嗤う者
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■ショートシナリオ
担当:からた狐
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:3 G 80 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月06日〜02月11日
リプレイ公開日:2009年02月14日
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●オープニング
一人の女を二人の男が取り合うのはよくある話。
けれど、女にはどちらも選ぶつもりは無かった。
「いい方々とは思うのですが‥‥。申し訳ありませんが、ご縁は無かったということで」
言って断るも、男たちは諦めるそぶり無く。
女の父親が一計を案じて、男たちと話を告げる。
「山に救う鬼を退治して来てくれたなら、娘も考えを改めるだろうし、わしも嫁に出しても構わんよ」
彼らの村では度々人喰鬼が現れた。数多くの家畜が喰われ、時には人も餌食にされた。
多少の武芸では歯が立たない。
相手は一体。策を用いればどうにかとも思われたが、なかなかその策が講じれない。
父親にすれば、諦めれば娘の気は晴れるし、退治すれば村の窮状を救った相手になるのだ。婚姻の邪魔となるはずもなし。
男たちは父親の言葉を呑んだが、鬼退治などただの村人に早々できるはずも無い。
ぐずぐずしていると相手に先を越される。双方が必死に考え込んでいると、それぞれの元にそれぞれの声が届く。
「「臆せず村を困らせる鬼を退治するとはなんとよい心がけ。愛する者を手に入れる為、力を貸しましょう」」
気がつけば。一人の男の前には刀が、もう一人の下には立派な鎧があった。
祈りが天に通じ、加護を下されたと、二人はそれらを装備し、山に赴いた。
そうして、鬼を二人でやっつけた。
「わしが鬼を抑えたからこそ、お前は奴の首をはねられたのだ。わしの方が功が大きい!」
「鬼の首を刎ねて退治したのは私です。あなたは押さえ込むばかりで倒せはしなかったでしょう」
鬼は退治され、村は平和になった。
しかし、どちらが鬼を退治したかで、二人が争うようになった。
「「自分こそが鬼を退治した功労者。約束どおり、娘さんとの仲をとりもってもらいたい!」」
二人は父親に詰め寄るも、まさか二人で退治するとは思ってなかった父親。返答しがたく、口を濁す。
「村を救ってくれたのは恩義に思います。ですが、それを嵩に人々を困らせ関係を強いるとは何事ですか。私は物ではなりません」
最初こそは喜んでいた娘も。次第に二人の態度に顔を背けるようになる。
そして、また二人の元にそれぞれの声が届く。
「あの家は、端からお前の思いを利用するだけだったのさ」
「命を懸けた報いがこれとはあんまりだ。報いを受けて当然だろう?」
二人はそれぞれ刀と鎧を装備すると、娘の家に押し入った。
現れた男たちのただならぬ気配に、一家は騒然となった。
彼らの持つ刀が、鎧が。赤い輝きを見せるや、何の無い所からいきなり火があがった。
「お逃げ!」
火はたちまち家を焼けつくす。
火に焼かれそう叫んだ母は、鎧に押し潰された。
「お前たち、こんな事をしでかして‥‥ぐはっ!」
男たちを糾弾した父は刀に切り裂かれて倒れた。
「娘! 娘はどこに行った! あの女は私の妻!!」
「何おう!? あの娘はわしのものだ! 邪魔をするなら殺してやる! 全て殺してやる!!」
炎の中、煙で娘を見失った二人は探す内に互いに争い始める。その隙に娘は家から抜け出し、必死で逃げた。
(「どうして、どうしてこんな事に!?」)
逃げた山中。見つけた祠に身を隠し、娘は震える。男たちが追ってきているのは分かっていた。
「震えているのは、怖いからじゃない。‥‥そうでしょう?」
「誰!?」
誰もいない祠の中で声が響いた。見渡す彼女の目の前に、ことりと般若の面が落ちる。
「私はお前の心。お前の怒り、憎しみ、悲しみ。‥‥そして、お前の力」
ふわりと般若面が浮かんだ。
「父母の仇を、とりたいのでしょう?」
優しい声が娘を誘う。
呆然と般若面を見ていた娘は、やがて手を伸ばすと面を手に取り顔に覆った。
「お嬢さん、いけません! 何をお考えですか!」
「離して下さい」
火事の跡から、娘を探しに来た近所の老人が全てを見ていた。
