京都見廻組 〜不正な利益〜

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:6 G 65 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月04日〜11月09日

リプレイ公開日:2008年11月12日

●オープニング

 歳の瀬も見えてきた京の都。
 そろそろ冬支度で何かと慌しくなる日々が続いている。
 だが、騒動が多いのも京の特徴か。無事に明るい新年を迎えられそうかといえば、懸念事項がいろいろと。
 鬼や人も気になるが、目下の関心は黄泉人だろうか。

「丹波の情勢悪化に伴い、京でも不安に思う人々が増えているようだ。‥‥この先どうなるかは分からん。こちらとしても何時何が起きてもいいよう、気を引き締めておかねばな」
 告げるのは京都見廻組・渡辺綱。
 ただの情勢確認や今後のあり方を確認するだけなら冒険者ギルドによる必要も無い。ここを訪れたのには、やはりそれなりの理由がある。
「京は‥‥幸か不幸か騒動が多く、故に腕の立つ治安部隊も多い。何より神皇様のお膝元だ。いざとなれば相応の戦力を持って対処できる。が、それに甘んじて暢気に構えてもらっても困るし、実際そう考える者は少ない。こちらとしても打てる手を打っておいてもらえる分にはありがたい」
 要は、最終的にどうあれ、自分たちで出来る分には自分たちで身を守ろうというもの。
 俄稽古の武芸を始める者もいれば、いつでも逃げられるよう荷物を纏める者もいる。
 その中で、なるべく侵入者を入れないよう、村を塀で囲む動きも目につくようになった。
「もともと獣避けの塀を持つところも多いからな。それをさらに丈夫にした程度だろうが無いよりはましだろう。ただ、昨今鬼の襲撃による大規模な復興事業があったばかりだ。藤豊様の聚楽第建設での買い纏めなどもあって、材木値段が少々上がってきている。そこへあらたに需要があったとなると、さらに値がつりあがる可能性もある」
 まぁ、目を覆う程酷い高騰はないと予測されている。柵に使う木材ならば材質問わないし、建築資材の余りで事足りよう。そもそも木が駄目なら石でもできるし、その方が手間はかかるが堅固にはなる。
 ただし、それはあくまで現状のままならばだ。
「先日、とある材木問屋の材木置き場で不審者三名による付け火があった。幸い小火で済み、商品も無事に済んだが犯人は取り逃がしてしまっている。身のこなしから見て、単なるごろつき程度のようだが、そういった輩が何の目的もなく付け火を行うとも考えにくい。恐らく、木材の需要を見越したどこかの輩が、より価値を高めて利益を独占しようとよからぬ腹具合を起こしたと見える。まったく忙しい時に手間をかけさせる事を」
 ちっと綱が小さく舌打ちををする。
「逃げた賊はその後動きが無い。が、もし考えを改めてないならほとぼり冷め始めたそろそろ、動き出しかねん。なので、見廻りを強化し不審あらば即捕まえてもらいたい」
 京は魔法を使う志士や陰陽師も多いので大火にはなりにくいが、万一の事もある。
 大火にならずとも、人の不安を利用するため犯罪を起こそうというのはあってはならぬ事だった。

●今回の参加者

 ea3891 山本 建一(38歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea7871 バーク・ダンロック(51歳・♂・パラディン・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 ea9150 神木 秋緒(28歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea9502 白翼寺 涼哉(39歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 eb1422 ベアータ・レジーネス(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 eb3824 備前 響耶(38歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文


