【播磨・北】 命無きモノたちの行軍
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■ショートシナリオ
担当:からた狐
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:18 G 46 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月11日〜11月23日
リプレイ公開日:2008年11月20日
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●オープニング
五畿より外れる故に田舎と称される事も多いが、播磨の国は大国であり、応じた国力を有す。
出雲より流れ来る死人の群れ、それを仕掛ける黄泉人の攻勢をその軍事力にてかろうじて押しとどめている。
播磨南方は播磨灘。また西方は備前が持ちこたえおり、どうにか四方を囲まれる事は逃れていたが、美作、因幡、但馬に加えて丹波もまた黄泉人に跳梁されている事を思えば楽観も出来ない。
加え、藩主・池田輝政とその奥方は病に伏し、延暦寺の乱への援軍以来同じ天台宗である圓教寺とは不仲になっている。
最近では、民が世情の不満から各地で叛乱を起こし、年貢の取り立てもままならない状況。経済の見通しもまた先行き暗しとなってしまった。
後ろ盾の心もとなさは士気に関わる。とはいえ、敵主力の黄泉人は他国の制圧に力を入れているのか、ほとんど姿を見せず、出るのは流れてくる有象無象の死人憑きが主。少々の事では負ける道理は無い。
軍が動いているといっても、戦術戦略とは無縁の相手なので、どこぞの村で暴れていると聞けば兵を遣わし、黄泉人が紛れていれば早期に調査・撲滅。圓教寺と不仲とはいえ、寺社は他にもある。最近では百姓たちによる打ちこわしでなかなか大変そうではあるが、協力してくれる僧侶も少なく無い。
黄泉人に飲まれた国が北に集中している事から、黄泉人対策の拠点は北部の屋敷に陣を作り、そこから指示を出している。
そして、報告を受けてとある村に兵が向けられた。
群がる死人たちを力任せに薙ぎ払う。ただそれだけの任務のはずだったが。
村へと近付いた兵たちの足元、慣らされた土が盛り上がってきた。驚く彼らの前に、姿を現したのは無数の埴輪。
「な、何故こんな所に埴輪が埋まっている!?」
「分からん! し、しかし!!」
その数はざっと見ても百に近い。しかも、埴輪たちは明確な行動で兵たちに敵対してきた。
死人の数に加えて、予期せぬ埴輪の攻勢。兵たちは浮き足立つ。
「撤退だ! ひとまず態勢を立て直す!」
「村人たちは如何に!」
「助けに行ってこちらがやられては意味があるまい!!」
岩の塊のような埴輪は槌のような重量武器でもなければ破壊できない。剣で破壊する技はあるが、全員が使える訳でもないのだ。
無理を押して命を落すよりもまずは状況の確認を。そう考えて兵たちは引きかけたのだが、
「大変です! 退路も埴輪に塞がれています! しかも!!」
後方を守っていた兵が声を上げる。
何時の間に回りこんでいたのか。それともやはり埋まっていた者が起き上がったのか。逃げ場もない程に埴輪が群がっていた。
「あれは、何だ!?」
その土色の埴輪に混じり、一際光沢を放つ者があった。
やはり埴輪だ。が、普通の埴輪が子供ほどだとすると、その倍の大きさを持っていた。鈍い色合いは、土ではなく鉄で作られている事を物語る。腕と一体化している握られた剣は、恐ろしいほど刃が研ぎ澄まされており、鋭い光を放つ。
重く押し寄せる埴輪に、生気に引かれて集まりだす死人の群れ。
不備な状況で戦闘は始まり、そして、死を持って終わる。
「飲まれた村はすでに二十。報告の無い村を思えばさらに倍以上はすでに死に堕ちたと考えるべきか」
屋敷にて。黄泉人対策を任された重鎮たちが頭を抱える。
「埴輪対策に武器の持ち替えも進めていますが、面倒なのはあの鉄の埴輪。まともに攻撃を加えてもなかなか傷をつけられず。幸い数は多くありませんが、倒すのは面倒ですぞ」
