妖怪を探して!!

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:10月24日〜10月29日

リプレイ公開日:2008年11月04日

●オープニング

 京の都にはもののけが住む。
 人を襲って殺める危険なモノから、人畜無害のどうでもいいモノまで。
 その結果、妖専門の討伐組織・黒虎部隊が設立される程。昨今では妖怪よりも人間の方が物騒で、様々な治安勢力が闊歩しているが、それでも完全に妖怪被害が絶える事も無い。

「きゃああああーー!!」
 そして今日も、妖怪たちによって、罪も無い人々の悲鳴が上がる。
 ただその悲鳴は恐怖より羞恥が如実に濃かった。
「わーはははは! 我らの勇姿を特と見よ!! ぽん垣も言ってやれ!」
「ふっ、ぽん空。何を言う必要がある! 愚民に我らの姿を見せるだけでもありがたやナンマイダ」
「その通りだ、ぽん児! さあ喚け、叫べ! そして崇めよ! 我らの存在を!!」
「はーはっはっは。ぽん索よ。崇めようにも、彼らに我らの崇高さは理解できるかな?!」
 大通りに並ぶ家並木。その屋根の上で仁王立ちしているのは十代の少年‥‥に見える妖怪たち。
 本性は化け狸。人に化ける以外は能が無い、無害な妖怪ではある。
 ただ、この四人組はいつでもどこでも素っ裸。狸の時は勿論、人に化けても服は勿論褌もつけない。今も腰に手をやり、しっかと立った足の間は風に吹かれてゆーらゆら。
 ぽん某で適当に名前を呼ぶと返事する辺り、おつむの程度もどの程度か。
「真昼間から何やってんのよ! 馬鹿狸どもがーーっ!!」
「「「「あ〜れ〜〜〜??!!!」」」」
 怒鳴りつけたのは陰陽寮所属の陰陽師・小町。経巻広げて念じると、屋根の上で高笑いをしていた四人組が、竜巻に巻かれて舞い上がる。
 そのまま四人は屋根を滑り落ち、地面に頭から突き刺さった。
「馬鹿狸〜捕まえたよー」
「いや、そこに縄括るのはやめてやろうな? 下手すりゃ死ぬし」
「馬鹿は死ななきゃ治らないんだよ?」
「そんな真顔で難しい事言われてもなぁ‥‥。一応こいつらに用があるから、それはまた今度で」
「ぶー」
 走りよってきた子供が、四人の首に縄をつけて引きずろうとしたのを、異国の青年がさすがに止める。
 彼らもまた人ではない。
 子供の本性は化け兎。やはり人に化けるしか能が無いもののけで、小町の家に住み着いている。名前はうさと呼ばれているが、本名かは定かでない。
 異国の青年はワーリンクスと呼ばれる山猫の獣人。日本ではあまり見ない種族なので、珍しさから小町に捕縛されている。昔の記憶が無い為、猫と呼ばれている。
「それでは皆さん、お騒がせしましたーっ!」
 何が起きたのか。唖然としている通りすがりの人たちに小町は元気良く一礼すると、胴体をぐるぐるに縛り上げられた狸たちを引き摺ってその場から立ち去った。