 京の都に火付け騒動。未遂で終わったが、ただの悪戯で無いならまたどこかで繰り返される恐れがある。
 狙われたのは材木置き場。破壊があれば創造がある。鬼に破壊された都を建て直す為、多くの資財が用意されていた。
「一通りどの程度需要が増えているのかを調べてみたけれど。最近では、復興による建築はほとんど終了しているようね」
 他の面々と顔つき合わせて、京都見廻組の神木秋緒(ea9150)は低く唸る。
 比叡山の乱から数ヶ月。洛内洛外問わず概ね復旧している。出来てないのは壊滅的な痛手を被った村など。こういった所は再建を諦めて人は散り、廃村となってそのまま朽ちるのを待つばかり。
「藤豊が聚楽第建設を計画しているのは確かだな。だが、こっちは計画だけで着工にも至ってない。やる気だけはあるようだから、資財は押さえているようだが‥‥見込みは薄いな」
 疲れたように肩を揉むのは白翼寺涼哉(ea9502)。こちらは治安状況をついでに調べていた。
 全体の状況としては良くなっているが、それが彼の期待していた通りかといえば微妙な所だ。
 棲家の復旧がほぼ終わった事で人も戻り、市民の生活は少なくとも最低限は出来るようになっている。
 ただ聚楽第はさっぱりで。
 藤豊秀次を総監督とした建設計画はあるものの人が集まらず頓挫中。さらに奉行の一人に丹波藩の山名氏がいるのだが、概ねの人が知る通り、現在丹波藩自体がよその大事に構っていられる状態で無い。
 秀吉にすれば建設意欲はあるようで、いつでも進められるよう準備だけは進めている感じではあるが、彼自身、黄泉人・イザナミ対策で奔走する日々。
 来るべき戦に備える為にも余計な時間や金を費やす暇は無く、もう何もしないまま終わるのでは周囲では囁かれている。
 ちなみに、そのイザナミ戦の為に人手が集められており、元気な者なら戦に駆りだされている。職に溢れて食い扶持に困るより一旗上げる好機としてそれなりに需要があるそうだ。
 で。肝心の木材の行方についてだが、復興時の好景気はすでに沈静傾向にあったと見ていい。
 ただ、寺社仏閣の再建となれば格式もあり、民家を建てる様な安っぽさでは済まされない。その為、見合う予算の都合がつかずに置いてかれている所が多いが、寺社にしては出来れば早く元通りにしたい。
 自力で賄える所は見通したち次第再建に乗り出しているので、そういった大口の話はまだ残っている。
 また、値段が落ち着かぬ内に、柵にする為村々からの受注が増えてきたとあって下げずにそのままの売る店も多い。
 なので、かなり相場が不安定になっていた。
「それらも終われば、また値が下がる公算がある。高い内により高く売ってしまいたい、という訳か?」
 京都見廻組・渡辺綱が軽く息を吐く。
「何にせよ。欲を出して高騰狙いなら材木の売り渋りをしている可能性がある。‥‥可能性だけで言うなら、そもそもこの件、政治的な理由で京を狙う輩の仕業という線もあるが、それにしては稚拙だな」
「物価高騰を狙って、神皇さまの治世にケチ付ける奴らかもしれんぞ」
 こちらも同じく京都見廻組・備前響耶(eb3824)。
 涼哉は腹立たしげに犯人に憤っている。
「幸い日が経ってないので、犯人の行動は見れました。明らかに素人手口ですし、政治に関わるような輩には見えませんでした。勿論、わざとそういうのを雇う可能性もありますけど‥‥疑い出すと限無いですね」
 ベアータ・レジーネス(eb1422)が困ったように首を傾ける。
 ベアータは目撃日が効果時間内であるのを確認してから、パーストの経巻で過去視を試みる。おかげで見廻組が見逃した犯人の顔なども確認できた。
 その後、サンワードの経巻でその行方を捜すが、屋内にでも隠れているのか、そっちはさっぱりと引っかからない。
「経巻は魔力を喰いますからね。ソルフの実があるとはいえ、乱発するとすぐ限界が来ちゃいますが、とにかく出来る限り探してみます」
 金貨を手にすると、ベアータは日向で太陽と交信を始める。
「あいつにだけ任せっぱなしにする訳にもいかない。次に犯人がどこを狙うか、目星つくまで聞き込みだ。皆も歩くのだろう? 話を聞いて人相書きを作っておいた。よければ持ってってくれ」
 バーク・ダンロック(ea7871)が手際よく描いた紙を配る。豪快に墨が走る人相書きは、犯人たる三人の特徴をよく現していた。
 今回を最後に京都見廻組を辞職するバーク。宗教上の理由で、政治に加担せずに中立でいたいというのが理由だ。だからといって、そんなのには関係ない悪党退治に手を引くつもりなく、意気込みは十分。
「ごろつきは見つけても情報を手に入れる為生け捕り方向、でいいですよね?」
「ああ。奴らだけで企むような腹とは思えんからな」
 山本建一(ea3891)の確認に、綱は眼光鋭く彼方を睨みつけた。


 秋緒は材木問屋を回り、材木の備蓄量を探る。
「失礼。先日付け火騒ぎがあったの。こちらの材木が大丈夫か確認させてもらいたいわ」
 付け火騒ぎは本当で。人伝に聞いた所もあったのだろう。お役目ご苦労と各問屋は所有する材木を見せて回る。
「先の騒ぎで材木は売れたでしょうけど‥‥。需要があった分、あこぎな売り方をする店もあったんじゃないの?」
「うちはそのような事しませんよ。でもまぁ、この界隈も色々ですからねぇ。小さい所はこの機会にと必死ですし、大きな所も養う人多くて大変で‥‥」
 それとなく水を向けると、雑談程度に幾つか話し出す。
 時には個人的感情で悪口を並び立てる人もいたが、他と総合すると怪しい店は絞られてくる。
「もっとも、その怪しい店舗のどれが本星かは分からないわね」
 得た情報は適時他の者にも知らせて回る。
 ある程度数を減らせば見張るのは容易い。
 今度は、その店舗と反りの合わない、あるいは商売の邪魔になりそうな店を中心に探しその資材置き場を重点的に見張り始める。
「以前と同じ場所に現れるとは考えにくい。心理的にもなるべく距離を離そうとするだろうな」
 以前の現場を確認し、そこからどの辺りを調べるかを響耶は考える。
 現場検証として見廻組がうろついていたし、見付かる公算が高い。その裏をかくような輩とも思えない。
「同じ系列の材木屋も狙いにくいか? ‥‥だが、これは参考程度にしておくべきか。いずれにせよ、範囲は広い。油断せぬよう」
 言い置いて、また散る。