「他の埴輪にしても。こちらの情勢を見るや引くと見せかけ待ち伏せを行ったり、頭上より奇襲を仕掛けたりと、がらんどうな頭では考えられぬ動きをしております」
埴輪は遺跡などによく埋められている。多くは墓泥棒対策だが、一辺倒な動きでそれ以上はあまりしない。
死人たちも腐った頭で物を考えられると思えず、やはり一辺倒な動きばかり。
そんな死人と埴輪が合わさっても、戦力自体はさほど変わらず。数こそ厄介になるが、力のごり押しで対処はできよう。
だが。こちらの裏をかいて来ようとするなら、話は別だ。埴輪はあくまで埴輪。とすれば、それを動かす者がさらに現れたという事で‥‥。
「申し上げます。ただいま、こちらに向け死人及び埴輪の群れが向かっているとの早馬がありました!」
「なんと。して数は!?」
「分かりません。ただ、山一つ埋め尽くす勢いであるとか。また、呼応してか各地よりなだれ込む死人の数も増し、各地の攻勢も激しさを増しております」
ちっ、と誰かの舌打ちが響いた。そこまで露骨に表さずとも、誰の表情も暗く固い。
「黄泉人めが本腰を上げてきたと見える。だが、敵がこちらに向かっているのなら好都合。ここで始末してくれよう。
集える兵は準備を急げ。他方面からいりこまれぬよう各地監視の目は怠るな。また、誰かただちに京都に走り冒険者ギルドから冒険者を呼んできて欲しい」
「京にですか? ですが、この軍勢に数名が来られても焼け石に水では?」
口早に指示を出す指揮官に、伝達を受けた者が神妙に聞きながらも首を傾げる。
「埴輪、及び死人憑きの数は確かに厄介。また鉄の埴輪も面倒な相手であるが、我らには数の差を補う武力がある。しかし、この中に黄泉人が入るとなれば奸智でいかな計略を諮るか分からない。奴らを探し出し始末するには、京での騒ぎで経験を持つ冒険者の方が得策だろう」
何せ、藩士では黄泉人と聞いても実際に当たった者はいない。話には聞いてはいるが、それよりかは慣れた者に任せる方が、動きも読めると踏んだ。
「埴輪の奇妙な動きからして、指示する者が近くにいるはず。死人や埴輪の群れの中を捜索する事になるやもだが‥‥彼らなら何とかしてくれよう」
かくて、京都冒険者ギルドに依頼が舞い込む。
播磨の国を襲う死人と埴輪。おそらくそこに潜んでいるだろう黄泉人を探し出し、叶うなら始末して欲しいと‥‥。
●リプレイ本文
播磨の北。出雲より押し寄せる死人の群れ。
長く押しとめてはいたものの、他国が落ちて余裕が出来たか、どうやら本腰入れたらしくこれまで以上の数で攻め入ってきた。
その死人の群れの中に混じるのは埴輪たち。命無く動き回る点は同じだが、強度はまるで違う。しかも、そこいらで見る埴輪と違い、鉄で出来たものやあからさまにこちらに呼応するような動きを見せる事もある。
「黄泉人が大昔から準備してた物で無きゃ、埴輪は外からこっそり持ち込んで必要数が揃うまで地中に隠してたってとこか? 丹後の大国主は、民間人に埴輪を作らせていたしな」
「‥‥。大国主のとこの一般人が作った埴輪がどうしてこの様な所に??」
「いや、同じである必要はないだろう。埴輪自体はどこにでもいるし、誰が作ったかなどすぐに特定は出来ん」
バーク・ダンロック(ea7871)の述べた見解に、ロッド・エルメロイ(eb9943)は混乱しかけたが、すぐに否定の言葉が入る。
大国主は、まず丹後国内の平定を一にするらしいし、黄泉人とも対立するような事を述べている。間にある但馬・丹波を放ったまま、飛び越えて播磨に手を出したとも思えない。
また、藩士の話によれば、播磨の埴輪は死人憑きに襲われた村近辺に出没し、助けに行った者を待ち構えていた。死人の群れは出雲から来ており、黄泉人との関係は歴然としている。
「埴輪の出自はいいだろう。今、求められるのは鉄製の埴輪の破壊。及び、それら含む埴輪を操る黄泉人の打倒だ」
「そうね。でも、正面からの戦いは無謀。どこか行動に適した場所を見つけた方がいいです」