「で? そういうもんを連れてくるなよ」
 冒険者ギルドの係員は、顔を出した小町に渋い表情を見せている。
 彼女だけならまだいいが、うさに猫、そして狸四人組といった妖怪までぞろぞろ来られると外聞が気になる。
「でも、今回の当事者はむしろこいつらなのよ」
「ああ?」
 困ったように告げる小町に、係員が眉間に皺を寄せる。
「えーと、つまり。始まりはこいつからなのかなぁ?」
 首を傾げながら、小町は猫を指差す。
 注目された猫は、壁にもたれたまま億劫そうに口を開く。
「先日、夜に散歩してた時の事だ。どこぞの家に押し入ろうとしていた馬鹿がいたから、化けて脅してたら命乞いをしてきたんで、殴り倒した上で役所に突き出したんだが」
「悪党退治はありがたいが、化け物闊歩も困るぞ」
「いいじゃねぇか。人助けもしてるんだし。‥‥で、役所に突き出してそのまま都を出ようとしたら妙な小男が話しかけてきたんだ」
「小男?」
 訝しむ係員に、猫は一つ頷いて話を続ける。
「そいつは先の悪党狩りから俺を目撃していて。つまり、俺の正体は分かってる訳だ。その上で、人の手先に成り果てるとは情け無い。もうじき人の世など終わりが来るのに、もっと妖怪の為に動くべきだって嘆くだけ嘆くとさっさと姿を消した」
 係員の表情がますます険しくなる。物騒な世の中、世を儚む者も多いが、妖怪相手に嘆く辺り、普通ではない。
「うさもその馬鹿にあったよー」
 重い雰囲気になりかけた場の空気などさっぱり気にせず、子供なうさが陽気な声で両手を上げた。
「お月様の素晴らしさをどうしたらもっと皆に分かってくれるかなーって考えてたの。そしたら小さい男が来て、人間たちに素晴らしき思想が分かるはずもない。いっそ人を支配し洗脳すべきって言うから、杵でどつき回したらスタコラ逃げてった」
「人の為に怒ってくれたのはありがたいが、逃がしたのは痛いな」
「ううん。狸臭かったからムカついただけ。ところで、ニンゲンって何だっけ? ニンジンのお友達?」
「お前‥‥俺やそこの嬢ちゃんを何だと思ってるんだ?」
「爺と婆でしょ?」
 当然と真顔で告げるうさ。係員は思わず卓に突っ伏す。
「むぅ、奴め。こんな阿呆どもにも声をかけるとは」
「言うな、ぽん楽。我らが優れすぎてるのだ」
「そうだ、ぽんザベス。愚か者へのいたわりを忘れてはならぬぞ」
 部屋の隅っこ。簀巻きのまま、転がされていた狸たちが口々に不満を上げる。
「何だ? お前らもその小男とやらにあっているのか?」
「おうよ! あれはふぎゅりゅ」
 係員に問われて自慢げな狸だったが。小町がその口に布を巻いて話を遮る。
「こいつらに話させると長くなるから、はしょるわよ。二〜三日前ぐらいに小男が接触してきて、小さな寺での小さな活動など狸の名折れ。すばらしき狸の属なら、もっと大勢の人間を相手に騒ぐべきだとか、けしかけたみたい。猫たちから小男の話を聞いてまさかとこいつらを探してたら、いきなり大通りで騒いでるんだもん。まったく何やってるんだか」
「「「「愚か者に自由と解放を諭していただけだ! 何故こうも縛られるか!!」」」」
 簀巻きのまま、猿轡をどうにか外して狸たちは猛抗議。もっとも、誰も同情しないし聞く耳すらないが。
「多分、その小男なら俺も会ってる‥‥」
「うわっ、あんたいつからいたの!!?」
 机の陰から這い出てきた一人の河童。小町とは知らぬ中でもない冒険者の一人だ。
「こんな破壊的な文字を書くのが人である訳でない。何処の大妖か、京で何を計画されてるか、としつこく聞いてくるからー、むかついてぶっ飛ばしたったー。おいらは妖怪じゃないのにー」
 陰鬱に気を沈ませている床で泣き崩れる河童。そこだけ空気が淀んですら見えた。
「そうだよ。妖怪じゃないよね、ただの亀だもんね」
「甲羅はあるが、亀でもない!!」
「でもこの直筆署名は相変わらず『悪い亀』としか見えないんだけど」
「しくしくしく。水かきがー、水かきが筆に悪いんだぁー」
 ぽんぽんと肩を叩いて慰めるうさに一瞬だけ怒鳴りつけたが、小町から筆跡を指摘されるとまた床で泣き崩れ始めた。
「つまり、なんだ? 妖怪を中心に焚きつけてる奴がいて、それが狸くさい小男だって話か」
「そ。推測だけど、狸の妖怪が小男に化けてるんじゃないかと思うわ。馬鹿狸や河童にまで声をかける辺り、どうしようもなく小物臭いんだけど。でも京もいろいろ騒がしいし、念の為、何のつもりでそんな事しでかしてるのか聞いておきたいから、探すの手伝ってくれないかしら」
 小さく溜息をつく小町に、係員はすぐに頷く。
 何かと騒動の多い京都。小さな事態も、何に発展していくか分からない。無駄と思っても調べておく必要はあるだろう。