 出るかどうかも分からない相手。聞き込み捜査と見回りが行動の主となり。緊張したまま日にちだけが過ぎる。
「事起これば油と煙の臭いはするが‥‥。そうなる前に捕まえられりゃいいが、そうでなくても早期発見は大事だ。子龍、頼むぞ」
 傍を歩く柴犬に涼哉は語りかけると、相手は元気な鳴き声と共にわんと鳴いて尻尾を振る。
 と、そのまま毛並みを逆立て一心に吠え立て始めた。
「どうした?」
 涼哉の声にも反応せずに、一点を見つめて吠えまくっている。はっと気付いて、その方向へ駆け出す涼哉。
 向かった先にはとある材木問屋の商品が並べられている。そこに三人の人影。そしてちらりと見える赤い炎。
「言った矢先からか!」
 向こうも涼哉に気付いて、慌てて逃げ出す。
「ワゥ!」
「うわぁ!!」
 だが、逃げた路地から飛び出してきた柴犬に飛び掛られ一人が体勢を崩して傍の川に落ちた。
「よくやった影牙!」
 その後を現れたのは響耶。やはり煙に気付いたか。
 川に落ちた一人に涼哉がコアギュレイトをかける。その間にも、響耶はもう一匹の陰牙と共に逃げた二人を追う。
 知らせる呼子笛が周囲に響き渡る。
 相手は角を幾つも曲がり、響耶を撒こうとするが、そこは見廻組として地理も覚えている。逃げ足速しと聞いて装備も軽く、何があろうと逃がさぬ心情だ。
 向こうも捕まるまいと必死の逃げ。そして、また角を曲がるが、
「「ぎゃひーっ!!」」
 爆風と共に、こちら側へと吹き飛ばされてきた。
「彼らが犯人ですね! その顔‥‥間違いありません!」
 駆けつけたのはベアータ。逃げた輩は高速詠唱によるストームで吹き飛ばされたのだ。
 見事にすっ転んだ二人に、同じく駆けつけたバークがただちに取り押さえる。
「数が足りん。残り一人は?」
「向こうで白翼寺殿が押さえた」
「よっしゃ」
 やり取り短く。伏せていた一人を組み伏せる。
 だが、性懲りもなく、残った一人は直ちに立ち上がると逃走しようとする。
 そこに現れたのが秋緒と建一だった。状況を見るやすばやく動き、最後の一人も取り押さえる。
「一人でも押さえれば、そこからどうとでも調べはつきますが。わざわざ見過ごす程のモノではないですからね」
 見立ての通りに、腕の方はからきし。
 秋緒が軽く捻り上げると、ひぃひぃと泣きながら相手はただ喚いていた。


 付けられた火も発見が早く。騒ぎを聞きつけた一般人が手伝って、速やかに消火。幾つかの材木は使い物にならなくなったが、全てを失うよりもマシ。
「さて。どんな情報を出してくれるのでしょうね?」
 捕らえられた三人を見て、建一が静かに笑う。
 取調べるまでもなく。気が付いた後の三人は、状況を判断するや一様に自分たちの正当性を主張。あくまで人に言われてやらかしただけで、自分たちは悪くないと口々に騒ぐ。
「彼らの口にした材木問屋だけど、評判は良くないわね。こじんまりとやってきた店だけど、最近店主が代わって勢いついたそうよ。結構強引な事をよくやるようだったけど、この好景気に恵まれて欲出したのが運のつきって奴ね」
 秋緒が肩を竦める。
「奴らが悪くないという主張は問題外だが。店の捜索はただちに行うか?」
「当然。こいつらを押さえたのを知ったら逃げ出しかねんからな」
 響耶の問いに答える間も無く綱は準備を済ませている。
 そこから店主の逮捕。事の企みを自供させるまで、さほど時間はかからなかった。
 さらに、政治的に他藩との繋がりが無いか探っては見たが、そちらは何も出ず。単なる欲得の悪党だったが、それで罪が変わる訳でない。