【仮設村】 選択の時

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 55 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月01日〜10月06日

リプレイ公開日:2008年10月09日

●オープニング

 皐月に起きた延暦寺の乱。
 その乱の最中、非戦闘民や負傷者を引き受けるべく、平織領内近江坂本の南に設立されたのが仮設村だ。
 あれから数ヶ月を得た今も千人近い人々が保護されている。

 とはいえ。その内部はといえば、ずいぶん面変わりしている。

 乱の直後はそれこそ焼け出された人々が基本で、戦に追われ逃げてきた人々が着のみ着のまま生活をしている光景も珍しくなかった。
 乱が終わってしばらく経つと、やがて人心も落ち着き、逃げてきた人たちも身の振り方を考えだす。どこか帰るアテのある者や生活力のある者から村を出て行き、各自での生活を始めた。
 残されるのは生活力の無い者がほとんど。そういった者たちの為にも支援の手は緩めずにいた。が、結局の所、最低限食事がもらえ、住む場所や仕事の斡旋なども世話してもらえるという事で各地から生活に困窮していた人が集まり出し、中には戦とは無縁だった者も住み着くようになる。
 仮設村、といっても中にいるのは見知らぬ同士の集まり。顔見知りでも無い者が集まっているのだ。連帯感などどこにもなく、小競り合いはそこかしこで起きるし、その解決にしても力に頼る事の方が多くなっている。
 治安が悪くなれば逃げ出すようによそに移る者も多く、そして残るのは逃げ切れない者とそういった生活にむしろ適合している者たち。
 今となっては救護村というより、ちょっとした貧民窟と言った方が早い。

「このままでいい訳は無い」
 仮設村に関わる者の意見は一致している。どの道、永久に支援など出来ない。どこかで手を引かねばならない。
 が、どう手を引くかが問題だった。
 今すぐ、というのはさすがに責任放棄だ。ある程度村の行く末を考えてからでなければ。
 では村をどうするか、が意見の割れる所だった。
 元々仮設村は、あくまで避難民の一時引き受けとして突発的に作られた物であり、ここまでの長期化は想定外。故に、滞在に向いた仕様にはなっていない。
 なので、集まった人たちはどこか住み易い別の場所に移ってもらい、村は解体するべきだという意見。
 現在藤豊秀吉が聚楽第を建設中だし、都もそれなりに復興しているので仕事も無い訳ではない。開いた土地も探せばあるはずだ。
 が。仕事はあってもそれが向かないからここに集っているのだ。もう一度それを世話しても仕方が無い。また働けない老人や子供などもいる。土地にしても本当に行くアテがあるのか、まず受け入れ先を探さねばならない。解体を嫌がる住人もいるだろうから、その説得に当たる必要もある。
 それでも今の内から手を打てば、上手くいけば冬前には事は済むだろう――あくまで上手くいけばだが。
 あるいは。いっその事仮設ではなく正式な村として認め、ここで生活させるべきか。その許諾は得ているのでそれも一つの手だろう。
 そうすると家を出て行く必要なく、開墾も許され生活出来るだろう。が、今度は治安面が問題になる。
 今は支援として幾人かの侍が滞在しているが、支援の手を引けば当然彼らも消える。そうすれば村にはまとめ役がいなくなる。誰か長老役を選出した所で、生半な理由では当然反発する者も出てくる。下手をすれば無法地帯になる可能性も考えられた。
 開墾自体も土を耕してすぐに実るものではない。またそれで食べていけるように為るには数年はかかる。成果が出るまでの間、生活の為に村ぐるみで賊に転身するなども無い話でもない。
 何より、村自体が長期化を予想してなかった五月に作られた物。冬を越す設備が整っていない為、早急に冬支度を整える必要があった。

 何をどうやっても、やらねばならない事が多く。またそれも一朝一夕で済む用件ではない。
 だからといって、今の状態を続けていても負担が増すばかり。
「冬を越すとなると相当な準備をせねばならない。が、村の動向如何によっては、その支援の度合いも変わってくる。ひとまず冬が来るまでに目処をつけねば、今のままだとこちらとしても動きが取りづらい。なので、いろいろと話し合ってはいるが、出てくる問題への解決策も考えるとどうにも容易くは無い。
 なので、仮設村設立への働きが大きかった、冒険者の御意見も伺いたいのだ」
 冒険者ギルドを訪れた平織の侍は、疲れた顔でそう告げてきた。

●今回の参加者

 eb0764 サントス・ティラナ(65歳・♂・ジプシー・パラ・イスパニア王国)
 eb2404 明王院 未楡(35歳・♀・ファイター・人間・華仙教大国)
 eb2975 陽 小娘(37歳・♀・武道家・パラ・華仙教大国)
 eb3601 チサト・ミョウオウイン(21歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