般若の面をつけ、どこかへ行こうとする彼女を必死に押しとめる。
「いけません。何か尋常でない。気持ちは分かりますが、気を静めて下さい」
「離せと言ってる!!」
食い下がる老人を、般若の面が見下ろす。その面が赤く輝くや、小さな火の玉が老人を弾き飛ばした。
「ひ、ひいぃ!!」
苦痛にのたうつ老人。その腰に護身用だろうか、綺麗な鎌があるのに気付くと、娘は強引に奪い取る。
「許さない。絶対に許さない。無残に殺された父の仇、母の仇。必ず同じ目にあわせてやる」
「いけません、お嬢さん! 行っちゃあならない!!」
身を翻すと、娘は鎌を手に山の方へと駆け出す。老人の制止は一顧だにしなかった。
そして。火傷跡の酷い老人が、村の青年におぶわれて冒険者ギルドに訪れる。
「男たちも、娘さんもあんな人じゃなかった。何が起きたかは分からんが、尋常でない事が起きたのだけは分かる」
青年の手を借りながら、老人は委細を話す。
「娘さんは鬼のいた山に消えた。男たちもそちらに向かったという目撃者がいる。彼らが出会えば、またいらぬ惨劇が起きるだろう。どうかその前に、彼らを止めてやって下さい」
青ざめた表情で老人は告げると、深々と頭を下げた。
●リプレイ本文
「では、その刀や鎧、面については誰も心当たりが無いのですか?」
齋部玲瓏(ec4507)の問いかけに、村人たちは困ったように顔を見合わせている。
「立派な物だから、わしらはどこか町にでも出て手に入れたんだろうと思っておった。あいつらは神から賜ったと言っていたが‥‥」
小さな村でも、武装を持つ事は不思議ではない。ましてこの村ではしばしば人喰鬼が現れていた。身を固めねばむざとやられてしまう。
であれば、立派な武具を隠し持つ必要はない。それでも二人の男が持っていた武具を村人たちは知らなかった。
娘をかけて張り合っていたのは周知の事で、意地になって互いに立派な物を入手してきたのだろうぐらいにしか考えてなかったのだとか。
般若面に関しても、祠は知っていたがそこにそんな物があるとは誰も知らず。また隠しておくような場所でもないと口々に告げる。
「鬼退治成功だなんて、随分普段から鍛えてたのね?」
「とんでもない。あの鬼が来る度に村中の者がどれだけ酷い目に合ってきたか!」
何気に告げたアニェス・ジュイエ(eb9449)の言葉にも、蒼白になって身を震わせている。
人喰鬼は冒険者たちでも駆け出し程度ではとても叶わない相手だ。一体だけだったとはいえ、村でも対処に手を焼いていた。
勿論、前々から若者二人も鬼の撃退には力を入れてきたが、だからといって他の村人同様武芸が出来たわけでも無かった。
思い返せば、あの武具を手にして鬼を退治してから何か様子がおかしくなっていたという。しかし、それも当時は、娘の父親の態度に苛立ちを募らせていただけと考えていたのだ。
「劇的な豹変じゃなく、徐々にか‥‥。とにかく怪しいのはやっぱり道具たちね」
「ですね。焼け跡‥‥許可を頂いてパーストで覗いてみましたが、確かに彼らが火種無く火をいきなり点けてます。ただ、魔法にしては彼らが唱えた素振り無く、詠唱光が見えたのは持っていた武具からのみに見えました」
ぽそりと呟くアニェスに、カンタータ・ドレッドノート(ea9455)はフードを目深に下ろしてやはり声低く返す。
「玲瓏さんと文献などを漁ってもみましたが、今の段階では確たる事は言えません。どうやら武具面が怪しいとしても、塗り壁や一反妖怪のように物品に似た形状を持つ妖怪はいますし、物に家鳴りが憑いて動かしているならアンデッド。火の魔法を使うとするなら精霊の類も疑ってかかるべきで、人を貶めるなら‥‥デビルかも」
軽く息を落として肩を竦めるカンタータ。ともあれ、何か得体の知れないのが関わっている公算が高い事だけは頭に入れておく。
「作戦の流れは決定事項に従う。概ね情報が集まったなら、急いだ方がいいですね」
控えていた妙道院孔宣(ec5511)が告げると、他の三名も頷く。
「そういえば、彼らは山に向かったと聞きましたが、何故山へ?」
「分かりません。鬼も退治しましたし、もう何もないと思うのですが」
首を傾げる玲瓏に、村人たちも同じく首を捻っている。
●
若者二人と娘一人。彼らが向かったという山へ冒険者たちも追いかける。
「彼ら、その鬼がいたという場所に集まっているみたいね。‥‥ネージュ、臭いで追える?」
サンワードで太陽に尋ねるアニェス。連れたハウンドに行方を聞けば、がんばると言いたげに尻尾を振り、地面に鼻をつけている。
