【黙示録】 そうだ、地獄に行こう!

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:7 G 30 C

参加人数:4人

サポート参加人数:4人

冒険期間:12月23日〜12月28日

リプレイ公開日:2009年01月02日

●オープニング

 宗平という男がいる。
 人の姿絵を描き生計を立てる絵師だったが、ある日、自分の絵が物足りなく思えた。
 何か、もっとたくさんの人の心に残る‥‥語り継がれる大作を描いてみたい。
 そして、彼は考えた。
 世の中を見渡せば、大名たちが血で血を洗う戦国の世。荒ぶる鬼が人々を嬲り、目覚めた死者が生者を喰らう。
 この末世を伝える‥‥地獄絵図を描けないだろうか。

「そんな悶々と悩む日々に降って湧いたこの僥倖!! さあ、いざ行かん、罪深き地獄へ!!」
「お待ちなさい、そこの人!!」
 大荷物背負って意気揚々と歩く宗平を、引き止める歳若い声。
「一般人ですね? この辺りはデビルの大量目撃例があり、冒険者ギルドが調査依頼で動いています。危険ですから、今しばし避難をお願いします」
 止めたのは見るからに異国の少女。クレリックの彼女は、厳しい表情で宗平を制す。
「そうですか。それでは」
「はい、お願いします‥‥って、どっち行くんですかーっ!」
「離して下さいー。僕は地獄が見るんですーっ!!」
 しがみつく少女をそのまま引き摺り、宗平は奥地に足を踏み入れようとする。
「何故そこまで行きたいんですか!? ‥‥貴方まさかデビル信奉者?」
「何それ? 僕は地獄絵を描く為に地獄に行くんです」
 不審そうに見つめる少女に、さも当然と宗平。
「では、駄目です。地獄はデビルの巣窟です。熟練の冒険者すら退けられてるのですよ?」
「そうそう。危険だから、案内が必要。どうだい、兄さん。ちょぉっと魂くれるなら俺っちが案内してやるぜ♪」
「デティクトアンデットに反応! ホーリー!!」
「ぎゃああ!」
 少女の体が白く輝くと、横合いから茶々を入れてきた犬もどきが悲鳴を上げる。
 わずかな攻防の後に、犬のような輩は死体も残さず消滅した。
「‥‥危なかったですね。こんな奴らが地獄にはうろうろしていて貴方みたいな犠牲者を狙っているんです!」
 肩で息して力説する少女だったが。
「化け犬なんて今の京都、街中でもいるよなぁ‥‥」
「化け犬じゃなくてデビルです! 化け犬は犬が化けた妖怪で、さっきのは犬に似てるけどデビルで、全然違うんです!」
「へー。で、デビルって何?」
「神の敵です!!!」
 真顔で告げられ、顔を引き攣らせながらも少女は言い切るが。
「神の敵って、どの神様?」
「ど、どのって!?」
 宗平、まだまだ理解せず。
「だって、神様なんていっぱいいて喧嘩するわ祟ってくるわも当たり前。むしろ貧乏神の敵なら僕は喜んで手を組もう!!」
「駄目ですー! ってか、そういう神さまの敵では無いですー! ‥‥多分」
 硬く拳を握るいかにも貧乏絵師一名。
「宗教の違いは仕方ないですか。京都でジーザスさまは色々心象悪いですし‥‥。 でも! つまりは甘言を弄して人々に罪を唆す悪い存在なのです! と言えば恐ろしさは分かっていただけます!?」
「なんて悪い奴なんだ。そんな奴は地獄に落ちればいい! そして、僕はそういう奴らがいる地獄を見学に‥‥」
「行っちゃ駄目ですーっ!!!」
 やっぱり進もうとする宗平に少女は縋りついて泣く羽目になる。
「大体、デビルもいろいろいて、中には鬼より強い奴もいるんですよ!? 全般的に武器も効かなくてアンデッド並にしぶといですし!」
「そして、悪徳商人の如く口が達者で知恵もありそうか‥‥。なんて凄いんだ地獄は」
「絵心刺激されて目を輝かせないで下さい! アンデッドの目撃例もあるし、本当に危険なんです!」
「アンデッド‥‥。確か死人憑きや幽霊か。くっ‥‥だが、それも地獄ならばいて当然」
「なんでデビルよりアンデッドで思い悩むんですか。そりゃアンデッドも危険ですけど」
 やっとこさ真剣に悩んだ宗平を、理解不能と見つめる少女。
「とにかく危険は百も承知。それでも僕はこの筆に命をかける覚悟がある! 絵を描く事こそ絵師の使命。御仏の加護を信じて乗り込むだけだ! それで死ぬならそれは日頃の行いが悪かったんだろう!」
「それが愚行と気付いて下さいー!! ああ、もう。ちょっとこちらに!」
 宗平の腕を掴むと、少女はその場を離れる。
 その行き先は冒険者ギルド。

