【仮設村】 これにて終了
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■ショートシナリオ
担当:からた狐
対応レベル:6〜10lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 9 C
参加人数:4人
サポート参加人数:1人
冒険期間:01月05日〜01月10日
リプレイ公開日:2009年01月14日
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●オープニング
延暦寺の乱が起きたのは、初夏の頃。
鬼の群れが暴れた事により当初の予想を上回る甚大な被害が出、千人以上もの人が棲家を失い避難生活を余儀無くされた。
平織領内近江の国は坂本の南に設立された避難場所は『仮設村』と呼称され、戦後もそうした人々が身を寄せ、まさに村さながらに膨れ上がった。
が、所詮は家を失った者たちによる仮の宿り。新しい生活を見つけた者からどんどんと離脱し、反面、不安定な世の中から一時の宿り求めて新たな人も訪れるようになっていく。
入れ替わり立ち代わり。
生活する人数はほぼ変わらぬというのに、数ヶ月もすれば一体彼らは何から避難してきたのか。内実はすっかり貧民街の様相を呈するようになっていた。
おりしも冬直前。あくまで一時避難として作られた場所は冬に耐えられるか疑わしく。
今後活動についてどうするべきか。冒険者らも招いて意見を求めた結果、仮設村は冬を前に解体する方向に決まった。
すでに設立当初の役割は終えている。それが一致した意見であり、口を挟む者も無く。
そうと決まれば、今度は今いる住人たちをどうするかで奔走する日々。
折りしも戦争需要で京を中心に働き口は増えてきていた。そういった場所に口利きをして斡旋したり、京内外の寺社に頼んでせめて当面の屋根ぐらいは貸して貰えぬかを交渉したり、遠くは尾張まで足を運んでの打診と動きが慌しくなる。
治安も悪化していたが、新たに尾張から治安維持を目的とした兵の派遣もあって、大きな混乱は無く。
着々と解体に向け進んでいたが。
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「どうしても、出てかにゃなりませんかねぇ」
「何度も説明をつけている通り。この村の設備では今年の冬も越せるか分からんのだ。すでにあれこれ難儀しているのだろう。以後の便宜を図ってくれる場所には、各方面当たりをつけて口利きしてる。どうか、そちらにお移り下さるようお願いしたい」
困惑顔の難民たちを相手に、村を任されている侍たちもまた同じ困惑顔で必死に説得を繰り返す。
それでも両者の顔色は曇ったままで、互いに快く思っていないのがよく分かる。
「この歳になって、見ず知らずの人の世話になるのもなぁ」
「寺社に仮宿が不都合あるなら、村にすぐ入れるような空き家が無いか、各方面に話をつけている。襤褸家にはなるだろうが、ここよりかは棲み良い筈だ」
「それでも、村のモンに迷惑はかけるじゃろ」
「よそ者は早々歓迎されん。気に入らん事があればすぐに私らはたたき出されるだろうて」
「顔色覗って生きるのはもう疲れたわ」
声を荒げるでもなく、それでも静かに不満をもらしていく難民たち。
「なぁ。ここに住み着くちゅうのはどうしてもいけませんですかのぉ」
そして、また繰り返す。堂々巡りの話に、侍たちも頭を抱える。
「別にお上の援助も無くていい。確かに不便だが、それは承知の上。そこはどうとでも出来る」
「せっかく顔見知りになったのだし。多少気心知れた相手と生活する方が楽よね」
「田畑を作るにも、一からやり直さにゃならん。気心知れた人がいる方がありがたい」
「土を作るにも、季節を知る必要はある。冬の厳しさに合う構想も出来て来たんじゃがのぉ」
口々に言い合う懇願。
だが、お願いしたいのは侍たちも同じだった。
●
「‥‥受け入れる訳にはいかないのか?」
そして、担当の侍が冒険者ギルドを訪れる。
話を聞いたギルドの係員は首を傾げるが、対して侍は渋面を作って低く唸る。
「どうしてもというなら、上とかけあえば恐らく大丈夫だろう。しかし、だ。これまでにも留まりたいという者を、曲げて移ってもらっている。そういう者たちからすれば、どうして彼らがよくて自分らは駄目なんだという話になる。また、そうやって村を解体する方針で来たのに、最後に言を翻すのでは不審を持たれかねん。最悪市様の御名にも傷がつく」
考えすぎとは思うが、今は何かと微妙な時期。何で足を掬われるか分からない。