 継続か、廃止か。
 五月、戦の避難所として作られた仮設村は、今その存続を巡って揺れていた。
 難民支援の活動は変わっていないが、これからの季節に更に厳しい事態となるのは目に見えている。
 そもそも村にいる人たちも大きく様変わりし、果たしてこのままの状態でいる事がいい事なのか悪い事なのかすら分からない。
 そこで、設立の基盤となった冒険者ギルドに紹介を頼み、意見を聞こうという事になったのだが。
「仮設村は、当初の設立目的であった非戦闘民や負傷者の一時収容所としての役目を終えており、もはや現状維持する必然性が無いと考えます。よって、これを閉鎖する方向でいきたいと思います」
 齢十四という年頃ながら、しっかりした口調でチサト・ミョウオウイン(eb3601)は、平織の侍たちに物申す。
「‥‥やはり、閉鎖か」
 どうするべきかは管理する侍たちの間でも意見が割れていた。が、改めてそう告げられると、誰も彼もが一様に難しい顔つきで考え込む。
 それ程、問題の多い場所と成り果てていた。
「あたしもチサトちゃんの意見に賛成だね。少し見回ってみたけど避難場所というより、都合のいい場所に居つきたいだけって奴らが目立つよ。本当に保護を必要とする人の為には却ってその方がいいかも」
 先に仮設村を視察して回った陽小娘(eb2975)も、強く切り出す。
「しかし、閉鎖するとなるとそれはそれで問題も出る。閉鎖時期や住民たちはどうする?」
 尋ねる平織の侍に、チサトがその事ならと進み出る。
「施設が冬を越せる造りで無い事と、各員の転居準備を考慮いたしましたら、冬本番前には閉鎖せねばならないでしょう。猶予を見て一月位は欲しいです」
「うむ。冬越しの支援を賄うのもまた大変になるからな。こちらとしては、それでいいが‥‥。だが急な話になる。住民たちが黙っていまい」
 冬の大変さがあるからこそ、今の時期に追い出される辛さもある。
 行き先が整わぬまま投げだされるとなれば、暴動すらおきかねない。
「このまま冬になるとタイヘンネ〜? いつ解体するかは問題ヨ〜? パンピーの事を考えたセニョリ〜タ・チサトの意見はもっともアル。
 パンピーたちの事も勿論、ミーたち考えてるアルね〜。そもそも、カセツヴィレッジは平織ホームアル♪ パンピーをいっそ平織サイドに呼び込むのはどーアルね?」
「‥‥ハゲは少し黙ってなさい。向こうさんが面食らってるじゃないの!」
「オー! ソーリー、ソーリーアルネ〜♪ ムーフーフー」
 サントス・ティラナ(eb0764)が意見を述べるも、その内容よりまず喋り方に向こうは目を丸くしている。
 気付いた小娘がこっそり肘でつつくも、当のサントスは気にせず豪快な笑いを披露していた。
「恐れながら。私は新撰組に属しており、皆様からすれば心象の悪い相手かと存じます。ですが、今はその肩書きに関係なく、あくまで一冒険者として意見を述べたいと思います」
 礼を取り、明王院未楡(eb2404)が告げる。
 新撰組の名に、僅かに渋面を作られはしたものの、何も言われる事なく先を進められた。
「彼らを移す為、京に新たな施設を大掛かりに作らなくても、尾張なら商家や農家も余裕があるでしょう。お市様の治世で活気付くかの地。奉公や養子の目処さえ皆様に骨を折って貰えれば、尾張までの案内と旅費の算段だけで、多くの孤児達を救う事が出来ると思います」
「確かに。働き手を欲する者はいようし、その支度金ぐらいはこちらも用意できるかもしれないが‥‥」
 平織の面々が顔を見合わせる。
「勿論、全ての住民を尾張に移動させる訳ではありません。京都内外で寺社を当たり、子供や老人などを少数ずつでも受け入れられないか、私たちの方でも交渉してみる所存であります」
 言って頭を下げると、平織たちもそうかと頷く。
「とりあえず、詳細はまたこれから煮詰めるとしても。仮設村は解体、住民たちは受け入れ先を探す、という事で構わないのだな」
 念を押した言葉に、冒険者たちは一斉に頷く。
「分かった。ではこちらでもその方向で考えて行くとしよう」
「ありがとうございます。つきましては、ささやかながら私たちの方からも幾ばくかの支度金と物資を寄付させていただきたいと思います。ほんの気持ちでしかありませんが、神皇様、そして、お市様のお心を広く知らしめる為にも有意義に御使い願います」
 意を決して強く言い放つ平織の侍。
 冒険者たちを代表して、未楡が用意してきた金と品を差し出す。それがどの程度役立つかは分からないが、神妙な顔で平織の侍たちは受け取っていた。