●今回の参加者

 ea1956 ニキ・ラージャンヌ(28歳・♂・僧侶・人間・インドゥーラ国)
 eb0764 サントス・ティラナ(65歳・♂・ジプシー・パラ・イスパニア王国)
 eb5347 黄桜 喜八(29歳・♂・忍者・河童・ジャパン)
 ec5127 マルキア・セラン(22歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 ec5265 桜司院 左近(29歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 ec5731 仙童 拓也(25歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

白翼寺 涼哉(ea9502

●リプレイ本文

 なにやら妖怪中心に接触を図る小男がいる。しかも、そいつも妖怪らしく、不穏当な台詞まで吐いたりするのだから怪しい限り。
 怪異の多い京の都。些細な動きが何に繋がるか分からない。
 その動きからして、二流三流の小物臭さが漂うものの、念には念をの意味で小男の調査が行われる。
 陰陽小町の呼びかけに集った冒険者五名。どこに行ったか分からぬ相手に、さてどうしたものかと雁首並べて考えた結果、
「話からすると、人間に虐げられている妖怪のフリしたら、話しかけてきてくれるかもしれないですぅ」
「確かに。それが手っ取り早いかもね」
 一歩下がって控えめに告げたマルキア・セラン(ec5127)に、小町もあっさり頷く。
 そして。
 場所は廃屋。妖怪が集まり、何が起きてもいいように人里からも少し離れている。
 そこで小町連れ合いの妖怪たちも呼んで、何故か鍋が開かれる事になった。
「ヒトハダ恋スィ〜時は、鍋がホスィネ〜♪ 葱入れて更にポカポカ。心も体もヌクヌックネェ〜」
 独特の笑みを浮かべて、白翼寺涼哉から渡された葱を放り込むサントス・ティラナ(eb0764)。
 まるごと猫かぶりを被って鍋をかき回す様は怪しい限りだ。
 もっとも怪しいのは彼だけでなく、マルキアはラビットバンドで兎妖怪に扮してサントスから借りた猫足のサンダルで足跡も小さく歩き回っているし、ニキ・ラージャンヌ(ea1956)もミミクリーで兎に化けたりしている。
「今年はお月見の話聞かんかったさかい、どないしたんか思てましたえ」
「むー。今年は初心に戻って静かにお月様を見上げてみる事にしたのー。でも、寂しかったのでやっぱりお月様は楽しい方が好きだと思いました。まる」
 鍋の味付けをしながら話しかけた化け兎のうさと楽しそうに話しながら、ニキは鍋の味付けをしているのだが‥‥。
「あのさ‥‥。あなたの味付けには慣れたつもりでいるものの、さっきからやたら鍋に投入されている辛味成分は一体何でしょうってのが凄く気になるんだけどー」
「ん? そろそろ寒くなってくる季節やし、温かいもんの方がよろしおすやろ? 辛味は血の巡りがよろしなりますえ」
 辛味を追求してにこやかに答えるニキに、顔を引き攣らせる小町。
「‥‥悪い。俺は用事を思い出す」
「そう仰らずに。私個人としても貴殿の様な方が異国にいるのかと思うといろいろお話聞きたいのですよ。‥‥とはいえ、薬も取りすぎれば毒となるもの。幸い、私も鍋を所有してますのでもう一つ作らせましょう。では、マルキア。河原で水を汲んできなさい」
「了解しました。ご主人さまぁ」
「いや、話聞かれても俺昔の事はまるきり覚えて無いし‥‥」
 鍋の異様な臭いに、回れ右をしかけたワーリンクス・猫を、桜司院左近(ec5265)が素早く捕まえる。
 素っ気無い口調でマルキアに命じると、彼女は丁重にお辞儀をして鍋の準備にかかる。といっても、二人は本当に主従関係がある訳でなく。あくまで小男を誘い出す為の演技の一環である。
「で。この辛味鍋はどうするのよ」
 呆れる小町に、考え込んでいたうさだが。
「‥‥‥‥馬鹿狸ーっ! 風呂できたー」
「おう、アホ兎にしては気が効くなっ」
 大声で呼ぶと、四匹の素っ裸化け狸がざぶんと鍋に飛び込む。
「熱い! 熱いぞ! 江戸っ子爺さんもびっくりだ!!」
「目が! ケツが! 口が!! 辛い! 辛くてヒヒヒヒヒー!」
「葱が! 葱が刺さる!! 刺さるぞー!!」
 途端、鍋でばたばた暴れる狸たち。あちこちに飛沫が飛んで、また周囲に悲鳴が上がる。
「ノー。狸鍋には少しハヤイネ。せっかち狸には、じっくりことこと煮込み汁ヨー」
「そやね。しょうがないし、こっちは蓋しておきしょか」
 嘆くサントスに、ニキも肩を落としながら鍋に蓋して黙らせた。