「地獄行きは言う程簡単じゃない。奴ら、月道のような物を使ってるが、数分で消えて次にどこに開くかは分からん。デビルを追いかけて分からん内に向こうに着いた報告もあるが、結局は何が何やら。全ては行った冒険者たちの報告待ちだ。それも有用な調査が無いなら分からんままだな」
 事情を聞いたギルドの係員が、困惑しきりに説明を繰り出す。
「大体地獄なら鴨川歩けばいいだろ。三途の川に賽の河原、六道辻と諸々揃ってる。鳥辺野は風葬地帯で白骨もごろごろだ」
「んな分かり安い所、散々行き倒しましたよ」
 係員の提案に、宗平は口を尖らせる。 
「じゃあ、危険ではどっこいの比叡山・鉄の御所。牛頭と馬頭は間違い無くいる」
「とっくです。危うく喰われて命を落す所でした」
「だったら、もうやめて下さいよぉ」
 冷や汗垂らす彼に、傍らの少女が静かに泣き崩れる。
「勧める訳じゃないが、黄泉国はどう思う?」
「うーん。亡者が溢れているという点は似てますが、地獄と見るには少々‥‥。まぁ現地見ないと分かりませんが、何分出雲は遠いですからねぇ。なのでまずは近場の地獄から」
「いや、だから勧めてないし行かないでくれ。面倒だから」
「ってか、観光っぽい地獄行きも駄目です」
 真剣な顔つきの絵師に、二人の声が唱和する。
「そも、地獄と呼称されてもお前さんの思う場所とは違うかもだぜ? 三途の川で渡し賃。賽の河原で脱衣婆に服剥ぎ取られて懸衣翁が生皮剥ぎ、子の積んだ石塔を鬼が壊す。そんな光景は無いかもしれん」
 いささか面倒臭そうに告げた係員だったが、それに絵師は至極真面目に見つめ返す。
「それでも! 戦場含めて現世の地獄は粗方見つくし、なお思う絵にならず。ならば、真偽ともかく地獄なら見て知っておきたいんです!!」
 真剣そのものの表情は揺るがない。彼も彼なりに必死なのだ。
「‥‥嬢ちゃん、名前は?」
「エスターと言いますが?」
「よし、じゃあ嬢ちゃん。こいつの護衛してやってくれ」
「えええ!? 止めないんですかぁ?!」
 驚愕する少女に、係員は慌てて声を落すよう身振りで指示する。
「止めても聞きそうに無いだろう。放って無茶されるより、気が済むまで監視つけよう」
 関わったが運のつき。気持ちは分かるが、少女も口を尖らせる。
「イリュージョンでもかければいいじゃないですかぁ」
「あれは対象者の意識にも左右される。それに幻覚内で絵を描いてどうやって現実にする気だ?」
 魔法も便利なようで難しい。
 納得しなければまた行くと言いかねない。とすると、やはり現実に見せる方がいいのか‥‥。
「分かりました。でも、私だけでは荷が重いです。他の冒険者にも頼んでいいですか?」
「構わないが、依頼料はそっちもちだぞ」
「鬼ですかぁああ! そちらから言い出した事じゃないですか!!」
 思わず声を上げて抗議するも、係員はすっ呆ける。
「諦めろ。所詮この世は生きるも地獄だ」
「だったら現世で満足して下さいよぉー」
「現世とあの世とどっちが地獄か。見比べは必要さ♪」
 嘆く彼女の肩を、宗平は慰めるように叩き、笑顔で笑う。