ラグナート・ダイモス(ec4117)が視線を動かすと、ミラ・ダイモス(eb2064)も一つ頷く。
「罠を仕掛けられるような場所はどこかあるのでしょうか?」
妹たちの言葉に、ファング・ダイモス(ea7482)が口を挟む。途端周囲からじろりと睨まれる。傲慢の指輪の呪いか単に気に障っただけか。
もっとも、それ以上は特に何も無く。同席している藩士が咳払い一つすると、周辺地図を広げる。
「崖を使って埴輪とアンデッドを分断したいが、そういう地形は無いか?」
バークが問うと、幾つかの場所を示しながらも首を捻っている。結局は現地で見て決めるしかないようだ。
●
死人の歩みに合わせて行進は遅いとはいえ、いずれ到達する。
準備は早急に行われた。
ミラがグリフォンのリュケイオンに乗って妥当な場所を探すと急ぎ布陣する。
ファングがたまに睨まれながらも指示し、丸太を組んで二段、三段に構えた柵を作る。地面には木の板を並べて地中からの埴輪を警戒し、鳴子を下げて不意の接近にも備える。
その間にもロッドはグリフォンで偵察。
空を飛ぶと黄泉人からも見付かりやすいが、この際構っていられないか。
「ぞろぞろと凄い数でしたね。エックスレイビジョンで地中も見てみましたが、そこから進軍してくる気配は無かったです」
経巻片手にロッドが告げる。
均してない硬い土を掘り進めるのは重労働。死人の歩みは遅いとて、ずっと掘り進めてくるのは確かに無茶か。
「それじゃあ、いっちょ行くか!!」
崖の上でバークが引魂旛を取り出すと、全力で振るう。
距離としてはまだあるが、アンデッドたちにも旗の存在は分かった筈。
一度振ると効果時間中は振り続ける必要はない。先兵が無いか身構えつつ、幾度かそれを繰り返す。
「やっと来ましたね」
ゆっくりとした足取りで近付いてくる死人憑きたち。埴輪の姿は見えない。
それから更に時間をかけて近付いてくる間に、これからの攻撃に向けオーラや魔力で士気を高めたり防御を上げたり、失った魔力を補充したりと準備を済ませる。
埴輪たちの姿は無い。
「吹き飛べ! アンデッドどもが!!」
バークはシャクティを構えると、旗に惹かれて崖を登って来た死人憑きの中に飛び込む。念じると爆発するオーラ。広範囲に渡る威力で死人憑きたちが吹き飛ぶ。が、その倒れた穴を埋めるように続々と後続が押し寄せてくる。
引魂旛に惹かれたら、基本的にひたすら旗に近付こうとするが、攻撃を加えられたら話は別。邪魔者排除かそれとも元の性を思い出すか。歯をむき出し、爪を立てて襲ってくる。
「限が無いでござるな」
ラグナートが小さく舌打ち‥‥しようとして口を閉ざす。夏ほどでは無いとはいえ、こうも死人憑きが集まると酷い腐臭が辺りに満ちている。迂闊に口を開けて肉片でも飛び込んできた日には、腹でも下しそうだ。
ラグナートが握るは十握剣。アンデッドスレイヤーは一撃でも重い傷を死人たちに与えている。
バークの守りとしてついたが、バークはバークで危なげなく死人憑きを捌いている。
数が集まろうとも、冒険者たちの敵ではなかった。
「にしても、変ですね。埴輪の姿が無いなんて‥‥」
偵察の時には幾つか見かけた。その事にロッドは首を傾げる。
群がる死人憑きにファイアーボム。超越して唱えるその威力は死人憑きを無駄なく省くに丁度いいが、魔力の消費も大きい。魔力回復品は多々持ってきているといっても、配分を間違えると後々敵に対して何も出来なくなる可能性がある。
カラカラと仕掛けた鳴子が鳴った。見れば、他の場所を登ってきたか、死人憑きたちが回りこんでいる。
そして、その後ろには埴輪の群れ。
ゆっくり歩いてくる死人憑きは柵で止まるが、埴輪はそれを結びつける縄を剣で斬り解いていく。
「何故? 崖を登るにも、迂回してきたにしてもこんなに早く?」
死人憑きを捌く手を休めずに、けれどミラは目を丸くする。
埴輪の腕は剣と一体化しており、崖上りに適しているとは思えない。迂回する手もあるが、そう簡単にできぬように場所を選んだのだ。
「登る死人憑きたちの体を掴ませて上がっただけじゃよ」