魔法では漠然とした距離と方角が分かるぐらいだが、それでも三人が移動しているのはわかる。
おおよその様子も村人から聞いており、当たりをつけると現場に急ぐ。
「いました! 三人とも揃っています!」
不意に開ける視界。鬼がいたというその場所は粗末で朽ち気味の小屋が一つ。周辺は鬼がいたからだろか、草木が刈り取られ、広い野原のようになっている。
その中ににらみ合っている三人。女は般若の面を、男たちはそれぞれ刀と鎧を身に着けている。
互いが互いを牽制しあい、丁度三角形の位置のまま動こうとしない。
「リヴィールマジックには反応がありません。少なくとも、今は魔法の痕跡はありません」
「ですが、あの問題の道具たちにデティクトアンデットの反応があります。‥‥何れの不死者が絡んでいるのか」
敵を探るべく魔法を唱える。
首を傾げる玲瓏。孔宣は苦々しい表情で、現場を睨みつける。
「そこにいるのは誰だ!!」
そして、その動きを察したのだろう。刀を持っていた男が声を上げて、冒険者たちの方を睨みつける。
「危ない!」
三竦みの一角が崩れ、好機と動いたのは鎧の男。刀を持った若者の首を掴んで締め上げようと手を伸ばす。
気付いた若者は辛くもその手を躱すも、さらに娘が鎌を振り上げ斬りつけようとしている。
避けたままの体勢で退く事も出来ず、あわやそのまま刃にと思いきや、
「きゃああああー!!!!!!」
娘が突然悲鳴を上げた。面をつけたままで表情は分からない。だが、激しく身を震わせ胸を押さえると、そのままばったりと地面に倒れる。
「何だ、貴様は!? う、ぎ、ぎゃあああああああ!!!」
「く、糞! 何故!? うわああああああー!」
娘だけではない。男二人も、恐れるように身を震わせばたばたと無為に暴れた後、地に転がりそして動かなくなる。
「ふぅ。上手くかかったようですね」
倒れて動かない三人を見てカンタータがほっと胸を撫で下ろす。
イリュージョンで大男が切り倒す幻覚を見せたのだ。幻の男に殺され、死の恐怖に顔は歪んでいる。罪悪感を感じない事も無いが、今はそれどころではない。それに男たちがした事を思えば、報いは当然とも思える。
「今の内に縛り上げておいた方がいいわね。目が覚めて正気に戻ってくれてたらいいんだけど」
縄を手にして近付こうとするアニェスを孔宣が止める。
「待った。その前にコアギュレイトで縛ります。‥‥あの武具たち、破壊せねば」
「おやおや、それは御免被りますね」
何とも気楽な声がした。
はっと顔を上げると同時、視界に浮かんだ刀が見える。持ち手の無いまま、刀は宙を飛び、冒険者たちへと斬りかかった。
「くっ!」
とっさに孔宣がブロッケンシールドを前に出す。
かつんと刃の当たる衝撃。跳ね飛ばされた刀は孤を描き、そして、空中でぴたりと止まった。
「リヴィールマジックは依然反応無し。リヴィールポテンシャルは触れなきゃ駄目だから‥‥でも、普通の『物』でないのは明白ですね」
玲瓏が緊張と共に身構える。その目の前で、般若面が浮き上がり、鎧が立ち上がる。
「何て無粋な来訪者。こんな所までやってくるなんて」
「せっかくおもしろい玩具を見つけたのにな。人の手の入らぬこの場にて、心行くまで殺し合いをさせてあげようと思ったのだがな」
一体、どこから話しているのか。般若面が宙でくるくると回り、鎧が重い唸りを上げる。
「アンデッドのようにも見えませんし、やはりデビルですか。‥‥勝手な事を言わないで!」
孔宣がホーリーを放つ。
撃たれた鎧がよろめいた所を、聖剣・カオススレイヤーで打ち据える。金属めいた音を立てるものの、ついた傷はわずか。さすが鎧だけあって頑強か。
「うぐぅ!! よくもやったな」
鎧が拳を作ると、孔宣を殴る。避けられずぶつかったが、僅かな傷しかつかない。むしろその動きで出来た隙をつき、すかさず剣を、重みを込めて叩き込んだ。
派手な音を立てて鎧に亀裂が入る。それでも、よろめくように鎧は下がっただけで、まだ生きながらえている。
「では、これは!?」
カンタータがシャドウボムを唱えると、鎧の足元の影が爆発した。
吹き飛ぶ鎧だが、それは体勢を崩した程度。面倒そうに起き上がると、そのまま足元の影が無くなる程度の宙へと浮かび上がる。
「ああ、全く面倒ねぇ。くく、こうなればその村人もろとも焼き払ってくれる」
「させないよ! 焼かれるのはあんた達の方だ!」
アニェスが唱えたサンレーザーが、般若面を撃つ!
