イギリスってどんなトコ?

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 31 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月20日〜01月23日

リプレイ公開日:2005年01月30日

●オープニング

 凍て付く冬。
 村は雪に閉ざされ、行き交う者も少なく。田畑も白く凍り付けば仕事はさほども出来ない。
 元気な男衆は町へと出稼ぎに出る者もいて、帰るのは春。少ない人口はますます少なくなり、ただでさえ見知った顔なのに、自然、同じ顔ばかり見る事が多くなる。
 繰り返す毎日は平和の証。冬とはいえやる事はたくさんあるし、けして暇ではない。
 それでも。
 その日常を退屈と思い、何がしかの娯楽を求めるのも罪ではあるまい。
 その為、冬の客はもてはやされる。珍しい話、目新しい品。例えそれがつまらない物でも究極の冒険譚か至上の宝ようにも思え、冬の無聊を一時慰める。

「なんで、ちょっくら村に来てお話をしてくださらんか?」
 都合で都に赴いたという老人は、冒険者ギルドをくぐり気恥ずかしそうにそう依頼を出した。
 提示された報酬は少ないが、命の危険などある訳無し。人々に喜ばれるという点においては、金よりも価値がある依頼とも言える。
 とはいえ。
「どうして、イギリスの話をなのでしょう? 無聊の慰めならば大道芸の披露でも良いのでは? それを置いたとしても、他の国の話では駄目なのでしょうか?」
 ギルドの係員が首を捻ると、老人は照れくさそうに苦笑する。
「いや、実は冬の始め頃、イギリスの商人が村に買い付けに来られましての。その際、いろいろ話してくれたのが、皆忘れられんのじゃ」
 遠い異国の話はそれでなくても魅力的だ。けして行く事の出来ない地は色鮮やかな夢のよう。
 だが、イギリスは江戸と月道で繋がっている。そして、江戸は村からそう遠く無い地である。
 月道の料金は庶民には手が届かず、まるきり日常の外の品として頭の隅からも除外していたが、確かにそれを通ってやってくる者がいる。
 距離的には非常に遠い異国の地。けれど月道を通じればすぐに辿りつける程の近しさ。到達不可能と思われた夢の国が、実はお隣さんでもある事に気付かされたのだ。そうすると、知らないと云う事が妙に気にかかってくる。
 もしかしたら、何かの機会に行けるかもしれない。そう思うと、俄然、そこがどんな国なのか興味が湧いてくる。夢は夢ではなく、現実としての色を帯びてくるのだ。
「ま、田舎もんの馬鹿な熱病みたいなもんじゃけどの。そういう訳で、イギリスの話をして欲しいんじゃ。冒険者の方ならいろいろ詳しい方も多かろう?」
 老人が笑うと、ギルドの係員も得たりと笑う。
 そして、募集がなされた。

●今回の参加者

 ea0050 大宗院 透(24歳・♂・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea2557 南天 輝(44歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea4660 荒神 紗之(37歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea6177 ゲレイ・メージ(31歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea6437 エリス・スコットランド(25歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea6796 ユウナ・レフォード(30歳・♀・神聖騎士・人間・フランク王国)
 ea8214 潤 美夏(23歳・♀・ファイター・ドワーフ・華仙教大国)
 eb0062 ケイン・クロード(30歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

 イギリスってどんなトコ?
 そう問われて答えるのも意外に難しい。遠い彼方の一国。気候風土に生活習慣。住んでる人種に宗教、嗜好と話の種は尽きぬ物。
 それが興味を持っている相手なら尚の事。どんな事でも聞いておきたいと、好奇心顕わにせがんでくる。
 冬の退屈も手伝って、村へと話に訪れた冒険者たちの周りには、すぐに人垣が出来ていた。
 ただまぁ。遠い異国の話となると、一体どこまでが本当でどれが勘違いで何が誤解なのか。それを判断する事は江戸にいる限り、なかなか難しい。参加した冒険者にはイギリス人もいるが、彼らですら何かの間違いを起こしているかもしれないし、知っていると自負する分だけ視野を狭くしている可能性もある。
 ――故に、この報告書の情報ははなはだ信憑性に欠ける事を最初に記しておく‥‥。