「何にせよ、市様には治安維持の為の兵を裂いてこちらにまわして下さっている。黄泉人のみならずデビルなる輩まで徘徊する昨今。あまりこの件だけで長々と引き摺る訳には行かない。
当初の予定からは遅れそうだが。それでも正月が開けた辺りで頃合を見、我らは村から撤収。後は個々の生活に任せる事にする」
すでに村から出て行った者たちは、それぞれの生活に戻っている。長く居座っているからといって、村にいる者たちだけを特別扱いする訳にはいかず、また村の者もそれは望んでいない。
だが、撤収後も村人が残るようでは前述の通り、少々不都合が起こりかねない。
なので、何とか彼らも村から出て生活してもらえないか。冒険者たちに説得してほしいとの事だ。
●リプレイ本文
避難場所として設立された通称仮設村。
もはや本来の役目は終える運びとなったが、ようやく馴染んだ場所を離れたがらない者がちらほらと。
「年寄り達って構ってもらうと調子に乗るんだよねー」
聞いた陽小娘(eb2975)が、厄介そうに口を曲げる。
仮設村撤去に伴い侍たちも退く事になるが、庇護はなくともここに居たいと言うのだから筋金が入っている。
「トシヨリのアミ〜ゴ、オテントさんさんに聞いてもらったアルが、探し出すのはちょっと骨ネ〜」
独特の笑みを醸しながらも、サントス・ティラナ(eb0764)はややお疲れ気味。
ジュディス・ティラナのサンワードで漠然とした距離と方角が分かるものの、そう近くにいない事も多い。高齢者の友であれば、そもそもあの世にいる可能性も高い。
「折角手がけた仮設村だ。全世帯に納得して立ち退いてもらいたいものだな」
何事も終わりが肝心。
落ち着いてはいるものの、アリアス・サーレク(ea2699)とて気合は入る。
「新天地に移り住む不安は分からなくもありませんわ。村人に話を通し、平織の方々にも便宜が図れないか調整する必要がありますわね」
明王院未楡(eb2404)に、小娘は小首を傾げる。
「うーん、村人たちの話は愚痴聞きになりそうだしね。そっちはハゲに任せて、あたしはもうちょっと受け入れ先や彼らの知人の方に話をつけてみるよ」
サントスたちが調べた方角をもう一度確かめ、さっそうと向かい出す。
「こっちも急ぐとしよう。なるべく早い方がいい」
彼女を見送る間もなく、残る三名もそれぞれで動き出す。
●
とにかく村人たちは移り住む不安が先に立つ様子。
ならば、その不安を和らげようと、まずはとにかく聞き役に徹する。
「そもそもこの村は、『仮に設ける』との名を冠したもの。終の居場所として作られてはいない」
人が少なくなってきた所に、病や事故が起きれば、重大な危機を迎えるのは目に見えている。
話が済んだ所で、おもむろにアリアスはそう訴えるが、それは分かっていると残留希望者たちは頷いている。
「百も承知です。ですが、それでも人の軋轢にもまれて苦労するよりはマシだと考えています。生半な所に飛び込むよりか、一からまた自分たちの手で作り上げる苦労を選びたいのです」
侍たちが退けば、ただの残骸が残る廃村となる。
人の住んだ跡は残るので、そこに手を加えていける分だけ、荒野を開拓するより楽ではある。
「しかし、村を作って救った者がみすみす危機に陥ると分かっているのに、見過ごす事はできない」
「これまで救った者全てを救い続けるのは無理でしょう」
「移ったところでそこで流行り病に倒れる可能性もあり。運命とは分からんものだて」
必死に説得するアリアスだが、向こうはのらりくらりと避けて通る。
頭が固いというよりは、すでに言い尽くして慣れたやりとりをしている感じだ。
「トシヨリになると心細くなるアル! その気持ちイタイ程分かるヨ〜。ファミリ〜、アミ〜ゴと離れ離れは寂スィ〜ケド、ある程度は纏めて受け入れてくれるアル〜♪ グランマの知恵袋は重宝されるヨ〜♪」
サントスの独特の節回しに、老人たちは首を傾げる。
未楡が分からない語彙を解説し時間をかけて理解するが、希望者たちの表情はまだ浮かない。
「知恵といっても、先方にもいろいろ人がいる。今更行ったところで何が出来るか」
「いや、そうでもない。中にはそういった人を失って難儀をしている場所もあるのだ。この村でやって行こうとする知恵や技術がおありなら、そういった村に赴いて発展に協力してもらいたい」
鈍重そうに告げる希望者たちに、はっとしてアリアスが強く訴える。
必要とされている所を断るのも気が引けるのか。希望者たちの顔に戸惑いが浮かぶ。
「あの‥‥。サントスさんの申された通り、ここにいる全員を纏めて移住する事は叶いませんけど‥‥。よろしければ数世帯ずつで受け入れてくれる先は見付かりますよ」