 そして、河原では。秋の寒風をものともせずに、河童二体が熱い討論を交わしていた。
「つまりだ。あの緑の愛しいアンチクショウの傍に一年中いるにはどうすりゃいいかを考えたんだ」
「アンチクショウとはなんだ。胡瓜を悪く言うなど、河童の風上にもおけねぇな」
 黄桜喜八(eb5347)が胡瓜について考えていた所を察知したのか、名称不明の河童(略称・悪亀)が乱入。皿の水も乾きそうな勢いで語り合っている。
「馬鹿野郎。おいらたちの心を捉えて放さない、あの素晴らしき魅惑の形と絶妙な味はもはや罪っ。そんな罪作りさんをついアンチクショウと言って何が悪いっ!」
「くっ、貴様ツンデレかっ。緑のツンデレかっ!!」
 そんな二人に喜八の柴犬・トシオと陽のエレメンタラーフェアリーのりっちー、それに大ガマの術で作ったガマの助は興味なさげに傍でじっとしている。
「なるほど。食は全てを作る。まずは食からの支配を考えるという訳ですかな」
「お食事でしたらぁ、向こうで鍋を囲んでの討論をしようという事ですぅ。用意はこれからですが、すぐに作りますので、よろしかったらそちらでどうぞ」
 二人の話に激しく頷く小男。並んで、マルキアは水が入った鍋を抱えて移動を勧める。
 マルキアはともかく。いきなり話に混じっていた小男は何者か。正体はすぐに悪亀が指摘する。
「あー! お前はあの時の小男!」
「あの時は失礼しました。ただあのような破壊文字を書くような大妖怪様が何を企んでいるか気になったものですから。おっとこれは人前で話す事ではありませんな」
 切れ者気取って周囲に目を走らせる小男だが、それがさらに無能っぷりを物語っている。
「‥‥亀。お前妖怪だったんだな」
「妖怪じゃねぇええー! さらには破壊文字でもねぇ」
「またまた御謙遜を。破壊文字で無ければ、ただの下手糞ですぞ」
「しくしくしくしくしく」
 淡々と告げる喜八に、悪亀が憤る。小男は味方したつもりだろうが、傷に塩をぐりぐりと塗りたくっているだけだった。
「時にこちらの娘さんは兎のようだな。見ていたが、あんなつまらない人間に使役されてるのか?」
 ラビットバンドなのだが、どこまで気付かないのやら。当然指摘する者も無く、当のマルキアもそ知らぬふりでしょぼんと肩を落とす。
「そうなんですぅ。毎日家事をさせられ、しかも実は兎より猫好きだからって、夜には『ご主人様、御奉仕するにゃん♪』とか言わされますぅ。逆らったらお仕置きなんですぅ」
 浮かぶ涙をそっと拭う‥‥フリをしながらマルキアは告げる。つたない演技だったが、小男は騙せたようで同情した表情で頷いている。
「そうか。だが、大丈夫だ。人の支配などすぐに終わる。解放の時はすぐそこだ!」
「そうなんですか!? あの、よかったら今から妖怪仲間が集まって人間の愚痴を言い合うんです。皆にもその話聞かせてもらえませんかぁ?」
「うむ。そういうなら、話してしんぜよう」
 マルキアの誘いに、小男は調子乗った表情で胸を張ってついていく。