「イギリスの話か。そうだな、向こうにいる知り合いからもらった手紙の内容でも」
 目を輝かせて集まってきていた子供達を前に、南天輝(ea2557)は一つ頷き、おもむろに琵琶を手にした。
「それでは。これより語るは遠き異国の冒険譚。現われる者は謎の怪盗、天使に悪魔崇拝者。そして、友を始めとする冒険者たち。鍵となる品を巡り、彼らがいかに動くか。それは聞いてのお楽しみ、と」
 目をやや挙動不審に泳がせながらも、咳払い一つ、琵琶をかき鳴らして輝は語りだす。
 とある品を巡り、冒険者と怪盗が奪い合う。その過程で品物は天使と関わりがあり、冒険者たちは天使と遭遇する。だが、そこに現われた悪魔崇拝者たち。その品物を利用して天使を生贄とし、魔王の復活を目論む。
 共通の敵を前にし、手を取り合う冒険者と怪盗そして天使。はたして、運命はどう回るのか。恐るべき魔王は復活するのか。
 巧みな琵琶の音と合わさり、輝の語りに皆が真剣に耳を寄せていたのだが、
「そして、彼らがどうなるか‥‥それは今後の話で、今はここまでだ。‥‥とまぁ、向こうには神さんの使いが街中に住んでるんだな」
 凄いだろ、とバチを置いた輝だったが。
「「「「「ええええーーーーーーーーーっ!!」」」」」
 途端、盛大な不満の声が飛んだ。まぁ、これからがいい所であるのにお預け喰ったのだ。聞き込んでいただけに反響も大きい。
「ほらほら。皆、あんまり、困らさないようにな」
 同じく聞いていた御老人方が宥めるも、子供らからはすねたような怒ったような目で睨まれて、輝は困りながら笑って頬を掻いた。
「落ち着きなさいな。冒険譚はそれだけじゃないですわよ」
「へー、どんなのどんなの?」
 潤美夏(ea8214)が告げると、途端に子供が群がってくる。無邪気な子供らをぐるりと一瞥した後に、立派な髭をピンと弾く。
「そう、これはとある戦士の話です。ええ、彼はイギリスでかなり有名でしょう。
 東に変態あらば駆けつけて対抗‥‥ではなく正義の剣で退散せしめ。西に泣いている子供あらばとびっきりのアホづ‥‥ゴホゴホ‥‥あー、失礼。笑顔で泣く子も笑わせる。
 北の大地に枯れた土地あらば即座に参上、怪し‥‥くない素敵な雨乞いの踊りを披露し、南に雨宿りしている人あらば濡れぬよう葉っ‥‥はー、ぱっと素早く傘を差し出す。
 彼の素敵な姿と行動に、イギリスの民は畏敬の念を込めてこう呼ぶのですわ。キャメロットの平和を乱‥‥ではなく、守る正義の戦士・葉っぱ男、と!!」
 拳を固く握り締め、空の彼方まで轟きそうなほどに宣言する美夏。途中何度もかなり不自然につっかえたが、聞いてる子供らは気付く事無く興味たっぷりに身を寄せてくる。 
「葉っぱなの? 男なの? どんな格好してるの?」
「ええ、葉っぱです。格好も葉っぱ一枚だけです」
「何で葉っぱなの?」
「イギリスの褌だからです」
「力士みたいなもんなのかのぉ」
 問われて即座に応える美夏。きっぱり断言されて、一緒に聞いてた老人たちも納得した模様。美夏も何も言わずに黙って頷く。
「そうなんですか‥‥。知りませんでした‥‥」
 皆の話を同じく聞いていた大宗院透(ea0050)もまた深く頷いていた。
「私も行った事はありませんので詳しくは述べられませんが。‥‥イギリスはジャパンよりも、人以外の種族に対して迫害している国ですね‥‥。それはジーザス教という宗教上の理由からだそうです‥‥」
 以前とある折に調べた外国の話を、訥訥と喋る透。
「僕、知ってる。ジーザスの白が多いんだよね」
「しかし、何故に差別するのかね?」
「確か、自国至上主義なのだとか‥‥。政治も選挙制王政を用いた帝国で‥‥」
「おや、王国と聞いたがね?」
 尋ねてくる村人に、透は自分の知識を語る。が、老人たちは首を傾げるし、子供らは難しい話に少々つまらなさそうにしていた。
 指摘されて、あっさりと透は頷く。
「では違うのでしょう‥‥。ふむ、母の国と同じかとも思いましたが‥‥。それでは少し、話を変えましょうか‥‥。向こうの駄洒落はどうでしょう? 例えば、English like bule painting lipとか‥‥」
「へぇ、それどういう意味??」
 駄洒落というより、聞きなれぬ言語に興味を持った様子。透の愛想良しとは言えない顔も駄洒落を告げる時だけ、わずかに微笑を見せた。
「聞いた話というなら、私もそうだわ。恥ずかしながら、皆さんと同じく直接見たり聞いたりした訳じゃない。ただ、冒険者なんてやっているとギルドへの出入りでイギリスの話も自然と耳に入ってくるわ」