「戸籍のような物はあるのでしょうか?」
 チサトが尋ねた所、侍たちは顔を曇らせた。
「一応、無い訳ではないが‥‥」
 村の把握と管理の都合で調べてはいるらしい。
 が、村の出入りは激しく、全てを把握するのは難しい。
 村を解体すると決まれば、さらに出て行く者は増えるだろうし、どれだけ役に立つかは分からないとの話だ。
「それでも、支援の割り振りには必要ですから、把握できる分だけでも作っておく必要はあるでしょう。こちらで健康診断を行いますので合わせて簡易ながら作成してみます」
 支援目当ての無就労者を除外する為、一定役務を課すと共に、選定には医局の診断を要すとする。
 と言っても、彼女自身は健康診断の知識は無い。他三名が行う間に、訪れたものの状況を調べる。
 その旨をふれで知らせ、必要とあらば各方面に説明をして回る。
「ココで冬を越すくらいなら、居心地のいい他の場所を見つけた方がいいでしょー? でも、動けない人たちは何とか救済したいな。ちっちゃい子のお母さんだって、主婦同士の互助会みたいなの作れば、育児とかも楽になると思うんだけどね。そういう受け入れ先を探すしかないかな」
 一通りの行動を終えて、小娘は考える。
 ただそれはするには地域に密着する必要がある。いつ来てどういう経歴かも分からない相手を信用して子供を任せる親はそういない。
 ただでさえ、雑多に集まった人たちがまた解体で各地方面に散ろうとしている。今の段階ではやはり厳しい。
「自堕落な悪漢がもう少し妨害に来るかと思いましたが、案外おとなしくしてますね」
 始めは困惑した未楡だが、よくよく考えればこれは当然。
 そもそも楽して暮らそうと考えるような奴が、楽する為に必死になるなど矛盾している。恐らくは適当に居付けるだけ居ついた後、また別のそういう場所を見つけて流れていくに違いない。
 妨害するだけの覇気を持っていた方が、まだどうにかなったかも。
 そう考えると非常に心中複雑だ。
「とはいっても、出て行く際に何か騒動起こす可能性もありますから。まだ気は抜けません」
 緊張した声で告げるチサトに、一同も頷く。土産の駄賃欲しさに、何かを盗んでいく輩とている。そうして逃げた輩が戻ってくる事も無い。どこにいったか追跡も難しいので、警備を固めるぐらいしか出来ない。
「かと思えば、そういう奴ら以外でごねる人もいるし。‥‥ちょっとこちらは厄介かもね」
 小娘が軽く頭を抱える。
 用意された村とはいえ、出て行けと言われて素直に応じる人ばかりではない。
 住み慣れた土地を離れて二転三転するのはもう嫌だ、何とかここに残らせてくれないかと訴える者もそれなりにいる。
 受け入れ先も用意する事をきちんと話して説得すれば、納得してくれる。が、それでも先の不安などを理由にどうしても残ると言い張る者もいる。
「ただのタダメシ喰らいなら、ハリセンでスパーンといけるんだけど、さすがに彼ら相手にはね」
 小娘の素振りもどこか迷いがある。
 そういう者たちは、いい加減この地を安住の地にして収まりたいのだ。叩いた程度で意見が変わる筈も無し、「凍死すれば?」なんて言おうものならその覚悟も出来ているかもしれない。
「彼らの考えもわかりますけど‥‥それを盾に無頼漢たちが騒ぎかねないのも気になりますわ」
 堪えるように、未楡も額に手を当てる。
 居残り希望組がいる内は支援もそう打ち切れず、それを見越して騒ぎを起こされでもしたら話がややこしくなってしまう。
 どの道、話が長期化するようでは冬前に解体など出来なくなる。のんびりしていては、あっという間に雪が全てを覆うだろう。
「そう暗くなってばかりではダメアルヨ〜♪ ミーのホットな話で明るくなるアルネ〜♪」
 いつでも笑顔のサントスが、やっぱり笑顔で話しかける。
「マダム未楡と、キョートのテンプ〜ル巡りしてきたアルヨ。おネガイ出来た所はまだまだ少ないアルが、手応えとしてはバッチリアルヨ〜♪」
 受け入れ先の寺を巡っていた二人。
 妖怪が住んでるような寺は住人の方が嫌がるだろうが、京都には寺社が多い。頼める所は沢山ある。
 丁度、延暦寺と袂を分かった朝廷が他宗派に対する支援を行い、活気付いていた。
 今となっては朝廷は延暦寺とまたヨリを戻したが、それでますます信者獲得に乗り出そうとする寺社も増えていた。
 そんな時に慈善事業を断ったとあれば、外聞も悪いだろうし、逆に受け入れれば名声が上がる。そんな算段も少しはあったのかもしれない。
「タイムが過ぎれば、考えもチェンジすると言うアル〜。しばらくしたら彼らの心も落ち着いて、意見もチェ〜ンジするかもしれないアル〜♪」
 笑うサントスにも一利ある。
 どちらにせよ、時間内に出来る事も決まっている。後の事は平織のサムライ達に任せ、ひとまずは京に戻る事となった。