控えめに、未楡が告げると、ますます希望者たちは戸惑いを大きくする。
平織の侍とも話をつけている。家族がバラバラになるのはいい事でも無し。元々、そういう風に割振れるならそうしていた。
数世帯を纏めてとなるとさらに条件は厳しくなるもののそれも無くも無いとの事。
先方との軋轢軽減で、向こうさんに食料提供など一定の便宜を図れないか未楡は頼んでいたが、それも手間賃と礼として些少はお願いしてたりもするらしい。
ただし、この先ずっとという話なら、村人たちを何時までも特別扱いには出来ないので、さすがに無理。
まぁ、受け入れ自体は問題無さそうなので未楡としても安心は出来る。
もっとも、それも希望者が望めばだが。
「見知らぬ土地に移るのは心細いとは思いますけど‥‥駄目でしょうか。今からここを開墾していくには厳しすぎます」
顔を伏せる未楡に、希望者たちも目を伏せる。
押し黙ってはいるが、迷ってはいるようである。
さて、どう説得しようかと冒険者たちが悩んでいる時に、小娘が入ってきた。
「ちょっと入りづらくて様子見てたんだけどね。あのさ、今度鏡割りする所があるんだけど、行ってみない? 美味しいお汁粉も食べられるし。ある寺には救護所が出来て、只で受診してもらえるよ!」
デビルの襲来で、各地の寺社に人が集まってきている。新年という事もあり、暗い世の中、沈んでいても始まらぬと催しものは多い。
そうした人に振舞う炊き出しも行われており、手伝いならば歓迎するとの返答もある。
とはいえ、そういう背景情報は伏せたところで何となく分かる。
「危険はどこも同じかのう」
「ですが。街中ならば何かあっても駆けつけやすいです。ここも、今はおられる侍方が守っていただけますが‥‥いなくなれば‥‥」
口ごもる未楡に、希望者たちもまた言葉を失う。
場所は近江。比叡山もまだ近い。それを踏まえての残留希望な辺り、対策は何か考えているだろうが、物騒な昨今はそれより更に状況は悪い。
「正直、この状況だ。第二第三の仮設村を必要とする時が来るかもしれない。
その際、先に京都で起こった危機や、仮設村へ避難した時の危険、仮設村で起こった処々の問題やその対処など知っていれば、動きやすい。事実を伝える語り部としての役目をお願いしたいのだ」
アリアスが頭を下げる。
「あ。知人連中も元気にしてる人はいたよ。まぁ同じ場所ってのは難しい事もあるけど、近くの村に割り当ててくれるぐらいは考慮してもらえそうだしね」
疲れた表情で肩を回す小娘。
希望者たちは顔を見合わせて考え込む。
すぐに結論を出すのも難しい。しばらく希望者たちだけで話させてくれと長い時間会議が行われた。
そこで何が話されたのかは分からない。
ただ、待ちくたびれてそろそろどうしようかと話しあっている時に、彼らの代表が顔を出す。
曰く、ここを去る事に決めたという。
「正直、それがわしらにとって吉と出るか凶と出るかは分からん。だが、どうやらまだもう少しわしらでも必要とされている者がいるようじゃけん」
告げる表情も晴れ晴れしさは無く。悩んだ末にというのはよく分かる。
が、出て行くと決めたからには覚悟もついた。行き先について平織の侍たちと、前向きに検討し始める。
「長い間、お疲れネ〜♪ コレでプリンセス市もハナタッカダカね〜♪」
案件終わって、サントスが陽気に踊り出す。小娘は軽く睨んで他人のフリ。
「とはいえ、この跡地をどうするかよね。下手に残すと、ごろつきとか居ついちゃうかも。いっその事更地にしちゃえば、諦めざるを得ないかもね」
小娘の申し出に、侍たちも同意する。
ごろつきならまだいいが、物の怪でもやってこられては、周囲に危険が及びかねない。
誰もいないと分かっているなら、解体してしまうに限る。
「だが、全く痕跡無しにするのも寂しいものだ。よければここにあったという足跡を残す意味で、この桜でも植えてはくれないか」
「オウ、ミーも用意したネ〜♪ ネギライ込めて、この乾餅と金100枚も寄付させてもらうネ〜♪」
言ってアリアスが大荷物から桜の盆栽を差し出すと、サントスも幾つかの品を平織に渡す。
「よっし、お汁粉完成! 皆、話は一時中断して一杯いかがー? お侍さんたちも食べていってちょうだい」
「食べ終わったら、早い内に荷物の纏めをしておきましょう。お手伝いさせていただきますわ」
鍋を叩くと、小娘が元気な声を上げる。
未楡も微笑み、寒そうに身をかがめる人たちに声をかけて回る。
焦れていた平織たち。事がすぐに運ぶよう、移住先自体はすでに幾つか見当つけている。動き出せば、速やかに終わるだろう。
やがて、建物は崩され、侍たちもそもの任務に戻っていく。
数年後には、見送る桜が大きくなっている事だろう。