●今回の参加者

 ea1442 琥龍 蒼羅(28歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea5480 水葉 さくら(25歳・♀・神聖騎士・人間・ジャパン)
 eb2099 ステラ・デュナミス(29歳・♀・志士・エルフ・イギリス王国)
 ec4328 藤枝 育(28歳・♀・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ブレット・ワクスマン(ea8925)/ カノン・リュフトヒェン(ea9689)/ マリヤ・シェフォース(ec4176)/ ヒナ・ティアコネート(ec4296

●リプレイ本文

 地獄絵を描きたいが為に、自ら地獄に赴こうとする宗平。
 だが、今だ謎と危険の多い地獄へ一般人を連れ込む訳には行かない。
 見咎めたクレリック・エスターにより、彼を思い留めるよう頼まれた冒険者たちだが。
「‥‥分野は違うとはいえ、芸術に寄せる思いは分からんでもないな」
「そんな悠長な! このままあの方を危険な所へ行かせようというのですか!?」
 話を聞いた琥龍蒼羅(ea1442)が告げると、依頼主は焦った声で抗議してくる。
「慌てるな。心情が分かるというだけで、望みを叶えさせてやるかはまた別の話だ。‥‥ただ、命を落とす事すら仕方ないと考えているのは厄介だな」
 依頼主を宥めながらも、蒼羅の表情は晴れない。
 ちらりと視線を動かせば、問題の絵師が真面目な顔でこちらを見ている。
「皆さんが何をお考えかは分かりませんが、僕の意思は変わりませんよ」
 告げる口調も実に実直。少々の事では曲げてくれそうに無い。
「一応止めるだけは止めるぞ? 地獄へ行ってどんな素晴らしい絵が描けても、死んでしまえばそれを世に出す事は出来ん」
「分かっています。ですが、その時は僕にその資格が無かった。それだけの事です」
 迷う事も無くそう言ってのける。意志を貫くのもいいが、こういう場合は扱いに困る。
「知り合いがイリュージョンをかけてくれたんだけど。何かこう‥‥輪がかかった感じだなぁ」
 頑固そうな絵師に、藤枝育(ec4328)もまた手を焼かされる。
 ブレット・ワクスマンが月の精霊魔法で地獄の幻覚を見せた。その見た幻覚を魔法が切れるや即座に書き留めだした宗平だが‥‥それでも何か違ったらしい。
 それで余計により本物をと望み、ともすれば、すぐにでもデビルの後を追っかけていきかねない勢いである。


