芳純が、話しながら山道を行く。
夏の盛りを過ぎたので、手入れを怠りすぐに草だらけという危険は無いが、それでも村人にとっては心配の一つだった。
ふと気付けば。道の前に嵐淡が立っていた。フライングブルームで移動したので先乗りしていたのだ。
「この辺りが、問題の現場の筈です。空から少し覗ったのですが、化けクラゲらしい人影は見当たらずです」
ひとまずフライングブルームを荷物に片付けながら、周囲の様子を嵐淡はざっと話す。まぁ、一尺程度のクラゲ姿を空から探すのは厳しいので、分かりにくくても仕方が無い。少なくとも人が動いている様は見えなかった。
「クラゲだと陸上では干からびそうなんですけどねぇ」
「そこら辺も化け妖怪の所以なんでしょうか」
首を傾げる孔宣に、芳純も軽く頭を抱えながら告げる。
「リヴィールエネミーを使っているのですが、やはりそれらしいのは見当たりませんね。向こうがこちらを認識してないのか、そも敵対してないのか、単にもう少し奥なのか‥‥」
そのまま周囲に視線を巡らせる。
敵対していれば青白く光って見えるが、向こうがこちらを認識している必要はある。
これだけ話していれば声で気付くかもと思ったが、そもクラゲの耳とはどこだろう。
「デティクトライフフォースで見付からねば、厳しいかもしれませんね」
期待せずに唱えてみた嵐淡だったが、
「あ。反応ありました」
意外と言いたげな嵐淡。確かにクラゲは小さいが、虫に比べれば十分な大きさだし、一応生き物には違いない。
「場所は? いや、数を聞いた方がいいか」
「上にいます。丁度五体ですね。いけますか?」
聞いた芳純に、嵐淡は答える。
芳純は一つ頷くと、詠唱を行う。銀の光を纏うと、芳純はムーンアローを放った。
レミエラの紋様が浮かび上がり、周囲を照らす。放たれた月の矢は同時に五本。狙い違わず、クラゲたちを射抜いていた。
「わっ!」
攻撃されたからか、単なるものの弾みなのか。一体が孔宣に飛び掛ってきた。前衛でやや前に出ていたせいで狙いやすかったのかもしれない。
飛んできたクラゲを孔宣は避けたが、長い触手が僅かに掠める。
「大丈夫ですか!?」
「ええ、解毒剤もありますしね」
後続が来てもいいように、孔宣は一端その場から退く。
相手が相手なので、全員解毒剤は用意してきている。
幸い、掠めただけだからか。その場に卒倒するような事態には至らなかった。ただ、刺された箇所が酷く痛んだので、一応薬を飲んではおいたが。
距離を置いて孔宣が五本のムーンアローを放ち、嵐淡もミミクリーを使って腕を伸ばすと、刺されぬように気をつけながら、マグナソードで切り刻む。
攻撃にさらされ、クラゲが木から落ちてきた。通常のクラゲは波間を漂う程度だが、さすがは化け妖怪。その姿でも何となく逃げようとにじるように動いている。
だが、攻撃するほど速くもない。
刺されぬよう注意しながら、護法の薙刀で孔宣がクラゲの体を両断して行く。触手の毒は怖いが、それ以外はこれといって武器は無い。
その最中に、最後の一体がふと人の姿に転じた。
服までは化けられないのか、素っ裸のまま。
冒険者たちを見て、二〜三回目を瞬かせたかと思うと、くるりと背中を向けて逃げ出す。
さすがは人間形体。クラゲの動きと違って文字通り人並みに動く。
が、その姿を芳純のムーンアローが捕らえる。元より散々やられた後だ。
ぱたりと倒れると、観念したようにまたクラゲの姿に戻っていく。
「少し、悪戯がすぎたようですね」
孔宣は、一つ息を吐くと、他の四体と同じようにその身を両断した。
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化けクラゲを倒し終わると、今度は化けて出ぬよう丁重に弔う事にする。
「とはいえ。クラゲの弔いとはどういったものでしょう」
「そうですねぇ。‥‥山に出たとはいえ、元は海の生物。土に埋まるのも不本意なのではないでしょうか」
真剣に悩む嵐淡に、孔宣はひとまずクラゲの心情を慮って海に運びましょう、と提案する。
死骸を海に返し、そこから成仏するようにと経を読む。
長い真摯な祈りが終わると、それでは村人たちに無事を知らせに行きましょう、とまた山道を戻り出す。
帰ってきた冒険者たちを不安そうな表情で向かえた村人たち。
彼らの口からクラゲ退治の話を聞き、その脅威が消えたと伝えられて、ようやくほっと安堵の表情を浮かべた。
クラゲ被害者の傷はまだ残っているが、それも直に消える。
ようやく訪れる村の平和。
それは小さな平和かもしれないが、その積み重ねが大事だった。