 小男が来るという知らせを受けて、小町と左近がひとまず身を隠す。
「鍋と聞いたが、中身のすっぽんぽんは以前見かけた化け狸たち! よもや我が同胞を喰らうとは不届き千万! 見れば人の味方の化け猫男もいるし、ああ、何と嘆かわしい会合だ!!」
 今だ鍋に入ったままの化け狸たちを見て、小男が大げさに嘆く。
「ふっ、そう思うのが素人の浅はかさ!」
「そう、これは鍋に見せかけた我慢風呂!!」
「つまりは長く入った奴ほど英雄でえらくて何か凄いのだ!!」
「はっはっは。我らの偉大さを思い知れ!!」
「ぬぅ、そうだったか」
 鍋に入ったまま、えらそうにしている狸たちに小男は酷く納得している。
 下から兎ががんがん火を焚いている。それを我慢してるなら確かに大したものだ。
「そうなのか?」
 問いかける喜八に、猫は面倒そうに手を振る。
「まさか。風呂は我慢すればかっこいいと持ち上げたらそれを信じただけだ」
「そうか。まぁ、素性とかは任せた。おいらはあいつが立ち去るようならこいつと追いかけるから」
 隣に並ぶトシオが生真面目に見上げる。どこから来た何者かはしらないが、逃がすつもりはない。
 もっとも、ここで聞けるならそれに越した事無く。そして、それも難しくは無いように思えた。
「‥‥同胞という事は、やはりあなたも狸なのですかぁ」
 用意された酒を渡しながらマルキアが尋ねる。
 ちなみにこいつら相手に身銭切る必要も無いと小町の主張で、ほとんどが小町用意で済ませてある。
「この完璧な変化を見抜くとはやはり大したもの。その通り、私は狸の変化。いずれは天下に名を馳せる運命にあるのだ!」
 ふんぞり返る小男狸に、一同はいろいろな意味で首を傾げる。
 ニキを見遣ると、微妙な顔をしながらもはっきりと大きく頷く。
 こっそりと小男狸の死角に回りこんで、リードシンキングを唱えていたのだ。何を根拠としてるかまでは読み取れなかったが、とりあえず小男狸の言葉に嘘が無く、本気でそう考えていると分かる。
「お〜、天下に名をとはベリ〜ベリ〜ビーッグな発言ネー。とすると、ユーが人間たちの支配からミーたちを解き放ってくれるネー。ミーのマヰスターは猫使いが荒くて、踏んだり蹴ったりは日常茶飯事ヨ〜」
「い、いやそれは‥‥さすがに‥‥」
 猫かぶりなサントスが大仰に嘆くと、相手の視線が宙を泳ぐ。何か動揺したようだ。
「どうやら、この化け狸は誰かから聞いた事を鵜呑みにしてるだけみたいどす。誰かが人を支配すれば、その余波で自分もえろうなれると信じてはるみたいで‥‥」
「その、誰かって誰よ」
「頑張って思考読んでますけど、そこまで考えてくれはらへんのどすなぁ」
 陰にいる小町にこっそりと語りかけるニキ。
「なるほど。話は大体わかりました。そういう事ならお手伝いできますね」
 左近は魔法を詠唱。銀の光が一瞬彼を包むと隠れるのをやめて、小男狸の前に姿を現す。
「ややっ。お前は人間か。改めて見ると悪い御仁で無さそうだが、しかーし、あの兎を虐げているのは知っているぞ!?」
「うまくかかってますなぁ。マルキアさんの事で警戒はしているものの、ええ感じには思てくれてます」
 仕掛けたのはチャーム。内心を探ったニキが手ごたえを掴んで、左近に伝える。