からからと笑ったのは埴輪‥‥ではなく。
「ヴェントリラキュイか!」
はっとしてロッドが周囲を見渡す。黄泉人らしき姿はそう簡単に見付からない。
ミラが惑いのしゃれこうべを叩くも、周囲は他の死人憑きだらけ。かたかたと髑髏が笑うように歯を鳴らし続ける。
「重みで死人が落ちたり、ぬしらに見付からぬようにと色々大変じゃったがのぉ。こいつの場合は特に。仕方ないから死人憑きで山を作って足がかりにさせてもらった。いや、本当に大変じゃった」
述べる埴輪の背後から、鈍い光を放つ鉄の埴輪が三体姿を見せた。
「京の冒険者か? 厄介とは聞いていたが、確かになかなか厄介じゃ。妙な旗も邪魔じゃのぉ。そも早々とこの地を落せなんだ故に、わざわざわしらが出張ってきたというに」
「ほんにのぉ。こんな遠出は何年ぶりじゃあ。是非とも皆に土産が欲しいゆえ、その首いただけぬかのぉ」
声は二つ。年老いた爺さんと婆さんのような声が響いた。それが黄泉人の本当の声かは分からないが。
埴輪に傷を付けられていた柵が盛大な音を立てて壊れた。まちかねたように死人憑きたちがどっと押し寄せてくる。
「残念ながら、土産にするような安い首は持ち合わせておりません!!」
ミラが斬魔刀を振るい死人憑きたちと向かい合う。
オーラパワーを乗せた刃は軽く死人憑きたちを薙ぎ払う。
深い傷跡を見せても、死人憑きたちは止まらない。最低限急所だけを庇いながら、ミラは刀を振り続け、道を開く。
そこへバークが駆け込むと、オーラで吹き飛ばす。
「道を切り開きます! 行ってください!!」
ラグナートが剣の技量で埴輪を打ち壊す。そこをさらにファングが駆け、
「うおりゃああああ!!」
鉄の埴輪に迫る。
鉄の埴輪の剣が唸りを上げた。それを難なく躱すと、デュランダルを叩き込む。
オールスレイヤーの異名を持つ両刃の刀。その重さを十二分に加味して叩きつければ、まさに鉄さえ砕く一撃。相手の刃も折り、さらにその身を鉄くずに変える。
「な、何と!!」
爺の声が響いた。その声には狼狽の色が強い。
「もう一つ!!」
走りよったミラが別の鉄の埴輪を叩く。
こちらは破壊まではまだ至らない。だが、重大な破損は与えられた。
「下がりなさい。アシナヅチ、テナヅチ」
さらに別の声が響いた。まだ幼さを残すような少女の声。
「姫様!?」
「そこです!!」
不自然に茂みが揺れた。そこを目掛けてロッドがファイヤーボムを放つ。
着弾して広がる火炎。辺り一面を焦土にかえて根こそぎ焼き払う。
「ぐ‥‥ぐはぁ!!」
上がる土煙の中からよろけて出てきたのは老人に似ていた。皮膚は黒漕げてよく分からぬが、落ち窪んだ目にしわがれた筋張った体躯は、生気のある者とは思えない。
「黄泉人!!」
姿を認めて、一同が構える。
そこへ横殴りのに雷が伸びた。
「ぐはっ!!」
「ライトニングサンダーボルト?!」
青天の霹靂は、狙い違わず続けさまに数発、次々と冒険者たちを射抜く。
「くっ!」
ロッドが構えるが、距離が遠い。
「下がりなさい! 結構作らせるのは大変なのよ! 無駄にしないで頂戴!!」
子供のような口調で、また叱責があった。
苦渋を滲ませるようにして、黄泉人が呻くや、一目散に逃げ出す。と同時に群がっていた埴輪たちが鉄の埴輪も含めて一斉に引き始めた。
「待つでござる!!」
後を追おうとしたラグナートだが、そこへやはり雷。
やり過ごしている間に残された死人憑きたちはどんどんと押し寄せる。
「ええい! 邪魔だ!」
蹴散らすも、次の死人憑きたちが邪魔をする。
「仕方ないです。まずはこいつらを!」
苦々しい思いで、大量の死人憑きたちを処理し終わったのはそれからかなり後だった。
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ひとまず、黄泉人の軍勢は一段落ついた。
死人憑きは始末し終わり、埴輪たちは撤退。取り逃がしたのは口惜しいが、藩士たちにしてみれば危機が去っただけでも今は十分。
とはいえ、黄泉人の攻勢は終わった訳でなく。いずれまた、彼らはやってくるだろう。