 苦笑しつつも、荒神紗之(ea4660)が話しかける。
「で、聞いた話なんだけど。イギリスには空飛ぶ箒があるんだってさ」
「箒が? 飛ぶの??」
 きょとんと目を丸くする子供達に、紗之は笑って応える。
「みたい。実際日本に持ってきている人もいるらしいし、依頼でも使われてるらしいよ。で、その依頼で持ってきてた人は、昔、荷物持ちをやっていたらしいんだ。つまり、イギリスでは特急便の荷物持ちが箒に乗って参上するんだよ。間違いない!!」
 強く断言する紗之に、周囲から感心の声が上がる。
「箒でかぁ。でも、すぐ折れそうだな」
「だけど、しふーるよりかは荷物が持てそうだよねぇ。いいねぇ」
 空飛ぶ箒を夢見て、いろいろと話しだしている大人たち。その傍で子供らはきょろきょろと周囲を見渡していた。が、ふと一点に目を留めて、少しの相談の後、友人と並んでそちらへと駆け寄った。
「ねぇねぇ。それ、箒でしょう? 飛ぶの?」
 村の男衆と話していたゲレイ・メージ(ea6177)だが、子供らに袖を引かれ期待一杯の目で見上げられて、困ったように笑う。
「残念ながら、これは空飛ぶ箒の成れの果てだ。今はただの箒でしかない。ちゃんと飛ぶ箒はイギリスでも希少で、なかなか入手できないんだ」
「だとさ。ほら、子供は向こうに行って遊んでな!」
 話の種に荷物から取り出した箒を手にしたまま申し訳なさそうに告げるゲレイ。それでも、昔は浮いていたと聞いて興味深そうに見つめる子供らを、男らは追い立てる。
「それで、イギリスって所は日本とそんなに違うのかい?」
 子供らを離した後、その子供らと似たような目つきで問うてくる男らに、ゲレイは笑みを隠すのが必死だった。
「そうですね。向こうは蒸し暑くならないし、地震が無いから庶民の家も石造りだ。取れる作物が違うから料理も変わるし、気候と材料・作り方が違うから服装も変わるが、物価は同じようなものだ。
 ただ、イギリスでは日本の品物は珍しいので、二十倍くらいの値段になる事もあるが。でもそれは日本でも同じだろう」
「ほう、向こうの嬢ちゃんもそんな事言うとったの。日本の文化がえげれす人にも受け入れられているとな?」
 人の良さそうな顔して笑う老人。呼ばれて振り返った美夏がその後に続く。
「ええ、そうですよ。日本刀の美しさに魅かれ、褌を身に纏い、優れたジャパンの剣術を取り入れて新
しい剣術を作り上げたんですよ。豆腐だって広めようとしている人もいるんです」
 美夏の言葉に、男らも深く感動している。
「そうだな。そも、イギリスのソードは日本刀程切れず、重さで叩き切る作りになっている。それを防ぐ為にイギリスの鎧は鉄板だらけで重い。その為、刀では有効打を与えにくくなっているんだ」
 横から補足をいれつつも、ゲレイは微かに首を傾げている。それに気付く事も無く、美夏は男ら相手に話しこんでいた。
「けどまぁ、聞いてりゃ違う所も確かにあるけど。似た所もあるやな」
「おうな。あっちの姉さんの話なんざ、この村でも稀に起こるしな」
 山装束の男に指差され、別の場所で話しこんでいたエリス・スコットランド(ea6437)が輪に加わる。育ちの良さそうな顔に白一色で衣装を統一した彼女は、山男らに囲まれると山賊とさらわれた貴族みたいな光景にも見える。
 出自がイギリスの彼女は、当時の思い出だという話を語っていた。その話をもう一度、とせがまれ、やれやれとばかりに出された茶を啜った。
「私が十一歳、狩りをしようとした時の話です。まず、冬の終わりに狩場へ調査に赴いたのですが、その時は異常ありませんでした。ところが春となり、さあ狩りだと来てみれば、いつの間にやらスクリーマー‥‥こちらでは大紅天狗茸と言うらしいですね。それが群生してまして。うっかり踏みつけて叫ばれた為にオーク‥‥豚鬼と小鬼、それに犬鬼がやってきてしまいました。それで、楽しい筈の狩りが戦闘になってしまったんです」
 その時の事を思い出してか。大きく嘆息するエリスだが、男たちはただただ大笑いしている。
「いやいや。笑い事じゃねぇ。鬼が出るなんてただ事じゃないからな。‥‥で、その戦闘ってのはどんなのだったんだい」
「ご想像にお任せしますよ」
「ッて事は。誰かの陰に隠れてピーピー泣いてた口かい」
 からかうような口調に、さすがにエリスもむっと顔を顰める。
「これでも鍛錬を積んできたのですよ。傷だらけの大喧嘩だってしましたし」
「ほほぉ?」
 興味深げな目で見られて躊躇したものの、結局エリスはその顛末も口にする。
