危険な緑
 |
■ショートシナリオ
担当:からた狐
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 69 C
参加人数:3人
サポート参加人数:-人
冒険期間:03月16日〜03月21日
リプレイ公開日:2009年03月26日
|
●オープニング
草木萌え出春の時。
まだまだ寒い日が続くが、それでも冬の終わりが近付いているのは日に日に感じ取れる。
山からの雪解け水も量を増して来、緑の芽や小さな花も目立ち始めている。
命が動き出す季節。
だが、動き出すのは歓迎されるものばかりではない。
「一体、何時の間にこんな事に‥‥」
その状況に猟師たちは愕然とする。
冬は雪で閉ざされていた山。入り口程度ならともかく、奥地にまではなかなか踏み込めず、数ヶ月ぶりの狩りとなったのだが。
狩場に向かう途中で、猟犬が一匹消えた。
探して回っている最中に、悲鳴が響く。何事かと駆けつければ、そこには大紅天狗茸が大量発生していた。
広さにして建物数件分はあるだろうか。そこが毒々しい極彩色茸で覆い尽くされていた。
異様な光景には驚いたが、彼らが戦慄したのは茸だけではない。
その茸の群れの中には、幻惑華もまた大量発生していたのだ。
人の身の丈の更に倍を越すような巨大な肉食植物。ひしめきあうように生えているせいで、一体どれほどの数があるのか。
「あ、あれはあいつの荷物!!」
「馬鹿、危ない!!」
その中に、いなくなった犬に括りつけていた荷袋を見つけ、猟師の一人が思わず飛び出す。
途端、接近を感知して大紅天狗茸が悲鳴のような音を立てた。先ほど聞いたのはその音だ。
そして瞬時に幻惑華の姿が掻き消える。
いきなり見晴らしの良くなった視界に、猟師が思わず立ちすくむと、
「うげっ!!」
びくり、と体を震わせ猟師が倒れた。そのまま奥へと何かに引き釣られていく。
「畜生! おい、この近くにもいるぞ!!」
幻惑華は獲物が近付けば周囲の風景に似た幻影を展開して身を隠し、油断して近寄った所を麻痺毒を持った蔦で絡め、その口に放り込み、消化してしまうのだ。
猟師たちは正銘悲鳴を上げながら、引き釣られていく仲間を助けんと力を合わせる。
幾人かがその毒にやられたが、何とか全員その勢力圏から脱する事に成功した。
そして、猟師たちは冒険者ギルドを訪れる。
「幻惑華や茸の生えている辺りは、村で使う薬草が良く育つんで女子供も良く来るんだ。ああいうのが野放しのままじゃ、いずれ犠牲者が出る。すぐにでも処分したいが、ああも数が多いと俺たちの手には負えねぇんだ。どうか助けてくれないか」
自分たちも出来る限りの協力はすると、猟師たちがこぞって頭を下げる。
「華も茸も植物なのですし、焼き払うのは駄目なのですか?」
ギルドの係員が生じた疑問を告げると、相手は黙って首を横に振った。
「そんな事したら、華とかと一緒に貴重な薬草なども焼けてしまう。中にはあそこらでしか見かけないのもあるんで、なるべく土壌は荒らさないよう、環境は守りながら刈り取って欲しいんだ」
「それと、大紅天狗茸だが。何度も悲鳴を上げるのは、すなわちかかる獲物が多いという事だ。山の獣にはそれを学んでいて、悲鳴を聞きつけてやってくるものもいる。たまに鬼なども様子を見に姿を現す事もある。まぁ、必ず出てくるとは限らないが、用心に越した事は無い」
凶暴な動物・妖怪が招かれればすなわち刈り取り作業もまた危険にさらされる。
勿論、そうやってやってきた奴らも幻惑華の御馳走ではあるのだが、華が彼らだけを選んで襲うとも限らない。
●リプレイ本文
長い冬が明け、ようやく春が見えてきた。
生命溢れる季節。それは誰にも何にでも平等に訪れる。
山が閉ざされていた時期に、気付けば蔓延っていた危険。大紅天狗茸はけたたましい音で危険な動物を呼び寄せ、幻惑華にいたっては直接人間を捕食する。
そんなものが大量に発生されていては、生活に支障が出る。
なので、冒険者ギルドへと話が回ったのだが‥‥。
「‥‥お一人だけですか?」
落胆と驚愕が入り混じった複雑な表情で、恐る恐ると依頼人が尋ねてくる。
困惑している村人たちを見ながら、高木源十郎秋家(ea4245)はきちんとした礼を取る。
「不安ごもっとも。ですが、こちらとしても最善を尽くします」
数が多く、肉食の厄介な相手。しかし、正体は知れている。植物には変わらないので、動きもない相手だ。
大紅天狗茸に誘われて他の獣・妖怪が来る可能性もあるが、ならば、やって来ないように注意すればいい。
危険は否めないが、だからといって、尻尾巻いて逃げ出すにはまだまだ早すぎる。
慎重に対処すれば、一人でも何とかなる筈だ。
そう決意を込める源十郎秋家だが、村人たちの顔は浮かない。
顔を見合わせ考え込んでいたが、せっかく来てくれた相手を追い返す訳にもいかない。大丈夫だからこそ来てくれたのだろうとの声が、密やかに漏れる。
「何か手伝いましょうか?」
親切か不安からか。その申し出を、源十郎秋家は軽く首を振って留める。
「何か起きた時、対処が難しくなりますので。もし手が必要になれば、その時は改めてお願いさせてもらいます。ただ‥‥」
「ただ?」
依頼人が首を傾げる。
「この荷物を終わるまでの間、預かっていただきたいのです。持ったままでは移動するのも大変でした」
ずっしりとした荷物を指す源十郎秋家。
動けない程の荷物を何故持ってくるのか。村人たちの呆れ顔をよそに、源十郎秋家は山の現場へと向かった。
●
依頼人に教わり、現場にたどりついた源十郎秋家。
「すごいですね‥‥」
見つけた光景にしばし唖然。
日当たりが悪く、薄暗い緩やかな斜面には、びっしりと巨大な大紅天狗茸が広がっている。
その合間に立ち並ぶ巨大な幻惑華。
思ったより数は少なく見えた。が、注意深くじっと見つめていると、ちらちらと不自然に風景が歪む。姿を隠しているのだ。
遠巻きにじっくりと幻惑華の位置を見定めてから、仕事にかかるべく源十郎秋家は近付く。
――GYAAAAAAAAー!!