「それも悲しい誤解です。私は確かに人間ですが、あなた方の味方です。どうやら何者かが人から妖怪を解放し、貴殿はその先駆者というところでしょうか? どうか本当の事を話して下さいませんか?」
 そつなく左近が問いかけると、小男狸はさらに動揺した風であれやこれやと考え込んでいたが。
「‥‥申し訳ないっ! 実は私もよくは知らないのだ」
 やがてむっつり押し黙った後に、いきなりそう言って頭を下げた。
「ただ我らのすっごい偉大な方が人間相手にすっごい事をしているらしい。参じる仲間も多いらしく、やがては人の世を終わらせ我らの天下を為すだろう、さぁイザ立ち上がれ我らの同胞よー! ‥‥という話を聞いただけで」
「なんか『らしい』とか『ようだ』とか推測部分がいたく多いわね」
「ついでに、自身の思い込みとか妄想とかも含まれてるみたいどすなぁ。‥‥けど、言った言葉に嘘ついてる素振りはあらしまへんえ」
 聞いてた小町が呆れ返る横で、ニキも頭を抱える。
「あのぅ。聞いたってどなたから聞かれたんですか?」
「私が聞いたのは摂津の狸からだ。そいつは阿波の者から聞いたと言っていた。向こうでは知る者ぞ知る有名な話だそうだぞ」
「‥‥それって知らない者は知らない身内な話って事じゃないのか?」
 マルキアの問いかけに、小男狸はふんぞり返るも、その内容には猫も首を傾げている。
「このドラポンターン!! ポンポコ〜ズのみならずポンポコ〜ズのパチモンが出て、さらに言う事やる事パチモンとはドユコトアルネー!? そんなパチモンライフなドラポンタ〜ンにはお仕置きだべネー!!」
 笑って話を聞いていたサントスが突然丸ごと猫かぶりを脱ぐ。ついでに墨染めの衣も一気に脱ぎ去り、漢の褌一丁で格好を決めると、周囲は注視する者目を背ける者反応は様々。
「仏罰戦士ボ〜ズゴ〜ルド参上ネー」
「なっ、お前! 狸の皮を被っていたのか! 何と非道な!!」
「違うアル! ミーはドラポンターンではなく、キャットまっしぐらネー! そんな勘違いはスペシャルお仕置き決定ネー」
 慄く小男狸をサントスは担ぎ上げる。そのまま狸たちの風呂鍋に放り込むと、サンレーザーで着火。くべられていた薪が一気に燃え上がる。
「「「「「あちゃちゃちゃちゃちゃちゃ!! 畜生、覚えテロー!」」」」」
 小男狸と一緒に素っ裸狸たちも鍋の中で踊り出す。たまらず抜け出すと、捨て台詞を吐いて一目散に逃げ出した。
 寺の方向に向かった素っ裸狸たちは念の為に猫とうさが追いかける。そして、小男狸の後は喜八が素早く追跡を開始していた。

「奴ならまっしぐらに京から南方に出て行ったよ。とりあえず懲りたんじゃないか?」
「よくやった、亀。褒めたげる」
「亀じゃねぇよ‥‥無駄だと思うけど一応言っとく」
 戻ってきた喜八の報告に、一同は表情を曇らせる。その中で、事態を分かっていないうさは、上機嫌で喜八の皿を撫でていた。
「まぁ、あいつ自身は目くじら立てて討伐する必要は無いでしょうけど。‥‥南かぁ。摂津で阿波‥‥四国からねぇ」
 小町が険しい表情で考え込む。
 北は黄泉人の騒ぎ、東は源徳公、西は五条の宮率いる長州。に加えて南方まできな臭いとなると、穏やかではない。
「報告はしておくけど、さすがにこれ以上はあたしじゃどうしようも出来ないし。皆にもギルドの情報を注意してもらうぐらいしかないかしらね」
 この先事態がどう動くか。京の平穏はいまだ遠い。