「あのな、兄さん。散々説明してきたけど、地獄には悪魔がいっぱいで、この本にも‥‥えーと、どこにしまったかな?」
 繰り返し説得してきた事柄をもう一度伝えようと、育は写本 「悪魔学概論」を示そうとするが。持てば確実に動けなくなる程の大荷物。詰められた品々に紛れて、目当ての本がなかなか出てこない。
「まぁいっか。前にも見せただろ? あの本にあるような、生き物とも言えない奴がうようよいる。地獄の門には三つ首の巨大な犬がいて人を襲い、今も大勢の奴が戦っている。そんな場所にわざわざ言ってどうする?」
「僕も繰り返しますが、危険は百も承知です。それでも、地獄の風景をどうしてもこの目で見たいのです!!」
 辛抱強く説得をするも、相手も参る気配は無い。
 気合も入れなおし奮起した様子で、冒険者たちに言い返す。
「職人気質結構。‥‥ただ、その興味の向く先が地獄で無かったなら、こんなに困らなかったんだけどね」
 ステラ・デュナミス(eb2099)も、思わず寄ってしまう眉間の皺を指先でほぐす。
「えと、宗平さまが‥‥御覧になりたい、じ、地獄の光景が、思い描いたものとまったく違う物だとしたら、地獄へ行くのを止めてくれないでしょうか‥‥」
 おずおずと、一歩下がって様子を見ていた水葉さくら(ea5480)が小さく挙手をする。
「全く違う?」
「は、はい。例えば、地獄の大地にはきれいな花をつけた草木が生い茂り、空は青く澄み渡り、穏やかな表情の悪魔達が争うことなく平和に暮らしている、とてものどかな場所です‥‥とか‥‥」
「おやおや。嘘はいけません。嘘つきは泥棒の始まり、と申しますでしょう?」
 しどろもどろに告げるさくらの後ろから、暗い笑いと共に口を挟んでくる声があった。
 いるのはさくらの鎖分銅を首に巻かれた毛むくじゃらの犬一匹。いや、よく見ればそれは犬ではない。
「デティクトアンデットに反応! ホーリ‥‥」
「え、えと。待って下さい。は、話をする為に、つつ、連れて来たん、です」
 邪魅。日本で見かける数少ないデビルの一つだ。
 エスターが即行で構えたのを、さくらがとめる。
「話?」
「はい。じ、地獄に行くのであれば、やはり地元の方に御案内いただくのが、い、一番ではないかと‥‥」
 首を傾げるエスターに、さくらは微笑と共に告げる。
「何考えてるんですかーーーーっ!!」
 しかし、俯き震えていたクレリックは、やおらに顔を上げると真っ赤になって怒鳴りつける。その迫力にさくらだけでなく、他の冒険者や絵師も一歩退く。
「幾ら詳しいからと言って、彼らが真実を素直に話すはずなどありません!! いいですか? 悪魔は常に二枚舌。その言葉を信じるなど言語道断。彼らの行動は常に何であろうとも百害あって一利無し!!! 油断大敵、火に油です!!!」
「す、すみませんっ!」
 その迫力に思わずさくらも頭を下げる。
「酷いですねぇ。私たちは常に人の味方。それをそんな悪し様に告げられるとは」
「何が!!」
 したり顔で嘆く邪魅に、いきり立つクレリック。
「落ち着きなさい。デビルを憎むのは当然だけど、誇張のある表現も見受けられるわよ」
 収拾つかなくなる前に、ステラがその間に割って入る。
「捕まえてきたなら、それはそれで聞きたい事もある」
 蒼羅も、表面上は何も変わらぬ風ながら、そっと依頼人と絵師を背後に回す。
「そうですよね! 出来ましたら、地獄について何かお話を!!」
 その蒼羅を押しやって、宗平が嬉しそうにデビルに詰め寄る。俄然興味を持ったようだ。
 その行動にエスターが何か言い募ろうとしたのを、他の面々が無言で制する。
 地獄からの不意の動き。これで何かの糸口が掴めるなら、それもいい。
 必要以上に絵師が近付かぬように計らいながら、邪魅の動向を待つ。
「いいですよ。ただし、代償として少々魂をいただきますがね」
「魂? 命ですか? いいですよ、その程度で地獄が見れるなら」
「「「「「駄目ですっ!!」」」」」
 にやりと笑う邪魅に、あっさり頷く宗平。依頼人と冒険者たちの声が唱和する。
「やれやれ、行為に代償を支払うのは人も同じだというのに、異種にはただ働きさせようとは。さすが人間は強欲です」
「案内料に命取られるのは割りに合いません!」
 盛大な溜息を落す邪魅を、エスターが睨みつける。
「全部とは言いませんよ。そう、ほんの少し、体調を崩す程度です」
「駄目です!」
 強く言い放つクレリック。仕方が無いと、今度は肩まで落す邪魅。
「では、仕方ありません。ここにいても仕方無さそうなので、退散するとしましょう」
 ふと上げた犬の顔に、例え難い笑みがあった。
 デビルの体が、黒い靄のような光に包まれ歪む。
「な、何をするつもりですか!?」
 気付いたさくらが高速詠唱一瞬。ライトニングアーマーを発動する。鎖分銅を通じて流れた雷は、しかし、邪魅の身に何の影響も与えない!!
「なっ!?」
「下がれ! 魔法の無効化か!?」
 蒼羅が素早く天馬の白耀にレジストデビルをかけさせる。
 その間にも、デビルの体が歪んだ。小柄な姿に変身すると、そのまま走って逃走しようとする。
「ならば、これならばどう!?」
 が、そうはさせじとステラがマグナブローを専門で唱えた。
「クォォォオオ!!」
 上がる火柱に、デビルの悲鳴が混じる。これは効いているようだ。
 続けて蒼羅がライトニングソードで斬りつける。高速詠唱を使った為、威力は落としているがこれも相手に一撃入った。
「専門威力を出せば魔法も通じるのか?」
 訝る蒼羅。
「小賢しいな! だが、宗平さんたちは守らせてもらうぜ!!」
 育が地べたに転がった邪魅へとデュランダルを振り下ろす。
「止めろ!! 今、倒されては‥‥!!!」
 天使が来たるべき悪魔との戦いに準備したという魔剣。華美なその剣は、やけにうろたえるデビルの断末魔をも両断した。