嫉妬の篭った表情が半分ほど焼け焦げる。
「よくもやってくれたわね!!」
恨みの詠唱を上げて、面が赤い光を帯びる。と、足元から沸きあがったマグマがアニェスの身を包み込む。
「アニェスさん!?」
「大丈夫、そんなに強い魔法じゃぁない。‥‥使えない様だね」
若干の怪我はあるものの、重大な損傷無くアニェスは流れる汗を拭う。その姿を見て、般若面が悔しそうに呻く。
「ああ、もうやってらんねーな」
投げやりに刀が告げると、下がって詠唱。不意に深い煙が立ち込め出した。
スモークフィールド。しかも重ねて唱えているのか、その範囲はどんどんと拡大している。
「気をつけて、まだいます!」
濃密な煙が視界を塞ぐが、孔宣がデティクトアンデットで位置を掴む。
「面倒だなぁ。どうやら始末も出来ねぇみたいだし、一抜けさせてもらうわ」
「あぁら。ずるいわね。じゃ、あたしも」
「‥‥この数を引き受けるのは無茶だな」
攻撃は無い。ただ、魔武具たちの声が遠ざかっていく。
「逃げるつもり!? させると思って‥‥」
「待って下さい。今のままでは彼らも巻き込みかねません。ここは‥‥」
サンレーザーを唱えかけたアニェスだが、それを玲瓏が止める。
玲瓏が庇うのは娘と男二人。今だ気を失ったままだが、であるが故に思うように動いてくれない。玲瓏自身も戦闘となれば戦力外と考えねばなるまい。
彼らを抱えたまま戦うのは不利。人質にでも取られたらそれこそどうなるか。
その間にもデビルたちは遠ざかっていく。
口惜しく思いながらも、まずは無事に三人を村に戻す事が優先と考える。
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脅威が去り、これで三人を無事に村に送り届けるのみ。だが、それもすんなり行くわけでない。
程無く目を醒ましたが、状況を悟るや、娘が武器を奪い男たちに斬りかかろうとした。
「離して! そいつらを、絶対に許しはしない!!」
顔に浮かぶは怒りと悲しみ。般若もかくやと思われる程の恨みの表情。
冒険者たちが取り押さえても、なお暴れる娘。アニェスは一つ息を吐くと、娘と向き合い、おもむろに右手を上げる。
「――!!」
力任せに下ろした手が強く娘の頬を打つ。驚く娘に何も告げず、掌を返すともう一発、今度は逆の頬もひっぱたく。
「これで少しは頭も冷えたでしょ。いい? 正気に返っても、亡くした人は還らない。殺した事実も、消えはしないわ」
娘の目を見つめ、諭すアニェス。憐憫の表情で、男たちを見つめる。
娘の気迫に押され、身を退いていた男たちも、言外を察して黙って項垂れる。
「‥‥皆、苦しいわね。それでも生きるの、進むしかないの。そうしなきゃ、アレの思う壺だわ。そんなの‥‥あんまりじゃない」
アニェスの拳が自然硬く握り締められる。
押し黙る娘の手を取り、玲瓏もそっと告げる。
「怒りの儘に仇討ちなど、お父さまもお母さまも喜びませぬ。‥‥男君もすべきことはお分かりでしょう?」
静かな声が場に染みる。
カンタータは心を鎮めるよう、メロディで歌い出せば、やがて村人たちの嗚咽が音に混じり始めた。
大人しくなった三人を連れて、冒険者たちは村へと戻る。無事に帰ってきた三人を見て、ほっと安堵の表情と共に複雑な心境が浮かぶのも致し方あるまい。
娘の両親は死んだ。殺したのは男たち。その事実は変わらない。
「殺害は本意では無かったでしょう。取り返し付かない事ですが、それを踏まえて今後を決めて貰いたい」
事情を話し、嘆願するも。であるが故に、村人たちに複雑な心象を残す。
厳重な処罰も難しいが、軽い処罰でも示しがつかない。どうするべきかで頭を悩ませる。
しかし、それもまた一時置き。いまは娘の家の供養を先とする。
孔宣が丁重に弔う最中、娘を憚り目立たぬように、されど熱心に頭を下げる男二人の姿を見る。
「人心は弱きもの。しかし殺めてしまうは悲しいもの。別の力が作用したのならば、我に返れば後悔することでしょう」
真摯にわびる姿が、むしろ痛ましい。救いの手はあるのかと、玲瓏は静かに彼らを見つめる。
地獄の門が開き、これまで以上に増えたデビルの事件。逃げた奴らがやらずとも、恐らくはこれからもどこかで起こりうるだろう。
人生を歪められた人々。葬儀に参列するその誰もが、この事態に巻き込まれたと言っていい。
「『何か』が、人の想いを、悲哀を‥‥弄び、嗤ってるのだとしたら。あたしは、絶対許さない」
アニェスの言葉を否定する者は無かった。