「おっと!!」
近付いた所で、けたたましい叫び声が山に響いた。騒々しい物音に、休んでいた鳥たちが一斉に羽ばたく。
どうやら大紅天狗茸が張った菌糸を踏んづけたらしい。足元で上がった音に思わず身を怯ませ、一歩退くや別方向から草の動く音が。
「くっ!!」
とっさに体を捻ると、鼻先を蔓が掠った。
即座に抜刀。風を切る音を頼りに日本刀を振るうと、手ごたえの後、長い蔓が宙を舞い落ちた。
その振動、戦闘で動いた動き歩いた為に、また大紅天狗茸が絶叫を上げる。
幻影に隠れたまま、わさわさと蔓が動く気配が届く。源十郎秋家はやむなく一時撤退する。
「やはり面倒ですよね。燻すと早いのですけど‥‥」
安全圏まで退いた後、源十郎秋家は渋面で唸る。
相手は植物。火を使えばいろいろと手っ取り早い。ありがたい事に大紅天狗茸は食用。焼けば腹の足しにできる。味は大味らしいが、これだけあれば村の晩御飯に振舞える。
しかし、その他の貴重な薬草などにも害が及んでしまう。焼けて土が変われば、今後生えてこない可能性もあるし、火が広がり山が焼け始めたら手に負えない。
ここは慎重にならざるを得ない。
火以外の手立てを考え、来る前に江戸で駆除に効きそうな薬が無いかも探してみた。
が、これも難しい。雑草除去剤自体はどうとでもなるが、使えばそこいらの草全てが枯れる。何種類もの草の中からある特定の草だけを枯らすというのは不可能だ。
「地道にやるしかないか‥‥」
源十郎秋家は諦め半分肩を落とす。
広がる大紅天狗茸畑を前に、もう一度気合を入れなおすと除草作業へと戻っていった。
先ほどよりも慎重に。ゆっくりと足を踏み入れていく。
――HoEEEEEE!!!
それでもこれだけ大紅天狗茸があると、どうしても悲鳴に引っかかる。
一度味わったので、今度は落ち着いて対処できた。周囲に素早く視線を走らせるが、幸い、そこに幻惑華は隠れていないようだ。
「他の動物が来る気配も無いのが救いかな。これで何か来たら、面倒に厄介を重ねるだけですよ」
近付く影も見当たらず、ほっと息を落す。一人の作業が、逆に大紅天狗茸の叫びを少なくさせ、生き物がここにいるぞと知らしても、獣たちにはなかなか伝わらなくなったようだ。
だが、まだ始めたばかり。何度も叫び声があがり、動く気配があるならば、いずれは様子見にでも何かが訪れるかもしれない。
そうなる前に一応の目処はつけておくかと、源十郎秋家は日本刀でまずは大紅天狗茸を斬り外し、見えぬ空間へと刃突き出し幻惑華の茎を倒す。
●
作業は予想以上に梃子摺った。
何せ、幻惑華には毒がある。迂闊に刺されれば即座に毒が回る。一人作業なので倒れて捕食されても助けてくれる者はいない。そのまま人生を終える危険がある以上、より慎重にならざるを得なかった。
解毒剤でも持っていれば、少しは安心できただろうが、あいにく用意していない。
ただ、幸いかな。源十郎秋家は植物知識に自信が持てる。生態を鑑みて、どう動くべきか。ある程度予測がついた。
作業は一日で終わらず、数日に及ぶ。植物は移動しないので、その頃になると位置も把握し、作業速度も速まる。
「これで全て刈り取れたと思います。少なくとも幻惑華は時間を置いて見張りましたが、新たな華は発見できませんでした」
作業が済んだと報告。源十郎秋家は、依頼人に随分すっきりとした現場を見せる。
「ただ、環境が変わらなければまたどこかから生えてくる可能性があります。手入れは怠らないようにお願いします」
「承知しております。これからは季節もよくなりますし、これを教訓に冬の見回りも強化します」
最初の不安はどこへやら。晴れ晴れとした表情で依頼人たちは感謝を述べる。
収穫した大紅天狗茸は折角なので村に運び、食料や肥料に加工される。
「‥‥さて、最後の大仕事ですね」
仕事が終わり、依頼人から笑顔で依頼料を渡された。
帰り仕度が整えば、源十郎秋家は戻ってきた自分の重たい荷物をよいしょと担ぐ。
案外これが一番の重労働かもしれない。
そんな思いを抱きながら、ふらつく足取りでゆっくりと江戸へ戻って行った。