「十五歳の時、隣の領地の次男坊とでした。大喧嘩して両方傷だらけだったのと、喧嘩になった理由がどっちにもあったので、二人で説教とお仕置きを喰らった後、お互いに謝罪しました。
 その後、彼とはジャパンに来るまで時々会って、バカ騒ぎしたり互いに剣の稽古をしたりする仲になりましたけどね。ええ、無二の親友と呼べるでしょう」
「恋人の間違いじゃないのかい、姉ちゃん。もう一緒に寝たのかい?」
 いきなりさらりと言われて、エリスが息を詰まらせる。顔を真っ赤にして咽ぶエリスに、ゲレイが苦笑する。
「イギリスはジャパン程おおらかでは無いからな。特に、同性愛や人前で裸になる事を強く禁忌とするので、逆に変態が目立って騒動になる」
「おいおい。それじゃ、俺たちが変態おーけーみたいな感じじゃネェか。俺たちだってよ。男よりカカァのケツおっかける方が楽しいってもんだよな」
「あー、うるさいね。そういう所が変だって言ってんだよ!!」
 どうやら女房らしい女に即座にそう言い返されて、笑いが飛んだ。
 もっとも、女房の方は面白く無いらしく頬を膨らませていたが、それもくだらないとばかりに、話していたケイン・クロード(eb0062)へと向きなおした。
「それで? イギリスの人は飲むお茶も違うのかい?」
「ええ、紅茶林檎や蜜柑のような果物、または花のような甘い香りのするお茶ですね。色ももっと赤い感じですし」
 にこにこと笑いながら離すケインに、女たちは、へぇ、と頷きながら手元の茶を見る。話をしてもらうというのでいいお茶を用意していたらしいが、すっかり出涸らして味もずいぶん変わってきていた。それでもお茶はお茶。それとは違うものがあると聞いても今ひとつピンと来て無い様子でもあった。
「イギリスの人々は紅茶を一日に何度も飲む事が習慣になっているんです。特に、夕食前のハイティー――軽い夕食、という意味ですが、家族で一緒に紅茶を飲む事が庶民の習慣になっているんですよ」
 丁寧に話しながら、皆と日本茶を飲むケインだったが。
「その通りです! 素晴らしきかなティータイム。その中でもさらに欠かす事が出来ないモノ‥‥それが、茶箱です!!」
 横から飛び出たユウナ・レフォード(ea6796)の力強い言葉に、驚いてケインが茶を吹く。
 慌てたようにユウナを見遣ったケインだが、その動きが途中で止まった。そんな彼に構わず、ユウナは自分の話を続ける。 
「イギリスを語る上で、抜かす事が出来ないモノ。それは家具! 
 人数に応じて天板を引き出す事が出来るテーブル。釘を使わぬ接合方法、それにより引き出しの優美さはさらに高みへと登る。他にもねじり足という技法がありまして、最初には違和感を感じるかもしれません。でもそれが無くてはならぬ安心感を与えてくれるモノになるんです」
 ‥‥ユウナ、何だか恍惚と空を見上げている。どっぷりと自分世界に浸っているらしく、声がかけづらかった。 
「そして、茶箱! 優美さを前面に押し出したモノ、その中にも子供心が残る作品、または重厚さを押し出し茶の重要さをアピールする作品。本当にどれもこれもうっとりとする作品の数々。‥‥あいにく、私はイギリスに行った事はありませんので、ティータイムを経験してはいませんが」
 心底残念そうに語るユウナに、周囲の女性も思わずもらい泣き。‥‥極めて重要な事を言った気がするが、それについては誰も触れなかった。
「そうそう。イギリス人が紅茶への関心が高い要因として、ティークリッパーという紅茶を運ぶ快速船があるんですよ」
 気を取り直して、ケインが話を続ける。その間に、ユウナはどうやら茶碗の方に興味が移ったらしく、持ち主を探しに立ち去っていた。
「これが華仙教大国とイギリス間を短時間で運ぶ程、その紅茶には高い値段がつけられるんですよ。月道運送が実用化されている現代ですけど、費用の面からまだこちらのほうが主流なんです。人々はどの船が一番早くイギリスに着くか、それを賭けの対象にして盛り上がってるんですよ」
 月道は便利な反面、それ故に厳重に管理される。その為、大層な利用料を取られる事も多く、貿易にはいささか不向きな点ともなる。
 あはは、と陽気に笑うケインに、女たちも顔を綻ばせる。

 話は実に盛況に終わった。時間の許す限り、あれやこれやと話をせがまれ、江戸に帰る頃には声も枯れかけていた。
 話の真否は遠い空の下、月の道の彼方。語る冒険者たちの言葉の真偽も分からぬが、それを村人が信じたかも分からない。彼らにしてみれば、面白い話が聞けただけでも十分だっただろう。
 ともあれ。江戸へと帰る冒険者らを村の人たちは皆満足そうに笑顔で送り出していた。