 間近で見た戦闘。
 極普通の一般人なら腰を抜かしてもおかしくはないが、彼にその気配は無い。
 それどころか、軽く紙に描きとめ、その絵を前に、宗平は無言で身動きもしない。しかし、その表情から変わらず何かに思い悩んでいるのは確かだ。
「先ので懲りてくれたならいいのだけど‥‥。まだ地獄に行きたいというのは、この戦力では無謀だわ」
 ステラの言葉に、エスターがうっと詰まる。一応、足手纏いの自覚はあるのだろう。
「怖気づいた訳ではなさそうだ。‥‥命も厭わないなら、危険を説いても無意味。とすると、絵の題目を別の物にさせる方がいいだろう」
「別の物‥‥そうね」
 蒼羅の言葉に、ステラがふと思いつき。黙ったままの宗平に声をかける。
「ねぇ、宗平さんが描きたいのは一体何なのかしら」
 声をかけたステラを、宗平はやはり無言のまま。迷う眼差しでただ見つめる。
「宗平さんが本当に描きたいのは地獄なんて表層的なものでもないはず。地獄絵図を描きたくても納得いく絵にならないのは、地獄を知らないからじゃなく、宗平さんの描きたい末世の本質と地獄と合わないからじゃないかしら」
 はっ、と宗平の目が見開かれる。
 手ごたえを掴み、その顔を見つめ返した後、にっこりと微笑む。
「この際、地獄絵図を描くという思い込みは一旦捨てるべきじゃないかしら。その上で、何を描きたいか、もう一度よく考えてみるの。そうね、例えば私個人としては、末世とそこから立ち上がり前に進む救世の絵を見てみたいわね」
「救世‥‥。なるほど苦しみもがく戒めではなく、救いの御手が示す希望の先‥‥」
 その言葉で深く考え込んだ宗平。
 やおらに厳しい表情のまま、顔を上げると、荷物を纏め出す。
「あ、あの。どちらに行かれるんですか?」
「家に帰る。一から描き直しだ」
 告げるのももどかしい様子で、駆け去っていく。
 何とも慌しいその行動。振り回された面々はただ見送るしかない。
「でも、地獄行きは諦めていただけたようですね。この度は私の力不足でお手を煩わせてしまい、申し訳ありませんでした」
 唖然としていたエスターも、やがて気を取り直すと、冒険者たちに頭を下げる。

 それからも。
 デビルの侵攻は止まず、エスター始め冒険者たちはその防衛に戻る。
 しかし、その最中に絵師が現れる事は、もう無かった。